「廃墟モール」はなぜ生まれたのか もう一度“にぎわい”を生み出す方法

1

2026年01月07日 08:01  ITmedia ビジネスオンライン

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ITmedia ビジネスオンライン

シャッター街の現実

 ちょっと前、「廃墟モール」が全国で増えているというニュースが注目を集めた。


【その他の画像】


 そこで取り上げられていたのは、JR小山駅前にある高層モール「ロブレ(ROBLE)」。栃木県内で人口第2位の都市・小山市の中心部にあり、本数は多くないものの東北新幹線も停車するターミナル駅に直結している。こうした立地を生かし、テナントにはドン・キホーテやTSUTAYA、ダイソー、アニメイトなどが入っている。しかし、これらがないフロアはかなり閑散として、空き店舗も目立つことから「廃墟モール」という不名誉な称号を受けている。


 2029年を目安に閉鎖されるわけだが、ロブレ側も何もしてこなかったわけではない。施設の約5割は小山市が所有し、運営は第三セクターが担っている。これまで商業コンサルティング会社などと連携しながら、「再生」に向けた取り組みを続けてきた。


 ただ、令和になってからテナント誘致もかなり厳しかったようで、3年前に雑貨販売店が入居したのを最後に「小山商工会議所パソコン教室」「就労継続支援B型事業所」という市との関係が深い施設の入居にとどまっている。


 背景には、ロブレがオープンした3年後に同一商圏内にできたジャスコ(現・イオンモール小山)や、2007年に誕生した商業施設「おやまゆうえんハーヴェストウォーク」の存在が大きいとの指摘が多い。つまり、「車社会に対応している巨大モール」にごっそりと客を奪われてしまったというのだ。


●小さな商業施設の「厳しい現実」


 このような「廃墟モールの窮状」を見ていてつくづく感じるのは、かつて日本全国で進められた「商業施設で街ににぎわいを呼ぶ」という地域振興策がいよいよ通用しなくなってきたことだ。


 車社会がどうこう以前に、商業施設というものは小さいプレーヤーが巨大なプレーヤーに食われて集約していく「厳しい現実」がある。


 魚屋や肉屋が並ぶ昔ながらの駅前商店街は、駅ビルや総合スーパーが増えるとシャッター通りになっていく。歴史ある個人経営スーパーも、ライフやオーケーが出店すると客を奪われる。老舗百貨店もイオンモールができると廃業に追い込まれる。「商業施設頼みの町おこし」というのは、近隣エリアに競合が現れた時点で崩れ去ってしまうほど、はかないものなのだ。


 もちろん、ビジネスはそういう競争があって健全なワケだが、日本の場合はある要因によって、その弱肉強食ぶりが際立ってきている。そう、人口減少と少子化だ。


 ご存じのように、これから日本は2040年まで「年間100万人」ペースで人口が減っていく。宮城県の仙台市に住んでいる人々が毎年消えていくようなことをイメージしていただければ分かりやすい。


 「日本人ファースト」と喉をからしたところで、この状況は何も変わらない。人口減少のペースは大都市圏より地方のほうが速く進行するので、駅ビルだろうが、駐車場1000台完備のイオンモールだろうが、客は大きく減っていく。全国区のテナントや安さを武器に商圏内の客を囲い込まなければ「死」あるのみなので、「にぎわい創出」なんて悠長なことは言っていられない。


●商業施設にとっての致命的な問題


 加えて、商業施設にとっては致命的ともいえる問題が進行している。人口減少だけでなく、それに輪をかけて子どもの数が減っているのだ。


 日本総合研究所が2025年12月に公表した試算でも、2025年の出生数は66.5万人で統計開始以来「最少」だという。ちなみに、2014年は約100万人だったので、この11年で34万人も新生児が減っている。


 「子どもが減っても今は大人だって推し活とかで消費するだろ!」という元気なシニアもいらっしゃるだろうが、事実として商業施設の成長は「子ども」がけん引している。イオンモールの公式Webサイトでも「メインの客層は主に休日に訪れる30〜40代の子育てファミリー。子どもの年齢は、未就学児約4割、小学生約4割です」とある。


