広告費ほぼ0円、なのに月10万DL 訪日客がこぞって利用する「Payke」はどんなサービスなのか?

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2026年04月30日 07:50  ITmedia ビジネスオンライン

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中国語(簡体字)で表記された商品情報

 「日本旅行の必須アプリ!」――英語や韓国語、中国語(繁体字・簡体字)など、さまざまな言語で訪日客がそう紹介しているのが「Payke(ペイク)」だ。


【画像】広告費ほぼ0円、なのに月10万DL 訪日客がこぞって利用する「Payke」はどんなサービスなのか?


 商品のバーコードを、アプリ内のカメラで読み取るだけで、設定した言語で商品情報や口コミが表示される仕組みで、英語はもちろん、ベトナム語やタイ語、日本語を含む7言語に対応する。Instagramで「Payke」と検索すると、縦型動画で使い方や魅力を発信する投稿が並び、中には再生回数が400万回を超えるものもある。


 コロナ禍収束後の2024年からは毎月10万件以上の新規ユーザーを獲得し、累計ダウンロード数は550万を突破した。そのうちの96%が外国人だ。ほぼ広告を打たず、自然発生的に利用者が拡大しているというから驚きである。


 訪日外国人は2025年に4268万人、全体の消費額は9.5兆円といずれも過去最高を更新した(参照:日本政府観光局「訪日外客数(2025年12月推計値)」)。円安を背景に、ドラッグストアや量販店などでの買い物需要も一段と高まっている。


 一方で、購買の現場では言語の壁が依然、障壁となっている。日本語表記だけでは商品の魅力が十分に伝わらないケースも多く、潜在需要は取り込み切れていない。


 「世界の消費高をあげる」という理念の下で生み出されたPaykeは、時代の潮流を捉えたアプリの一つといえるだろう。


 同サービスを手がけるPayke(那覇市)の古田奎輔CEOに、バーコードを活用するという着想の原点からビジネスモデル、データの活用戦略までを聞いた。


●強みは商品の「翻訳」ではない 売れ筋ランキング紹介やクーポン配信


 2014年11月に創業し、翌2015年にサービス提供を開始したPayke。サービスの強みは翻訳ではない。商品のパッケージに書かれた日本語を外国語に変換するだけであれば、スマホのカメラをかざし、画面上でリアルタイム翻訳できるアプリで対応できる。


 Paykeの強みは、多岐にわたる商品情報の提供だ。名称や成分、アレルギー物質、特徴といった基本情報に加え、パッケージには載りきらない補足情報まで多言語で整理して表示する。


 対応ジャンルも健康食品や美容品、家電など幅広い。ユーザーのスキャン履歴を基に、訪日客が手に取りやすい商品を分析し、対応商品を拡充してきた。現在では実際にスキャンされる商品の約9割をカバーしている。


 さらに、アプリ内では口コミやコラムを通じて商品や店舗の詳細情報を発信する。具体的には、リアルタイムの売れ筋ランキングや、提携するディスカウントショップやドラッグストア、家電量販店の割引クーポンを提供するなど、訪日客の利便性向上と消費を後押しする機能を幅広く備えている。


 古田CEOは「事業を始めた当初は何か優位性があるわけではありませんでした。しかし、今では圧倒的な商品数とユーザー数に加え、アプリの使い勝手も洗練されてきており、そこが参入障壁になっていると思います」と、先行者メリットの確立に自信をのぞかせる。


●「訪日客はちんすこうを買わない」 素朴な疑問が原点


 Payke誕生のきっかけは、古田氏が沖縄の観光地で感じた素朴な疑問だった。


 同氏は2013年に琉球大学に進学し、その直後にEC事業を立ち上げ、県内貿易商社と協業して中国向けの県産品輸出を始めた。「当時は日中関係の悪化で沖縄と中国の間の貿易がほぼストップしていたので、需要を見込み、中国人留学生と一緒に始めました」と振り返る。


 当時、まだ19歳。目を見張るような行動力だが、「何かに熱中し始めると、1カ月くらい家から出ないような子どもだった」という。起業願望があったわけではないが、自身の興味や関心に従う中で、自然な流れで事業を興した。


 その最中、県内の観光地などを行き交う外国人観光客を見て、ある事実に気づく。「日本人観光客の多くは、お土産にちんすこうや紅芋タルトを選んでいるのに、外国人客はほとんど買っていませんでした」。なぜか? 疑問を解消すべく、ある土産品店に足を運んだ。


 そこで、外国人客に片言の英語で「なんで、ちんすこうは買わないの?」と聞いてみた。返ってきたのは「知らないから」という単純な答え。「沖縄ではとてもポピュラーなお土産だよ」と伝えたところ、その客はちんすこうに興味を示し、買っていった。


 商品認知に加え、その価値を伝える難しさは、中国に沖縄産もずくを売り込んだ時も実感していた。


 「中国ではもずくを食べる文化がなく、見た目や食感から敬遠されがちでした。ただ、当時の中国は健康志向の高まりがあり、栄養豊富なもずくはニーズに合った食材だったんです。沖縄が『長寿の島』と言われていることも交えて説明し、やっと食べてもらえました」と振り返る。


 これらの体験から、古田氏は「情報が届いていないことによる購買の機会損失」に着目する。言語の壁が生む構造的な課題は、沖縄に限らず、日本全国で起きていることだと考えた。そして「海外の人にモノを売るためには、物流と価値流通はセットで取り組まないといけない」という結論にたどり着く。この発想が、Paykeの原点となった。


●なぜ、バーコートに目を付けた?


