
企業のAI活用においてビジネスの成長に直結するものの一つに、営業業務への適用がある。営業部門の生産性向上は業務の効率化もさることながら、どれだけ契約を獲得し継続できるかの決め手にもなるからだ。果たして「営業×AI」の勘所はどこにあるのか。CRM(顧客情報管理)を中心としたソフトウェアベンダーのHubSpot Japanがまとめた調査結果から考察する。
「ただ提案する営業はもういらない」 “営業×AI”の勘所をHubSpot調査から考察
●営業担当者に求められる役割は「こう変わった」
米HubSpotの日本法人HubSpot Japanは2026年2月27日、年次調査レポート「日本の営業に関する意識・実態調査2026」を発表し、その内容について記者説明会を開いた。同調査は日本企業の営業の現状や課題を明らかにすることを目的としており、年次での比較を通じて営業組織や購買行動の変化を定点観測している。7回目となる今回はAIの活用における影響に焦点を当てている。その内容が興味深かったので、今回は筆者が注目した調査結果を紹介し、「営業×AI」の勘所について考察したい。
なお、同調査は2025年10月30〜31日に従業員数51〜5000人の企業に所属する法人営業の売り手1545人と、買い手515人の計2060人を対象にオンラインで実施された。
|
|
|
|
まず、買い手側の実態と変化について、2つの調査結果を紹介する。
図1は、購入検討で「提案が欲しいとき」に営業担当者が必要だと思う人の割合を示したグラフで、2022年の46.4%から2025年は39.0%へと減少している。同社は、「自社の課題や要望に合わせてほしいというニーズが、かつては営業担当者によって充足されなければならなかった。今はインターネットの情報やAIによって充足され始め、営業の介在価値が変わりつつある可能性がある」との見方を示している。
一方で、図2に示すように、買い手の約8割(81.2%)は営業担当者だからこそ提供できる価値に期待を持っている。中でも「個別事情を汲(く)んだ提案」「潜在ニーズの引き出し」「共感や気配り」が、生成AIにはない価値として営業担当者に求められていることが分かった。
次に、売り手側の実態と変化について、4つの調査結果を紹介する。
図3は、営業活動における生成AI活用の経験と営業職のAI利用頻度を示したグラフだ。
|
|
|
|
左のグラフにあるように、営業担当者および営業責任者の生成AI活用率は1年で28.9%から43.4%へと14.5ポイント増加した。さらに右のグラフにあるように、生成AI活用経験のある人の半数以上(55.6%)が「週1回以上」利用しており(ほぼ毎日15.3%、週1〜4日40.2%)、日常業務への定着が進んでいることが分かった。
図4は、生成AIの利用頻度と業務削減時間・AI利用頻度とROI(投資対効果)実感の相関を示したグラフだ。
生成AIの利用頻度と実感する成果の関係を見ると、生成AIの利用頻度が高いほど業務削減時間と有料AIツールのROI実感率がともに高くなる傾向が見られた。生成AIをほぼ毎日利用する人は週当たり約3.6時間を削減し、有料ツールのROI実感率が71%である一方、月1日の利用者は削減時間が約1.3時間、ROI実感率は25%にとどまった。同社はこの結果について、「まず生成AI利用を習慣化することが、成果実感の入り口となることが示唆されている」と見ている。
図5は、各業務でAIを活用している人の週当たり平均削減時間およびROI実感率を示したグラフだ。
生成AI活用の効果を、各業務で「生成AIを活用している」と回答した人の週当たりの平均削減時間で見ると、「CRM/SFA(営業支援システム)への活動記録の入力」(4.0時間)と「アプローチ先のリストアップや優先順位付け」(3.9時間)が特に高い結果となった。有料生成AIツールに対するROI実感率も「CRM入力」と回答した人は68.4%、「アプローチ先のリストアップ」と回答した人は64%と高く、定型作業で繰り返しの多い業務が生成AI活用の効果を感じやすい「入り口」になり得ることが分かった。
|
|
|
|
