128GBの大容量メモリが映像制作とAI環境を変える――「M5 Max MacBook Pro」フルスペック機をプロが実戦投入して分かったこと

0

2026年04月08日 15:10  ITmedia PC USER

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ITmedia PC USER

今回の検証で並んだ3台。左からM4 Max Mac Studio(比較機)、M5 MacBook Air(右上)、M5 Max MacBook Pro(レビュー機/右下)

 Appleから、最新のSoCであるM5 Maxチップ搭載の「MacBook Pro」が発売された。今回、この最新モデルをBTOで変更できる全部入り=フルスペック構成の状態で試す機会を得た。


【その他の画像】


 通常であれば、GeekbenchやCinebenchといったベンチマークツールを使って検証を行うところだが、こうしたベンチマークの数値では他機種との性能比較はできても、実際にどれほどの作業に使えるのかは分かりにくい。一方で、考えられる全てのプロフェッショナルのユースケースについて検証することも現実的ではない。


 そこで、ここではアドビの「Premiere Pro」を使った実映像制作環境での検証として、「ピタゴラスイッチ」(NHK教育)やISSEY MIYAKEのプロモーション映像なども手掛けてきたグラフィックデザイナー/映像デザイナー/視覚表現研究者の石川将也氏(デザインスタジオ「コグ」主宰)に協力を依頼した。


 現在、彼が手掛けているU-NEXTオリジナル(U-NEXT Kids)の絵本読み聞かせ番組「ねむるまえほん」の制作に使われた実データを使って検証してもらった。


 また、M5 Maxの持つ性能を出し切れる使い道として、映像と並んで注目されているのがローカルLLMの活用だ。クラウドAPIを使わず、Mac本体だけで大規模言語モデルを動かすこの分野では、搭載するメモリ容量が性能を左右する。日頃からローカルLLMで遊んでいるトトノイ人の広岡ジョーキ氏に数時間試してもらい、その所感も併せて紹介したい。


今回利用したモデルのスペック


●プロの映像制作現場での検証


制作環境と課題


 「ねむるま えほん」は1シーズンあたり30数本の絵本を番組化している。制作期間は1シーズンおよそ10カ月だ。複数人での同時編集体制を取っていることから、チームプロジェクトの管理に対応Premiere Proを用いている。


 撮影素材は、絵本をめくる様子をとらえた6K/8K映像(シーズン1はパナソニックのミラーレス一眼「LUMIX S1H」と「LUMIX GH6」、シーズン2からは「LUMIX S1RM2」)で、これをフルHD(1920×1080ピクセル)シーケンスに配置し、編集時に寄り引きを調整して絵本ごとに見やすい映像を追求している。最終解像度はフルHDだが、素材が6K/8Kのため、編集には相応のスペックのMacが必要となる。


 コグでは、監督の石川氏がM4 Max搭載Mac Studio(14コアCPU/32コアGPU/36GBメモリ)を、スタッフ1名がM4 Pro搭載MacBook Pro(14コアCPU/20コアGPU/24GBメモリ)を使用している。シーズン2の制作が動き出した2025年4月にこの環境を整え、2026年1月16日の配信を無事に達成した。


 しかし、特に8K(8064×5376ピクセル)素材を扱う際の Premiere Proの動作パフォーマンスについて、少し問題を抱えていた。


検証01:タイムラインパフォーマンス


 まずは編集作業中のPremiere Proのレスポンスや、再生時のパフォーマンスを比較した。特にフル画質での再生の実用性に注目している。


 今回の検証では、絵本「りんごりらっぱんつ(作:Dochi氏/tone tone books)」のシーケンスを使用した。素材は主に6K(6432×4288ピクセル/3:2 6.4K/4:2:0 10bit 24p)の高解像度で撮影したもので、1920×1080ピクセル/24pのシーケンスに配置し、調整レイヤーで色調補正、場合によってVRノイズ除去といったエフェクトを使用している。


 カット編集が中心のシンプルな作業だが、高解像度素材を扱うため、36GBメモリのM4 Max搭載Mac Studioで作業中にフルHD品質で再生すると、コマ落ちが生じていた点が最大の課題だった。


 結果は圧倒的だった。Mac Studioとは異なり、M5 MaxのMacBook Proはフル画質のまま一度もコマ落ちせずに再生できた。


M5 Max vs M4 Max:「アクティビティモニタ」で比較する


 両モデルのアクティビティモニタを比較すると、最大の違いはメモリプレッシャーにある。


 M4 MaxのMac Studioでは36GBのメモリのうち常に20〜30GBが使用され、時折メモリプレッシャーグラフが黄色に変わるたびにPremiereでコマ落ちが発生していた。


 スワップファイルも生成され、プレッシャーが赤になると音声に乱れが生じることもあった。CPUもGPUもグラフ上では余裕があるように見えることから、ボトルネックはメモリ容量にあることが明確だ。


 なお、全く使い物にならないというわけではなく、約15分の映像のうち何度かコマ落ちが発生する程度で、それ以外の時間はスムーズに再生できていた。


 一方のM5 Maxモデルでは、メモリプレッシャーは常に緑色を維持していた。ただし使用メモリ自体は常時45GBを超えており、撮影時点では75GBに達していた。別の絵本のシーケンスでは8K素材(8064×5376ピクセル/8.1K 4:2:0 10bit 24p)やエフェクトの組み合わせによっては使用メモリが100GBに迫ることもあったが、それでもスワップは生じず、コマ落ちも発生しなかった。GPUは50%程度でCPUも余裕がある。


 つまり、タイムラインのフル画質再生にとって、決定的な要因はメモリ容量だということが分かった。M4 Maxがいくら高性能でも、Premiereにとってメモリが足りなければそれまで――というのが今回得られた核心的な知見だ(それにしても、Premiereはメモリを使い過ぎではないだろうか……)。


 しかし、なぜそこまでフル画質再生にこだわるのか。この番組は絵本を高画質で撮影する関係上、絵本に付いた小さなゴミや汚れを見落とさないよう極力注意を払っており、撮影時に見逃してしまったものは編集時にレタッチで消している。


 そのため、Premiereでフル画質のままコマ落ちなく再生できることは、単なる快適さではなく、品質管理上の必要条件でもあった。これがかなわない点こそ、石川氏がMac Studioに抱いていた不満の根源だった。


 石川氏は、Mac Studioを購入した際に予算の都合でメモリ36GBのベースモデルを選択したことを悔やんでいた。「メモリが大事」という一見当たり前のような結論だが、この性能変化はベンチマークには現れにくく、具体的なユースケースに当てはめた時に露見するものだと改めて気付かされた。


参考:M5 MacBook Airでも試してみた


 ちなみに、再生画質を半分に落とせば、M4 Max搭載Mac StudioやM4 ProのMacBook Proはもちろん、M2/M4のMacBook Airでも編集作業は十分に可能だ。実際に同番組のスタッフも使用しているそうだ。


 今回、もう1台の比較機としてM5のMacBook Air(32GBメモリ)でも同じタイムラインを試してみた。


 なお、再生画質を半分に落とした場合であれば全くストレスを感じない。単に編集作業をこなすだけであれば、M5 MacBook Airでも十分に実用的と言えそうだ。改めて、現在のMacのラインアップが予算や用途に応じて柔軟な選択肢を提供していることを実感する。


検証02:動画の書き出し速度


 続いて、番組の書き出し速度を検証した。書き出しフォーマットはU-NEXTへの納品データとして使用しているProRes 422 HQだ。


 「ねむるま えほん」では30本(字幕版も別途納品するため合計60本)の納品に加え、U-NEXTや出版社/著者への試写もProResで書き出した映像で行い、修正のたびに書き出し直す。書き出し速度は制作効率に直結する作業だ。最も処理が重い8K素材の番組(長さは20分36秒)でテストした。


 結果は、M5 MaxのMacBook Proが8分14秒、M4 MaxのMac Studioが8分43秒となった。差は約29秒で、タイムラインパフォーマンスの差と比べると大差は付かなかったというのが正直なところだ。


 なお、M5 Max MacBook Proの初回計測は9分19秒と、むしろM4 Maxより遅い結果が出ていた。2回目の計測で逆転したことから、初回はサーマル管理やバックグラウンド処理の影響があった可能性が高い。2回目以降の安定した数値での比較を参考にしてほしい。


 スクリーンショットを比較すると、どちらもメモリプレッシャーは緑をキープしており、書き出しはメモリがボトルネックにはなっていない。CPUコア構成の違い(M4 MaxとM5 Maxではコア設計が変更されている)から、アクティビティモニタ上での直接比較は難しいが、GPUはどちらも100%稼働しており、書き出し速度は純粋にCPU/GPUのコア数と世代差が反映されているものと考えられる。


●ローカルLLM/AI画像生成での検証


 M5 Maxでメモリ128GBというモンスター級の性能を最もダイナミックに生かせる分野として、現在最も注目されているのがローカルLLMだ。クラウドAPIを使わず、Mac本体だけで実用的な大規模言語モデルを動かすことができる。


 今回、日頃からローカルLLMで遊んでいるトトノイ人の広岡ジョーキ氏に試してもらい、その所感を聞いた。


128GBが変えるローカルLLMの世界


 ローカルLLMの実力は、搭載メモリ量に直結する。大規模言語モデルは、モデル全体がメモリに収まることが高速動作の条件となる。一般的なWindows PCのGPUメモリが8〜24GB程度であることを考えると、MacBook Proの128GBという統合メモリは別次元の環境だ。


