物作りのDNAで愉快に未来を作っていく――糸岡新体制が目指すVAIOの姿とは?

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2026年01月16日 18:40  ITmedia PC USER

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2025年12月1日付で社長に就任した糸岡健氏

 先日、VAIOが安曇野本社(長野県安曇野市)において、報道関係者を対象とする企業説明会を実施した。説明会では2025年12月1日付で就任した糸岡健社長が登壇し、新体制における基本方針などを説明した。


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 糸岡社長は「VAIOの原点は、物作りへの情熱と未来への希望だ。目指すのは、新たなる“理想工場”の建設」との姿勢を示し、「日本の製造業を再び輝かせるべく、VAIOは同じ志を持つ仲間と共に、愉快に未来を作っていく」と宣言した。


 また説明会では同社の林薫常務(開発本部長)も登壇し、「VAIO Design philosophy」や、製品開発に関するこだわりを説明した。


●VAIOとしては久しぶりの“生え抜き”である糸岡社長


 新たにVAIOの社長に就任した糸岡氏は、甲南大学理学部経営理学科を卒業後、1992年にソニー(現在のソニーグループ)に入社した。1996年、同氏はソニーでVAIO(PC)事業を担当する「ITカンパニー」に発足メンバーの1人として加わった。


 その後、糸岡氏はSCM(サプライチェーン管理)/経営企画担当を経て、2000年から2004年まではベルギーに赴任し、ヨーロッパでのVAIOビジネスの立ち上げに従事した。ヨーロッパでの事業を軌道に乗せた後は日本に戻り、サービスマネジメント、経営企画マネジメント、設計プロジェクトマネージャーを歴任した。


 2014年、ソニーがVAIO事業のスピンオフ(分社による独立)を行い、現在の「VAIO株式会社」が設立された。その際に、糸岡氏はVAIOに執行役員として転籍し、CFO(最高財務責任者)兼コーポレート部門長に就任した。


 その後、2016年には設計/生産受託を担当するEMS事業本部の本部長に、2019年8月には調達/製造/製造技術/品質/サービス/SCMといったVAIOの物作り全体を管掌するオペレーション本部長に、2024年6月には社長室長兼品質保証担当となった。


 そして2025年12月、糸岡氏はVAIOの社長に就任した。ソニー出身の社長は、初代の関取高行氏以来約10年ぶりで、史上2人目となる。


●VAIOは「ソニーの物作り」を継承する存在


 糸岡社長は「2014年にVAIOがソニーから独立したときのことを振り返ってみた。そのときに思ったことは、安曇野の地で改めて物作りにまい進するという決意であった。それを今、一度整理し直した」と切り出す。


 2025年春に糸岡社長はソニーの本社(東京都港区)を訪れる機会があったという。その際に、本社1階ロビーに展示してある井深大氏(ソニーの創業者)による東京通信工業(後のソニー→ソニーグループ)の設立趣意書を見かけて撮影した。この趣旨書には、会社設立の目的が以下の通り書かれている。


真面目ナル技術者ノ技能ヲ、最高度ニ発揮セシムベキ自由闊達ニシテ愉快ナル理想工場ノ建設


 糸岡社長は、これを12月1日の社長就任時にVAIOの社員に見せつつ、以下のメッセージを送ったそうだ(文字装飾以外は原文ママ)。


VAIO独立時の想いは、ソニーの物作りのDNAをVAIOが引き継ぐということだった。ソニーはエンターテインメントカンパニーに変わったが、VAIOは製造工場を持ち、愚直に物作りを行い、ソニーの物作りを継承してきた。これからもこの姿勢を引き継ぎ、日本の製造業を元気にしていきたい。


 その上で、以下のような所信表明を打ち出したという(文字装飾以外は原文ママ)。


原点は、物作りへの情熱と未来への希望。目指すのは、新たなる理想工場の建設。創造力と技術力が響き合い、働く人々が夢を語り、挑戦を楽しみながら、物作りに関わるすべての工程を自らの手で行い、世界中のお客様に悦ばれる製品を生み出す。単なる生産拠点ではなく、未来を切り拓く知恵と情熱の結晶となる場。ここから、日本の製造業を再び輝かせる。高品質・高性能を追求しながら、時代の一歩先を行く価値を創造し、世界に『カッコイイ』『カシコイ』『ホンモノ』の製品を届ける。それは、VAIOの使命であり、誇り。VAIOは、同じ志を持つ仲間とともに愉快に未来を創っていく。


 糸岡社長は「VAIOが目指すのは、ソニー創業者の井深氏が目指した『理想工場』ではなく、新たな意味を持った『新たな理想工場』の建設だ。レガシー(過去の遺産)を引き継ぐという意味ではなく、自分たちが胸に秘めた思いを形にする場としての理想工場の建設である。創造力と技術力が響き合い、物作りに関わる全ての工程を自らの手で行う――安曇野から日本の製造業を再び輝かせるという大きな目標を掲げたが、私たちであればできる。全員でそうした思いを持って取り組んでいく。『カッコイイ』『カシコイ』『ホンモノ』という商品理念はブレずに、追求し続けていく」と語った。


●糸岡社長から見た「VAIOの課題」とは?


 一方で、糸岡社長はVAIOのスピード感には改善が必要であるとも指摘する。


 2014年にソニーから独立した際、VAIOは240人体制でスタートを切った。これはPCメーカーとしては小規模で、組織の壁がなく、スピード感を持って事業を推進できたという。しかし独立から10年以上を経過し、VAIOには自ずと変化が起きていたという。


 糸岡社長は「やりたいことを1人ひとりが考え、スピードを上げて実現していくことを徹底していく。(親会社である)ノジマの野島廣司社長は、経営で重視する要素として『スピード』『ユニーク』『クオリティー』を掲げている。VAIOはユニークさが特徴であり、独立して以降クオリティーファーストを心掛けてきた。だが、スピードについては、慎重になりすぎていた部分がある」と語る。


 このことを踏まえて同社長は「(VAIOは)『ユニーク』と『クオリティー』をきっちりと維持しながら、今まで以上のスピードアップすることで、より強くなれる。スピード、ユニーク、クオリティーでナンバーワンを目指す」と抱負を述べた。


 これまで、VAIOはファンド傘下の下で事業の再建を進めていた。なので、失敗することが許されない環境にあったのは事実だ。ゆえに慎重に事業を進めたり、リスクをとって新たなことに挑戦しにくかったりといった側面があったことは否めない。


 ノジマグループ傘下となったことで、こうした制約が解消されることが期待され、スピードを上げることにつながりそうだ。


●「Windows 10のEOS特需」の反動にどう対処する?


 2025年10月のWindows 10のサポート終了(EOS)に伴う買い替え需要が一巡した結果、日本国内のPC市場は今後、出荷台数の落ち込みが見込まれる。2026年に限っていえば、教育分野における「GIGAスクール構想」の学習用端末のリプレースによる需要が残るが、VAIOはこの分野には参入していない。ゆえに同社は特需の“反動”を大きく受けやすい。


 糸岡社長は、2021年下期と2022年上期(いずれも暦年ベース:以下同)を合算した国内法人向けノートPCの出荷台数を「100」とした場合、市場全体では2024年下期と2025年上期の実績が約1.5倍となる「155」であるのに対して、VAIOではその3倍となる「300」(200%増)となり、市場全体よりもはるかに高い成長を達成したことを強調した。


 その上で「VAIOは2014年以降、法人向けノートPC市場において市場全体の成長を上回り続けている。一度も、市場には負けていない」と胸を張る。現在、VAIOのPC事業の出荷台数の約9割が法人向けだ。


 そして糸岡社長は「厳しい市場環境に入っても、(VAIOは)市場全体を上回る成長を維持していくことを目指す。私たちの物作りに対する“思い”があれば、結果は付いてくる。VAIOは今まで以上に成長することができる」と、成長戦略に意気込みを見せた。


部材の「供給遅れ」や「値上がり」に懸念はない?


 PC市場全体では、部材の供給遅れや価格の高騰に伴い、本体価格の上昇が懸念されている。


 このことについて糸岡社長は「部材不足はPC業界全体に影響を及ぼしている」としながらも、「ここ数年に渡る急成長の中で、VAIOはデバイスベンダーとの戦略的な協業により必要な数量を確実に供給してもらえるような関係を構築してきた。(状況に)先んじた話し合いを通じて、成長に必要な部材は確保している」とする。


 「VAIO(本体)の価格を一斉に上げるということは考えていない。部品メーカーとの戦略的な協業をベースに、(価格を)維持することを考えたい」とも語った。


 糸岡社長は、VAIOが法人向けPCを“事業の主軸”とする考えには変更はないとも語った。一方で、ノジマの販売ルートを活用して個人向けPCの存在感を高めることができると判断し、個人向けノートPCの成長にも取り組んでいく考えも示した。


●VAIOが大切にする「2人のお客さま」とは?


