Xに対抗するSNS「W」とは何か 広がる“米国依存”のリスクと現実

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2026年02月13日 08:20  ITmedia ビジネスオンライン

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Xに対抗する欧州発SNS「W」

 多くの日本人が日常的に使っているiPhoneやAndroidのスマホ、PCのソフトウェアから無料メールのGmailまで……。これらはすべて米国企業が提供するプラットフォームである。


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 全国の自治体が2026年3月末までに導入することが決まっている、基幹業務のデジタル化を目的としたガバメントクラウドでも、ほとんどの自治体がアマゾンのAWSを使う。言うまでもなく、同社も米国企業だ。


 SNSサービスも、主要なものはほとんどが米国発である。2月8日に投開票された衆議院議員選挙で若者の選挙行動に大きな影響を与えたとされているXや、若者に人気のInstagram、利用者の年齢層が高めのFacebookなども、米国企業が提供している。


 こうした状況は、日本だけでなく世界中で見られる。ところが欧州では、こうした米国プラットフォームの牙城に対抗しようとする企業も出てきている。電子メールサービスではProton Mail(プロトンメール)が有名だが、それ以外にも、フィンランドのクラウド企業UpCloudも知られるようになってきた。


 そしてSNSの領域でも、米国の独占状態を食い止めようと新たに登場して注目されている企業がある。スウェーデンのW Socialだ。


 同社は1月、スイスのダボスで開催された世界経済フォーラム(WEF)で、欧州を拠点とする新しいソーシャルメディア・プラットフォーム「W」の詳細を明らかにした。このプラットフォームはXに対抗するもので、同社はWを「アルゴリズムよりも人を優先し、言論の自由とプライバシーがスローガンではなく現実として共存するSNS」と説明している。


●新しいソーシャルメディア「W」とは?


 Wは、XやFacebookのようなプラットフォームに「居心地の悪さ」を感じている人々のための、欧州発の新しいソーシャルメディア・プラットフォームという触れ込みだ。現在開発が進んでおり、ベータ版の参加手続きが3月に始まる。2026年末までには一般公開される予定となっている。


 欧州では、国家やユーザーが米国企業のテクノロジーへの依存から脱却を目指しているようだ。米eBayでチーフ・プライバシー・オフィサーを務めていたドイツ人女性、アンナ・ツァイター氏が設立したWは、「We Don't Have Time」というスウェーデン企業の子会社で、現在、北欧の民間投資家を中心に約15カ国から750人以上が参画している。


 Wという名称は「We(私たち)」を意味する。加えて、報道などで重要な情報となる「5W(Who、What、When、Where、Why)」も象徴している。さらに、「W」という文字は2つの「V」の組み合わせでもあり、これは「Values(価値観)」と「Verified(検証済み)」を意味しているという。


 Wは、虚偽情報を拡散するボットのアカウントを減らすために、人間による認証(本人確認)を必須とする。また、ユーザーは自身のデータが、どこでどのように使用(転用)されるかをより厳格に監視できるようになり、プラットフォーム自体も欧州の厳しい一般データ保護規則(GDPR)などに従うことになる。


 ツァイター氏は、Xのようなプラットフォームが組織的な偽情報を野放しにし、それが「公共の信頼を損ない、民主的意思決定を弱体化させている」と述べている。「私たちの使命は、質の高いジャーナリズム、開かれた議論、実在する人間を重視するプラットフォームを作ることだ」(ツァイター氏)


●Xへの依存に伴う大きなリスク


 日本では衆議院議員選挙が終わったばかりだが、Xでは、海外のボットなどが政治家の発言や政治活動に介入したという疑惑が指摘されている。特定の政党を支持するような投稿だけでなく、選挙中に注目を浴びる政治的な投稿やリプライにボットが介入し、インプレッション稼ぎをしているケースも少なくない。特に選挙期間中は、荒野のようなXがさらに荒れる傾向がある。