 子どもは成長につれて新しい服もいるし、高齢者に比べて食事量も多い。親は子どもの遊びやスポーツ、趣味などを応援するために、あれやこれやと出費をする。そんな「消費のエンジン」である子どもが急速に減っている。これから国内商業施設の経営環境が急速に悪化していくのは自明の理だ。イオンモールが中国やベトナムなど海外進出に力を入れているのは、日本の商業施設の拡大路線が「限界」にきているからだ。


 ……ということを口走ると、不動産開発を生業(なりわい)とする人々から「人口が減ったとしても投資によって新たな消費はつくり出せる!」という反論が寄せられそうだが、これは商業施設のプロたちも認めている事実だ。


●ショッピングセンターの数が減少した理由


 日本ショッピングセンター(SC)協会が2025年12月16日に発表した、2025年のSC開業数は18施設。1975年の統計開始以降で過去最少となった。この理由について、同協会はこう述べている。


「人口減で投資に見合う商業用地が減っている」


 実はSCの売り上げは、過去最高をマークしている。しかし、それは物価高騰の影響もあるし、インバウンドの影響もある。そういったものと無縁のロブレのような地域に根ざしたSCはかなり苦しい。それがよく分かるのが、SCの総数だ。


 2018年に全国で3220施設あったショッピングセンターは、老朽化や廃墟モール化が進行し、純減が続いている。最新のデータでは3052施設。7年前から168施設が消えた。


 このように斜陽産業になりつつある商業施設で、「街のにぎわい」など生み出せるはずがないではないか。


●「街のにぎわい」を創出している施策も


 さて、そこで重要なのは「じゃあどうすればいいのか」ということだ。それを考えていくうえでヒントになりそうな施設がある。神奈川県大和市の「文化創造拠点シリウス」である。


 この施設は1階から5階にかけて図書館機能があり、各フロアにコンセプトがあり、従来型の図書館もあれば、カフェで購入したコーヒーなどを持ち込んだり、おしゃべりができたりするフロアもある。図書館流通センターが指定管理者になるなど、本のラインアップも充実している。


 加えてメインホール(1007席)、サブホール(272席)、ギャラリーやセミナールームなどもあって、プロのアーティストだけでなく、市民が趣味などで気軽に利用できるような「にぎわいの場」が整備されている。


 少子化の中で、少しでもファミリー層を迎え入れようということで、施設内には遊具をそろえた「げんきっこ広場」「ちびっこ広場」や保育室、子育ての相談室もある。


 そんな「文化創造拠点シリウス」がなぜ「街のにぎわい」をつくれているのかというと、これから来るべき日本社会の姿にマッチしているからだ。


 ロブレが閉鎖される2029年ごろ、日本の人口は1億1600万人ほどに減って、人口の約3割は65歳以上という「高齢者の国」になる。


 先ほども申し上げたように、商業施設はファミリー層がメイン。では、65歳以上はどこへ向かうのかというと「文化施設」だ。図書館で読書や動画を楽しんだり、ホールで音楽を聴いたり、ギャラリーで絵を鑑賞したり、セミナールームで友人たちと趣味に興じる。


 もちろん、イオンモールで買い物を楽しんだり、ジムやアウトドアでアクティブに過ごしたりする65歳以上もいるだろうが、体力も落ち、人混みを嫌うようになった高齢者の場合、このような文化施設で日中を過ごす人も多いのだ。うそだと思うなら平日の昼間、地域の図書館や美術館などの文化施設に行ってみるといい。


 地方自治体としては「現役世代」の減少を少しでも食い止めなくていけないので、施設内にはファミリー層が喜ぶ機能も入れなくてはいけない。それが図書館に子ども向けの蔵書を充実させることや、「げんきっこ広場」などの遊び場や保育室を設置することである。商業施設は既にイオンモールなどがあるので、わざわざレッドオーシャンに飛び込む理由はない。


●運営費はどうするのか


 ひとつ大きな問題となるのが、財政だ。これだけの施設を運営するには当然、お金がかかる。ただでさえ少子化により社会保障費が増大する中で、巨大なハコモノを運営するのは至難の業だ。


 そこで重要なのが「観光」だ。「文化創造拠点シリウス」のような文化施設の中に、居住者以外の人間がお金を払って訪れるような「観光スポット」をつくって、その収益を運営費に充てるのだ。


 このような考えに基づく施設は既に存在している。例えば、千葉県鋸南町では、過疎化や高齢化が進む地域の活性化を目的に「道の駅 保田小学校」を整備した。廃校となった小学校をリノベーションした施設で、地元の名産品を扱うマルシェや飲食店、宿泊施設を備え、多くの観光客が訪れている。


 一方で、観光拠点にとどまらず、近隣住民の交流の場として音楽室や家庭科室を開放。雨の日でも子どもが遊べるキッズスペースや、コワーキングスペースも設けている。


 つまり、人口減少で悩む自治体の地域活性化を「観光による収益」で下支えしている形なのだ。


 これと同じ発想で、「にぎわい創出のための文化施設」の中には「観光による収益」が期待できるスポットも含まれるのだ。例えば小山市には、駅から少し離れた場所に、徳川家康が天下取りへと動き出す契機となった軍議「小山評定」が行われた「小山御殿」がある。


 現在は跡地の公園しかないが、ロブレの跡地にできる公共施設の中で一部を復元してはどうか。真田広之さん主演・プロデュースの『SHOGUN 将軍』や、岡田准一さん主演・プロデュースの『イクサガミ』などの時代劇は、現在、世界的に人気を集めている。


 「日本最大のサムライ戦の命運を分けた聖地」とかなんとかPRをして、新たな観光名所にしてしまったらどうか。現在公開中の映画『新解釈・幕末伝』の福田雄一監督は、小山市出身で「小山評定ふるさと大使」も務めている。市の全面バックアップで、戦国時代を舞台とした映画をつくってもらったら観光PRにもつながるのではないか。


 バカバカしいと失笑するかもしれないが、「年間100万人」が減少していく日本の地方都市では、これくらい貪欲に「外貨」を稼いでいかなければ、公共施設どころか、公共サービスそのものを維持できない。


●日本は「サービス産業の国」


 「外国人観光客は出ていけ!」「中国人観光客がいなくなってせいせいした」という人たちにはなかなか受け入れ難い現実だが、これからの日本は観光で経済を支えていかざるを得ない局面にある。


 「観光に依存しない産業を育成すればいい」という人も多いが、日本のGDPの約7割はサービス産業が生み出していて、日本人の約7割はサービス産業に従事している。「日本はものづくりの国」というのは、トヨタ、ホンダ、ソニーといった一部企業の成功に引っ張られたイメージに過ぎず、実際の日本は「サービス産業の国」なのだ。トヨタやソニーが過去最高益を叩き出しても、日本経済がちっとも上向かないのがその証左だ。


 では、なぜわれわれはこれまで「サービス産業」を軽視してしまっていたのかというと、人口が1億2000万人と、先進国では米国に次ぐ規模だったことが背景にある。


 高度経済成長期から1990年代くらいまでは人口が増えていたので、国内のサービス業は大きな苦労もなく成長できた。商業施設もつくればつくるほどにぎわった。あまりに当たり前に稼げるので、飲食、小売、宿泊などが「日本を支える基幹産業」というイメージが定着しなかったのだ。


 しかし、そんなサービス産業の勢いも2000年代から急速に落ちた。日本人が急速に減っているからだ。


 「年間100万人」が消える内需依存型のサービス産業に支えられたこの国で、地方自治体が生き残っていくには何をすべきかは明らかである。


 「商業施設で街のにぎわい」から「観光施設で街のにぎわい」というマインドセットに、変えなくてはいけない時代にきているのではないか。


(窪田順生)


※下記の関連記事にある『【完全版】「廃墟モール」はなぜ生まれたのか もう一度“にぎわい”を生み出す方法』では、配信していない図表や写真とともに記事を閲覧できます。



このニュースに関するつぶやき

  • 「小山駅」「高層」店舗のラインアップ、考察するまでもない
    • イイネ!1
    • コメント 0件

つぶやき一覧へ(1件)

ニュース設定