
全国各地で百貨店の屋上遊園地が衰退の一途をたどる中、47年ぶりにリニューアルを行った名古屋・栄にある松坂屋名古屋店。
【画像】大規模なリニューアルによって生まれ変わった、松坂屋名古屋店の屋上遊園地
約9カ月の休業期間を経て2025年3月に屋上遊園地をリニューアルオープンし、約700坪の敷地に、従来のレトロ遊具52点とデザイン遊具を含む新しい遊具8点を備えている。人工芝を敷いた円形広場や、身長測定や反復横跳びなど6種類の体力測定を実施できるスポットも設けられている。
前編では、リニューアルを決断した背景や経緯などについて紹介した。本稿では具体的な取り組み内容や、経済的な効果についてお伝えしたい。
●複数のコンセプト案から選ばれた「新旧融合」
|
|
|
|
松坂屋名古屋店の屋上遊園地のリニューアルでは、コンセプトを固めることから進められた。リニューアルプロジェクトを担当した大丸松坂屋百貨店 本社営業本部店づくり推進部の池田航氏によると、当初は3つの案があったという。
1つ目は、鏡張りの展望スペースや特別なドリンクを提供するVIP席を設けるなど、ラグジュアリー志向のテラスを作るというもの。2つ目は、地元企業とタイアップし、昔ながらの遊具を複数設置して完全に公園化するというもの。3つ目は、レトロなコイン遊具を残しつつ、隣接するアートフロアと連動した屋上パークも作るという、新旧をうまく融合させたものだ。最終的に、3つ目の案が採用された。
池田氏は“ウルトラC”の4つ目があったことも明かす。
「キャラクターテーマパークを誘致するというアイデアもありました。ただ、こちら側のコントロールが難しく、投資額も読めなかったため、早い段階で断念しました」
2019年から店舗の改装プロジェクトの実施案を作り始め、2021年頃から屋上遊園地の計画が本格的に動き出した。そこから新たなパートナー企業に声をかけていったのだが、その一社が幼児用遊具の開発などを手掛けるジャクエツだ。
|
|
|
|
同社を選んだのは、全国の保育園や幼稚園施設の設計や施工、環境構築などに携わっており、子どもに関する知見が豊富だったためだ。「今回の方針として、子どもが親と遊び、思い出を作るという点を最も大切にしたいと考えていたため、この会社が最適だと判断しました」と池田氏は説明する。
ジャクエツは、今回のリニューアルのためにデザイン遊具を製作したほか、アートやスポーツの要素を各所に散りばめる空間デザインを行った。
リニューアル前は「ソラテラス」という屋上庭園があった松坂屋名古屋店。季節の植物が植えられ、植物の販売も行われていたが、維持管理が難しくなり“単に老朽化した場所”と化してしまっていた。そのため、空間デザインはもちろん、遊具の修復も行い、レトロながらも新しさを感じられる場所にする必要があった。
遊具の塗装を担当したのは、コイン遊具メーカーである加藤工業だ。同社は当初、新たな投資には消極的であった。池田氏は何度も訪問して丁寧な議論を重ね、全てのコイン遊具を引き上げて特殊な塗装を施し直してもらうことで合意した。約10台の4トントラックで名古屋と大阪間をピストン輸送し、深夜に遊具の入れ替えを行うなど、作業には困難を伴ったが、最終的に貴重な遊具が蘇った。
「さまざまな方が見学に訪れますが、特定の型式の新幹線の遊具が美しい状態で残っている例はほとんどないそうです。改めてコイン遊具そのものの価値にも気付かされました。交渉には時間を要しましたが、その分得られたものは大きかったと考えています」
|
|
|
|
現在国内で稼働しているコイン遊具の部品の多くは生産が終了しており、故障すれば修理はほぼ不可能だ。実際に他の百貨店の屋上遊園地でも「メンテナンス中」という張り紙が貼られたままの遊具があるという。そうした意味でも、今回の塗装し直しなどによる遊具の維持は、次世代につなぐための重要な取り組みだったと言えるだろう。
●リピーター獲得の仕掛け
昭和から受け継がれてきた屋上遊園地が令和の時代に生まれ変わるという話題性もあり、リニューアル直後から想定を上回る来場者が屋上遊園地に足を運んだ。新規顧客はもちろん、リピーターも一定数いる。これは狙い通りで、そのための工夫を凝らしていた。
「さまざまな仕掛けを用意しました。例えば、子どもの身長を測れる場所では、スマートフォンで写真を撮影している方を多く目にします。数カ月おきに記念撮影するために、定期的に来場されているのだと思います」と池田氏は分析する。
加えて、集客増のためのイベントを精力的に行っている。子ども向けのものだけでなく、いくつものイベントを企画した結果、売り上げは従来の3倍前後、月平均で200万〜300万円となった。
さらに、他のフロアへの波及効果も生まれている。具体的な数値は計測していないが、百貨店での滞在時間は明らかに伸びており、半日ほど過ごす人も少なくないという。
「屋上遊園地をリニューアルして話題になったことで、百貨店での行動が本来の形、つまり『滞在する』という形に戻りつつあるのです」
それまでは、滞在せずに特定のブランドショップで買い物をして帰る、あるいはデパ地下だけ利用して帰るという流れが主流だった。
「今回の8フロアの改装では、ゆっくり滞在できる場所をしっかりと設けました。屋上もそうした場所として、うまく機能したのではないかと考えています」
池田氏は、新旧融合の空間設計が、結果的に売り上げの向上にもつながったと指摘する。
「子どもが自由に遊べる無料のアート遊具エリアの隣にコイン遊具があることで、遊びの幅が自然と広がります。『ピカチュウに乗りたい』『汽車に乗りたい』という気持ちが自然と生まれ、結果としてコイン遊具も利用される流れができていると感じます」
●百貨店の本来の意味を見つめ直す
今後も多種多様なイベントを打ち出す方針だが、屋上遊園地全体の売り上げをさらに2倍、3倍と伸ばしていくことは現実的ではないという。そのためには遊具の数を増やすか、高額な遊具を設置しなければならないからだ。「それよりも、百貨店における余白エリアとして、快適な空間を維持していくことを優先する」と池田氏は述べる。
この場所を体験した子どもが、将来自分の子どもを連れて来るようになれば、屋上遊園地の文化が継承される。松坂屋名古屋店は、目先の収益を追うのではなく、長期的な顧客との絆やブランド価値の向上に投資する道を選んだ。
絶滅危惧種となった百貨店の屋上遊園地。そこに数億円を投じて再生させた松坂屋名古屋店の異例の判断は、「百貨店での滞在」という本来の購買行動を取り戻すという、より大きな成果を生み出しつつある(前編を読む)。
●著者プロフィール
伏見学(ふしみ まなぶ)
フリーランス記者。1979年生まれ。神奈川県出身。専門テーマは「地方創生」「働き方/生き方」。慶應義塾大学環境情報学部卒業、同大学院政策・メディア研究科修了。ニュースサイト「ITmedia」を経て、社会課題解決メディア「Renews」の立ち上げに参画。
|
|
|
|
|
|
|
|
Copyright(C) 2026 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。