IT部門は“AI前提世界”で何を担うのか? ITRアナリストが読む「2026年の注目テーマ」【後編】

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2026年01月21日 07:10  ITmediaエンタープライズ

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 筆者が在籍するアイ・ティ・アール(以下、ITR)では毎年、企業が注目すべきIT戦略テーマを発表しています。最新の「ITR注目トレンド2026」では、「AIによる競争力創出」「ITマネジメントの高度化」「人材・知識の戦略的活用」という3つの視点から注目テーマを提示しています。


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 前編では、「AIによる競争力創出」の視点から、システム開発の在り方がどう変わるかを論じました。この変化は、ユーザー企業にとっては生産性と品質の両立をもたらす一方で、SIerにとっては従来のビジネスモデルの見直しを迫るものでもあります。


 後編では、残る2つの視点に焦点を当てます。AIがITインフラや運用にも浸透する中で、IT部門の役割はどう変わるのか。そして、AIと人間の役割分担が進む時代に、企業は自社をどのように再設計すべきなのか。これらの問いについて考えていきます。


1. AIによる競争力創出


・人間の意図をベースにしたAI主導開発の推進


・イノベーションを喚起するAI駆動型共創環境の整備


・AI駆動型業務プロセスへの再設計


・AIファーストなエンタープライズシステムの強化


2. ITマネジメントの高度化


・クラウドネイティブなIT投資管理体系の確立


・AI時代のインテグレーションアーキテクチャ変革


・ITインフラと運用のAIネイティブ化に向けた変革


・セキュリティインシデント発生に備えた即時対応体制の確立


3. 人材・知識の戦略的活用


・AI進展を見据えたスキルシフトの加速


・XR/AIによる人材育成の変革とパーソナライゼーションの推進


・アトミック合成型ナレッジマネジメントへの転換


各テーマの概要は、ITRのプレスリリース『ITRが2026年に注目すべき11のIT戦略テーマ 「ITR注目トレンド2026」を公開』(注1)を参照してください。


●これまで以上に複雑化するITインフラ IT部門はどう立ち向かう?


 AIの活用領域が広がるにつれ、ITマネジメントに求められる役割や視点は大きく変化します。クラウドやオンプレミス、エッジといった基盤が併存する環境にAIワークロード特有の要件が加わることで、ITインフラや運用はこれまで以上に複雑化します。


 「ITマネジメントの高度化」に含まれるテーマ群が示しているのは、こうした複雑性を前提とした上で、ITをいかに統制し、経営にとって意味のある形で機能させるかという問いです。


 クラウドネイティブなIT投資管理や、AI時代を見据えたインテグレーションアーキテクチャの再設計、さらにセキュリティインシデントを前提とした対応体制の強化などはいずれも個別の改善施策ではなく、ITマネジメントの在り方そのものを見直す動きとして捉える必要があります。


 こうしたITマネジメントの高度化を具体的に進める上で、最も重要な論点の一つになるテーマが、「ITインフラと運用のAIネイティブ化に向けた変革」です。前提として見直すべきは、AIの活用を支えるITインフラの在り方です。


 生成AIやAIエージェントを継続的に活用するためには、GPUなどのAIアクセラレータを含む計算資源の確保と最適配置、学習・推論のワークロードの特性を踏まえたクラウドとオンプレミスの使い分け、さらにはデータ主権やレイテンシを考慮したエッジの活用などが不可欠となります。


 AIインフラは、従来のように固定的に構築、運用する基盤ではなく、用途や負荷に応じて柔軟に組み替えられることを前提とした動的な基盤に変化すると予測しています。


 こうしたAIインフラが整うことで、次に変化するのがIT運用の姿です。従来のIT運用は、人手による監視や判断を前提とし、異常が発生した際に人が対応するモデルが主流でした。しかし、AIが前提となる環境では、運用対象そのものが動的に変化し、判断のスピードや精度がこれまで以上に求められるようになります。その結果、AIエージェントがインフラやアプリケーションの状態を判断し、複数のツールやシステムを横断的に操作して対応を実行する自律型の運用モデルに移行することが推測されます。


 しかし、それで人間の役割がなくなるわけではありません。むしろ重要性が高まるのが、AIエージェントの判断や行動を監視、評価し、その妥当性やリスクを統制する役割、すなわちAgentOpsです。


