「CES」にあふれる人型ロボ――中国メーカーが数で圧倒するも、Boston Dynamicsが本物と感じたワケ

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2026年01月15日 09:10  ITmedia NEWS

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 1月6日〜9日まで米ラスベガスで開催された「CES」。メイン会場の1つである「Las Vegas Convention Center」(LVCC)のNorthホールを覗くと、どこもかしこも人型ロボだらけだった。それだけでなく、Westホールには米Boston Dynamicsの親会社である韓国Hyundai、Centralホールには韓国LGや中国Hisenseなど、いたるところでロボットに触れる機会があった。


【写真を見る】「人型ロボ」だらけ――CESで見かけたロボットたちを見る(写真21枚)


 少し前まで人型ロボといえば、夢のテクノロジーの代表格だったが、ここ数年で急速に進化。CES会場にもその波が訪れていた。特に印象的だったのが中国メーカーの大量進出と、Boston Dynamicsの圧倒的な完成度だ。


●圧倒的な数で攻める中国勢


 Northエリアには多くの人型ロボで溢れていたが、中国メーカーが数で圧倒していた。代表的なところだと、日本でも最近見かけるようになったUnitree Roboticsだろうか。どこかの企業が「人型ロボでPoCやりました」系のリリースを出した場合、大抵ここのロボットが使われている。GMOの「熊谷ロボ」の素体も、Unitreeの「G1」というモデルだ。


 ブースを覗くと人間 vs.ロボットのキックボクシング大会が行われていた。参加者を募り、リングに上げてロボットと戦わせる。ロボットは遠隔操作だ。モデルはおそらくG1で、人間と比べるとだいぶ体格差があるが、人間が繰り出す(幾分か配慮のある)パンチやキックを受けても後退りしながら持ちこたえる。


 この高度な歩行制御を1体300万円程度のロボットで実現してしまうのに驚くが、これをエンタメショーにしてしまうのも中国らしい。なお、容赦なく蹴りを入れてロボットを吹っ飛ばす参加者もおり、この個体は何度か立ち上がるも次の対戦でフラフラとなり最終的にダウンしていた。途中でUnitreeのスタッフが制止に入ったが、正直あまり見ていて気持ちいいものではない。


 Unitreeの隣にブースを構えるのは、同じ中国のENGINE AI。ここもロボットに格闘技をさせることでバズを生み出している1社で、最近は「T800」なる、ターミネーターを彷彿とさせる型番のロボットがCEOを蹴り飛ばす動画を公開して注目を浴びていた。


 会場にはロボットがずらりと並べられており、パンチやハイキック、受け身など、まるで人間のようなモーションを次々披露した。これだけ激しい動きを連続で繰り出しても全くバランスを崩さないのだから驚きだ。ただ、こちらも遠隔操作。歩行は少しぎこちなく、上記のモーションを行う時に一瞬ピクッとボディが震える。どうやらパンチやハイキックは特定の動作パターンとしてあらかじめプログラムされているもののようだ。だからといって高度な姿勢制御をけなすつもりは毛頭ないが、自律動作でのモーションというわけではなさそうだ。


 これだけではない。元ファーウェイの「天才少年」こと彭志輝氏が立ち上げた「AgiBot」もブースを出しており、二足歩行ロボに多くの人だかりができていた。 他に紹介できないぐらい会場を歩けば必ず人型ロボにぶち当たるレベルで多種多様のロボットが集まっており、家電大手Hisenseですらしれっと二足歩行ロボを置いていた(おそらく中身はAgiBot製)ほどだ。


 これらの人型ロボの多くは家庭用・エンタメ用だったり、簡単な業務をこなしたりするものが多かった。これは単に「そちらの方が目を引くから」というのもあるだろうが、今の人型ロボがどこにニーズがあるのか、そして技術的限界がどこかを示しているように思う。多くは遠隔操作か、パターン化されたタスクをこなすもので、自律動作できる範囲も限られたものといえる。


●ロボット大国だったはずの日本の姿はなく


 出展していたのは中国企業だけではない。例えば、ドイツのNeura Roboticsも大きなブースを出展し、二足歩行ロボット「4NE1」「4NE1 mini」を複数展示していた。もともとは協働型の産業用ロボットを展開するスタートアップだったが、24年に二足歩行の人型ロボを発表している。産業用だけでなく家庭用も考慮されており、拙くはあるがマニピュレーターを使って洗濯物の仕分けを行っていた。


 すでに複数の日本企業と提携しており、川崎重工はNeuraのプラットフォームを利用して協働型ロボットを開発しているほか、オムロンとも認知機能を持ったロボットの産業利用についてパートナーシップを結んでいる。


 韓国の家電大手LGも人型ロボを展示していた。「LG CLOiD」と名付けられた上半身だけ人型のロボットは、VLM(視覚言語モデル)、VLA(視覚言語行動モデル)を搭載し、LGのスマート家電と連携した「ゼロ労働ホーム」というビジョンを実現するためのもの。ロボット掃除機などのノウハウを生かした車輪付きベースで家の中を移動でき、調理や洗濯などの家事を実行できるという。といってもあくまでコンセプトなので、衣服を折りたたむのに数分かかっていたものの、家庭内でのフィジカルAIがどういったものかを具体的に見せてくれたのは大きい。


