
2025年10月11日、12日の2日間にわたって開催された、学生向けのテックカンファレンス「技育祭(GEEK SAI)2025 【秋】」。さまざまな企業、組織のキーマンやトップエンジニアが登壇し、ITエンジニアを志す学生に向けて業界を目指す上で役立つさまざまな情報を発信した。
その中でも特に活況を呈していたのが、元2ちゃんねる管理人のひろゆき氏によるセッション「ひろゆきだけど何か質問ある?」だった。
さまざまなメディアで歯に衣(きぬ)着せぬ論評を展開し、現在ではインフルエンサーとして若者から絶大な支持を集める同氏だが、もともとはインターネット掲示板サービス「2ちゃんねる」を独力で立ち上げて運用してきた生粋のITエンジニアであり、今でも自身の仕事を効率化するためのツールを、最新のコード生成AI(人工知能)を活用しながら開発する現役エンジニアでもある。
そんな同氏に学生たちが直接質問をぶつけることができる大変貴重な場となった本セッション。特に近年、システム開発の現場へ生成AIが急速に浸透している状況を受け、「将来の職がAIに奪われてしまうのではないか?」と不安に思う学生たちからAIに関連する質問が相次いだ。
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本稿ではこれらの質問の中から、主だったものを幾つかピックアップして紹介してみたい。
●生成AI時代にエンジニアを志す学生に求められる能力とは?
AIの進化により開発のハードルが劇的に下がった一方で、「基礎力が身に付かないのではないか」「特定の職種が消滅するのではないか」という不安もまた、学生たちの間で広がっている。
AIを前提とした時代に、エンジニアとして生きのこるために必要な「人間の価値」とは何か。まずは個人のスキルやスタンスに関する質疑応答を見ていこう。
○「自分でやるべきこと」と「AIに頼ること」の線引きは?
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学生:AIの発展でサービス作りのハードルが劇的に下がった一方、コンピュータサイエンスや課題発見の基本的な知識や能力が身に付かないのではないかという危機感も抱いています。
自分でやるべきこととAIに頼ることの線引きについて、ひろゆきさんはどのようにお考えですか?
ひろゆき:これまで20代、30代の若手エンジニアが行っていたコーディング作業は、もうAIがかなりできるようになってきています。
ただしAIは、実際のシステム開発プロジェクトで直面するさまざまな制約条件、例えば予算やスケジュール、リソースなどの要件を加味しながらシステムの全体仕様にまで落とし込めるだけの能力は、まだ獲得できていません。
この領域はやはり、これまでハードウェアからOS、ミドルウェアなどさまざまな領域の経験を一通り積んできた40代、50代のベテランエンジニアが強いですね。
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例えば性能課題を解決する手段をAIに尋ねると、得てして「高性能サーバを10台並べる」といったように予算を度外視した解決策を提案してくるのですが、実際のシステム開発は予算の制約との戦いですから、この点においてはやはりまだまだ人間のベテランエンジニアの方が頼りになりますね。
予算やコストの要件というのは会社ごとにまちまちですから、やはり人間の方が個別の事情を勘案して柔軟に対応できる思います。
逆に言うと、若い人たちは早いうちから、予算の制約の中でコストを抑えながらシステムを開発する経験を積んでおいた方がいいと思います。
コストと要件を両立させるシステム構成やアーキテクチャを考えるためには、ハードウェアやミドルウェアも含む幅広い知識が必要になりますから、例えば若いうちに一からサーバを立ち上げたり、あえてAIを使わずに一からプログラムを組んでみるといった経験を積んでおくのも有効だと思います。
○サーバエンジニアは、この先生きのこれるの?
学生:現在サーバエンジニアを目指して勉強しているのですが、クラウドやAIによる自動化が進む中で、将来的にこの職種がなくなってしまうのではないかと少し不安です。
この先、サーバエンジニアという職種はどうなっていくと思いますか?
