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2025年10月、かつて「ギャル男文化」をけん引したメンズファッション誌『men’s egg』(メンズエッグ)が、約10年の時を経て復刊した。
メンズエッグの創刊は1999年。平成に流行したストリート・ファッションをはじめとする、盛り髪、チャラ男などの“ギャル男カルチャー”を発信していた。ファッションはもちろん、恋愛テクニックや性に関する特集、読者モデルが体力・知力を競い合う体当たり企画などを掲載し、若者から絶大な人気を誇った。しかし、出版不況やギャル男ブームの衰退によって2013年に休刊した。
そして今回、令和版『men’s egg』(650円)として装いを新たに復刊した。復刊号では8000〜1万部をネットや書店で展開。ネット販売は1日で完売するなど一定の反響を得ている。
新たなmen’s eggでは、「ギャル男」があまり登場しない。俳優系、ワイルド系、ハーフ系、清純系、ギャル系などさまざまな系統でモデルを募集し、多様な若者が登場する。
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多くの雑誌がデジタル移行や廃刊を余儀なくされる中、なぜ今、あえて「紙」なのか。そしてなぜ「ギャル男雑誌」をやめたのか。
仕掛け人は、医療・福祉分野を中心に事業を展開してきた株式会社88(東京都町田市)代表の及川翔氏だ。復刊に至る経緯や、新しいmen’s eggのビジネス戦略について話を聞いた。
●なぜmen’s egg事業に取り組んだのか
及川氏は整骨院や訪問医療サービス、就労移行支援事業などを手掛ける会社を経営してきた経歴を持つ。
men’s eggの事業に乗り出したのは2023年のことだ。及川氏が一部事業を売却したタイミングで、当時のmen’s egg編集長と知り合い「雑誌タイトルの権利を取得しないか」という打診を受けたという。
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「メンズエッグは中高生の頃から読んでいた雑誌だった」。そう振り返る及川氏は、当時いわゆる“ギャル男”そのものではなかったものの、ファッションや流行を学ぶ“バイブル”的な雑誌として親しんでいた。
医療・福祉分野でビジネスを展開してきた及川氏にとって、課題だったのが商圏の制約だ。「整骨院などは実店舗だから、どうしても商圏が限られる。雑誌であれば、世界に向けて新しいビジネスを展開できる」。そう考え、及川氏は出版元である大洋図書と契約を結び、「men’s egg」という雑誌タイトルを独占的に使用できる権利を取得した。
もっとも、当初から復刊を明確に見据えていたわけではない。権利取得後しばらくは、オーディションで募集したモデルたちのスナップ撮影会やチャレンジ企画などの動画を公式のmen’s eggチャンネルとしてYouTubeに投稿したり、men’s eggの名前を使った海の家を運営したりなど、さまざまな施策に挑戦した。しかし、収益の点では満足のいく結果を出せなかった。
結果として、及川氏はこれらの取り組みに約1500万〜2000万円を投じることになる。「活動はできていたが、ビジネスとしてお金にはつながっていなかった」。こうした試行錯誤を経て、事業として成立させるためにどうしたらよいのか深く考えたという。
●「men’s egg」復刊の収入源とは?
