
第6回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で連覇を目指す侍ジャパンが、2月14日、ひなた宮崎県総合運動公園で合宿初日を迎えた。
今大会は、アメリカやドミニカ共和国が投打にトップクラスのメジャーリーガーをそろえ、過去最高レベルの戦いになると予想されている。両国と並び、アメリカのメディアやブックメーカーから「3強」の一角と見られている日本代表は、どのように戦うのか。なかでも、海の向こうから特別な視線を向けられているのがNPB組だ。
【低リリースから最速159キロ】
大谷翔平(ドジャース)や鈴木誠也(カブス)など、すでにアメリカを主戦場としているメジャーリーガーに対して知名度では及ばないものの、NPBのレベルの高さは知れ渡っている。前回は山本由伸や佐々木朗希(ドジャース)、今永昇太(カブス)がその名をアピールし、のちにMLB移籍を果たした。
はたして今回、誰が日本代表からMLBに巣立っていくのか。スカウトや海外メディアは、そうした目で見ているのだ。
2月14日、午前11時。今回のWBCで注目を集めそうな男が、まだ誰も投げていないブルペンに真っ先に姿を現した。背番号66、松本裕樹(ソフトバンク)だ。
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パ・リーグでは過去3年続けて50試合以上に登板し、昨季は驚異の防御率1.07をマーク。39ホールドで最優秀中継ぎ投手に輝いた。
松本のすごさは日本の野球ファンには知れ渡っているが、海外でも強いインパクトを残しそうな理由がある。それをわかりやすく表現したのが、アドバイザーとして宮崎合宿に初日から参加しているダルビッシュ有(パドレス)だ。
「松本くんがたとえばメジャーに行ったら、どういうタイプの投手というか。すごくユニークな投手なので、そういうところを話しました」
吉見一起コーチや能見篤史コーチらとブルペンで見守ったダルビッシュは、32球を投げ終えた松本と話した。伝えたのは、MLBにおける松本の希少性だった。
「低いリリースポイントからホップ成分の高い真っすぐを投げるところと、そのなかでスプリットでも落ち幅をつくれる。そういうところです」
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近年、VAAという観点が注目されている。「Vertical Approach Angle」の略で、投球がホームベースを通過する際の入射角度だ。高いリリースポイントから投げ下ろして角度をつければマイナス、逆に低めから高めに投げればプラスになる。この値が「水平=ゼロ」に近いと、空振りやフライに打ち取りやすいというデータが出ているのだ。
松本が打ちにくいのは、183センチの長身投手が低いリリースポイントから最速159キロのストレートを投げ込んでいくことにある。
「そうしようと思ってやっていたわけではないですけど。そういう特徴があると頭に入れながら、それを伸ばしていけたらなと思います」
ダルビッシュにも指摘された松本の持ち味は、意図せずに獲得したものだという。
【平良、石井の辞退で高まる重要性】
平均から外れるということは、投手にとって打たれにくさを生む重要な要素だ。投球の軌道を予測してスイングする打者にとって、想定外を生みやすい。
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14年ぶりの世界一奪還を果たした前回、吉井理人投手コーチ(当時)はそうした球質を持つ投手を選考したと明かしている。今永はまさにVAAに特徴のある投手だ。
今回の日本代表で言えば、松本に加えて石井大智(阪神)や平良海馬(西武)も低いリリースポイントから投じる速いストレートを武器に持つ。だが、残念ながら石井と平良は所属チームの春季キャンプでアクシデントに見舞われ、出場辞退となった。そうした事態もあり、松本の重要性は必然的に高まっている。
「(ふたりが)辞退したからといって、僕が長いイニングを投げたり、何連投もすることはないだろうし、(起用法は)そんなに変わらないと思います。自分の状態を上げて、任されたところをしっかり抑えられたらと思います」
託された1イニングをいかに封じるか。当初発表された日本代表メンバーで、所属チームで中継ぎを本職とする投手は5人だった。それが石井と平良の離脱により、ブルペンのスペシャリストとして控えるのは松井裕樹(パドレス)、大勢(巨人)、藤平尚真(楽天)、そして松本の4人だ(日本ハムの北山亘基も入団1年目はリリーフ)。とくに、ダルビッシュがユニークな投手と語る松本はカギを握るだろう。
WBCでの楽しみのひとつが、MLBと同様のトラッキングデータが公開されることだ。NPBの中継を見ていてもわからない、リリースポイントやリリースアングル、変化量、投球軌道などが『ベースボール・サバント』というHPにアップされる。松本の独特なフォーシームは、アメリカや海外でも驚きを持って受け止められるのではないだろうか。
過去には日本発の「大魔神」や「大谷さん」のようなニックネームや呼び方がそのまま英語で紹介されたケースもあるが、松本がファンに名付けられた"ブチギレストレート"という異名も付いて回るだろうか。あるいは英訳されるなら、どんな表現になるのか。WBCを楽しむ観点はさまざまある。
なかでもトップクラスに興味深いのは、「MLBの強打者VS日本の投手陣」だろう。松本、そして北山のブルペンを見守ったダルビッシュは、日本代表投手陣への期待をこう話した。
「自分が日本にいた時とは、もうレベルが違うというか、こんなところまで来ているんだなって感じました」
侍ジャパンの誇る投手陣が世界をどう驚かせるのか。楽しみなWBCが、もうすぐ始まる。