ひろゆき:確かにサーバの選定や契約方法などについてAIに尋ねると、かなりきちんと答えてくれます。ただし、予期せぬトラブルに見舞われた際の解決策を尋ねても、必ずしも的確な答えを返してくれるとは限りません。
AIは簡単に言えば、ネット上にある情報を拾ってきて、その内容を基に最適解を統計的に出すという仕組みですから、裏を返せばネット上に情報がない問題に遭遇してしまった場合は、現時点ではあまり頼りになりません。
でもサーバエンジニアとしてサーバの基本的な仕組みや動作原理が分かっていれば、たとえ参考にできる外部情報がなくても、自分の知識と経験を基に解決策を手繰り寄せることができます。なので、まだまだ人間のサーバエンジニアが活躍する余地はあると思います。
●生成AIの普及で企業のエンジニア採用はどう変わる?
生成AIの普及はエンジニア個人の働き方だけでなく、エンジニアを雇用する企業の採用戦略にも大きな影響を与えつつある。本セッションではこの点についても、学生たちから鋭い質問がひろゆき氏に寄せられた。
○SIerはオワコン?
学生:今後はAIの普及によってプロジェクトに必要なエンジニアが減って、システム開発を外注することなく、自社でエンジニアを抱える企業が増えるような気がしています。その結果、SIer(システムインテグレーター)は衰退していくのではないかと思うのですが、ひろゆきさんはどのようにお考えですか?
ひろゆき:僕も実は同じような未来を予想しています。
システム開発を発注する企業の側からすると、これまでのように大手SIerから20人のチームを派遣してもらうより、めちゃくちゃ優秀なエンジニア1人がAIを使いこなして20人分の開発を一手に行う方が、明らかにコストは安く上がりますし、ユーザーの要望にもより柔軟に対応できます。
なので個人的には、一部のセキュリティやコンプライアンスの要件が厳しい領域を除いては、SIerは衰退していくのではないかと考えています。
○内製化が進む?
学生:事業会社の従業員としてシステム開発に従事する内製エンジニアは、今後増えていくとお考えですか?
ひろゆき:SIerの仕事が減る分、事業会社が優秀なエンジニアを雇って、AIを使いこなしながらシステムを内製開発していく形が増えていくと思います。
現時点で内製開発を行っているのは大手企業が中心ですが、今後は中堅企業でも内製開発エンジニアの採用枠は増えていくような気がします。もしくは外部の優秀なフリーランスと契約して、顧問エンジニアのような形で自社のシステムを任せる企業も増えてくるのではないでしょうか。
○それでも大企業に行くべき?
学生:ひろゆきさんはよく「新卒カードを使って大企業に行くこと」の重要性を話されていますが、AIがここまで進化している時代に、AIをあまり使いこなせそうにない大企業に行くことにリスクを感じています。
あらためて、AI時代において新卒カードはどう使うべきだとお考えですか?
ひろゆき:「大企業に行ったらAIを使いこなせそう」といったように、企業に教えてもらわないと知識が得られないと考えているのであれば、残念ながらあまり成長は期待できないと思います。
大企業であろうと中小企業であろうと、会社から特に何か言われるまでもなく、自ら自発的にAIを勉強してスキルアップする人はいくらでもいます。なので「会社が何を与えてくれるか」という基準で就職先を選ぶというのは、あまりお勧めできません。
確かに、この時代に「絶対にAIを使ってはいけない!」という方針を打ち出しているSIerもどうかとは思いますけどね。
●市場価値を高めたいならまずはプロダクトを作ってみること
AIに関する質問以外にも、将来の就職やキャリア構築に関して、学生の立場ならではの率直な質問が相次いだ。以降でその一部を紹介しよう。
○もしもひろゆきさんが就活生だったら
学生:もし、ひろゆきさんがいま就活生だったら、どんな業界のどの職種を志望しますか?