 ここで言うAgentOpsは、IT運用の現場で稼働するAIエージェントだけを対象とするものではありません。業務部門を含む社内のさまざまな領域で利用されるAIエージェントについても、その振る舞いや判断が組織として許容できるものかどうかを横断的に監視、統制する必要があります。従って、IT部門はIT業務だけではなく、企業の業務活動全体を下支えするAIの統制部門に進化すると筆者は考えています。


●改めて問われる「人は何を担うのか」


 AIの進展は、人材・知識戦略の前提を大きく変えつつあります。これまで多くの企業では、人材戦略は職種や役割ごとに最適化され、知識は個人や部門に蓄積されるものとして扱われてきました。


 しかし、AIが業務や判断の一部を担うようになるにつれ、こうした前提は次第に成り立たなくなっています。重要なのは個々の作業を誰が担うかではなく、AIと人がどのように役割を分担し、組織として知識や判断力をどう維持、強化するかという視点です。


 「人材・知識の戦略的活用」に含まれるテーマは、AIを前提とした組織運営に移行する中で、人材と知識をどのように再配置し、競争力につなげていくかを問うものです。AIが定型的な作業や分析を担う一方で、判断の前提を定義し、結果を評価し、責任を持つ役割が人間により強く求められるようになります。


 その結果、従来の職務定義や評価軸は見直しを迫られ、スキルを軸とした柔軟な人材マネジメントへの転換が不可避となっていきます。


 こうした変化を象徴するテーマが、「AI進展を見据えたスキルシフトの加速」です。ここで言うスキルシフトとは、単にAI関連スキルを身に付けることを指すものではありません。AIの進展が及ぼす影響は職務によって大きく異なるため、各職務におけるスキルシフトの進み方や、場合によっては他職務への配置転換の必要性も含めて捉える必要があります。


 例えば、営業系の職務はAIが業務効率化により大きく貢献する分野となります。その分、ヒューマンタッチを介した人間ならではの価値提供(直感、関係構築、意味付けなど)が大きな意味をもつこととなり、ヒト・モノ・コトを介在する「コミュニケーター」を目指すこととなります。


 一方、経営や企画の職種においては、AIによる業務効率化は相対的に限られたレベルにとどまります。この職務自体が完全自動化に向かうとは考えられず、目指す姿としては、意思決定に向けてAIエージェントと伴走しながら、「構想者」として職務を遂行するようになると考えられます。


 そして、ITの職種は、前述したように、そのAIエージェントを監視、統制する「統括者」としての役割が求められます。そこでは技術的な理解だけでなく、業務やリスク、組織運営に関する知見を併せ持つ人材が必要とされるでしょう。


 人材活用は、AI時代における競争力の基盤そのものだと言えます。AIを前提とした価値創出やITマネジメントを支えるためには、それを担う人材とスキルの在り方を同時に見直す必要があると考えています。


●前後編を通じたまとめ


 ここまで見てきた3つの最重要テーマに共通するのは、「AIを前提とした構造転換」という点です。AIを特定の業務やプロセスに部分的に導入するだけでは、もはや十分とは言えません。価値創出の在り方、ITマネジメントの統制モデル、そしてそれを担う人材とスキルの設計までを含めて、企業活動の基盤そのものを見直すことが求められています。


 2026年は、AIをどう使うかを議論する段階を超え、AIと共に企業をどのように設計し直すかが問われる年になるでしょう。ITリーダーには、個別施策の是非を判断する立場にとどまらず、AIを前提とした企業全体の構造を描き直す役割が期待されています。技術と経営をつなぐ視点を持ち、自社にとって何を変えるべきか、どこから手を付けるべきかを見極めていくことが、これからのITリーダーにとって最も重要な責務になっていくのではないでしょうか。


(注1)『ITRが2026年に注目すべき11のIT戦略テーマ 「ITR注目トレンド2026」を公開』


●この連載について


これまでどの時代でも、時代に適応した者だけが生き残ってきました。テクノロジーの急速な進化、経済見通しの不透明さ、地政学リスクの顕在化、そして前例なき気候変動――。これまでの経験や常識が通用しにくいこの時代は、まさに「新しい乱世」と言えるでしょう。今、企業に求められているのは、混迷の中を生き抜いていくために必要な次の一手を見極める力です。そのための羅針盤となるのが、経営とビジネスを根本から変革し得るエンタープライズITなのです。本連載では、アイ・ティ・アールの入谷光浩氏(シニア・アナリスト)がエンタープライズITにまつわるテーマについて、その背景を深掘りしつつ全体像を分かりやすく解説します。「新しい乱世」を生き抜くためのITの羅針盤を、入谷氏とともに探っていきましょう。



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