経産省が描く「AI・半導体・ロボット」三位一体の産業戦略 「2040年に売上40兆円」の勝ち筋は?

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2026年03月28日 20:00  ITmedia ビジネスオンライン

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経済産業省商務情報政策局、情報産業課の齋藤尚史課長補佐とAI産業戦略室の秋元裕太総括補佐

●特集「AI革命、日本企業の勝ち筋」


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生成AIの活用が広がる一方、その裏側では半導体素材、空調・冷却、電力、通信インフラといった領域で、日本企業が着実に存在感を高めている。生成AIサービスを提供する企業だけが主役ではない。昨今、AIインフラを担う企業群にも、注目が集まっている。


生成AI関連市場が盛り上がりを見せる中、どうやって儲かる分野を見極めていくか──。各分野のキープレイヤーへの取材から、自社の戦略や投資判断にも生かせる「勝ち筋」を探る。


 国内で生産する半導体の売上高を、2040年に40兆円まで引き上げる――。高市政権の野心的な目標に向け、日本の産業戦略が大きな転換点を迎えている。


 3月10日の「日本成長戦略会議」では、官民投資を優先支援する61の重点技術を提示。2040年に約60兆円まで拡大すると見込まれるAIロボット市場を見据え「AI・半導体」「AIロボット」「次世代センサー」の3分野をイノベーションの柱に据えた。


 半導体産業の起爆剤となるのが生成AIの普及だ。ただ、この生成AIビジネスの「質の変化」を見落としてはならない。AIビジネスの主戦場は、いまやソフトウェアの活用段階から、膨大な計算資源と物理インフラをいかに確保するかという「ハードウェアの陣取り合戦」へと移行している。AIを社会実装するには、最先端チップはもちろん、データセンターや電力供給など、関連技術のエコシステムの整備が欠かせないからだ。


 素材や製造装置で世界屈指のシェアを維持する日本企業は、この新たな「AI経済圏」でいかなる勝ち筋を描くべきなのか。


 特集「AI革命、日本企業の勝ち筋」では、AIインフラを担う国内トップ企業や識者にインタビューし、AI経済圏における日本企業の展望を探っていく。1回目は概論として、生成AIも含めた半導体・デジタル産業戦略の政策立案を担う経済産業省商務情報政策局の担当者に、戦略の全体像と民間企業に期待される役割について聞いた。


●AI・半導体ともにグローバルのニーズをいかに掴むか


 世界の半導体市場はこれまで、PCや液晶テレビ、スマートフォンの普及が成長を牽引(けんいん)してきた。しかし、2022年のChatGPT登場を機に、その主役は「AI」へと移る。かつての汎用的な演算処理から、AIの学習・推論を支える高度な計算資源へと、市場のニーズが塗り替えられたのだ。


 経済産業省の「半導体・デジタル産業戦略の今後の方向性」によれば、2025年現在は「AI主導による市場拡大フェーズの序章段階」だという。これまではクラウド上での活用が中心だったものの、今後はあらゆるデバイスにAIが搭載される「エッジAI」やフィジカルAIの普及により、市場はさらなる成長期を迎える。


 この構造変化は、日本企業にとって過去30年の停滞を覆す絶好の機会となる。従来のスマホ向けチップのシェア争いではなく、AIに必要となる「低消費電力」や、センサーと連動する「高度なパッケージング技術」といった日本が強みを持つ高付加価値領域が勝負の主戦場になるからだ。


 いまや勝敗を決めるのは、電力やデータセンターといった物理基盤を含む「AIエコシステム」の構築力だ。この市場のうねりの中で、日本の勝ち筋はどこにあるのか。商務情報政策局情報産業課の齋藤尚史課長補佐はこう話す。


 「AIはソフトウェアサービスですが、半導体をはじめとするハードウェアがなければ成り立たない産業です。データセンターやインフラなど、周辺の技術も一体となって進化することが求められています。日本国内には関連産業を担う企業も多く、技術を高度化することで発展できると考えています」


 日本は現在、半導体製造の素材では世界シェアで約5割を誇るほか、製造装置でも約3割のシェアを占める。AIと半導体の市場が今後成長することは間違いなく、関連産業にも巨大な市場が広がる。


 日本企業にとっては、AIと半導体を包括した「エコシステム」を構築できるかどうかが今後の鍵を握る。その際に必要なのは、国内市場だけでなく、グローバル市場でも拡大を目指すことだと齋藤課長補佐は指摘する。


 「グローバルのマーケットのニーズを取り込まなければ、ビジネスとしては広がりません。その観点では、AIについても半導体についても、国際的に連携して進めていくことが重要です。私たちも政策を立案する上で、GAFAM(Google・Alphabet、Facebook・現Meta、Amazon、Microsoft)などの米国のIT企業や、米国のNVIDIAやAMD(Advanced Micro Devices)、Intel、台湾のTSMC、韓国のSamsungやSK Hynixなどの大手半導体メーカーと会話をしています。周辺産業を担う日本の各企業が、グローバル市場を戦略的に必要だと考えれば、これらの企業と交渉を進めることは可能です」


 経産省ではAIと半導体関連企業への支援体制を構築している。このうち、データセンターの集積と、電力などのインフラ整備を一体的に進めていく政策が「ワット・ビット連携」だ。生成AIの急速な進化により、AIの計算処理やデータ解析に特化したデータセンターが急増している。処理能力が高いAIデータセンターには、大量の電力が必要になるため、迅速かつ確実に電力を供給できる体制を整えることが目的だ。