 広岡氏がまず動かしたのは、β版として公開されたばかりの「Unsloth Studio」だ。モデルのメモリ使用量を抑えつつ、高速で動かせるローカルLLM実行環境となる。Alibabaが開発したQwen3.5シリーズの蒸留版、Qwen3.5-27B-UD-Q4_K_XLをダウンロードして動かしてみた。


 広岡氏が普段使用しているM4 Pro搭載Mac Mini(64GBメモリ)に比べ、体感で2倍近くの速度が出たという。


ローカル画像生成も驚異のスピード


 ローカルLLMだけでなく、AIによる画像生成においてもM5 Max搭載MacBook Proは圧倒的だ。広岡氏は、ComfyUI(画像生成モデルのワークフローなどを組めるノードベースのアプリ)でBlack Forest LabsのFLUX.2[Klein] 9Bの画像生成ワークフローをテストした。FLUX.2[Klein]は生成と編集の両方を単体で行えるモデルで、比較的軽量ながら高品質な画像生成を行えることで知られる。


 1024×1024ピクセル/20ステップの画像生成で、1回目は約2分28秒で完了した。2回目以降はさらに速くなり、512×512ピクセルでは約24秒で生成できた。


 M4 ProのMac mini(64GBメモリ)の環境では前者が8分43秒、後者が2分39秒と3.5〜6倍という圧倒的性能向上を見ることができた。


 広岡氏は「512ピクセルでここまで速いなら、この解像度でいったん生成してからSeedVR2のような高品質なアップスケーラーで高解像度にするワークフローが現実的になる」と言う。


 SeedVR2はByteDance-Seedチームが開発した画像/映像両対応のアップスケーラーで、ComfyUIの専用ノードで使用できる。


●まとめ


 今回の検証を通じて分かったのは、M5 Maxを搭載したMacBook Pro(128GBメモリ)の真価が「圧倒的なメモリ量」にあるということだ。


 映像制作の観点では、8K素材を使ったフル画質のタイムライン再生において、M4 Max(36GB)では実用が難しかった領域を軽々とこなす。この差を生んでいるのはチップの世代というよりもメモリ容量であり、M4 MaxあるいはM5 Maxでも48GB以上のメモリ構成であれば同様の快適さを得られる可能性がある。


 「メモリが大事」という一見当たり前の結論だが、この変化はベンチマークには現れにくく、具体的なユースケースに当てはめて初めて露見するものだと痛感した。


 ローカルLLMの観点では、128GBメモリは現行最大クラスのLLMを丸ごと展開できるまれな環境となる。もちろん、Windows環境でも128GBのメモリを搭載できるモデル(ワークステーションクラスとなるが)もあるし、NVIDIAのGPUを備えたWindows PCと比べて、画像生成のスピードなどはまだ及ばないが、「静音・コンパクト・バッテリー駆動・どこでも持ち歩ける」というMacBook Proならではの利点は、ローカルAI開発の現場では非常に強力な武器だ。


 一方で、84万円を超える価格のフルスペック構成は誰にでも必要かといえば、そうではない。今回の映像制作の用途であれば、M5 Proでメモリ64GB構成(約52万円)でも十分なパフォーマンスを得られる可能性があり、コストパフォーマンスを重視するならそちらも有力な選択肢だ。


 また、単に編集作業をこなすだけであれば、M5搭載MacBook Air(32GB)でも全く問題ないことも確認できた。現行のMacラインアップが提供する柔軟な選択肢の中で、最高峰のノートPCが持つポテンシャルを実証できたことは非常に有意義であった。


U-NEXTオリジナル番組「ねむるま えほん」について


 今回の検証に協力いただいた石川将也氏は、U-NEXTオリジナル(U-NEXT Kids)の絵本読み聞かせ番組「ねむるま えほん」の企画・監督・デザインを担うクリエイターだ。


 「ねむるま えほん」は2024年より始まった番組で、制作はコグ合同会社が担当する。絵本をデジタルスキャンするのではなく、本を実際にめくっている様子を撮影し、ページをめくる音も活用するなど、上質な読書体験の映像化を試みている。選書や監修は、自身も書店を営む元でんぱ組.incの夢眠ねむさん、朗読は小泉今日子さんやヒコロヒーさんらが担当する。番組末尾の寝かしつけアニメ「ねむるまあにめ」も好評だ。


 2026年にシーズン2(32本)の配信が始まり、現在合計62冊(本)の選りすぐりの絵本を視聴できる。


※協力:石川将也



    ランキングIT・インターネット

    前日のランキングへ

    ニュース設定