図6は、AIで創出した時間の使い道およびAI利用頻度別の平均商談準備時間を示したグラフだ。
生成AIの活用によって創出した時間の使い道は「提案の質を高めるための思考時間」(43.9%)が最多で、「休憩やリフレッシュ、労働時間の短縮」(38.2%)、「業務の振り返りや改善の検討」(34.0%)、「顧客との対話・関係構築」(32.3%)が続いた。生成AI利用頻度別の平均商談準備時間は週1日以上利用する人が約87分、月数回程度の人が約77分、活用なしの人が約63分だ。因果関係があるとは言い切れないものの、AI利用頻度が高い人ほど商談準備により多くの時間をかけている傾向が見られる。
同社はこの結果について、「提案の質を高める思考や顧客との対話は、(図2に示した)買い手が営業に求める生成AIにはない価値と合致しており、創出時間が買い手のニーズに応える方向に再投資されている可能性がある」との見方を示している。
なお、調査レポートの全容については発表資料をご覧いただきたい。
●営業でAIではなく人が主導すべき領域とは
今回の調査結果から見えた重要なポイントについて、HubSpot Japanの増岡怜治氏(シニアセールスディレクター)は、買い手の変化として「購買検討でAI活用が進み、営業接点前に情報の収集や比較、整理が進んでいる」、売り手の変化として「AIで生まれた時間を顧客の状況理解と提案の個別化に再投資できるかがカギ」、組織でのAI活用として「支援の有無で活用頻度に差が出てきており、個人任せにせずプロセスとして組み込むことが大事」といった点を挙げた。
その上で、同氏は営業における人とAIの関係について、図7を示しながら次のように説明した。
「情報収集から要件整理、比較・評価、選定、合意形成、契約・発注といった一連の営業プロセスの中で、情報収集から比較・評価まではこれまでもデジタル化が進んできており、今後AIによってさらに効率化が加速していくだろう。一方で、選定から契約・発注まではまだまだ人が主導する領域であり続けると考えている。今後はこの領域にもAIをいかに活用するかという動きが出てくるだろうが、むしろ人がそうしたAIをうまく活用して介在価値をどのように発揮していくか。それが、AI時代に求められる営業の姿ではないか」
図7で示された「人が主導する領域」は、「意思決定する領域」ともいえる。今後はそこにもAIを効果的に活用する手だてが講じられるだろう。HubSpotのPRを一言述べると、同社は全ての領域で使える「AIとCRM搭載のカスタマープラットフォーム」を目指しているという。
ただ、今回の調査レポートの内容における会見では、生成AIをベースとして自律的に業務を遂行するAIエージェントについては話題に上らなかったので、質疑応答で「AIエージェントが進化すれば、営業の大半の仕事はAIエージェントが担うようになるのではないか」と聞いてみた。すると、増岡氏は次のように答えた。
「確かにAIエージェントが進化すれば、営業の仕事においても任せられるところはAIエージェントがこなすだろう。それでも先ほど(図7で)説明したように、人が主導する領域におけるAIとの関係は変わらないと考えている。一方で、AIで加速できる領域は、どんどんスピーディーかつハイパフォーマンスになっていくだろう」
最後に一言、筆者のこれまでの取材経験から営業について述べておきたい。
どれだけ自動販売機のような仕組みを作っても売り手と買い手の間で企業同士、そしてその窓口となる人同士の信頼関係がなければ、営業は成立しない。人同士の信頼こそが営業の真髄だ。その信頼を一層高めるためにAIをどう活用すべきか。「営業×AI」の勘所はそこにあると考える。
○著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
|
|
|
|
|
|
|
|
Copyright(C) 2026 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。

動画配信サービス DMM TVが躍進(写真:ITmedia ビジネスオンライン)14

オープンAI、軍事利用で逆風(写真:時事通信社)26