
楽天モバイルの三木谷浩史会長は、スペイン・バルセロナで開催されている通信関連イベント「MWC26 Barcelona」の基調講演に登壇。楽天グループの創業を振り返りつつ、楽天エコシステムの重要性やOpen RANのメリットをアピールした。
Open RANは、無線の送受信装置などの仕様をオープンにして、さまざまなベンダーの機器やシステムとの相互接続を可能とする無線アクセスネットワーク(RAN)。楽天モバイルは仮想化ネットワーク構築のノウハウを生かし、国内外でOpen RANを展開している。
●楽天グループの創業当時は1日1000ドルの取引だった
27年前の1997年に楽天グループは創業。当時、楽天市場を始めた三木谷氏に対し「インターネットで買い物をする人は誰もいない」とあきれられたことや、初月の取扱高はわずか3000ドル(日本円で当時約32万円)で、そのうち2000ドルは三木谷氏が買ったものだったという有名なエピソードを紹介。「実質、1日1000ドルの取引だった」と振り返った。
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それが現在は、旅行、銀行、クレジットカード、証券などへとビジネスを拡大。決済などを含めたグローバルの流通総額は50兆円に迫る規模まで成長した。
そんな中、三木谷氏は「突然、モバイルビジネスへの参入を決めた」。周囲の人たちはまたあきれ、膨大な費用がかかることを指摘したという。しかし三木谷氏は「破壊すべきとき」だと感じた。通信業界は「垂直統合された古い仕組みにとらわれて」おり、「モバイルネットワークを再定義する必要がある」との考えから参入を決めた。
三木谷氏が考えたモバイルビジネスの構築は「シンプルに、加入者を増やし、ARPUを上げ、コストを下げること」だ。また、楽天は加入者に加え、「データという金鉱」を持っているという。楽天は「まったく異なるアプローチ、モバイルネットワークの上にエコシステムを作ることにした」と語った。
「多くのモバイル企業がエコシステムを作ろうとしているが、私たちは逆。私たちは既に、eコマース、旅行、銀行、カード、決済、証券、保険など日本で70以上のビジネスを持っていた。そこにモバイルを加えることで、ビジネスを劇的に強化できると考えた」(三木谷氏)
実際に、楽天グループのサービスを利用する人が楽天モバイルに加入すると、以前よりも2.5倍近く楽天サービスを利用するようになることを紹介。楽天市場での買い物が約50%、楽天トラベルは約20%、カード利用も30%増えることを示した。また、RCSアプリの「Rakuten Link」についても「データに基づいてパーソナライズしている」と紹介した。
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現在、楽天サービスの月間アクティブユーザーは4560万人。楽天モバイルの加入者も1000万人の大台に達したことを示した。
●データに基づき広告収益を最大化 ポイントサービスや映像配信などの外販も
三木谷氏は「年間で3兆以上のデータポイントがあり、消費者の行動を分析し、学習できる」とし、独自のLLM「Rakuten AI」によって、ユーザー体験やポイントプログラムをパーソナライズしているという。「モバイルサービスから得たデータに基づき広告収益を最大化して、約2億5000万ユーロ(約400億円)を稼いでいる」ことを明らかにした。
「モバイル業界は競争が激化し、ARPUを劇的に上げるのは難しい」状況では、コスト削減が重要になる。楽天モバイルは完全仮想化を採用し、独自のOpen RANソフトウェア、クラウド、OSS(運用サポートシステム)、BSS(収益サポートシステム)を構築。「エンド・ツー・エンドで完全に仮想化されたソフトウェアベースのネットワークとして、恐らく世界最大」と胸を張った。
また、カバレッジ向上のために衛星ネットワーク企業のAST SpaceMobileの創設投資家になったと語り、「日本で100%の地理的カバレッジを実現したい」と意気込んだ。
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一方、楽天シンフォニーを通じて、自社ソフトウェアやポイントプログラム、TV配信サービス、メッセージングプラットフォームなどのエコシステムサービスを他の通信会社にも提供していることを紹介。「単にソフトウェア技術で助けるだけでなく、加入者を収益性の高いメンバーシップへと変える専門知識を提供したい」と語った。
「モバイル業界は、単なるネットワーク接続の提供から、より豊かな消費者サービスへと変わるとき。本当に(ネットワークを)作れるのか? と皆に聞かれたが、Open RAN技術と完全仮想化に賭け、私たちは3年で10万以上の無線局を自ら建設した。当時は非常に攻撃的なアイデアだったが、今、新しいビジネスモデルを構築している」
楽天シンフォニーを通じて他社のサービス構築を支援したいと呼びかけ、講演を締めくくった。
●ネットワークとエコシステムを売って「1粒で2度おいしい」
講演修了後、三木谷氏は日本の報道陣からの質問に応えた。主なやりとりは以下の通りだ。
―― 世界のキャリアが(楽天グループのような)エコシステムを作るのはハードルが高いと思うが。
三木谷氏 でも興味はすごいですよ。大手キャリアも「このままだと難しい」という認識がありますね。
―― もっとポイントなどのエコシステムを入れていきたいと?
