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日本観光を「稼げる観光にすること」この意識はとても大事です。なぜなら、今までの日本はあまりに「観光で稼ぐ」ということへの意識が希薄だったからです。「自然観賞はタダ」「寺社仏閣の拝観料は数百円」「世界一安いと揶揄(やゆ)されるスキーリフト券」など枚挙に暇はないのですが、なぜそうなってしまったのでしょうか?
これもまた、高度経済成長期からバブル崩壊までの旅行業界を支配してきた「団体旅行の遺産」と言わざるを得ません。要は、薄利多売がビジネス上の最適解だったわけです。
価格と客数はトレードオフなところがあるので、大量の客数が取れるのであれば、薄利でも十分に成り立つ時代でした。ところが、バブル崩壊により客数は激減。
本来であれば、この時に単価施策に向かうべきだったのですが、デフレになってしまったことで、単価を上げることもできず「薄利多売」どころか「薄利小売」になってしまったのです。これでは、経営が持つはずもなく、大小さまざまな観光事業が消えていってしまいました。
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そして、近年ようやくインバウンドの大量来訪や輸入品目の急激な物価上昇に伴い「安すぎる日本」だと喧伝(けんでん)され、値上げをするべきだという風潮になってきました。
これはとても良い流れだと思います。先に挙げたように「薄利多売」はもはや幻想で、「薄利小売」では経営が持たないので、今後は「厚利少売」が原則的には正しい戦略になるからです。
基本的には日本人の人口は減少していくので、改めて考えても「厚利少売」を意識していくことがとても大切です。したがって、観光ビジネス的にやるべきことは「値上げ」です。シンプルなのです。
観光ビジネスをしていて、本当に痛感するのは、皆さん本当に「値上げが嫌いなんだなあ」という感想です。無理もないのですが、30年もデフレが続いてしまったので、本当に値上げをするという行為をしたことがなく、臆病になってしまっているのです。
「こんなに費用をいただいたら申し訳ない」とか「(別の要因で客数が減っても)価格のせいだ。値段を下げよう」という思考にすぐに陥ってしまうのです。
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それを強制的に修正したのが、近年のコストプッシュ型のインフレだったのです。さすがにコストが上がり過ぎて、今までの値段では持たない。値上げするしかない。
そうやって、崖から飛び降りんばかりの勢いで値上げした結果、何が起きたか? 客数がほぼ変わらなかったのです。今までのビビりは何だったの? というくらいに。
ですから、冗談交じりに値上げ戦略で一番大事な点で私が挙げるのは「経営者の覚悟」とお伝えしています。結局、そこがないとすぐに値下げに逃げてしまうのです。
そして、各地で頼もしい事例が多数出ています。もっともエポックメイキングだったのが富士山の入山料が4000円になったという事例だと思います。
2025年の登山シーズンで富士山の入山料が4000円になるということで話題になりました。富士山クラスの山で入山料が4000円というのは世界的に見ても妥当かやや安いくらいなのですが、長らく「自然はタダ」と思っている日本人にとっては「高いな」という印象が先行したのではないでしょうか。
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実際、議論も「高い!」「まだこれでも安い!」「富士山を訪れる人が減る!」「いや、今でも多いくらいなので少しくらい制限した方がいい」など、さまざまな意見が飛び交う中でスタートし、シーズンが終わり結果が出ました。
(1)遭難者が大幅に減少!
(2)死者数はなんとゼロに!
(3)登山客も大きく減ることがなく!
(4)入山料の4億円は今後の安全対策や環境保全の原資に入山料を充てる方針!
実に良いことづくめだったのです。
このことはさまざまな教訓を与えてくれます。もともと入山料を設定するようになった課題として、軽装での登山や弾丸登山と呼ばれる夜通し登る無謀な登山客の防止を目的だったのですが、遭難者の大幅減少や死者数のゼロということを見ると、いかにこれまでその層が引き起こしていたかということが明らかになったのです。
「タダ」というのは一見、良いことのように見えるのですが、タダというのはモノやコトを雑に扱わせることになるので、実は全く良いことではないのです。
そして、客数に影響がなかったということは、富士山を訪れる人が、そもそも納得していた金額という証であり、かつその収益をさらに富士山の投資に回せるという好循環を生み出しました。
このことは、「観光客の質の水準を保つためには、適正な価格を設定するのが非常に大事である」という、とても大事な教訓を与えてくれました。
したがって、この富士山の出してくれた素晴らしい結果を基に、日本のあらゆる観光地の「入場料」「入園料」「入山料」「拝観料」を価格を見直す時が来た! と思うのです。
観光立国を目指すというのであれば、日本のあらゆる観光地で、はびこる「観光地の安すぎる問題」を是正していかねばならないのです。
(内藤英賢、合同会社Local Story代表)
※この記事は、書籍『観光ビジネス』(内藤英賢/クロスメディア・パブリッシング)に、編集を加えて転載したものです。なお、文中の内容・肩書などは全て出版当時のものです。
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富士山、入山料4000円の結果(写真:ITmedia ビジネスオンライン)45

富士山、入山料4000円の結果(写真:ITmedia ビジネスオンライン)45