「大谷翔平は戦略そのもの」 伊藤園副社長に聞く、WBCを起点とした“世界緑茶化”の勝算

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2026年03月07日 12:40  ITmedia ビジネスオンライン

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お〜いお茶×World Baseball Classic 新PROJECT発表会には本庄周介副社長(左)に加え、原辰徳氏(中央)やMLBグローバルコーポレートパートナーシップ アジアディレクター十原啓志郎氏(右)が登壇した

 World Baseball Classic(WBC)と大谷翔平――。世界最高峰の舞台で、日本発の「お茶」がかつてない存在感を放ち始めている。伊藤園は「WBC 2026」のオフィシャルグローバルパートナーに就任。「お〜いお茶」を大会全体のオフィシャルグリーンティーとして世界展開する。


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 その中心に座るのが、MLBで前人未到の記録を塗り替え続ける大谷翔平選手だ。同社は2024年のグローバル契約以来、大谷翔平選手がプレーするMLBやロサンゼルス・ドジャースとも次々に提携。本庄周介副社長は、これら一連の動きを「単なる広告やIP活用ではなく、戦略そのもの」と断言する。


 日本のお茶を、いかにして世界の日常へと引き上げるのか。本庄氏へのインタビューから、「世界のティーカンパニー」を掲げる伊藤園の世界戦略に迫る。


● 大谷効果でマインドシェア、販売シェア共に上昇


 伊藤園は2024年に大谷翔平選手とグローバルアンバサダー契約を結び、2025年にはMLB、さらにロサンゼルス・ドジャースともパートナーシップを構築した。その延長線上にあるのが、World Baseball Classic 2026(WBC 2026)とのオフィシャルグローバルパートナー契約だ。


 本庄氏は「WBCは世界に向けて日本文化を発信できる最高の舞台だ」と話す。お茶を飲みながら野球を楽しむ。その体験を世界標準にする。伊藤園は露出ではなく、生活シーンでの定着を狙う。


 1月には「お〜いお茶×World Baseball Classic 新PROJECT発表会」を開催した。かつてWBCで日本代表を世界一に導いた原辰徳氏や、MLBグローバルコーポレートパートナーシップ アジアディレクターの十原啓志郎氏が登壇。野球と日本文化、お茶を結び付け、次のように話した。


 「野球に限らず、スポーツの世界はファンあってのものです。そして何より、スポンサー企業の協力があってこそ成り立っています。そうした力が合わさることで、スポーツはさらに向上していく。今回の取り組みも、その一歩になることを願っています」(原氏)


 トップアスリート、競技、企業、そしてファン。その循環をどう作るかという視点は、伊藤園がWBCに込める狙いとも重なる。


 「正直、こちらが焦るくらいの活躍ですよ」と本庄氏はそう前置きしつつ、大谷翔平選手との契約について率直な手応えを話す。契約後、伊藤園では「緑茶飲料といえば何を想起するか」というマインドシェア、販売シェアのいずれもが上昇しているという。


 注目すべきは、その成長が逆風下で起きている点だ。原材料高騰を背景に値上げする中でも「お〜いお茶」ブランドは堅調に推移している。


 一方で、全社の業績に目を向けると、国内事業の構造改革という重い課題も残る状況だ。同社は1月27日、自販機事業で生じた136億円の減損損失を主因として、今2026年4月期の純利益予想を前期比93%減の10億円へと下方修正(従来予想から150億円の引き下げ)した。


 こうした国内の厳しい経営環境に直面する中、本庄氏は「大谷翔平選手の魅力は非常に強く、グローバルマーケティング戦略の一部になっている」と強調した。


 値上げや減損という逆風の中でもブランドが顧客に支持され、海外へと規模を拡大しているのだ。同社の将来を見据えたブランド力と事業構造の強さを示すものと言える。


● 有糖か無糖か タイ、米国、インドの「市場の壁」をどう乗り越える?