ひろゆき:業界はともかく、もし行けるのであればとにかく大企業に行きますね。
大企業にいれば大きな案件に関われますが、例えば製造業や建築業ではその中のほんの一部にしか関わることができません。でもITエンジニアリングは、それこそ20代のエンジニアがアプリやサービスを全部1人で開発することだって可能です。そういう意味では、小さな会社より大企業に行った方がいろいろな意味で可能性が広がると思います。
また大企業ならではの意思決定や稟議(りんぎ)、決済、根回し、カルチャーなどは、やはり大企業に入らないと経験できませんから、そういう経験を積めるという意味でも僕は大企業に行った方がいいような気がします。
○もしもひろゆきさんがエンジニア志望者だったら
学生:ひろゆきさんがいまエンジニアを目指すとしたら、どんな種類のエンジニア職を目指しますか?
例えばフロントエンジニアやクラウドエンジニアなど、具体的な職種を教えてください。
ひろゆき:たぶん、全てを1人でこなせるフルスタックエンジニアを目指すと思います。
実際の開発の場面では他の人に仕事を頼むことが多いと思いますが、例えば自分がフロントエンジニアでバックエンドエンジニアに仕事を頼みたいとなったとき、自分にバックエンドの知識がなくては優秀な人材を見抜くこともできません。
なので、フロントからバックエンドまで一通りの知識を早いうちから習得しておくと、後々得することが多いのではないかと思います。
○市場価値を高めるためには学歴が必要?
学生:自身の市場価値を高めるためには、やはり大学でコンピュータサイエンスを専攻して本格的に学ぶ方がいいのでしょうか?
ひろゆき:エンジニアとしての価値を高めたいのであれば、とっととアプリかサービスを作った方がいいでしょう。
もし「このアプリを作りました」「このサービスを作りました」という実績があれば、たとえ求人を出していない会社であっても、会って話を聞いてくれることが多いと思います。なので、もう履歴書代わりだと思って早めにアプリやサービスを作ってみた方がいいと思いますね。
もし何から手を付けていいのか分からなければ、取りあえずiOSアプリのトップ100ランキングを見て、その中から自分で作れそうなものを見つけて模倣してみることをお勧めします。
少なくともランキングに載っているアプリであれば、世の中で一定以上の需要があるということですから、まずはそれを模倣して作ってみるのがいいと思います。
○SIer、自社開発、SES ファーストキャリアにお勧めの業態は?
学生:新卒または転職でエンジニアとしてキャリアをスタートさせる場合、SIer、自社開発、SES(システムエンジニアリングサービス)のうちどの業態の企業を選ぶべきでしょうか?
ひろゆき:会社を選ぶ際には、業態よりも「相談できる相手がいそうかどうか」を重視した方がいいと思います。
分からないことがあって困っているときに、周りに丁寧に教えてくれる人がいる会社に行くことをお勧めします。実際には、何か質問しても「え、そんなことも知らないの?」「そんなこと自分で調べろよ」という反応しか返ってこない雰囲気の会社もありますからね。
そのあたりの社風を見抜くには、採用面接に現場のエンジニアが面接官として出てきたときにいろいろ質問してみて、その際の応対を見て判断するのがいいと思います。
以上、本セッションで取り上げられた質問と、それに対するひろゆき氏の回答をダイジェストでお届けした。実際にはさらに多くの質問が寄せられていたが、わずか40分間という短い時間の中で、かつ多忙を極める中でも、一つ一つの質問に丁寧に答えていたひろゆき氏の姿が印象的だった。
普段インフルエンサーとしてメディアに登場する際の同氏は、どちらかというと歯に衣着せぬストレートなもの言いでたびたび物議をかもす“論客”のイメージが強いが、時折独自の視点に立った「ひろゆき節」を交えつつも、現役エンジニアの立場から学生に真剣にアドバイスを贈ったり、AIについて独自の視点から見解を披露したりした今回のセッションは、エンジニアを志す学生だけでなく、現役エンジニアにも大いに示唆を与えてくれたのではないだろうか。
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