KDDI子会社で2461億円の架空取引、なぜ7年間も見過ごされたのか? 社員2人の巧妙な手口と高橋元社長の「懸念」

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2026年04月02日 00:00  ITmedia Mobile

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ジー・プランの不正取引に関する「特別調査委員会の調査結果に関する説明会」が開催された

 KDDIが3月31日、同社の子会社であるビッグローブの子会社、ジー・プランが行っていた不適切な取引の詳細について発表した。KDDIは2026年1月14日に外部の弁護士・公認会計士で構成される特別調査委員会を設置し、調査を進めてきた。3月31日に会見を開き、特別調査委員会とKDDIが不正取引の経緯と原因、今後の対策について説明した。


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●売り上げの99.7%が架空循環取引 “広告主も成果物もない”広告を発注


 調査の結果、ジー・プランの従業員2人によって、広告代理事業で実際は存在しない架空循環取引を行っていたことが分かった。時期については、遅くとも2018年8月から2025年12月にかけて、ジー・プランのソリューション営業ビジネス部長だったa氏の主導により、部下のソリューションチームチームリーダー兼アドプロダクションチームリーダーだったb氏の協力を得ながら、継続的に架空循環取引を行っていた。


 架空循環取引とは、存在しない商品の取引を複数企業と行い、売り上げを水増しする不正取引。巡り巡って自社にも売り上げが入るが、企業と取引をするごとに手数料(マージン)が発生するため、雪だるま式に支出が増える。また、会計上は売り上げや利益が増えて業績が好調に見えるが、実際は売り上げが立っておらず、本来の業績と大きなギャップが生じてしまう。


 今回の架空循環取引では、ジー・プランまたはビッグローブが、上流に位置する広告代理店と、下流に位置する広告代理店のWeb広告取引を仲介し、成果件数に応じた手数料収入を得ていた。具体的には、アフィリエイト広告の形態だったという。


 アフィリエイト広告は、広告主からの依頼によって発生するが、今回は広告主が存在しないにもかかわらず、あたかも存在するかのように装って、a氏とb氏が上流代理店から架空の広告掲載業務を受注。その後、下流代理店に広告代理事業を発注し、上流代理店→ジー・プラン(→ビッグローブ)→下流代理店→上流代理店という順番で報酬を支払い、架空循環取引を行っていた。


 支払いの流れは必ずしも上記の通りではなく、ビッグローブを起点とする場合もあった。一部の下流代理店とビッグローブは、15日サイトという短期間での支払いを採用し、上流代理店からの入金前に下流代理店に支払う「先出し」を行っていた。これによって下流代理店が架空循環取引に必要な資金を確保できた。例えば上流代理店が4月末締め分を45日サイトで支払う6月15日には、同時に5月末締め分を15日サイトで支払う下流代理店からの入金があり、上流代理店は自社の手数料を確保しつつ、ジー・プランに4月末締め分を支払うことが可能になった。


 架空循環取引は21社の広告代理店と行っており、ジー・プランの広告代理事業の売り上げのうち、約99.7%が架空循環取引で計上されたものだったという。当然ながら、実際に掲載された広告や成果も存在していない。


●発端はa氏の「焦り」 KDDIからの資金調達で規模が拡大


 そもそもなぜ、a氏とb氏は架空循環取引に手を染めたのか。ジー・プランにおける広告代理事業は、a氏が主導して開始したものの、想定した売り上げと利益を上げることができず、数十万円規模の赤字と数千万円単位の売り上げ未達が見込まれた。a氏は事業撤退を余儀なくされるとの「焦り」から、赤字を補填(ほてん)し、売り上げ目標を達成するために、架空循環取引を開始したという。


 a氏はその後、正規取引で利益を出すことで、架空循環取引の売り上げ分を補填することを考えていたが、取り返せず、取引金額だけが増えていった。b氏は2020年4月に入社し、a氏の指示によって架空循環取引に協力していた。


 2022年12月頃には、ビッグローブも広告代理事業に参入し、KDDIからグループファイナンス(資金調達)を活用することで、今回の架空循環取引での原資を提供することが可能になった。これによって取引金額はさらに増加し、21社が架空循環取引の商流に含まれることになった。


●KDDI高橋誠元社長が「あまりにも伸びているので怖い」と懸念


 こうして架空循環取引は規模を大きくして継続されたが、発覚のきっかけになったのは、元KDDI代表取締役社長、高橋誠氏の“気付き”だった。


 2025年2月の経営戦略会議にて、当時KDDI代表取締役社長だった高橋誠氏は、ビッグローブの広告代理事業の業績が大幅に向上したことに対し、コンプライアンス上の懸念を示したという。調査報告書によると、高橋氏はビッグローブの広告代理事業について「あまりにも伸びているので怖い」「通信より大きくなっている。事業として指標で管理していることを見せてほしい。これだけ伸びているといつか何かが起きるかもしれないので注意してほしい」と指摘したという。


