写真 予想外すぎるホワイトデーのお返し。届いたのはスイーツではなく、義父渾身の……。
今回は、そんな経験をした女性のエピソードをご紹介しましょう。
◆義父に初めてチョコレートを渡した
飯塚明紀さん(仮名・34歳)は、バレンタインデーの少し後たまたま義父に会う用事があり、せっかくだからとチョコレートを手渡しました。
「結婚して5年経ちますが、初めてチョコをプレゼントしました。毎年お米を送ってくれるのでそのお礼の意味もこめてという感じで」
無口でぶっきらぼう。けれど、毎年欠かさず新米を送ってくれる律儀な人。それが明紀さんにとっての義父でした。甘いものに興味があるのかどうかも分からないけれど「まあ、もらっておく」とでも言いたげな顔で受け取ってくれたそう。
そして翌月のホワイトデーに義父からクール宅急便が届きます。スイーツでも入っているのかと開けてみると……。
◆お返しはまさかの「自作の蕎麦」
「中身は冷凍されたお蕎麦でした。どうやら義父は最近蕎麦打ちにハマっているらしく、自作の蕎麦をホワイトデーのプレゼントに選んだようでした」
もはや趣味の域を超え、すでに修行のような熱量らしく、道具も一式そろえ、休日は粉まみれになって黙々と打ち続けているんだとか。几帳面で、一度火がつくと止まらない。そんな性格がよりによって蕎麦打ちに向いてしまったのでしょう。
予想外すぎるお返しに驚いた明紀さん。しかし、食べてみると出来栄えはなかなかワイルドだったそう。
「茹でてみたら、妙にボソボソしている不揃いの麺で、お世辞にも美味しいとは言えないものでした」
太さはバラバラで長さもまちまち。蕎麦の香りよりも粉っぽさが勝つ仕上がりでした。
夫も4歳の息子の潤くん(仮名)も一口でギブアップ。外食の時はすすんで「お蕎麦屋さんがいい」と言うほど蕎麦好きの潤くんですら、箸が止まってしまったそう。
「仕方がないので、私がひとりでランチの時にコツコツと食べて消費していったんですよね」
ここで終われば“ちょっと困った義父”の話ですが、問題はここからでした。
◆その後何度も送られてくるように
「そんな蕎麦ですが、お礼を言わないわけにはいかないので、『美味しかったです。ありがとうございました』と伝えたら……。次から次へと『新作を作って配合を変えてみたから試してみて』と変わり映えしないボソボソのお蕎麦が何度も大量に送られてきて。もう発狂しそうになりました」
どうやら義父の中で、明紀さんの一言は“高評価”としてインプットされてしまった様子。研究魂に火がつき、「もっと良くなるはずだ」と改良版、試作版、配合違いバージョンが次々と届き、冷凍庫はみるみるうちに手打ち蕎麦で埋まっていきました。
「夫が『俺からもう送らないでって言おうか?』と言ってくれたのですが、そんなことを言ったらきっともうお米を送ってくれなくなるし、関係も悪くなると思って、保留、保留にしていたんですよね」
◆息子のひと言をきっかけに状況が一変
空気を読まない善意の暴走……そんな雰囲気が漂い始めたある日。
「また義父からのお蕎麦が送られてきて、私がため息をついていると……。潤がそのお蕎麦をのぞき込み『これ食べてみたい』と言い出したんです。試しに食べさせてみたら、『美味しい!』ともりもり食べ出して。驚いて私も食べてみたら、すっごく美味しかったんですよね(笑)」
茹で上がった麺は、これまでとは明らかに違っていました。均一な細さ、つややかな表面にしっかりとしたコシ。あのボソボソ感は消え、きちんと蕎麦になっていたそう。
なんとその一品は、これまでとは別物レベルの出来栄えで、明紀さんが“冷凍庫直行”させている間に、義父は着実に腕を上げていたのでした。
迷惑だと思っていた贈り物が、いつの間にか“楽しみ”に変化。次はどんな出来だろうと少しワクワクする自分に気づいたといいます。
「それ以来、心から義父にお礼を言えるようになり、わだかまりがなくなったからか、素直に『でもお蕎麦ばかりそんなに食べられないので、お米も食べたいな』と言えるようになったんですよ」
すると義父は少し照れたように、「じゃあ今度は新米も送る」と短く返してきたそう。
「改めて義父は、少し押しが強いけれど努力家の真面目な人だなと思いました。そして驚いたのは潤の蕎麦を見る目です。見ただけでよく美味しいお蕎麦だと分かったなと感心してしまいました」と微笑む明紀さんなのでした。
<文・イラスト/鈴木詩子>
【鈴木詩子】
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop