
CES 2026のタイミングに合わせて、Lenovoは複数の新PCを発表した。子会社のMotorola Mobilityのスマートフォンを合わせると、その数は多岐にわたる。
新製品で特に注目したいのが、コマーシャル(ビジネス)向けノートPCのフラグシップモデル「ThinkPad X1 Carbon Gen 14 Aura Edition」「ThinkPad X1 2-in-1 Gen 11 Aura Edition」と、PoC(Proof of Concept)目的のコンセプトモデルとして出展された「ThinkPad Rollable XD Concept」だ。
同社はCES 2026に合わせて、「Lenovo Tech World 2026」というイベントを開催している。その際に、同社のWorldwide Intelligent Device Groupでコマーシャル製品の開発リーダーを務めるレノボ・ジャパンの塚本泰通副社長と話をする機会があった。新製品の特徴や開発における裏話、そしてLenovoがPC開発で目指す将来について、いろいろ聞いてみよう。
●内部構造を一新した「ThinkPad X1シリーズ」
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2025年のThinkPadにおける大きなトピックとして、ThinkPad X1 Carbonと「ThinkPad X13」において最軽量構成で重量が1kgを切ったことが挙げられる。
塚本氏によれば、ThinkPadのビジネスは成長を続けている一方で、日本市場では「ThinkPadはいいけど重い」という評価があり、軽量化が1つの課題だったという。それが2025年モデルで1kg切りのモデルが登場したことで、重量面も含めて総合的に判断してもらえるようになったためか、非常に好評だったという。
今回のThinkPad X1シリーズの2026年モデルでは、Intelから発表されたばかりの「Core Ultraプロセッサ(シリーズ3)」(開発コード名:Panther Lake)を搭載しているが、PBP(Processor Base Power)が以前のモデルの20Wから25Wに増加している。わずか5Wの増加ではあるが、これは放熱設計的には結構大きな影響を与える。
にも関わらず、今回のThinkPad X1 Carbon Gen 14 Aura Editionでは、冷却機構を強化しつつも、最軽量構成で1kgを切るデザインを維持するなど、ハードウェア面で大きな進化を遂げている。
これを実現したのが、今回のモデルで新たに採用された「スペースフレーム構造」と呼ばれる3D積層デザインだ。塚本氏によると、従来のThinkPadではマザーボードを平面的にしか利用しておらず、部品もほとんどが片面に配置されるだけで空間的な余白があったという。
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それに対し、スペースフレーム構造ではマザーボードの両面にコンポーネントを配置することで、ボディー内部の空間を最適化し、部品配置の自由度を上げたり、個々の部品を大型化したりできるようになったという。
その効果として、部品配置の最適化によって、従来比で約1.8倍の大型ファンを内蔵できるようになり、冷却性能をより高めることができた。また従来のThinkPadでは「ワンバウンドヒンジ」と呼ばれる、Wi-Fiなどの無線アンテナを集中配置した大型のヒンジを採用していたが、このアンテナをボディー上部のルーバー(Louver:排気口)付近に移動させることでヒンジが小型化された。
ヒンジの小型化により、結果としてキーボードも従来より上方向へと移動した。これにより空いた下部の空間に、ThinkPadとしては史上最大級の広大なハプティックタッチパッドを搭載できるようになった(※1)。興味ある方はキーボードレイアウトを比較してみると分かるが、この微細な変化は内部機構が大きく変化したことで実現したものだ。
(※1)カスタマイズ(CTO)モデルでは、ハプティックタッチパッドは購入時のCTOオプションとなる
加えて、アンテナの移動においては「グラウンディング(接地)」や「ノイズ対策」も重要になるが、ここでもスペースフレームが活躍している。接地先としての利用のほか、マザーボードから発生するノイズをブロックする役割を果たすなど、さまざまな面でボディー内部の再設計に寄与している。
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コンポーネントの両面配置によりマザーボード自体も従来よりも小型化しており、これもまたファンの大型化やオーディオ面での強化などに貢献している。
●ThinkPad X1シリーズの課題だった「メンテナンス性」も改善
スペースフレーム構造を採用することで、新しいThinkPad X1シリーズはメンテナンス性が大きく改善した。
筆者は1990年代から2000年代にかけて、ThinkPadをかなりヘビーに使っていた。使い方が使い方だけに、故障や部品の脱落はしょっちゅうあったのだが、ThinkPadの素早い修理サポートや部品入手の容易さにはかなり助けられた記憶がある。こうしたメンテナンス性の高さは、ThinkPadの大きな特徴の1つであった。
一方で、近年のスリム化への要望やトレンドの変化の中で、その特徴であるメンテナンス性が損なわれてしまった面もある。特にThinkPad X1シリーズは「CRU(Customer Replaceable Units)」と呼ばれるユーザー交換可能な部品が他のThinkPadと比べると少なく、他のThinkPadなら部品を取り寄せ自分で交換できるところ、X1シリーズだと修理拠点に送るか、オンサイト修理を依頼しなければならなかった。
だが今回、塚本氏が「ThinkPadの真髄に戻った」とコメントしているように、新しいThinkPad X1シリーズでは、メンテナンス性が大きく向上している。
例えば先述の「他のThinkPadなら自分で交換できるのに……」というパーツの象徴だったキーボードユニットの交換を簡単に行えるようになった。これはスペースフレーム構造によって、ボディーが底面カバーとキーボードユニットによる「サンドイッチ構造」となったことが大きく貢献している。底面カバーとキーボードユニットはネジを数本外すだけで着脱可能で、バッテリーやキーボードを容易に交換できる。
