【WEEKLY ROUND UP】訴訟大国で泥沼の法廷劇に沈むトヨタ陣営JGR/窮地のTCRは大陸間二極化が進む

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2026年03月12日 10:50  AUTOSPORT web

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トヨタ陣営の盟主たるジョー・ギブス・レーシング(JGR)は、元クルーチーフの離職と機密情報の扱いを巡る泥沼の法廷劇に沈んでいる
 各地で2026年のモータースポーツ・シーンが続々と開幕を迎えるなか、今週から始まったオートスポーツwebの新企画『WEEKLY ROUND UP』では、11日のフォーミュラ編に続きツーリングカーやストックカーを中心としたハコ車(ときにはラリーも?)の話題を、北半球、南半球を問わず毎週水曜日にまとめてお届けしていく。


■裁判の焦点は機密を流出させたかどうか

 まずは北米アメリカ大陸にて、すでに開幕から4戦を終えたNASCARカップシリーズから。チャンピオンシップが誇る“無冠の帝王”デニー・ハムリンも共同オーナーを務める23XI(トゥエンティ・スリー・イレブン)レーシングが、開幕3連勝の大躍進を遂げ、タイラー・レディックがカップ史上初の記録を打ち立てるなか、トヨタ陣営の盟主たるジョー・ギブス・レーシング(JGR)は、元クルーチーフの離職と機密情報の扱いを巡る泥沼の法廷劇に沈んでいる。

 事の発端は、昨季2025年までJGRの競技ディレクターを務めていたハムリンの元クルーチーフであるクリス・ゲイブハートが、退社前に職務権限の適正化とレースに関する明確な決定権を求めたことによる。

 しかし当時のJGRはこれを却下したことで、ゲイブハート本人は職務遂行への不満を表明。昨年11月初旬には両者による会合が開かれ、ギブス代表は11月10日付けでゲイブハートを“ガーデニング休暇”としていた。

 その数日後には、ライバルのスパイア・モータースポーツからゲイブハート宛に求人のオファーが届いたが、この動きに対しJGR側は「個人のGoogleドライブをJGR支給のノートパソコンと同期させ、機密情報と企業秘密を含む写真を盗み出した」として、この2026年シーズン開幕後の2月19日付けでゲイブハートを訴えたのだ。

 ゲイブハート本人はこの申し立てを「強く、そして断固として否定」し、第2戦を前に最高モータースポーツ責任者としてスパイアに移籍することを正式表明したが、同時にJGR側の主張は「昨年11月以降の給与を支払わず、競業避止条項を執行するすべての権利を無効にしたことによる契約違反であり、さらに言えば元従業員があえて退職したことに対する罰」だと反論した。

「私は2025年にチームの競技ディレクターに就任し、すべての競技運営を監督し、リーダーシップを発揮する権限を持つCOO(チーフ・オペレーション・オフィサー)のような役割を約束されていた」と、ノースカロライナ州西部地区連邦地方裁判所に提出した宣誓供述書の書面で通知したゲイブハート。

「しかし日常的な競技運営の決定を下す際でさえ、ジョー・ギブス代表、JGRの上級幹部、そして彼らファミリーの利害とつねに絡み合っていた。これは機能不全に陥った組織構造であり、私には続けることができなかった」

「とくに54号車(タイ・ギブス)は組織の他のマシンと同様に管理され、責任を負うべきだというのが私の見解だ。しかし54号車はギブスによって直接管理されており、組織内の誰もがそれを知っていた」

「その後、2025年序盤に54号車のクルーチーフの役割も引き継ぐよう圧力を掛けられたが、競技ディレクターとしての立場上、それは正しい行動ではなく、チームの長期的な発展を損なうものだと考え、繰り返し断り続けた(最終的に6月下旬には役職を兼務)」

「競技ディレクターという私の役割にもかかわらず、重要な人事決定は私の助言や意見なしに行われた。そして決定的に重要なのは、54号車のドライバーはチームの他のドライバーと同じ会議出席基準を守らなかったことだ」

 鑑識調査の結果、ゲイブハートがJGRの情報を個人所有の携帯電話で撮影し、自身のラップトップに『スパイア』のフォルダを作成していたことは明らかになっており、裁判の焦点はJGR側の機密を流出させたかどうかに掛かっている。

 今後は3月16日にスパイア・モータースポーツに対する仮差し止め請求が審理される予定だが、複数の関係者とともに追加の供述書を提出したハムリンも、自身が所属する11号車でゲイブハートとどのように協力し、機密情報や専有情報に「広範囲にアクセス」していたかを説明した。

「供述書に記載されている、ゲイブハート氏が個人携帯電話とGoogleドライブアカウントに保存していたと思われる資料の内容を確認した。この情報は当社のレース運営における貴重な情報源だ。彼が持ち出した資料には、車両のセットアップ、シミュレーションファイル、レース後の分析データ、タイヤ管理戦略、燃費計算、ピットクルーのパフォーマンスデータなどが含まれており、スピードを最適化しレースに勝利するために特別に設計された、JGRの数十年にわたる研究開発と革新の成果が反映されている」

「これらの資料は、JGRの競争戦略の包括的なロードマップを提供するものであり、JGRの圧倒的な成功をもたらしたJGRのプロセス、技術力、支払い構造を理解するために、JGRの競合他社がまさに求めるであろう、専有かつ機密性の高い情報である」


■苦境に直面するTCRのなかで欧州と南米シリーズは活況

 一方、メキシコのアウトドローモ・エルマノス・ロドリゲスにて、4月24〜26日に開幕戦を予定していた2026年のFIA TCRワールドツアーだが、既報のとおり同イベントが急きょの開催延期に追い込まれるなど、TCR規定ツーリングカーには世界的に暗雲が立ち込めている。