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及川氏が新たに描いたのは「雑誌を起点に人材を集め、別の事業で収益を生み出す」ビジネスモデルだ。従来の出版事業は、雑誌を商品として販売し、その売り上げや広告収入で稼ぐのが基本だ。一方、復刊したmen’s eggでは、雑誌そのものを収益のゴールとは位置付けていない。
現在、men’s eggの事業収益の柱は複数ある。その一つが、モデルやタレントの育成を目的としたスクール事業だ。有名になることを目指す若者を中心に、約50人が在籍している。スクールでは、ポージングやトーク力、オーディション対策、SNSの使い方などを指導する。運営側は受講費を収益としている仕組みだ。
もう一つの柱が、ライブ配信事業だ。ライブ配信では、所属するモデルやライバー(配信者)が、TikTokなどのアプリを使って配信する。配信者がトークをしたり、視聴者のコメントにリアクションしたりすることでファンが増え、その応援の形として視聴者から「投げ銭」と呼ばれるデジタルギフトが贈られる。そこで得た収益の一部を会社として得る流れだ。
及川氏は「今後モデルや芸能人として活躍していくなら、TikTokなどのSNSは避けては通れない」と話す。ライブ配信を行うことで、トーク力やリアクション力といった実践的なスキルを磨けるだけでなく、将来的に応援してくれるファンを早い段階から獲得できるのだ。
配信に力を入れている所属ライバーの中には、投げ銭によって月に100万円以上の収益を得るケースもあるという。継続して取り組めば、一般的なアルバイト以上の収入を得られる可能性もあり、なおかつ芸能活動との親和性も高い。
芸能活動を支援するスクールや、配信者を育成・管理する事務所は他にも存在するが、men’s eggならではの強みは「雑誌」というリアルな媒体を持っている点にある。
例えば、配信者同士でギフトの数を競い合うといった配信イベントで上位を獲得できれば、men’s eggのソロページを飾れたり、men’s egg専属モデルになれたりするという。配信やスクールで努力を重ねたモデルは、雑誌に掲載されることで知名度を高めるチャンスを得られる。
及川氏は「SNSで誰でも発信できる時代だが、雑誌に載ることには今でも特別感がある」と話す。
雑誌自体が売れるかどうかに関わらず、紙の雑誌を定期的に出版し続けることで「雑誌に出たい」「モデルとして認められたい」という若者を集めやすくなる。つまり、雑誌はモデルや配信者を集めるための“人材獲得のための広告媒体”として機能しているのだ。
その価値を目指して集まった若者が、スクール事業やライブ配信事業に参加し、結果として会社の収益につながる仕組みである。
なお、スクールやライブ配信などの事業運営では、外部会社の協力も得ている。スピード感を重視した事業展開のためだ。
●AIモデル事業にも注力
及川氏は今後の成長領域として、AIを活用したモデル・アーティスト事業にも力を入れる。実在するモデルに加えて「AIモデル」という新たな選択肢を持つことで、ビジネスの幅を広げる狙いだ。
2025年12月には、AIモデルアーティスト「MIRI」(ミリ)をmen’s egg公式専属モデルとして起用したことを発表した。今後、楽曲制作などのアーティスト活動やmen’s eggでのモデル活動、SNSでのコンテンツ展開、イベント出演などを実施していく予定だ。
YouTubeチャンネル「MIRI チャンネル」も開設。歌詞、楽曲、映像の全てをAIで制作したミュージックビデオを公開している。
及川氏がAIモデルに可能性を感じている理由の一つが、活用領域の幅広さだ。実在の芸能人やモデルを広告に起用する場合、出演料や撮影費、スケジュール調整などのコストがかかる。一方、AIモデルであれば半永久的に24時間稼働でき、衣装や髪型の変更、撮影にかかるコストも大幅に抑えられる。
「影響力を持ったAIモデルが育てば、求人広告や商品紹介など、ざまざまな用途に使える」。撮影費用は従来の10分の1以下に抑えられるケースもあるといい、起用する企業側にとっては効率化やコスト削減につながる。
既に市場で成果を上げ始めている事例もある。例えば、バーチャルヒューマン「imma」(イマ)は、2018年から活動を続け、Instagramでは38万人以上のフォロワーを持つAIインフルエンサーだ。
2019年には資生堂のスキンケアブランド「SK-II」のキャンペーン映像に起用され、その後も2020年の「IKEA原宿」オープン広告や、第一興商の通信カラオケシリーズ「LIVEDAM AiR」のイメージキャラクターなどに起用されている。2025年12月には、野村グループの創立100周年を記念した広告に出演した。
men’s eggでも同様に、広告での起用やイベント出演などを通じて、AIモデルの認知を広げていきたい考えだ。活用イメージを市場に浸透させた上で、将来的には中小企業向けに「オリジナルAIモデル」を提供するBtoB事業への展開も検討する。
AIモデル事業を考えるきっかけの一つとなったのが、ライブ配信との相性だ。配信は時間・場所を問わずできるが、実在のモデルの場合は積極的に取り組む人もいれば、そうでない人もいる。「それなら、AIに24時間配信させればいいのではないか」。こうした発想から、2025年8月には24時間ライブ配信が可能なAIに関する特許も取得した。
AIによるライブ配信では、視聴者からのコメントやギフトにも対応できるという。及川氏によると「見た目を加工して配信している人と比べたら、人間かAIかあまり分からない」そうだ。2026年は、このAI配信事業を本格的に進めていく。
●「ギャル男雑誌」をやめた理由は?