●日本の“勝ち筋”として期待されるフィジカルAI


 生成AIの開発力強化も、経産省が支援を強化している政策だ。2024年2月には、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)とともにGENIAC(Generative AI Accelerator Challenge)を立ち上げた。


 GENIACは企業が生成AIの持続的な開発力を高め、社会実装を加速することを目的に、さまざまな支援をしている。具体的には、大量のデータで学習させる基盤モデルの開発力向上を目指して、GPU(画像処理半導体)などの計算資源の調達やデータセットの蓄積、ナレッジの共有などをする。GENIACの現状を、情報産業課AI産業戦略室の秋元裕太総括補佐がこう説明する。


 「GENIACが立ち上がって2年が経ちました。これまで製造業や小売業、コンテンツなど、日本が強みを持つ領域でモデル開発を進めてきました。今後、重点的に支援したいのがフィジカルAIの領域です。具体的には視覚、言語、行動を統合してロボットに意思決定させる基盤モデル『VLA』(VisionーLanguageーAction)です。VLAによって視覚、言語、行動を統合することで、ロボットは自然言語の指示で意思決定し、実行します」


 フィジカルAIの対象はヒューマノイドや四足走行ロボット、自動運転、工場などの自主制御型ロボットなど多岐にわたる。


 「ヒューマノイドは米中が先行していますが、産業現場での実装は道半ばの状態です。日本の強みである製造業の現場データを学習させ、モデル開発を進めることができれば、物理空間の領域で日本の勝ち筋が見えてきます。現場データをモデル開発に使うための環境整備を支援していきます」


 フィジカルAIについては、業界を挙げた体制作りも進んでいる。2025年3月にはトヨタ自動車、NEC、富士通、KDDI、GMOインターネットグループ、SB Intuitionsなどが正会員となって、一般社団法人AIロボット協会(AIRoA)が発足した。


 AIRoAには、大企業とスタートアップが産業の垣根を越えて参加。オープンかつ大規模なデータ収集と統合、基盤モデルの開発とオープンソース化、高度な汎用ロボットの実現に向けて、スケール可能なロボットデータエコシステムの構築を目指している。


 経産省は開発費としてAIRoAに20億円を支援している。さらに、NEDOがVLAの開発に必要なデータ基盤の整備をAIRoAに委託するなど、2025年度から2029年度までに約205億円を投じる計画だ。


 また、AIに関しては大企業だけでなく、中小企業やスタートアップに対しても支援策を講じている。従来のIT導入補助金は、2026年度からデジタル化・AI導入補助金へと名称と制度を変更して継続するという。GENIACでは、NEDOの懸賞金活用型プログラム「GENIACーPRIZE」を実施しており、3月24日に最終審査と表彰式が行われる予定だ。GENIACーPRIZEの特徴を、秋元総括補佐が説明する。


 「自社の課題を抱える事業会社と、その課題に対するソリューションを提供できるAIの開発者がタッグを組んで、課題解決を提案するプログラムです。いろいろな地域の皆さんから応募していただきました。また、GENIACが実施する公募でも、多くの中小企業やスタートアップが採択されています。AIは技術の変化が激しいので、機動力のある中小企業やスタートアップもしっかり支援していきます」


●課題はソフトとハードをつなぐ人材の育成


 経産省では、最先端半導体の量産を目指すRapidus(ラピダス、東京都千代田区)に巨額の支援を行っている。1000億円を出資し筆頭株主となったことが2月27日に発表されたほか、政府支援は2027年度までに累計2.9兆円に及ぶ見通しだ。ラピダスや生成AI開発への支援が進む中で、齋藤課長補佐は今後の課題に人材育成を挙げる。


 「ソフトとハードをつなぐ人材の育成に、課題があると思っています。ソフトとハードは一体的であるからこそ、システムサービスとして強みを発揮できます。日本の家電業界が世界をリードしていた時代には、自社でソフトとハードを作っていました。それが、ある時点から分業が始まり、今では分離しています。それに対してGAFAMは自社のAIサービスのために半導体も製造しています。結局のところ、ハードとソフトは一体です。日本も元に戻していく必要があると考えています」


 経産省は今後、国内における半導体の設計拠点の整備を支援する方針だ。齋藤課長補佐は「ソフトウェア企業などの人たちが拠点に来て半導体設計に携わってもらうなど、ソフトとハードをつなぐ人材育成の仕掛けを作りたい」と構想を話す。


 政府は、2040年までに国内で生産される半導体の売上高を40兆円まで増やし、AIロボットも20兆円の市場を獲得する目標を掲げる。半導体やAI開発、人材育成において、いかなる戦略を描いていくのかが今まで以上に重要になりそうだ。


 以上が経産省へのインタビュー内容だ。この特集では、次回以降、AI革命を支える日本企業のキーパーソンにインタビューしていく。


 AI革命の成否を分けるのは、もはやソフトウェア単体ではない。膨大な計算を担う半導体の進化を材料面で支えるレゾナック・ホールディングス、データセンターの熱を食い止める冷却技術を擁するダイキン、先端チップを国内の現場へ届けるマクニカ、そして超高速通信インフラを支えるフジクラ──。


 日本企業がいかにしてAI革命を支え「失われた30年」を覆すシナリオを描いていけるのか。各分野のトップ企業への取材から、AI時代における日本企業の勝ち筋を考えていく。


(田中圭太郎、アイティメディア今野大一)



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