 しかもLGはロボット用のアクチュエーターブランド「LG Actuator AXIUM」を新たに立ち上げた。アクチュエータはロボットの関節として機能し、モーター、制御部、速度とトルクを制御する減速機を統合している。 CLOiDはこのショーケースとしての側面もあり、ロボット本格普及時代に向けてパーツサプライヤーとしてのポジションを確立する狙いもある。人型ロボ用モーターは中国勢や韓国勢が台頭してきており、先述のUnitreeも自社開発したモーターやセンサーを外販している。高性能・低価格なサプライヤーが充実することで、人型ロボを開発する環境はさらに整いつつある。


 また、「Korea Humanoid Manufacturing AX」と称したブースで、韓国のスタートアップや研究機関が開発する人型ロボを複数展示。NVIDIAのパートナーでもある韓国のAeiROBOTは、工場などのラインを想定したブースを用意。ロボットが仕分けしたカゴをラインに流し、それを別のロボットが掴み、棚に収納する様子を披露していた。この企業は、韓国の産業通商資源部のロボット産業に関するR&D事業に採択されており、同社のロボット「ALICE」は、韓国の造船・建築現場への導入が始まっているという。


 一方で気になったのが日本勢の動きだ。早くから人型ロボを開発してきた日本だが、CESでは殆ど存在感がなかった。産業用ロボット大手のファナックや、二足歩行ロボを開発している川崎重工などの出展はなく、日本のロボットスタートアップも見つけることは出来なかった。人型ロボが実用になるにはまだ道半ばだが、姿勢制御や自律行動に必要なAIは機械学習・生成AI方面から、ロボット本体に必要なモーターやアクチュエーターはドローン・EV方面から、必要なコア技術がソフト・ハード両面で揃ったのが“人型ロボ大量発生” の背景にある。ロボット先進国だった日本がこのトレンドの中心にいないのは寂しさを感じる。


●Boston Dynamicsがホンモノと感じられたワケ


 26年のCESで一番話題になったといえば、韓国Hyundaiの基調講演で登場したBoston Dynamicsの「Atlas」だろう。華麗な身のこなしだけでなく、人間にはできない、でもロボットならできる“動きの効率化” という新機軸を人型ロボに持ち込んだ。腕も脚も前後の概念がなく、スムーズに物を運ぶことができる。


 中国勢を含む他の人型ロボとの違いはこの“動きの効率化”だろう。今の二足歩行が急速に進化したのは、NVIDIAのomniverseなどを使った強化学習にある。デジタルツイン環境でロボットの動きを何万回とシミュレーションすることで、人の動きを模倣できるようになった。これまでの二足歩行が中腰ですり足をするように歩いていたのに対し、この手の機械学習を使ったロボットは、より人間に近い歩行を手に入れている。


 ところが、Boston Dynamicsはさらに、ロボットならではの動きをプラスした。この思想は、油圧動作のAtlasから現行の電動モデルになった当初から見られたもので、工場など産業分野での導入を念頭に作られている。


 実際のデモを見ても、他の二足歩行ロボとは一線を画していた。自動車工場を想定し、パーツを自律動作で運搬するデモを行っていたが、まず目に入ったのが身体のブレの少なさ。そしてマニピュレーターのふらつきの少なさだ。動きがカッチリしているおかげで、正確にかつ素早く物体の位置を測定して運搬することができるのだろう。ボディやマニピュレーターのふらつきが大きく位置決めがなかなか定まらない他の人型ロボと比べると全くの別物である。これだけ精密にボディを動かせるおかげか、190cmで90kgの巨体でもバックフリップを決められる。


 このボディだからこそ動きの効率化も可能なのだろう。おそらく他のロボットと比べると、Atlasにかかるコストはかなり高価だと思われるが、「ちゃんと作り込めればここまでできる」を体現していたのが非常に印象的だ。


 そして現在の親会社であるHyundaiはBoston Dynamicsの技術力を生かすショーケースとしてうまく機能している。これまで「技術はすごいが生かす場所がない」と、GoogleやSoftBankなどを転々としてきた同社だが、フィジカルAI時代が到来し、かつ製造業の中でもパーツが比較的大きくロボットに代替させやすい自動車メーカーというのも良いめぐり合わせだったと感じる。


 人型ロボの最大のメリットは、人間が使っているインタフェースをそのまま使える点にある。主に人手不足の解消や危険な作業の代替として語られることが多いが、それだけでなく人には不可能な動きでさらなる効率化ができるのなら、人型ロボ普及の後押しにもなるだろう。問題はコストだが、ここは量産型のAtlasがどこまで魅力的な価格になるかに注目したい。



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  • だから何をさせるのさ、って話。ロボットが経理をするのに机と椅子とキーボードとマウスが必要なのか?ロボットだから椅子がなくても空気椅子でいけるか!スバラシイ。
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