限定公開( 8 )

日本ハム「シャウエッセン」の売上高が、過去最高の800億円を突破した。2030年に1000億円という目標を掲げ、堅調に伸ばしている。しかし、発売から40周年を超えるロングセラー商品ゆえの課題も顕在化していた(課題については後述する)。
打開策として登場したのが、2024年10月から2025年1月まで、期間限定で発売した「シャウエッセン 夜味」だ。初月で目標の3倍を売り上げるなど話題となり、2025年10月から再び限定品として復活した(2026年1月まで)。なぜ、シャウエッセンは「夜」にフォーカスした商品を投入したのか。
夜味は、シャウエッセンブランドにおいて5年ぶりの新フレーバーであり、通常品よりスパイスとスモーク感を強化することで、白ご飯に合う濃厚な味わいに仕上げた。希望小売価格は、2束で583円(通常品は同702円)。
最大の特徴は、ブランド史上初めて「焼き調理」を公式に推奨した点にある。社内で長年タブーとされてきた調理法を解禁したことで、発売後はSNSで話題が広がり、30〜40代男性を中心に支持を集めた。期間限定販売が終了するころには、「夜味ロス」を訴える声も上がった。
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●購買層の高齢化と食シーンの固定化
日本ハムによると、シャウエッセンの主な購買層は60代以上で、若年層との接点づくりが課題だった。また、喫食シーンは朝食や昼のお弁当に偏り、夕食での利用は限定的だった。
加工事業本部マーケティング統括部の岡村香里さんは「夜の食卓シーンにシャウエッセンを広げることができれば、既存ユーザーの利用頻度がさらに上がると考えた」と語る。こうした背景から着目したのが、夜の食卓だ。
夜の食卓に合わせるため、通常品よりも濃い味付けを開発する方針を固めた。ところが、社内からは「従来のシャウエッセンでいいのではないか」という意見のほか、「濃くするのならしょうゆをかけたらいいのでは」という声も挙がった。「簡単には承認を得られない、ハードルの高い商品だった」(岡村さん)
40年続くロングセラー商品であるだけに、社内には「シャウエッセンはかくあるべき」という考えやルールが浸透し、ある種の聖域のような存在になっていたことから、変化を加えることは容易ではなかった。
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しかし、このままでは利用シーンが広がらないと考えた開発チームは、ターゲットとした30〜40代男性の普段の食事を社内で調査し、濃い味付けが求められていることを検証した。
それでも疑問の声は消えなかったが、何百回にも及ぶ試作を重ね、肉汁とパリッとした食感の「シャウエッセンらしさ」を残しつつ、スパイス比率を極限まで高めた。
●タブーを破った調理法とネーミング
ハードルとなったのは、焼き調理の推奨だった。夜味に使用している特徴的なスパイスは、焼いたほうがおいしくなることが分かっていたが、社内では長年にわたり「シャウエッセンはボイルが絶対」という暗黙のルールがあった。
実は2019年にも、日本ハムは調理法のタブーに挑戦しており、新フレーバー「ホットチリ」「チェダー&カマンベール」の発売に合わせ、電子レンジ調理を解禁した。このときも社内では、議論が紛糾したという。それでも、段階的にチャレンジしてきた経緯があった。
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焼き調理を推奨するにあたり、消費者の実態を調査したところ、ほとんどの人が焼いて食べていることが分かった。社内でも無記名のアンケートを実施すると、役員を含む社員の88%が、家庭では「焼いている」ことが判明した。
「社内では、シャウエッセンを焼くのはタブーで、そんな話題すら出ないほどだった」と岡村さんは振り返る。ところが、暗黙のルールと実態のズレが浮き彫りになり、焼き調理解禁への道が開けた。
ネーミングにもこだわっている。シャウエッセンは、他にも味わいを変えた派生商品を販売しているが、「おいちぃず」や「パワ辛」(いずれも2束、希望小売価格583円)など、どんな味か一目で分かる商品名が基本だ。しかし、今回の「夜味」は味わいに関する説明を加えていない。
根強かった「朝のイメージ」を払拭するため、ブランド史上初となる喫食シーンをそのまま商品名に冠した。これにより、夕食や晩酌といった新しい利用シーンを明確にする狙いがあった。
●30〜40代男性の獲得に成功
通常のシャウエッセンは、50代以上の女性をターゲットにしているが、夜味は30〜40代男性に絞った。広告展開も通常品は地上波のマス広告が中心だが、夜味はSNSに特化した。SNSでは「夜味って何だ」という好奇心が話題を呼び、初月で販売目標の3倍を売り上げたほか、狙い通り30〜40代男性の購入割合も伸びた。
当初は通常品と市場を奪い合う懸念もあったが、両方を購入して食べ比べる人が多く、定番品と夜味が共存したほか、高齢層のファンが購入するケースも多く見られた。
しかし、日本ハムはこれだけ好調な商品を、なぜ通年販売しないのか。岡村さんは「シャウエッセンを夜にも食べてほしいという狙いで発売している。夜の喫食シーンが広がれば成功なので、通年で販売する意図はない」と説明する。
夜味そのものの売り上げが目的ではなく、シャウエッセンを夜に食べるシーンを増やすこと。夜味でウインナーが夕食の選択肢になることを知ってもらい、最終的には定番品で需要を取り込む考えだ。
すでに夜のおかず市場には、安価な冷凍食品や総菜があふれているが、岡村さんは「ウインナーを夜に食べる習慣やイメージがお客さまの中になく、新鮮さを持って受け止められた」と分析する。ウインナーが夜に合う、意外と夜ご飯に合う、そしてしっかりメインを張れる。そうした驚きをもって受け入れられたという。
●次なる挑戦
今後の展開として、「シャウスライス3連」(希望小売価格356円)などの派生商品を広げ、売り場を拡大していく方針を示す。シャウスライスは、シャウエッセンの肉を使ったハムのようなスライス商品だ。ウインナー売り場だけでなく、ハム売り場でも認知を広げる狙いがある。
1985年の発売から長年続くブランドゆえに、岡村さんは「守るべきところはしっかり守って、シャウエッセンらしさは忘れずに、若年層にも支持してもらえるような展開をしていきたい」と語る。
海外展開にも力を入れており、現在はシンガポール、ベトナム、米国で販売中だ。海外ではシャウエッセンの認知度がまだ低いため、「夜味でやっているようなSNS展開を海外でも行えれば」と岡村さんは期待を込める。
長く続くブランドには、社内の「当たり前」があるが、それが顧客の実態と合っているとは限らない。日本ハムは、そのズレを可視化し、夜味のヒットにつなげた。2030年に売上高1000億円という目標への道のりは険しいものの、夜市場の開拓は、その実現に向けた一歩となった。
(カワブチカズキ)
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