 伊藤園を読み解く上で欠かせないのが、海外戦略の位置付けだ。同社の海外売上高比率は年々上昇しており、国内市場が成熟する中で、海外事業は明確な成長ドライバーとなりつつある。


 本庄氏は「世界のティーカンパニー」というビジョンについて「単なる輸出拡大ではなく、日本茶の価値が、現地の生活文化に溶け込むこと。そこが重要」だと語る。その中核市場として位置付けるのが米国であり、次いでアジアや欧州、そしてその他の地域へと段階的に広げていく構想だ。


 米国市場では、大谷翔平選手との契約を軸に、ブランド認知を一気に引き上げてきた。「グローバルマーケティング戦略の中で、大谷翔平選手は極めて重要な“IP”です」。本庄氏はそう語り、野球選手という枠を超えた“グローバルIP”としての価値に期待を寄せる。


 海外展開を進める上で前提となるのが、市場構造の正確な把握だ。「世界の飲料市場は、有糖飲料が日常的に消費される市場と、無糖飲料が定着している市場の大きく2つに分かれます」(本庄氏)


 市場は一様ではない。それぞれの飲用習慣や文化的背景を踏まえた戦略設計が不可欠だという。


 「重要なのは、市場を正しく見極めることです。有糖飲料が主流のマーケットでは、無糖であることの価値をいかに打ち出すかがポイントになります。甘い飲料が当たり前の環境の中で、無糖をどう再定義するか。健康やライフスタイルと結び付けながら、積極的な選択肢として提示する必要があります」(本庄氏)


 一方で、無糖飲料がすでに日常化している市場では、無糖であることは前提条件にすぎない。品質管理や安全性、ものづくりへの姿勢、日本のお茶文化といった背景を含め、日本茶ブランドとしての総合的な価値をどこまで伝えられるかが競争力を左右する。


 その象徴的な例が、タイだ。街中には甘い飲料が数多く並ぶものの、家庭内では無糖の飲み物も一定の存在感を持つ。甘味文化が強い一方で、無糖を受け入れる土壌も併せ持つハイブリッド型の市場だ。


 同国は経済成長を続け、中間層の拡大とともに健康意識も高まっている。価格競争だけではなく、「無糖の価値」と「日本茶の価値」を掛け合わせた提案が、今後の成長を左右する局面に入っている。


 市場を見極め、価値を再定義し、文化的文脈まで翻訳する。本庄氏が描く海外戦略は、その三層構造で組み立てられている。


●欧州初の法人設立 徹底した日本品質へのこだわり


 加えて伊藤園は欧州でも着実に布石を打っている。ドイツにEU全体をカバーできる欧州初の現地法人を設立し、その後、英国に支店も開設した。


 本庄氏は「世界的に見て、EUの農薬基準は最も厳しいのです。その基準をクリアすれば、EU全域で流通できます」と説明する。ドイツを起点に、フランス、イタリア、オランダなどEU全域へと展開を広げる構えだ。


 欧米市場でも「お〜いお茶」の味は日本と同じである一方で、ローカルマーケティングも併走させる。商品としてその代表例が、米国発で生まれた「TEAS’ TEA」だ。米国の高級スーパーマーケットチェーンであるWhole Foods Market全店で展開されるなど、確かなポジションを築いている。


 伊藤園は2026年1月、インドに子会社を設立し、インド市場での展開を発表した。今後の海外展開でも、日本茶という軸をぶらさないことが、伊藤園の競争戦略だ。


● 「売る」のではなく「根付かせる」 “文化輸出”という挑戦


 世界市場において、「お茶」はまだ伸びしろを残すカテゴリーである。しかし伊藤園は、それを単なる飲料ビジネスとは捉えていない。無糖の日本茶文化、日本品質、日本の生活美意識をどう翻訳し、世界の日常へ組み込むか。その挑戦こそが「世界のティーカンパニー」構想の本質だ。


 WBCという世界的舞台、大谷翔平というグローバルIPを起点に、伊藤園は「売る」のではなく、「根付かせる」戦略を取る。スポーツ観戦の傍らにお茶がある風景を、世界標準にする。その構想が実現するとき、日本の一杯は、真にグローバルスタンダードへと進化する。


(篠原成己、アイティメディア今野大一)



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  • やめてくれ!高品質なお茶が飲めなくなってしまう。
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