 どうすればモノに価値を乗せて届けられるのか――。目を付けたのが、貿易事業で馴染(なじ)みのあったバーコードだった。古田氏は「バーコードは世界中の人が知っていて、使い方も分かる。少なくとも先進国と言われる国には統一規格があります。これに情報をひも付ければ、商品の魅力をボーダレスに伝えられると考えました」と説明する。


 Paykeを創業した2014年には、iPhoneを中心にスマートフォンが世界で爆発的に普及し、搭載カメラでバーコードやQRコードを読み取る行為も一般的になりつつあった。こうした環境や外国人に利用方法を説明しやすい点が、バーコードを軸としたサービス設計を後押しした。


 Paykeの利用設計のイメージが固まった段階で大学を休学し、本格的に事業展開に乗り出した。とはいえ、知名度のない地方発のスタートアップであることに変わりはない。商品データとユーザーをゼロから積み上げる必要があった。


 まず那覇空港に並べられた土産品を調べ、メーカーをリスト化した。約200社が大半の商品を作り、そのうちの95%が県内メーカーであることを把握。メーカー1社ずつを訪問して事業を説明すると、約9割の企業が協力に応じたという。


 その際、各社の商品に対する愛着を知ることができた。「例えば『他社はマーガリンを使っているけど、うちはバターを使っているんだよ』など、作り手のこだわりや思いをたくさん聞き、それが消費者に伝わっていないのはもったいないと感じました」と振り返る。メーカーにとっても意義深い事業であることをあらためて確信した。


 ユーザー獲得も地道だった。沖縄や台湾の空港でチラシを配り、動画で使い方を説明した。転機は、台湾でチラシを渡した、地元テレビ局のキャスターとの出会いだった。ニュースで紹介された動画をFacebookに投稿すると、シェアが数万回に達してダウンロード数が急増。累計で100万、200万とみるみる増えていった。


 その後、訪日客が途絶えたコロナ禍では「取引先も売り上げもリセット」という厳しい状況に直面する。それでもインバウンドが回復した2024年は、年間ダウンロード数が100万、2025年は130万に到達。商品情報データの登録を自動化したことで、対応商品のカバー範囲が加速度的に拡大し、使い勝手が向上したことも成長を後押しした。


 コロナ禍でキャッシュフローが悪化し、現状の広告費はほぼ0円という。だが、その利便性の高さに加え、「バーコードを読み取る」という直感的な操作設計がSNSの縦型動画と高い親和性を持ち、現在も多くの拡散を生んでいる。


●「興味指数データ」が押し上げる市場の可能性


 Paykeの事業はBtoCにとどまらない。ユーザーがサービスを利用するたびに「どの国の人が、どこで、何に興味を持ったか」というデータが蓄積される。加えて、性別や年齢層といった属性も把握できる。同社はこれを「興味指数データ」として分析し、メーカーや小売企業に提供している。


 古田氏は、これらの情報が持つ価値について「異なるメーカーの類似商品でも、韓国人に人気のもの、中国人に支持されるものといった傾向が分かります。商品接触データは訪れたエリアも含めて可視化できるため、企業や行政からの需要は創業当初から想定していました」と話す。


 これまで、訪日客の詳細な消費行動は把握が難しい領域だった。古田氏は「まだ事業の意思決定レベルまで活用されている事例は少ないです」と課題感を口にするが、Paykeが保有するデータは、インバウンド事業における商品開発やマーケティング、営業など幅広いビジネス活動を活性化させる可能性を秘める。観光庁の調査にも活用されており、その価値は広く認知されつつある。


 同社の収益源は、アプリへの広告出稿やデータ販売が中心だ。ユーザー数の増加が直接売り上げに結び付くモデルではないが、利用拡大に伴い広告とデータの価値は高まり、事業基盤の強化が着実に進んでいるという。


 コロナ禍の収束でインバウンド市場が再び拡大局面に入る中、古田氏は現在を「第2創業期」に位置付ける。4月には、商品比較や店舗選定などを個々のし好に合わせて提案する「買い物コンシェルジュAI」のサービスを新たに開始した。


 今後は、ビジネスモデルを韓国と台湾に横展開するめども立っているという。古田氏は「AIは越境ショッピングとの相性が良く、商品データの作成や翻訳などの作業時間は10分の1程度に短縮できました。AIを活用すれば、3年ほどでアジア全体にサービスを広げることもできると思っています」と意欲的な見通しを示す。


 バーコードを基軸に訪日客の「知らない」を解消し、データで消費の流れを可視化する。目指すのはメーカー、小売、消費者が「Win-Win-Win」となる世界だ。そのかじ取りを担う古田氏は、まだ32歳。拡大するインバウンド市場の中で、Paykeの存在感はさらに増していきそうだ。



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