 もう一人のキーパーソンである林薫常務が、VAIO Design philosophyと開発におけるこだわりを説明した。


 林常務は1992年にソニーに入社した。糸岡社長とは同期に当たり、1996年に初期メンバーとしてITカンパニーに配属されたのも同様だ。最初に設計に携わったPCは1998年に発売された「VAIO C1」で、それ以来一貫してVAIOの開発に携わってきた。


 林氏は冒頭、立ち上がった当時の「VAIO」ブランドについて説明した。


VAIOは「Video Audio Integrated Operation」の頭文字を取ったものだ。(ブランド立ち上げ)当時のPCは事務用途が中心だったが、その中でソニーがビデオ/オーディオと、コンピューティングを融合した製品として投入したのがVAIOだった。またVAIOのロゴマーク前半の「VA」はアナログの波形を表し、後半の「IO」はデジタル(信号)の「1」と「0」を表している。アナログとデジタルの融合を狙ったPCだということを示していた。


 その上で林常務は「(VAIOが)2014年にソニーから独立し、PC専業の会社として再スタートした際に、PCが持つ大画面と操作性を生かして、“アウトプット”する作業を支援することが、今後のVAIOの役割になると判断した。それを最も生かせるのが、ビジネス領域であり、ビジネスにおける生産性を向上させる物作りに特化してきた」と振り返る。


 ソニー時代から“焦点”が変わったVAIOだが、それでも“VAIOならではの視点”はしっかりと盛り込んだ。それが「2人のお客さま」である。


 「2人」の意味するところだが、1人は情報システム部門などの購入決定者、もう1人が従業員を始めとするエンドユーザーだ。多くのPCメーカーは、情報システム部門の要求に基づいて物作りを進めていた。それに対して、VAIOは情報システム部門と共に、従業員を同時に満足させる物作りを重視してきた。このことが、独立後のVAIOにおける独自の価値となると考えたのだ。


 林常務は「現在に至るVAIOの歴史を振り返ると、このとき『2人のお客さま』にフォーカスするという意思決定は極めて重要なものだった」と断言する。その成果が発揮され始めたのが、コロナ禍によって企業におけるPCの位置付けが変化してきたタイミングだったという。林常務はこう話す。


コロナ禍では、リモートワークが広がり、会社と従業員をつなぐ接点がPCになった。従業員のモチベーションを高めるために、どんなPCを選択するかが重要になり、IT投資の仕方にも変化が生まれた。従業員に「ちょっとイイPC」を提供する企業が増え、そこにVAIOという選択肢がピタリとはまった。


●VAIOの考える「カッコイイ」PCとは?


 VAIOとして「ちょっとイイPC」を実現した秘密は、商品理念に掲げている「カッコイイ(inspiring)」「カシコイ(Ingenious)」「ホンモノ(Genuine)」を追求してきたことにある。


 「カッコイイ」という観点では、「見た目だけでなく、ワクワクするような格好良さを求めた」という。その上で、林氏は「『業務用PCに格好良さはいらない』という声もあるが、従業員が会社に来て、最初に行う作業はPCを開くこと。そのときに、少しでもワクワクして『今日も頑張ろう』という活力を与えられるような存在になりたい。だからこそ、姿や形、色にこだわっている」と語る。


 2014年以降、VAIOは法人向けモデルでもカラーバリエーションにもこだわり、モデルによっては「ブラック」「グレー」「シルバー」といった定番以外のカラーもラインアップに用意している。企業の中には、VAIOが用意している全てのカラーを従業員が選択できるようにして、それによって従業員の“満足感”や“所有感”を高めることにつなげている事例もあるとのことだ。


 VAIOとしてカッコイイを体現する上でこだわっているのが「機能美」だという。林常務は「見た目の美しさと使い勝手を両立していること、もしくは機能を突き詰めたことで格好良くなることが、VAIOが目指す格好良さだ。中身を深く考えた結果、外観の格好良さが生まれている」と説明する。


 例えばVAIOが採用している「ヒンジレスデザイン」は、使用する際にヒンジの構造が見えないのが特徴だ。これは画面に集中しやすい環境を実現する上でメリットとなる。


 「チルトアップデザイン」は、PCを開くと下部を起点に後部が持ち上がり、キーボード入力に適した角度での傾きを生む。そして「無限パームレスト」は、ボトム部分が先端に向かって薄くなっており、パームレストと机の段差が限りなく少なくなることで、パームレストが机が無限に広がるようにつながる印象を与えるだけでなく、手首へのストレスを軽減するメリットがある。


 林常務は「特にチルトアップデザインは、遠くからでもVAIOであることが認識ができる特徴だ。最近は、TVドラマでもVAIOが使われるケースが増えており、横から見るだけでも、独特のシルエットにより一目でVAIOだと分かる。また、無限パームレストに慣れたユーザーが他社のPCを使うと『キーボードが打ちにくく感じる』という声もよく聞く。これらは、格好良さと機能性が両立したデザインの一例である」と自信を見せる。