 偽情報やディープフェイクなども指摘されて久しく、問題に気付いている人は多いが、代わりとなるプラットフォームを作ろうという人はほとんど出てこない。日本人がこれほど日常的にSNS型プラットフォームを使うのなら、日本で開発されて、運営・管理される新しいSNSがあれば素晴らしいが、なかなかハードルは高い。


 Xに代わるプラットフォームを作るという試みの背景には、こんな理由もある。2025年12月、Xは欧州デジタルサービス法(DSA)に基づく透明性ルールに違反したとして、1億2000万ユーロの罰金を科された。


 また、XのAIチャットボット「Grok」の競合である、Googleの「Gemini」やオープンAIの「DALL-E(ダリ)」は通常、性的な内容や暴力、著作権侵害、児童虐待に関するプロンプト(指示)を強力にブロックする。しかし、Grokは「表現の自由」を優先する方針を掲げていたため、他社が禁止しているような不適切な画像の生成が容易になっていたとして、欧州議会などで問題視されたのだ。


 デジタルプライバシーに厳しい欧州では、欧州議会議員54人で構成するグループが欧州委員会に対し、米国プラットフォームの代替サービスの支援を検討するよう要請。書簡では、ソーシャルメディア業界における欧州のイノベーション強化を次のように訴えている。


 「何百万もの欧州市民がXに縛り付けられている。明確な代替サービスが存在せず、これまでXで築き上げてきたデータや人間関係を簡単に移行させる方法もない。今こそ、支配的なソーシャルメディア・プラットフォームに対抗し得る、欧州独自の代替サービスを支援すべき時である。欧州委員会および欧州各国政府は、欧州発のソーシャルメディア・イノベーションを促進する民間プロジェクトへ資金提供を行うことで、この基盤構築を後押しできるはずだ」


 WはEUの公式支援を受けていないものの、EUは「技術主権」を推進しており、これは重要技術の海外への依存度低減を意味する。


●“米国依存”の現実に目を向けるべきだ


 言うまでもなく、日本でも同じような事態になっているといえる。総務省の「令和7年版 情報通信白書」によると、「いち早く世の中のできごとや動きを知る」ために最も利用するメディアについて、「インターネット」と回答した割合が最も高かった。さらにオンラインでニュースを知りたいときには、4割以上がSNSの情報を見ている。


 テレビや新聞の利用者数が年々減少していることを鑑みると、今後もこの傾向は強まるだろう。となると、XやFacebookなどに依存しすぎることになる。これほど米国のSNSが独占していることを考えると、日本人の価値観もそれに左右されてしまう可能性もある。欧州が危機感を持つのは当然であり、日本も議論をきちんと始めたほうがいいだろう。


 加えて、デジタル赤字についても指摘しておきたい。


 日本では今、国民が毎日生活しているだけで、米企業に多額の料金を支払っている。スマホ、PC、メール、クラウド、サーバ、アプリ、配信サブスクなど――ほとんどが米国企業に牛耳られており、日本人は何も意識せずとも、米国にカネを送り続けている。これはデジタル赤字といわれるもので、日本は米国に対して、デジタルサービスだけで年間6兆円以上の赤字になっている。


 こうしたデジタル空間のサービスについて、米国に依存しすぎている現実に目を向けるべきだろう。日本人はカネをどんどん米国に送っているだけでなく、個人のデータも献上しており、それが米国企業のビジネスに使われている。


 このままでは、米国企業が自分たちの価値観をベースに商売目的で構築している「まな板」の上で転がされ続けることになる。国産回帰なども含めて、今一度、デジタル分野の在り方を議論すべきではないだろうか。


(山田敏弘)



このニュースに関するつぶやき

  • お友達になろうとか他国のSNS登録させる自治体、企業があるけどやめてくれないかな…情報管理してるの他国企業だぞ?スパイ防止法できたらアウトじゃね?ホームページで登録できるだろ
    • イイネ!2
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