 高橋氏の提言を受け、KDDIは2025年度の内部監査で、広告代理事業を監査対象に加えた。その後、2025年10月に、会計監査人から架空循環取引の可能性が指摘され、KDDIは外部専門家を登用して社内調査を開始した。


 KDDIは2025年11月に、ビッグローブに対して広告代理事業における取引金額を抑えるよう指示を出し、ビッグローブはこれに応じた。これにより、ビッグローブから下流代理店への支払いが抑制され、金額が循環されにくくなる。そして、2025年12月中旬に一部の広告代理店からジー・プランへの入金が遅延したことをきっかけに、a氏が架空循環取引の存在を認めたという。


●他の従業員に関与させず、架空循環取引を発覚させない巧妙な工作も


 一連の架空循環取引により、2022年度以前から2025年度まで、2461億円の売り上げ、499億円の総利益が誤って計上されていた。手数料として流出した金額は329億円に及ぶ。架空循環取引は約7年にわたって行われていたわけだが、なぜ、これだけの金額の不正取引が、長年に渡って見過ごされていたのか。


 まず、架空循環取引に関与していたのはジー・プランのa氏とb氏のみで、他の従業員に関与させていなかったことが挙げられる。この2人で事業を独占していたため、他の従業員が広告代理事業の詳細を把握できていなかった。


 架空循環取引が社内で発覚しないよう巧妙な“工作”も行っていたという。例えば、各代理店の取引先が明らかになると、その代理店を介さずに直接取引が可能になり、既存代理店が取引から排除されるリスクが生じる。そのため、「代理店の先にある商流は確認しないのが業界の取引慣行である」と社内で説明し、商流全体を把握されないようにした。また、虚偽の成果レポートを作成する際、成果件数が減少する時期も設けることで、現実味を持たせる工夫もしていたという。


 a氏とb氏による巧妙な隠蔽(いんぺい)工作があったとはいえ、7年もの間、約2400億円もの金額が架空に計上されていたことは驚くべき事態といえる。特別調査委員会は、ジー・プラン、ビッグローブ、KDDI各社の内部統制と子会社管理体制に問題があったと指摘する。ジー・プランは広告代理事業の知見がなく、ビッグローブとKDDIは子会社に対する適切な管理体制やガバナンス機能を構築できていなかったことも原因に挙げる。


●全体の影響額の約85%がここ2年に集中 KDDI松田氏「痛恨の極み」


 3月31日の説明会では、KDDI代表取締役 CEOの松田浩路氏とKDDI取締役執行役員専務CFOの最勝寺早苗氏が登壇し、グループ会社の不正取引について改めて謝罪した。


 「発覚を免れるための対応を見抜くに至らず、客観的な証拠を得るまでに時間を要したために、全体の影響額の約85%がここ2年に集中してしまった。痛恨の極みだと感じている」(松田氏)


 その上で、松田氏は再発防止策について説明した。


 ジー・プランでは広告代理事業がa氏とb氏に属人化してしまったため、不正取引の隠蔽や虚偽の成果レポートを見抜けなかった。取引先に対しては、巨額与信に見合った審査が十分に行われていなかった。今後は業務の属人化を解消し、取引先の与信管理基準を見直す。


 ビッグローブは、新規事業に対するリスク感度が不足しており、営業キャッシュフロー悪化に対する検証が楽観的だった。今後は新規事業や事業拡大の際、リスク分析と対策の実効性を向上させる。与信管理や商流全体の把握ができておらず、子会社のジー・プランに対する内部監査が不十分だったのは言うまでもない。今後は取引先や与信管理基準を見直し、モニタリング体制を再構築していく。


 KDDIの反省点について松田氏は「ビッグローブの事業計画を精査する上で、広告代理事業でのシェアや取引、キャッシュフローの検証が不十分だったと認めざるを得ない」と述べる。KDDIは、ビッグローブやジー・プランの広告代理事業に関わる費用を貸し付けていたが、貸付金額が限度額に達しない場合、その内容が妥当かどうかを十分に検証できていなかった。グループファイナンスの新規プロセスについては改善を実施しており、財務状況のモニタリングの強化も進めていくとする。


 加えて、ガバナンスの有効性を高める企業風土の醸成や、グループ経営戦略の検討も進めていく。形式的ではなく実効性の高い取り組みを目指し、親会社と子会社の枠を超えて「KDDIフィロソフィー」を共通言語とした信頼関係作りを促進する。「子会社にとっても、親元から強い関心を寄せられているかは大きなモチベーションになり、見られていることが強い不正の抑止力が働く」と松田氏。グループ会社とのコミュニケーションを増やすことで、不正防止にも取り組んでいく。


●KDDIの通信サービスや次期中期経営計画への影響は「一切ない」


 KDDIは本事案を受け、2022年度から2025年度までの業績を遡及(そきゅう)修正する。影響額は売り上げが2461億円、営業利益が1508億円に及ぶ。本事案によるKDDIの通信サービスや次期中期経営計画への影響は「一切ない」と松田氏は述べる。「厳しい経験を糧とし、自分自身が汗をかいて先頭に立って、より強靱(きょうじん)で一体感のある企業グループへと進化していく」(松田氏)


