
国産F-2戦闘機は2035年から順次退役予定。しかし、いつかシンF-2(改造機)が登場するかもしれない(撮影:柿谷哲也)
2月1日、『海鷲の翼 F-2戦闘機』(並木書房)が刊行された。そこには『週刊プレイボーイ』軍事班が担当する記事に、軍事のプロとしてしばしばコメントを寄せている元空将補の杉山政樹氏も登場する。
杉山氏は航空自衛隊那覇基地302飛行隊隊長を務めた後に、航空幕僚幹部補任課で、全国の空自戦闘機部隊の飛行隊長を決める仕事をしていた。その中でもっとも難関だったのが、当時の国産新鋭機であるF-2戦闘機を初めて運用する飛行隊隊長の選抜だった。
今回、そのF-2が第三飛行隊に初配備になった時の初代飛行隊隊長の伊藤哲氏と、その人選を担当した杉山氏に対談していただいた。
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――本書に書かれていましたが、伊藤さんの隊長指名の話は現役時代、絶対に本人には伝えなかったというのは本当ですか?
杉山 本当です。人事案は最初に航空幕僚長に提出するので極秘なんですよ。
――伊藤さんはこの本を読んで初めてそのことを知った?
伊藤 そうです。
――本書には、伊藤隊長に関する杉山司令のご発言として、
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《テツ(編集部註:伊藤隊長のタックネーム)は真面目で寡黙。洞察力が凄くて、周囲を冷静に見ているタイプ。だから、新型国産機のF-2に不具合があって最悪の事態になった時、テツなら切り抜けられるんじゃないかと俺は思った》
とありましたが、この発言も現役時代、杉山さんから伊藤さんには伝えられなかったはずです。伊藤さんこれをお読みになり、どう思われました?
伊藤 そう見ていただいていたと知り、光栄でした。読んでいてうれしかったですね。
元第三飛行隊初代F-2飛行隊長。伊藤哲元空将補(撮影:柿谷哲也)
――伊藤さんは防衛大学(以下、防大)の26期で杉山氏と同期。総飛行時間は4000時間、F-1支援戦闘機に1000時間、そして、岐阜基地の飛行開発実験団でテストパイロットとしてFSX、後のF-2を担当していらっしゃいました。
杉山 非常に心配したのはエンジンでした。F-1やF-4はエンジンがふたつ搭載されています。ひとつになにかあっても、もうひとつあるから何とかなる。
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しかし、F-2はシングルエンジン。一台でなにかあったら危険度は桁違いです。ただ、エンジンは何万回転と動き続けているので、常に安定して動いているとは限らない。だから、いつかトラブルは来る。最初にF-2が配備される伊藤初代飛行隊長の時代に、必ず一度か二度は、そんなことが起きると想定していました。
――エンジントラブルからの墜落事故ですね。
杉山 そう。実は、テツの他にもうひとり、隊長候補がいた。F-2になにか起こった時、どっちが隊長として適しているのか?と考えたときに、テツに任せた方がいいとなったんです。
伊藤 米国でF-16の転換訓練を受けた際、米空軍パイロットたちから「F-2のエンジンは、P&W(プラット&ホイットニー)かGE、どっちだ?」と聞かれて、GEと答えたら「それは良かった」と言われましたね。
P&Wはエンジン性能は良いけど繊細。それに対してGEは粗削りだが多少なにかあっても止まらない、そういう事らしいです。
――そのF-2の初代隊長を拝命したとき、どんなお気持ちだったのですか?
伊藤 やはり、新鋭機だから事故は絶対に起こせないなと、とにかく安全第一でした。安全に留意するというのはもちろん大前提で、そのうえで何をどうするか、です。
何もかも気を付けて、決められたことは守ります。日頃のルーティンは安全を守るために作られていますから、手順を省いたりするとそんな時に限って......ということがあるんです。だから、結局決められた通りにやることが非常に大切なんです。
現役時代の伊藤哲第三飛行隊長、愛機のF-2戦闘機前で
――それで、約2年間の隊長の任期中に事故はなかったんですか?
伊藤 F-2に私が乗っている間は事故はなく、あのエンジンがトラブったこともなかったです。本当に安心のエンジンでした。
ただ上司から「隊長を離任して半年後までは、なにかあればお前の責任だからな」と言われていたので、半年後にようやく肩の荷が下りましたね。部隊はすでに離れていますから、自分だけで乾杯しました(笑)。
――ふたりは防大同期で、いつから親友になられたのですか?
