
組織開発コンサルタントの著者が、教育社会学と企業社会の両面から「学歴社会」の謎に迫る『学歴社会は誰のため』(勅使川原真衣著)より一部抜粋し、学力と仕事で求められる能力が一致しない理由について紹介します。
学歴と仕事のパフォーマンスの関係性
学歴による賃金格差、また学歴の再生産、その不平等さの問題に次いで、研究者たちが学歴を眺め直す視点には「学校教育で教わったこと×仕事内容」の整合性の問題もあります。というのも、学歴が仕事を采配していくのであれば、学歴(学校システムにおいて測定される範囲の学力)と仕事のパフォーマンスとに密接な関係性が見られてしかるべきです。
が、実際にはどうなんでしょうか?
逆に問うならば、学歴は何の象徴として、職業采配機能を担うまでの存在に成りあがったのでしょうか?
社会階層の低い側にとっての学歴社会
とある不良軍団に参与観察・インタビューの形で迫る、社会学者(ポール・ウィリス)。彼のインタビューの様子が次です。|
|
|
|
筆者(ポール・ウィリス):きみたちにはあって、「耳穴っ子(優等生一派を指す)」にはないってものが、なにかあるかい?
スパイク(という名の不良少年グループの一人):ガッツ、決心……。ガッツじゃなくて厚かましさかな……。連中よりもおれたちのほうが世の中を知ってるよ。やつら、数学や理科ならちょっとは知ってるかもね、でもそんなこと、どうってことないや。あんなものだれの役にも立つもんか
===
——これは社会階層・再生産研究の代表作の1つ、ポール・ウィリス『ハマータウンの野郎ども』からの引用です。私も修士課程時代に読みました。
この本の主人公たちは、いわゆる最底辺の暮らしを親の代からしてきています。
さぞ彼らは学歴社会を恨んでいるのかと思えば、彼らは彼らで「男らしさ」「からだで稼ぐ」(肉体労働) などのコミュニティ内の規範を内面化し、「能力主義競争にコミットすることを忌避して、学習=労働に自己限定的に関わろうとする」姿がエスノグラフィックに描かれています。
前掲の不良少年の語りにもありますね。学校の勉強なんて「だれの役にも立つもんか」と。
ましてやその学びの遍歴なんてのが、社会生活でも作用するなんてばかばかしい、と言わんばかりですが、ここのポイントは、社会階層の低い側がそう思い込むことで、最底辺の肉体労働者の道しか残っていない自分たちを鼓舞するメカニズムが描かれている点です。
|
|
|
|
学歴は本当に仕事に役立つのか?
言い換えれば、学歴はウィリスが分析対象にしたイギリスでも、しかと職業を采配しているのです。ちなみに「イギリスでも」と言いましたが、こうした、「学歴なんて……」の内面に迫る研究の国内版も充実しています。こうした学歴をはじめとする能力主義的序列づけと距離のあるコミュニティにおける文化研究というのはあちこちでされています。(中略)要するに、
・仕事の出来は、学校の勉強の出来とは違う論理が働くんだぜ
・「成功」は学歴じゃわからないぜ
といった声はよく漏れ出るもので、また、「不良」でなくても個人の側も、「学校で教わることは本当に仕事の役に立つんですか?」という問いが一度や二度、頭をもたげたことがあるはずです。
そのくらい「役に立つかどうか論」って、そこかしこに跋扈(ばっこ)しており、それゆえ、研究もしかとされてきているということなのです。
勅使川原 真衣(てしがわら・まい)プロフィール
1982年、横浜市生まれ。東京大学大学院教育学研究科修了。外資コンサルティングファーム勤務を経て組織開発コンサルタントとして独立。2児の母。2020年から進行乳がん闘病中。新書大賞2025にて第5位入賞、HRアワード2025書籍部門入賞の『働くということ』(集英社新書、24年)や本書『学歴社会は誰のため』(PHP新書、25年)他、著書多数。 近著に『「働く」を問い直す』(日経BP)、『人生の「成功」について誰も語ってこなかったこと』(KADOKAWA)、『組織の違和感』(ダイヤモンド社)がある。新聞(本よみうり堂)や雑誌(論壇誌Voice)にて連載中のほか、文化放送武田砂鉄ラジオマガジン水曜パートナーとしても発信している。
(文:勅使川原 真衣)
|
|
|
|

