限定公開( 5 )

2020年の年末、四角いリュックを背負って自転車にまたがる配達員たちが東京に出現した。
Uber Eatsが火付け役となり、後に出前館、foodpanda、DiDi Food、Wolt、menu、Chompy――色も形もさまざまな宅配リュックが、コロナ禍で需要が急減した飲食店の救世主となっていた。
それから5年あまりがたった。街中で見かけるのは実質的にUber Eats、出前館、そして2025年に日本に参入した新顔「ロケットナウ」の3社まで絞られてきた。
そうした中、国産大手である出前館の株価は風前の灯だ。
|
|
|
|
4月23日、出前館の株価は119円をつけ、時価総額は133億円まで売り込まれた。同社は2020年12月に上場来高値として4000円台、時価総額にして5000億円をつけていた企業だ。
ピークからの下落率は約97%。およそ34分の1まで企業価値は失われた。これは単なる相場調整ではなく「そもそもフードデリバリーは、革新的なビジネスではなく出前にすぎなかったのでは」という市場の冷徹な反応を表している。
●コロナ特需という蜃気楼
出前館の失速は、コロナ禍で膨張したフードデリバリー需要の反動そのものだ。
会社が公表する2026年8月期計画は売上高441億円(前期比11%増)、最終赤字40億円(前年同期は49億7100万円の赤字)。赤字幅は縮小させるものの、達成しても8期連続赤字という見通しで、いまだに黒字化の見通しが立たない。
|
|
|
|
第1四半期の実績はさらに厳しい。2026年8月期第一半期(2025年9〜11月)の売上高は89.89億円で前年同期比18.6%減、営業損失は16.81億円と、トップラインが2割近くも縮小している。
物価高で消費者が外食・中食の支出を絞り、店頭価格より割高になりがちなフードデリバリーを敬遠した結果だ。また、大手フードチェーンが独自で割安な配達やモバイルオーダーサービスの構築に乗り出す動きもある。横だけでなく縦、つまりこれまで顧客だった飲食チェーンとも競合しつつある。
市場が問題視しているのは規模ではなく、いわゆる「ユニットエコノミクス」、顧客当たりの採算性が改善する展望が見えないことだ。
ユニットエコノミクスは顧客1人または1社を獲得・維持するためのコストと、そこから得られる収益のバランスを指す言葉だ。
通常は売り上げを伸ばすか、コストカットすることで赤字を止めることを検討するのだが、出前館の場合は「どちらにせよ黒字にはならない」可能性がある。
|
|
|
|
●椅子取りゲームが決着か
もう一つ押さえておくべきことは、この5年で日本のフードデリバリー市場から競合が急速に消えた事実だ。
コロナ禍のピーク時、日本国内で少なくとも7〜8社がしのぎを削っていたフードデリバリー市場だが、ドイツ発のfoodpandaは日本参入からわずか1年5カ月、2022年1月に撤退。中国発のDiDi Foodも2022年5月でサービスを終了した。
国内発スタートアップのChompyは2023年5月にサービスを終了し、KDDIが2023年4月に子会社化したmenuも広告投下が鈍り、縮小均衡フェーズに入っているとみられている。
直近ではフィンランド発のWoltも2026年3月4日をもって日本市場から撤退している。親会社のDoorDashは日本と同時にカタール、シンガポール、ウズベキスタンの4市場から撤退し、リソースを成長市場に集中すると発表した。
Woltは配達品質・加盟店の質・UXで一部では根強いファンを抱えていたが、Uber Eatsと出前館の2大勢力を前に配送網が広がらず、デリバリー単体での採算が見通せなかった。
興味深いのは、Wolt撤退発表を受けた2026年2月26日、出前館の株価が一時急騰したことだ。同業脱落は加盟店・配達員・ユーザーの受け皿という意味で明確なプラス材料である。
ただし直後から株価は再び軟化しており、Woltの去った穴を埋めた程度では、本業の構造的な赤字を覆せないと市場が見ていることが分かる。
●LINEヤフー経済圏に入るも……
出前館は、筆頭株主のLINEヤフーが約4割の株式を保有し、ソフトバンクグループ傘下に位置する。2024年以降はLINEヤフーと組んだクイックコマース(日用品・生鮮の即配)の全国展開や、LINEヤフー会員向けの配送料無料、一部店舗での店頭同額販売など、打てる手はかなり打っているようにみえる。
だがコスト構造を考えると筋は悪い。配送料無料と店頭同額販売は、消費者から見れば便利だが、事業者側は配送原価を丸呑みする設計になりやすい。
GMV(流通取引総額)やオーダー数は一時持ち直しても、粗利は削られている。こうした状況が今後の成長ストーリーに影を落としている。
一時期、LINEなどの「スーパーアプリ化」といった用語も流行ったが、こちらも生成AIブームの前ではもはや「死語」になりつつある。LINEスーパーアプリ経済圏のハブとして出前館を維持するにしても、上場子会社のまま赤字を垂れ流し続ける構図は、株主への説明がつかないのではないか。
一部のアナリストやメディアからは「LINEヤフーによるTOB(公開買付)で非公開化し、経済圏に完全統合してから再構築するのではないか」というシナリオまでささやかれている。
●「外資の勝ち」で決着したのか
ここまで述べてきたことをまとめると「結局Uberの一人勝ちで終わり」という結論になるが、目線を一歩引くと、留保すべき論点が3つ残る。
そもそも、Uberですら日本単体で高収益を確立できているか、定かではない。米Uberは2024年以降、連結ベースでは営業黒字・フリーキャッシュフロー黒字に転じたが、それは配車事業・広告事業・食品デリバリーを束ねた結果だ。
日本のフードデリバリーセグメント単体の採算は非開示で、楽天との提携による販促はむしろ先行投資の色が濃い。勝ったというより最後まで耐えたという言い方が近いかもしれない。
市場を独占できれば値上げに踏み切れるというのが教科書的な流れだが、飲食店自身が割安な配送サービスを提供しつつある環境を踏まえると、UberEats一強になったとしてそれが本当に市場を独占しているのかについては疑問符が付く。
また、市場そのものが成長鈍化・縮小のフェーズに入っている。外食・中食市場情報サービスを提供するサカーナ・ジャパンによれば、2025年の日本のデリバリー市場規模は8240億円で、前年比2%増と、成長率はとても高いとはいえない水準だ。
消費者にとっては、外食全般が値上がりしているのに、さらに高く買わなければならないフードデリバリーを利用する余裕がなくなりつつあるのだろう。
直近、フードデリバリー各社は「お店と同じ値段で買える」という趣旨のキャンペーンを行なっているが、配送にコストがかかり、それを誰かが負担する以上、持続可能な施策とはいいがたい。
フードデリバリー業界はUberが生き残りつつある。しかし莫大な先行投資を行い、最後まで立ち続けた同社が本当の「勝者」といえるかは、もう少し後になってから明らかになるだろう。
筆者プロフィール:古田拓也 株式会社X Capital 1級FP技能士
FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックスタートアップにて金融商品取引業者の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、広告DX会社を創業。サム・アルトマン氏創立のWorld財団における日本コミュニティスペシャリストを経て株式会社X Capitalへ参画。
|
|
|
|
|
|
|
|
Copyright(C) 2026 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。