伊藤 私は九州から出てきた田舎者で、杉山は花のお江戸東京出身ですから、一年生のスキー訓練の際は、私は初めてのスキーでしたが、杉山は颯爽と滑っていました。
杉山 仲良くなったきっかけは、芦屋基地でのT-1ジェット練習機のフライトコースで、同じ班になったことです。班の6人は運命共同体で、その班が崩れると皆崩れる。
――戦闘機パイロットになれなくなる。
杉山 そう。そこから親しくなりました。
伊藤 頼りになる戦友です。
【F-2の未来】
杉山 F-2に関する書籍は色々と出版されています。だけどこの本では「空自パイロットたちの手でF-2を戦力化した」、まさにそういった飛行機がF-2である、と結論は出していますよね。
――その通りです。ありがとうございます。
杉山 新型戦闘機は完成形で作らなければならない時代ではないかと、最近僕は思っています。
開発者たちが運用要求に基づいて、自分たちの持てる力をすべて出して新型戦闘機を作る。それで、完成した新型戦闘機をどのように運用するのか、その次のステップは戦闘機パイロットたちに委ねられる。今、各国のF-35のパイロットたちが集まって、ネットワーク上でどう戦っていくのか研究していますからね。
まさにF-2は、作られたときには完成形だったけれども、時代の流れでこれもあれも付け足さなくてはならない、日本の風土に合った戦術を作り上げないとならないといった状況でした。F-2の最初の飛行隊はそういったことを背負いながら、事故を起こしてもその歩みを変えないようなパイロットたちが必要だったんですよ。
伊藤 確かにそうでした。F-2をどんどん変えていくことは部隊の使命でしたから。
杉山 今も、ヒトフタ式(12式地対艦誘導弾能力向上型)は射程1000km以上になり、地上車両、艦艇、さらにF-2からも撃てるようにしている。すると、F-2の退役時期について、考え直す必要性も出て来るんじゃないかな?
F-2は国産であるゆえに、たとえばF-15を近代化してヒトフタ式を載せることはないだろうね。やはり、F-2になっちゃう。
伊藤 そのようにして次に繋げて欲しいですね。F-2は非常にいいものになっていくんじゃないかと思います。
杉山 それで、F-2は「フライ・バイ・ワイヤ」で飛んでいる。電気信号を用いて航空機を操縦しているんですね。だから、AIをどうにかすれば、コンピューター制御の中で無人機として使える。
すると、F-35のロイヤルウイングマン(有人航空機と連携・支援するドローン)として、ウェポンキャリーの無人機として使える。そんなF-2の未来の生き方もありますよね。
伊藤 どこか有人であって欲しいと思いますが、無人機もありかなと思います。F-2はコンピューター制御でAIとの親和性もあり、改造しやすいでしょうから。
飛行隊長の選抜を担当していた杉山政樹元空将補(撮影:柿谷哲也)
――国産の強みです。
杉山 その場合、何を積んでいくかを考えたら、やはり対地攻撃の武器を積むほうがいいだろうね。
――そのようになったとき、シンF-2を戦力化するコツはありますか?
伊藤 そのコツは変わったことではなくて、基本的なことなんです。最初に言った、安全のために決められた手順を踏む。戦技戦法も基本に習熟する。そして、新たに今までにないモノを上手く使う、ということだと思います。
――未来の日本の空には、まだシンF-2が飛んでいるでしょうね。F-35のロイヤルウイングマンは、AI搭載のシンF-2無人機がウェポンキャリアーとして飛んでいる。そして、その遥か後方でF-2有人機が、12式改長距離ミサイルを多数搭載して対艦、対地攻撃するために飛ぶ。
杉山 F-2がそうであったように完成形をそのまま使うんじゃなくて、それに乗る空自パイロットたちが日本の国土に合った形の戦力に仕上げていく。
今後、F-3がどのような形になるのか楽しみですけど、それを作るのはその時の空自パイロットたち。彼らがどんな作戦を発案しどういう戦い方をするのか。その後の歴史をまた作っていくのだろうと思います。
――その時はまた、伊藤隊長のような優秀なパイロットが必要となる。
杉山 そういうことですね。
伊藤 光栄です。若い力に期待します。
取材・文/小峯隆生 撮影/柿谷哲也