 経営責任については、ビッグローブとジー・プランの代表取締役社長などの幹部が退任し、関与したジー・プランのa氏とb氏は懲戒解雇処分としている。KDDIは役員報酬を10〜30%、1〜3カ月にわたり自主返納する。


 ジー・プランは広告代理事業から撤退し、「今後も再開する予定はない」(松田氏)とのこと。なお、ジー・プランはポイント事業として「Gポイント」を提供しているが、ポイント事業は広告代理事業とは別部門のため、今後も継続する。


 KDDI側は、架空循環取引へ関与した関係者に対し、民事上の損害賠償請求訴訟を提起し、外部流出した金額の回収に努める。刑事告訴も検討しており、警察とも相談しているという。


 ジー・プラン、ビッグローブ、KDDIにおいて、a氏とb氏以外で架空循環取引を認識していた者はおらず、3社いずれも、組織的な事案ではないことが確認されている。


●架空循環取引の根本要因は「知見」と「検証」の不足


 質疑応答では、なぜ億単位の不正取引が、長年に渡って見過ごされていたのかについての質問が相次いだ。特別調査委員会 委員長 弁護士の名取俊也氏は「グループ全体として、事業に対する知見が不十分だった」ことを根本要因に挙げる。「a氏らによって巧妙に組み立てられた架空循環取引に対して、それぞれの(グループ内)企業で疑問を持った人もいたが、知見の不足も相まって納得してしまったことが重なったと理解している」


 広告形態がアフィリエイトだったことも、発見のしづらさにつながってしまったようだ。「役員の方々が、実際にどのように広告が配信されているかの知見が徹底的に不足していた」と名取氏。特別調査委員会 委員 弁護士の辺誠祐氏は「ジー・プランは広告主や掲載媒体と直接やりとりしているわけではなく、仲介するところで売り上げを上げていた。成果物の直接の確認が難しく、a氏とb氏でそこの説明が巧妙になされていた」と補足する。


 ビッグローブの流動資産が増えていることに対して違和感はなかったのか、という問いに対し、最勝寺氏は「確認は可能だったが、実際、われわれが検証していたのはビッグローブ全体で、広告事業を特化して見られていなかった。ビッグローブの広告事業がなぜ伸びているのか、これまでと少し違うところに危機を察知して、より突っ込んで指摘できなかったことには反省している」と述べる。


●21社の代理店は不正と認識していたのか


 架空循環取引には21社の代理店が関与していたが、これらの代理店は架空循環取引だと認識していたのか。この点について、「ヒアリング調査では、いずれの取引先も、不正取引だと認識していなかったとの説明だった」(名取氏)という。ただし、メールやSNS上のやりとりなど、全ての証拠を入手できたわけではなく、「提出を拒まれたこともあった」(辺氏)という。「代理店の認識を確定的に評価するのは適切ではないと考え、調査報告書には明記していない」(辺氏)が、不正と認識していた代理店がいた可能性は否定できない。


 「民事裁判、刑事告訴の中で、その点の事実がより明らかになってくると調査委員会は考えている」(辺氏)


 「21社の取引先のうち、架空循環取引の認識があったという回答はなく、商流に入ることで手数料が入ると認識されている。しかし、一部の代理店は、架空循環取引の認識がある可能性がある。ここの事実認定は司法の場でと考えている」(松田氏)


●上流代理店から直近2年間でa氏に約3000万円の交付も


 本事案はa氏の焦りが発端だとされているが、広告代理事業のノルマに対して、上司や親会社が過度なプレッシャーを与えていた事実はなかったのか。「非合理な目標を設定している、ハラスメント的な追及がなされるというときは会社の問題として捉えられるべきだが、今回はそういった事情は確認されていない」(辺氏)


 またa氏は、「架空循環取引の関係者や自身の私的な利益のために本件架空循環取引を行ったものではないと述べている」(報告書)という。


 ただし、ジー・プランの一部の上流代理店の代表取締役社長からa氏に対して、2023年9月から2025年12月までに約3000万円が飲食代などとして交付されていたことも判明した。架空循環取引によって、a氏は結果的に莫大(ばくだい)な利益を得ることになり、こうした状況に満足してやめることができなかった、とも調査委員会は評価している。


 特定の個人に対して、巨額の飲食代が交付されるというのは、通常のビジネスマナーや接待の範囲を明らかに超えている。これは単なる親睦ではなく、不正取引を継続させるための便益供与とも解釈できる。


 辺氏が述べていた、証拠の提出を拒んだ代理店についても、知られたくない内情、つまり不正の認識があったこと示唆している。当該の上流代理店が架空循環取引を認識していた可能性は極めて高い。手数料収入を優先し、商流の全体を把握しようとしない慣行が、架空循環取引を支える結果となった。


 このように、代理店の内部告発や疑念の声が表面化しなかったことも、長期わたる不正継続の要因ではないだろうか。今後の民事裁判や刑事告訴を通じて、これら代理店の法的責任がどこまで追及されるかが焦点となる。



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