今回の雑誌復刊にあたっては、出版社の大洋図書が主軸となって協力している。これまでのmen’s eggとの大きな違いは「ギャル男」を前面に押し出さない方針だ。「多くの意見を聞いたが、昔のギャル男になりたい人は今はほとんどいないと感じた」という。
雑誌として再び成立させるには、今の若者が「なりたい」「憧れる」と思えるモデル像を提示する必要がある。過去のイメージに縛られたままでは、人材が集まりにくく、結果として配信事業やスクール事業、AI事業などのマネタイズも難しくなる。そう考え、あえてギャル男に限定しない形を選んだ。
加えて、現在の若年層にとっては「men’s egg=ギャル男」という固定観念自体が薄れているという。かつての読者とは異なり、ブランドの歴史を知らない若い世代にとっては、復刊したmen’s eggは“新しい雑誌”として受け取られやすい。
一方で、かつてのmen’s eggが持っていた独自性を全て捨てたわけではない。体を張った企画や、恋愛をテーマにした特集など「モデルの人となりが伝わる雑誌」というDNAは意図的に残した。ファッション誌として大手雑誌と正面から競うのではなく、企画力やキャラクター性で存在感を出す戦略だ。
復刊号では、若者を中心に知名度を持つ音楽グループ「レペゼン地球」(Repezen Foxx)の元メンバー、DJ? Foy氏を表紙に起用した。今後もYouTuberやインフルエンサーなど、SNSを中心に活躍する人物を表紙に起用し、雑誌の認知度を高めていく方針だという。
特にYouTuberなどのインフルエンサーは、影響力は大きい一方で、大手出版社の雑誌掲載経験は少ないそうだ。及川氏は「今は雑誌が売れにくい時代だが、それでも“出版できる力”を持っていること自体に価値がある」と話す。
現時点では、雑誌は人材を集めるための広告として資金を投じて発行する側面が強いが、将来的には雑誌自体の売り上げも伸ばしていきたい考えだ。知名度が高まり、広告出稿や販売部数が増えれば、雑誌単体でも収支が合うようになる。その状態になれば、スクール事業や配信事業、AIモデル事業と組み合わせることで、事業全体としてより安定した収益構造になると見ている。
及川氏は「今まで可能性があると思って動いてきたものが、成功する、面白いという確信に変わってきている」と意気込む。
将来的な目標は、SNSやインフルエンサー領域に強みを持つ、1000人規模の芸能事務所へと成長させることだ。東京以外にも拠点を広げ、場所に縛られず活動できる体制作りも視野に入れている。
雑誌を復刊したことで、オーディションや新たな企画の相談など、事務所としての問い合わせが増え始めているという。men’s eggを起点にしたスクール事業やライブ配信事業、AIモデルの展開などを通じて、国内にとどまらず海外での活動も目指す考えだ。
下記の関連記事にある「【完全版】ギャル男雑誌『men’s egg』が復刊、なのに「雑誌では稼がない」? 仕掛け人の起業家が明かす新ビジネスモデルとは」では、配信していない写真とともに記事を閲覧できます。
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