富士通社長「フィジカルAIこそ日本の勝ち筋」 NVIDIAと挑む“脳”の開発

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2026年01月31日 16:30  ITmedia ビジネスオンライン

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富士通の時田隆仁社長(撮影:武田信晃)

●トップインタビュー「フィジカルAIの覇権 日本企業、逆襲のシナリオ」


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 生成AIの熱狂を経て、2026年は「フィジカルAI」が覇権を争う主戦場となる。日立製作所、NEC、富士通の経営陣は、実社会の「現場」や「身体性」に日本の勝機があると口をそろえる。


 インフラ制御の日立、生体認証のNEC、そして空間認識の富士通──。各社が持つフィジカルなアセットとAIを融合させ、米巨大テック企業には模倣できない「日本流」の勝ち筋をどう描くのか。3人のリーダーに、社会実装へのロードマップを聞いた。


 AIの潮流はデジタル空間から現実世界へ──。ついに「フィジカルAI」の時代が到来した。空間を認識し、自律的に動くロボットや産業機械。それはかつて「モノづくり」で世界を席巻した日本企業にとって、復権をかけた最大の好機でもある。


 その最前線に立つのが富士通だ。2025年10月、米NVIDIAとの戦略的提携を発表。時田隆仁社長(隆は「生」の上に「一」が入る)はジェンスン・フアンCEOと手を組み、フィジカルAIの「脳」を作り上げると宣言した。  


 創立90周年を迎え、ジョブ型雇用への転換など、組織のOS(基本ソフト)も書き換え続ける時田社長。キーワードは「あいまいさのマネジメント」だ。次の中期経営計画も、2026年4月に始まる。


 世界で約11万人を抱える巨大企業・富士通。変革の山を「まだ5合目」と語るリーダーに、AI時代の日本の勝ち方と、次なる成長戦略を聞いた。


●富士通社長が「フィジカルAIこそ日本の勝ち筋」と語るワケ


 まずは足元の現在地を見ておきたい。富士通の2024年度(2024年4月〜2025年3月)の決算を見ると、売上高は前年比2.1.%増の3兆5501億円、営業利益は同77.5%増の2650億円の増収増益だった。中核事業であるサービスソリューションの売上高は、同5.1%増の2兆2459億円。うち同社が注力する事業モデル「Uvance」の売上高は同31.2%増の4828億円となり、大きく成長していることが分かる。


 中期経営計画が2026年3月末で終了する。時田社長は「あと四半期残っていますが、中期経営計画の最終年度という仕上げの年です。目標だった事業ポートフォリオの変革、モダナイゼーションの拡大、海外ビジネスの収益改善について、しっかりと取り組むことができました」と振り返った。


 事業改革が市場に評価され、株価も時価総額も増加。時田社長は「コアの事業を絞り込んだので、今後は、言い訳ができません。まさにコアの力が試されます。そういう意味で、より厳しい状況になるということでしょうね」と話す。経営のハードルが上がることを想定しており、より一層気を引き締めるようだ。


 仕上げのその先に見据えるのが、2025年10月に発表したNVIDIAとの提携だ。


 「フィジカルAIの重要性を叫んでいたのはジェンスン・フアンCEOの方で、私がそれに共感したのです。正直に言えば、私は漠然と考えていただけでしたが、フアンCEOは『フィジカルAIの未来が来るから一緒に作ろう』と言ってくれたわけです。いい機会を得たと思います」


 富士通におけるフィジカルAIとは、空間を学習・認知し、物理的な状況を理解した上で自律的に動くロボットのことだ。日本風にいえば『ドラえもん』や『鉄腕アトム』、外国ならば『ターミネーター』がイメージしやすいかもしれない。


 その発展において、重要な要素となるのが空間認知だ。富士通は、人とロボットの相互作用を予測できる「空間World Model技術」を開発した。空間内の人・ロボット・物体の未来の状態を予測して、従来では困難だった人とロボット、複数ロボット間の最適な協調動作を実現させている。


 富士通とNVIDIAが作るAIのプラットフォームを使って、フィジカルAIを具現化していくという。時田社長は、この計画について「AIプラットフォームを使って、お客さまのフィジカルAIの具現化が進むことは非常にうれしい」とした上で、こう説明する。


 「フィジカルAIはロボットのイメージが強いと思います。ですが、センシングして、自律的に感知し合いながらAI同士が動いていくので、あらゆる産業に広がります。例えば、当社の強みであるヘルスケアや小売の分野もそうです」


 富士通は、いわばフィジカルAIの「脳」の部分を開発しようとしているわけだ。この開発についてのボトルネックは、どんなところになるのか。


 「汎用的なLLM(大規模言語モデル)は他社が開発していますので、富士通は業種・業務に特化したものを開発していきます。ソブリンAI(外国のサービスに依存せずにAIを開発し、運用すること)のニーズも高まっています。それを加味すると、小型でカスタマイズしやすく、各種業務ごとにフィットするAIを開発したいと考えています」


 すでに安川電機とも協業が決まっている。さらに製造業以外ともいろいろな話を進めているという。「フィジカルAIは、日本企業の強みを生かせるものだと思います」と断言した。


●AIは「意思」を持つか? 暴走を防ぐ倫理観


 AIへの関心と懸念を集めているのは「最終的にAIは意思を持つのか?」という問いだ。時田社長は「意思を持ったように振る舞いますよ。あくまでもAIは、目的遂行型テクノロジーです」と語る。


 将来、量子コンピューターが発達することでAGI(人工汎用知能)が実現し、そのAGIに、より向上した空間認知能力を掛け合わせても、あくまで人間が命令を下さなければ動かないと考えているようだ。