またキーボードについては、従来は1つのキーが破損すると全体を交換しなければならなかったが、新しいThinkPad X1シリーズではツールを使うことで特定のキーキャップのみ交換できる設計とした。
ThinkPadのキーボードは複数のサプライヤー(メーカー)から供給されているが、塚本氏によるとサプライヤーごとに異なっていたキートップ下のパンタグラフやスイッチの構造を、今回はLenovo独自のキー構造を全サプライヤーに採用してもらって共通化し、サプライヤーを問わず同じキートップを使えるようになったことで、キー単位での交換を実現したという。
キー単位での交換は、特に日本で要望が多かった仕組みだという。修理コストの削減と廃棄物の抑制というサステナビリティーの観点からもメリットがあり、新たな特徴としてアピールしている。
なお、交換可能なのはキーボードやバッテリーのみならず、着脱の繰り返しで壊れやすいUSB Type-Cポートを始めとするI/Oポート群もその対象であり、ボディーへの再生素材の活用と合わせ、製品を長く大事に使いたいというニーズに応えている。
●「閉じても使えるPC」を目指した「ThinkPad Rollable XD Concept」
今回のLenovo Tech World 2026では、塚本氏のチームが担当したコンセプトPCとして「ThinkPad Rollable XD Concept」が紹介されている。冒頭でも触れた通り、こちらはPoCとして実験的に用意されたモデルだ。その登場経緯について、同氏は次のように語っている。
一昨年(2024年)から去年(2025年)にかけて、「画面が上に伸びていくPC」や「画面が外側に曲がるPC」を発表させていただいて好評を得たのですが、「Carry Small, Use Big」という、小さく持ち運びながら大きく画面を使うという、そういう価値を充分に引き出すためにフレキシブルOLED(有機ELディスプレイ)を活用したフォームファクターをずっと追求し続けてきました。 今回、ThinkPad Rollable XD Conceptの開発に至ったゴールというのは、まず「AI時代における(PCの)フォームファクターとは何だろう?」と考えたとき、やはりいつでもAIが使えるものが必要ではないかと。不満というか、PCって(画面を)閉じたら何もできないわけで、これがすごく嫌だったのです。 スマホだったら持ち運びながらサッと画面を見たりできるので、運ぶだけで終わるPCではなく、(画面を)閉じてもAIが使える「Always on AI」のフォームファクターを作りたいと思ったのが、今回のコンセプトです。大和研究所を中心に「イノベーションフェスティバル」というのを夏に開催して、エンジニアからアイデアを募っているのですが、ローラブルで画面が外に出て行ったときに、こういう風に画面が出てくる……と。
実際の動きは記事中の動画で確認してほしいが、ThinkPad Rollable XD Conceptは画面を開くと、上端フチの部分が「エッジディスプレイ」となっており、ここを“なぞる”ことでディスプレイ側の天板に巻き込まれていたフレキシブルOLEDの画面が引き出されて、画面全体が伸びて縦長の大画面となる。
塚本氏によると、特にプログラマーを始めとする開発エンジニアはコーディング作業で利便性の高い縦長ディスプレイを好む傾向にあり、そういった用途での活用も考えているという。ただし、このように単に画面が縦方向に伸びるというギミックだけでなく、フレームそのものは丈夫な作りになっており、画面はCorningの「Gorilla Glass」で保護されるなど、「ThinkPadとしての安全性や丈夫さも考慮している」という。
この手の製品で問題になりそうな「持ち運び時や落下の衝撃時での故障が怖い」といった懸念にも配慮されている。
なお、塚本氏のチームとは別のチームが作ったゲーミングノートPCのコンセプトモデル「Legion Pro Rollable Concept」も、今回のイベントで披露されている。
現在Lenovoでは「One Personal AI, Multiple Devices(1つのパーソナルAIを複数のデバイスで)」をキャッチフレーズに、パーソナライズされたAIをデバイスをまたいで違和感なく使えるポートフォリオをそろえていることをアピールしている。
ThinkPad Rollable XD Conceptについては、「伸長時は大画面の一部として、画面を閉じたときはサブディスプレイとして活用できる」というギミックが特徴だが、これはそんな「AI時代のPC」を見据えて作られたともいえる。
同社ではこのパーソナルAIとして「Lenovo Qira」を発表しており、プライバシーを重視しつつ、ローカルとクラウドのハイブリッドAIを目指していくという。
AIについては、PCメーカー各社がそれぞれのニーズや市場ターゲットに最適化されたLLM/SLM(言語モデル)を開発して、自社の製品ポートフォリオに組み込んでいる。しかし、競争スピードの兼ね合いもあって、「英語かつ米国市場限定」といった形で特定の言語/地域のみの対応というケースも少なくない。
この点はLenovo自身も例外ではない。従来は企業活動の本拠地ということで「英語」「中国語」への対応が優先されてきたが、Lenovoにはレノボ・ジャパンの大和研究所という大きな拠点があるため、「日本語」対応という面では他社と比べて恵まれている面もある。現在、同研究所が主導する形で日本語に特化したモデルのファインチューニングを進めており、日本の企業や個人ユーザーのニーズに応えるべく作業を進めているという。
その意味で、ThinkPad Rollable XD ConceptのようなコンセプトPCが実際に市場投入される段階になったとき、日本向けのAIを携えた「いつでも使えるPCとAI」という世界が実現していることに期待が持てる。
なお、Intelと共同で技術開発を行っている「Lenovo Aura Edition」については、顧客フィードバックを得た上で、順次他のモデルへと機能が波及していくことになるという。
「Always on AI」のコンセプトと合わせ、同じ考えでAIの常時利用を想定した製品がLenovoが将来的にリリースする多くの製品カテゴリで一般化していくことになるのかもしれない。
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