「どれで払う?」は終わるのか PayPay×Visaが挑む“お金の出どころ”問題

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2026年02月16日 08:20  ITmedia ビジネスオンライン

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クレジット・残高・デビットをどう束ねる?

 PayPayとVisaが2月に発表した戦略的パートナーシップは、米国進出の話題が脚光を浴びた。だが、国内7200万人のユーザーにとって、より身近な変化がある。PayPayカード、残高カード、銀行デビットという3つの支払い手段を1枚にまとめ、支払い元を切り替えられるようにする「Flexible Credential」の年内導入だ。レジの前で「どの支払い方法にするか」を毎回考える時代は終わるのか。


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 コンビニのレジ前で、スマホを取り出す。PayPay残高で払うか、クレジットカードにするか。ポイントが貯まっているから先にそれを使い切りたいが、残高がいくらあるのか覚えていない。結局、いつものカードでタッチ決済する――。こんな経験に心当たりがある人は少なくないだろう。


 ポイ活に熱心な層は、もっと複雑な計算をしている。この店ならこのカードの還元率が高い、今はこんなキャンペーンをやっているから別のカードを使いたい、1000円まではポイントで払って超えた分はクレジットにしたい。普段はデビットで家計管理をしているが、旅行のときだけはクレジットに切り替えたい。「お金の出どころ」を場面に応じて選び分けることで、確かに得をする世界がある。


 一方で、大多数の消費者はそこまで器用ではない。1枚のカードに対して、支払い元は1つ。この1対1の対応が分かりやすいし、安心だ。どのカードからいくら引かれるかが明確で、管理に頭を使わなくて済む。それで十分だ。


 だが、PayPayとVisaが発表した提携には、「最適に使い分けたい人」と「何も考えたくない人」という2つのタイプの双方に応えようとする技術が含まれていた。Visaの「Flexible Credential」という仕組みである。


●「人類には早すぎた」先行者


 この発想を日本で最初に形にしたのが、三井住友フィナンシャルグループのOliveだった。2023年3月に始まった「フレキシブルペイ」は、1枚のカードにクレジット・デビット・ポイント払いの3つのモードを載せ、アプリで切り替えて使える仕組みだ。Visaによれば、利用者の約70%が資金源の切り替え機能を使っているという。一定の需要はあった。


 だが、現実の評価は割れた。「1枚でカバーできるから財布がスッキリした」「家計管理がしやすい」という声がある一方で、Xには「複雑怪奇は人類にはまだ早過ぎた」という投稿も見られた。Oliveを操作する三井住友銀行アプリのレビューを見ると、賛否がほぼ五分五分に分かれている。


 問題の本質は「切り替えたはずなのに、思った通りにならない」ことにあった。iDで支払うと、モード設定に関係なくデビット扱いになる。ネット通販では、注文時ではなく商品出荷時のモードが適用され、数週間前にクレジットで買ったつもりの商品が、デビットとして口座から即時引き落とされる。


 切り替えを忘れたまま残高不足でエラーが出て、レジで立ち往生する。アプリ上の「選択」と、決済ネットワーク側で行われる「処理」が食い違う場面があまりに多かった。


 結局、ヘビーユーザーの間では「モードはクレジットに固定して触らないのが一番安全」という運用が広まった。切り替えられることが売りの機能を、切り替えずに使う。皮肉な結論だが、ここに教訓がある。支払いのたびに利用者が判断し、手動で切り替えるという設計そのものに無理があったのだ。


●Apple Payは「なぜ使えている」のか


 ただし、よく考えると多くの人はすでに似た体験をしている。Apple Payだ。1台のiPhoneに複数のカードを登録し、支払い前にどれを使うか選ぶ。カードと物理的な「モノ」の1対1の関係はすでに崩れているが、多くの人が違和感なく使っている。


 理由はシンプルで、選んだカードがそのまま使われるからだ。Suicaを選べばSuicaとして引かれ、三井住友のクレジットを選べばその請求が来る。選択と結果が一致する。Oliveで起きた問題は、まさにこの一致が崩れる場面があったことに尽きる。アプリで「クレジット」を選んだはずなのに、裏側ではデビットとして処理される。その不透明さが、不信感につながった。


 PayPayがFlexible Credentialで同じ轍を踏まないためには、Apple Payが当たり前のように実現している「選んだ通りに動く」という信頼を、まず担保する必要がある。その上で、Visaはさらに一歩先を目指そうとしている。


 2月の説明会で、米Visaのジャック・フォレステル最高製品・戦略責任者が示したスライドに、その先の姿が見えた。画面には「Smart Rules」と書かれ、「50ドル以下はウォレット残高で支払う」「50ドル以上はクレジットで支払う」というルール設定が並んでいた。


 PayPayカード(クレジット)、PayPay残高カード(プリペイド)、PayPay銀行デビットの3枚を、1つのVisaクレデンシャルに統合し、年内の国内提供を目指す。PayPayの中山一郎社長は、この構想を説明会で明らかにしている。


 日本での具体的な仕様は、まだ明らかになっていない。だが、もしSmart Rulesのような自動振り分けが実現すれば、これまでとは違う利用体験が生まれる。普段の少額決済はチャージ残高から引き落とし、一定額を超えたらクレジットの後払いに回す。ユーザーはルールを一度設定すれば、レジ前で何も考えなくていい。レジ前での判断を仕組みに委ねるという発想である。


●答えは年内に出る


 ポイ活上級者は、店舗やキャンペーン、利用金額の最適な組み合わせを毎回考えることをいとわない。だが、大半のPayPayユーザーはそうではないだろう。「普段はデビット感覚で使いすぎを防ぎたい。大きな買い物のときだけクレジットの後払いにしたい」。その程度の素朴な希望を、レジの前で意識せずにかなえること。それこそがFlexible Credentialの価値である。


 Oliveが「人類には早すぎた」と言われた機能を、7200万人が違和感なく使えるものに仕上げられるかどうか。PayPay×Visaの提携で、国内ユーザーに最も早く届く変化は、米国進出ではなくこちらである。その答えは、年内に明らかになる。


(斎藤健二、金融・Fintechジャーナリスト)



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