 「自律型のAIエージェントですら、スタートボタンを押さなければ動きません。しかし、これらは動き出したら止まりません」


 AIエージェントが実際に動いたらターミネーターだった──という事態は避けたい。活用する企業がスタートボタンを押す前に、フィジカルAIが想定通りに動くかどうかしっかりとシミュレーションする必要がある。動き出した後に想定外のことが起こっても、フィジカルAIを止める仕組みが必要になるということだ。


 だからこそ、フィジカルAIの開発、進化において大事なのは倫理観であり、富士通が掲げる「ヒューマンセントリック」(人間中心)が重要だと説く。


 「テクノロジーは、ややもすると、暴走するとは言いませんが、社会的な不安を作る側面もあります。例えば、ニセ情報やハルシネーションなどAIの持つ特性があります。原子力発電や戦争にも使われるようになるのですから、人の力でイノベーションを起こしつつ、人々の信頼を得ていくことが非常に重要です」


 確かに、人間やロボット、そしてAIが共生していくことは今後の大きなテーマだ。開発者だけでなく利用者も含めた社会全体が、あるべき姿を議論していく必要がある。


●AI時代こそ「人が動く」意味がある


 AIが進化する一方で、それを扱う「人」と「組織」も変わらなければならない。時田社長は、ポートフォリオの変革だけでなく、人事評価制度の再編にも取り組んできた。富士通は2026年度から「新卒一括採用」を廃止し、通年採用を進める。新卒や中途採用の枠組みを設けず、採用計画数も定めない。職務内容に応じて必要な人材を必要な時に獲得するジョブ型人事制度の定着を目指す。


 「人事変革もある程度、定着したと思います。ただ、どんな制度もいい面もあれば悪い面もあります。悪いところが顕在化すれば、また修正します。完成というのはないのです」 


 人材育成の方法を変えたことで、新たな課題も出てきた。これまで年次ごとに実施していた社員教育を補うための人材育成をどうするのかだ。


 属人化の弊害もある。例えば「Aさんはこの技術に詳しいけど、もし会社を休まれたら業務が回らない」という場合、この暗黙知をどのように形式知にするのか。時田社長は「暗黙知はイノベーションの源泉になりますが、マニュアル化するのは困難な作業です」と話す。


 そうした状況に対し、意外にも従来型の手法が効くという。「人事異動を通じて情報の共有を図っている」のだ。


 「人事異動、つまり人が動くことが一番の情報流通なのです。ポスティングなどを通じて人が動き、当該部署で自分の経験やノウハウを話したり、伝えたりするほうが情報の流通が進みます。人材の流動性は重要で、情報の共有に関して非常に役立っていると思っています」


●あいまいさのマネジメントの時代


 経営環境の変化によって確立したコア事業でさえも、さらなる変化が求められることを覚悟している。「再び、事業ポートフォリオを変える可能性が出てくるかもしれませんが、状況に合わせて継続的に変革をしていくのだろうと考えています。世界はそれほどまでに動いていますから」。2025年の新春インタビューでも「変革にゴールはない」と話していたが、その考えに変わりはない。


 AIは白黒をはっきりとつけるが、人間組織のマネジメントはそうはいかない。時田社長は独自の哲学を語る。「日本人はきちっとやりたがる性格です。なぜなら、会社に決めてもらった方が楽ですから(苦笑)。(社内改革である)フジトラ(Fujitsu Transformation)で社員の自律性が養われたと思いますが、世の中が変わり続けるならば柔軟に、しなやかに、もしくは、したたかに動けばいいので、私は、もう少しあいまいでいい。『あいまいさのマネジメントの時代』だと思っています」


 2025年6月20日、富士通は創立90周年を迎えた。時田社長も、社長に就任して2026年6月で8年目を迎える。当初に思い描いていた改革に対して達成度はどれくらいなのかを聞くと「5合目ぐらい」だとした。「山は近づけば近づくほど頂上が見えなくなると言いますが、そんな感じです」と笑う。


 社長業も永遠には続けられない。次の社長や幹部を育てることもトップとしての重要なミッションだ。


 「富士通の90年の歴史の中で、私の在任中の出来事は、珍しい期間だと思います。私自身はプロパーではありますが、外部人材を採用し、経営陣の構成を変えました。経験豊かで優秀な人に入ってもらったことで、富士通を変え、強くもしました」


 次期社長は、プロパーだけではなく、外部から来た人でも能力が高ければ就任する可能性があるのかもしれない。時田社長の言葉から考えれば、そう捉えるのが自然だろう。


●新中期経営計画に注目


 2026年4月には、新しく策定された中期経営計画が始まる。AI活用の加速、Uvanceのさらなる成長戦略など、これまで時田社長がやり残したことも盛り込まれるはずだ。次期社長候補も、見極められることになるだろう。


 2027年3月期から時価総額3兆円超の大企業を皮切りに、サステナビリティ情報開示の義務化が、段階的にプライム上場企業へ拡大していく。Uvanceをビジネスの基軸としている富士通にとっては追い風に見える。


 「開示義務を果たすのは当然なので、そこはしっかりと対応します。義務だから、というよりも、私たちの取り組みを知ってもらうことが企業価値向上につながると考えています」


 「変革の山はまだ5合目」──。時田社長はそう謙遜するが、すでに「フィジカルAI」という、日本企業が再び世界をリードするための頂(いただき)が見えている。テクノロジーの厳密さと、人間の「あいまいさ」を含みながら進む富士通。その次なる一歩は、日本の製造業復活の道標となるだろう。


(武田信晃、アイティメディア今野大一)



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