 デザイン回りのエピソードの1つとして披露されたのが、ボディーの“後ろ側”のデザインへのこだわりだ。


 林常務は「格好いいスポーツカーは、後ろ姿も格好いい。スポーツカーみたいに格好いい後ろ姿を持ったPCを作りたいというデザイナーの思いが詰まっている。後姿が四角い箱になっている他社のPCとは大きく異なる」と語る。


 ここでも単に「カッコイイ」を目指しただけでなく、机の上に置かれていたノートPCを持ち上げる際につかみやすい形状を実現したという。「私たちが作っているのは、モバイルノートPCだ。持ち歩いてもらうためのPCであり、そのためには持ち上げやすさも重要である」というこだわりが、デザインに反映された格好だ。


 ちなみに、VAIOのノートPCといえば、背面部分の「オーナメント」も特徴だが、これもデザイン性を高めるだけでなく、液晶パネルの設置面を保護する金属の補強板として、機能面でも有用だという。


●VAIOが提案する「カシコイ」PCとは?


 「カシコイ」では、業務での“アウトプット”をサポートするための機能を拡充している点がポイントだ。


 AIノイズキャンセリングは、膨大な音声データを学習させたAIを活用するもので、オンライン会議中に周囲で発生している環境ノイズを識別して分離し、人の声だけを相手に伝えることができる機能だ。「プライベートモード」にすると、AI機能とマイクの指向性を組み合わせて、内蔵Webカメラから左右45度ぐらいの範囲までの音のみを拾うようになるので、カメラに映っている人の声だけが聞こえるという環境を作りやすい。


 この機能について、林常務は「エンタープライズ企業から高い評価を得ている機能で、『これがあるからVAIOを採用した』という声もある。キーボード上の『オンライン会話設定キー』を押すだけで、ワンタッチで最適な設定に変更できる点もこだわりの1つだ。機能を単に搭載するだけでなく、すぐに使えるようにしていることも、『カシコイ』へのこだわりである」と語る。


 さらに、画面を180度開くと表示を180度回転させて、相手に見やすくする機能も用意されている。商談の際などに対面の相手と画面共有する際に便利だ。この操作をすると、タッチパッドの操作も“反転”するので、直感的な操作を維持できる。


●VAIOの目指す「ホンモノ」とは?


 そして「ホンモノ」への取り組みの一例として、林常務はPC本体に使用している素材を挙げた。


 1997年に発売した、VAIOブランドの初号機「VAIO NOTE 505」では、世界で初めてボディー全体にマグネシウム合金を採用した。そして2021年に発売された「VAIO Z」では、この経験を生かして世界で初めてボディー全体に立体成型カーボンファイバーを採用した。


 林常務は「新たな時代のPCを作るときには、素材から作り込むというのがVAIOの姿勢だ。立体成型カーボンファイバーは、F1のボディーに利用されている技術と同じで、ここまで素材にこだわっているのは私たちだけだと自負している」とした上で、「この素材はフラグシップモデルだけでなく、スタンダードモデルのボトムケースなどにも用いており、『軽さ』と『強さ』を両立している」と語る。


 さらにVAIOは、全てのモデルのパームレストにアルミニウム素材を採用している。1枚板のアルミニウム合金で美しい質感を実現すると共に、表面にアルマイト処理を施すことで、長期間使用しても他社PCのように塗装が剥げることがなく、高い耐久性を実現しているという。これも「ホンモノ」への取り組みの1つだ。


 そして品質へのこだわりも、「ホンモノ」の実現につながっている。


 VAIOでは、商品企画の段階から、設計/品質保証/調達/製造/カスタマサービスといった全部門が参加して、全ての要求を取り入れる「上流設計プロセス」を採用している。これにより、妥協のない物作りと高い品質を実現しているという。


 さらに、販売開始後に万が一不具合が発生した場合には、開発に携わった全部門が集まって「品質ミーティング」を開催して原因を追求すると共に、解決策を見いだしてすぐに製造ラインに反映したり、次期製品の開発に対応策を取り込んだりする「高速フィードバックループ」も盛り込んでいる。作れば作るほど、品質が高まる仕組みだ。


 これらの取り組みは、全部門が安曇野本社に集結しているからこそできることともいえる。林常務は「VAIOを購入した企業が、次もまたVAIOを購入してもらうケースが多い。品質にこだわった“ホンモノ”であるからこそ、VAIOが選ばれ続けている」と語る。


 法人ノートPC市場において、VAIOのシェアは着実に増加している。VAIOのこだわりの数々が市場で評価されているからこそ、シェアを拡大しているのだ。



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