 だが、苦境のワールドツアーや各国ナショナル選手権とは異なり、大陸の2大リージョン選手権であるTCRヨーロッパと同サウスアメリカに関しては、どちらも活況を呈するなどシリーズの2極化も進行している。

 スペイン出身で元WTCC世界ツーリングカー選手権経験者、ぺぺ・オリオラがマネジメントを務めるGOATレーシングは、2025年シーズンまでホンダ陣営としてTCRワールドツアーでFL5型ホンダ・シビック・タイプR TCRを走らせてきたが、2026年は「レース活動をフェラーリチャレンジと一部のGTカップレースに集中させる」と発表していたことを受け、今季TCRワールドツアー参戦への可能性が不安視されている。

「先月にも、GOATは今後の取り組みと戦略的方向性を発表したが、これは2026年のTCRワールドツアーへの参戦継続の可能性を排除するものではない。現在、検討中だ」と明かしたオリオラ。

「フェラーリのプログラムは、ジェントルマンドライバーや楽しみを重視したいドライバーに重点を置いているが、FIAの世界選手権は文字どおり世界選手権であるため、プロドライバー向けだ。我々にとってこれらはまったく異なるプロジェクトであり、チームと組織として、双方を完璧にカバーすることができる」

 ただしオリオラは、2026年の参戦がマシンとドライバーの体制変更を意味するかどうかについては明言を避けた。

「詳細はお伝えできないが、ホンダとの関係はつねに良好だ。でも現時点では何も最終決定はしていないよ」

 その一方で、TCRヨーロッパのプロモーターは新シーズンに6カ国から全13チームがエントリーすることを発表し、エントリー台数は26台に。3月22〜23日の開幕戦イタリア・ムジェロでは追加枠を含む28台がグリッドを埋める。

 そのうち注目株として、2025年シーズンもクプラ・レオンVZ TCRを走らせたモンラウ・モータースポーツは、今季より3台体制に拡充してTCR UK王者のアダム・シェパードを招聘。ヨーロッパ昇格の場を提供するとともに、その僚友にはSTCCスカンジナビアン・ツーリングカー選手権時代から家族経営のMA:GPで参戦し、ここヨーロッパでも初代リンク&コー03 TCRをドライブしてきたヴィクトル・アンダーソンと、ホンダ陣営のエース格だったマルコ・ブティを迎え入れる強力な布陣を敷いた。

 そのホンダ陣営ALMモータースポーツは、昨年ホッケンハイムで優勝を果たしたアイルランド出身のマックス・ハートを起用し、2026年はJASモータースポーツのサポートドライバーとして参戦することも決定している。

「JASモータースポーツと緊密に連携できることは、僕にとって非常に有益なことだ」と、ここまでクプラやヒョンデを経験し、これが自身初のホンダ車となる24歳のハート。

「ドライバーとしての成長に役立て、彼らのテストやカスタマープログラムにも貢献するために、できる限りのことを学びたいと思っている。そして非常にプロフェッショナルなALMモータースポーツとともにレースをすることで、TCRヨーロッパのタイトル獲得に向け最高の位置につけることができるはず。シーズンが待ち切れないね!」

 そして先週末の3月6〜8日に、ブラジルのクラベロに位置するサーキット・ドス・クリスタイスにて全8チーム24台のマシンが参戦したTCRサウスアメリカ開幕戦は、2026年も強豪チームと実力派のハコ車使いが集結。昨季まで参戦したトヨタ・カローラGRS TCRこそ姿を消したものの、ディフェンディングチャンピオンのリオネル・ペーニャとネルソン・ピケJr.が、新生『ホンダ・レーシング』として姿を見せた。

 また新参のヒョンデ・モーター・セントラル&サウスアメリカ(ヒョンデMSA)は、こちらも既報のとおり世界戦経験者ネストール・ジロラミを起用し、2024年チャンピオンのペドロ・カルドゥソは、レースウイーク直前でGレーシング・モータースポーツに移籍加入。旧型ながら驚くほど競争力のあったプジョー308 TCRから、新たにクプラ・レオンVZ TCRに乗り換えた。

 その予選では王者ペーニャが完璧なラップを刻み、同郷ジロラミと元王者ラファエル・レイス(W2プロGP/クプラ・レオンVZ TCR)を上回るポールポジションを獲得。規定によってもたらされた強力な均衡を浮き彫りにし、3つの異なるブランド(ホンダ/ヒョンデ/クプラ)がトップ3を占める。

 迎えたレース1はチャンピオンが盤石のレース運びを見せ、背後のジロラミとファン-アンヘル・ロッソ(パラディーニ・レーシング/リンク&コー03 TCR)を従え先勝。アルゼンチン・トリオの表彰台を完成させると、続くレース2では今季よりジロラミの僚友としてシリーズデビューを果たしたカミロ・トラッパ(ヒョンデMSA/ヒョンデ・エラントラN TCR)が、レースを通して素晴らしいペースを披露。ピケJr.やロッソを抑え込み、リスタートから重要な瞬間まですべてをコントロールして初優勝を決め、デビュー戦を最高のカタチで締め括った。

「荒れるだろうと思っていたし、ツイスティなセクションでタイヤをケアし、最後まで余裕を持って走れるように集中した。最後の5周は全力を尽くし、ピケと競い合い、マシンのポテンシャルを測ることができたね!」

[オートスポーツweb 2026年03月11日]

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