三木谷氏 そうですね。もともと、楽天ブランドじゃないリワードプログラムのプラットフォームがあります。アメリカだと大手銀行やコカ・コーラ、メジャーなエアラインとかに提供していて、結構大きいんですよ。今まであまりテレコムにそれを提供してこなかったんですけど、今は皆さん、非常に興味を持っていらっしゃる。
単純なリワードプログラム、ポイントシステムの提供もやりますし、それ以外では、例えば「Rakuten TV」だと、(フランスの通信事業者)Orangeさんなどいくつかのテレコム会社は同じようなビデオストリーミングプラットフォームを提供しているので、「だったら集約しましょうよ」ということで持ってきていただいたり。電子書籍もそうですし、いろいろな形で広がっていっていると思います。
―― 楽天は、ヨーロッパはそういう面で強いのか。
三木谷氏 Rakuten TVはヨーロッパで非常に強いですね。
―― 講演でAST SpaceMobileのことに言及していた。直前にSpaceXが次世代の話(第一世代の5倍となる巨大なアンテナを搭載し帯域幅も拡大。より高品質なブロードバンド体験が可能になる)をしていて、楽天がアピールしているようなスペックをSpaceXも実現する模様。これについて、競争上どう対抗していくか。
三木谷氏 衛星通信はその国にとっても重要な施策。1社だけというわけにはいかないだろうなと。2社は必要だとは思っています。
―― 楽天モバイルの回線が1000万契約を超えたことで、世界的な受け止めが良くなった部分はあるか。
三木谷氏 そうですね。1000万契約もそうですけど、先日「自律型ネットワーク レベル4」認定を取得しました。Open RANだと、うちだけがレベル4ネットワークになった。Open RANによってオートメーションがしやすくなり、ベンダーロックインから逃れることができる。うちでも40以上のベンダーの製品を使っている。それでしっかりと動いているということに対して、非常に興味を持っていただいているのだと思います。
―― 今日の講演はAIについての内容が相対的に少なかったと思うが。
三木谷氏 今日のオーディエンスは通信会社の人たちだったので「楽天シンフォニーの技術を買ってください」ということがメインのトピックでした。ついでに「エコシステムのプラットフォームも売りますよ」という売り込みだったので。
―― 楽天シンフォニーのネットワークとセット販売的にエコシステムが売れることもあるのか。
三木谷氏 「エコシステムを作るのを手伝ってほしい」という話がほとんど。1粒で2度おいしい、みたいな感じですね。何らかの取引があると、そこから広げやすいじゃないですか。入り口としてはそれもありかなと。
●Open RANと自動化を組み合わせることでコストを下げられる
―― 楽天シンフォニーの技術を買っているキャリアは、今何社くらいか。
三木谷氏 75社くらいですかね。すごく増えています。
―― 先進国もあるのか。
三木谷氏 提供しているのはRAN、OSS、クラウド、この3つですが、どれかを使っている会社は欧米にもいっぱいあります。最近は東南アジア、中央アジア、アフリカがかなり興味を持っていますね。アフリカが多いかな、中南米がちょっとまだ少ないかな。
新興国系の方が、コストパフォーマンスのメリットは引き出しやすい。これからネットワークを強化するという局面なので、5Gもまだできていないところが多い。「5Gを使うなら、どうせだったら新しい方法でやろうか」という形が多いですね。
―― 競合はどこになるか。
三木谷氏 トラディショナルな会社もあります。Open RANで言うと、ほとんど楽天だけになってきているかもしれません。vRAN(仮想化RAN)だとサムスンさんとかもやっていますけど。Open RANという意味だと、「5Gだけやっています」とか「4Gだけやっています」という会社はありますけど、今、統合的にやっているのは楽天シンフォニーだけかもしれませんね。
―― そこが強みになのか。
三木谷氏 そうですね。強みは、Open RANとオートメーションを組み合わせることによってトータルコストが下げられることと、ネットワークの安定性が上がることかなと思います。
―― 楽天シンフォニーの収益はどこまで上がってきているか。
三木谷氏 決算で説明していますが、結構上がっていますね。ただ、ハードウェアの部分は、これからできるだけやらないようにしていこうと思っています。ハードウェアは買って売ると売上は上がるんですけど、利益率は低い。ソフトウェアの売り上げは順調に伸びています。
―― 今回のMWCで商談はどれくらい決まりそうか。
三木谷氏 分からないですが、殺人的な(笑)アポの数になっていますよ。「もう勘弁してくれ」みたいな。
―― ここ最近のMWCと比べて手応えはどうか。
三木谷氏 明らかに強くなっていますね。
―― Open RANをやっている側から見て、日本のベンダーの力量はどうか。
三木谷氏 素晴らしいと思います。頑張ってほしいなと、本当に。クオリティーは高いと思います。
―― 現在の楽天のネットワークで、日本ベンダーの比率はどれくらいか。
三木谷氏 5Gはほぼ日本(メーカー)です。4Gはほぼ海外ですね。日本ベンダーさんは、クオリティーが高いし、価格が適正であれば使いたいと思っています。
―― 経済安全保障的な発想も入っているか。
三木谷氏 ありますね。正直やっぱり中国製は使いにくい。
●スマホの衛星通信サービスは年内、KDDIローミングはまだ必要
―― ASTの衛星とスマホの直接通信は、実際いつ頃から、どういう形で使えるか。
三木谷氏 目標は年内にサービス開始。そのときは24時間サービスにならないかもしれませんが、年内にサービスインする予定。派手さはSpaceXほどないですけど、いいサービスになると思います。
通信速度はユーザー数によりますね。ユーザーがあまりいないところはYouTubeでもなんでも見られるだろうし、ある程度ユーザーの密度が上がってくると(遅くなる)……という感じになるかもしれません。
―― そうなってくると、もう(KDDIの)ローミングはいらなくなるか。
三木谷氏 いや、ローミングは必要ですね。やっぱり地上局に比べると(衛星は)補完的かなと。山間部とか、過疎地とか。
―― KDDIとのローミングはいつ終了するのか。
三木谷氏 基本的には契約通りに進んでいくことになります。
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