なぜアマゾンで不動産は買えないのか? 専門家が解説

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2026年04月30日 08:10  ITmedia NEWS

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 「なぜインターネットで本は買えるのに不動産は買えないの?」「マンションを借りる時に不動産屋のお兄さんが急いでファクスを送るのはなぜ?」。多くの人にとって「住まい」に当たる不動産は身近なはずなのに、なぜかよく分からないことだらけ。他の業界では常識なのに、不動産業界では非常識。そんな不動産の「ミステリー」を専門家がわかりやすく読み解き、AIをはじめITを活用した不動産の近未来を探る。


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 バブル経済の崩壊後、低迷してきた日本の不動産価格が反転上昇し、内外からの投資が盛り上がる中、海外の先進事例なども交えて将来の不動産業界や価格を分かりやすく展望する。第1回は「なぜアマゾンで不動産を買えないのか」を深堀りする。


●「アマゾンでは不動産を購入できません」


 本、文房具、テレビ、家具、飲食料品、化粧品――。アマゾンの通販サイトをのぞくと、ありとあらゆる欲しいものを買うことができる。私自身も利用させてもらっている世界最大の通販サイトだ。サイトを見ているうち、「そういえば、家や土地(不動産)は買えるのだろうか?」という素朴な疑問が浮かんできた。


 さっそくサイトの検索ボックスに「不動産」と入力してエンターを押してみると、不動産関連の書籍やドラマの動画がたくさん出てくる。しかし、土地や住宅など不動産自体は表示されない。さらによく調べてみると、プレハブ住宅や物置小屋のようなものは出てくるが、マンションや一戸建て、土地などは見当たらない。気になってカスタマーサービスに聞いたところ、「アマゾンで不動産を購入することはできません」と丁寧な口調で教えてくれた。


●不動産のネット購入を阻む「宅建業法」


 ほとんど何でも販売している大手通販サイトでさえ、なぜ不動産は購入できないのか。その大きな理由の一つは「宅建業法」という厚い壁にある。宅建業法は購入者の利益を保護するため、1952年に制定された。正式な名前は「宅地建物取引業法」という。


 同法の第35条によると、私たちが住宅や土地を買うには、不動産取引の専門家である「宅地建物取引士(宅建士)」から直接、説明を受ける必要がある。その際に、宅建士は「宅建士証」をテーブルの上に提示して、自分が専門家であることを証明しなければならないなどという細かい規定まである。このため不動産を販売するには、宅建士を常駐させて説明をさせる必要が出てくる。


 しかも、こうした規制は国ごとに違うため、業者側は国ごと(州法がある場合は州によって)の法律に合わせて細かく対応しなければならない。つまり、不動産はシャンプーや本のように、サイトのボタンをクリックしてリアルタイムかつ簡単に売買するというわけにはいかないのだ。


●「IT重説」解禁で“理論上は可能” それでも購入できないワケ


 とはいえ、理論上は通販サイトで不動産が販売できないというわけではない。2017年に不動産物件の重要説明事項(重説)をオンラインで実施する「IT重説」が解禁されたからだ。当初は賃貸契約のみが対象だったが、21年からは売買契約でも運用が可能となった。従来は対面で実施しなければならなかったが、今はパソコンやスマートフォンなど両者が対話できる環境なら自宅でも説明を受けられるようになった。


 それでも通販サイトで不動産を販売しづらいのは、細かい障壁が次々に立ちはだかるからだ。例えば、不動産の売買契約を結べても、顧客が対面で重要事項を説明することを求めれば、オンラインでは実施できない。対面でもオンラインでも説明できる仕組みを整えなければならないからコストがかかりやすくなる。


 不動産取引に付き物の銀行借り入れも高いハードルだ。家や土地は高額なだけに自己資金だけで購入する人は少ない。銀行からお金を借りる際には、通帳やマイナンバーカードなどの書類を提出したり、融資の審査があったり、担当者と面談したりといった多くの段階を踏む必要がある。不動産経済研究所(東京・新宿)が発表した25年の東京23区の新築分譲マンション平均価格は1億3613万円。高額な取引なだけに、買い手である顧客が「『ワンクリック』で購入するのではなく、時間をかけて考えたい」というケースも多い。


●次に立ちはだかる「登記の壁」


 こうした多くのハードルを乗り越えて、顧客と業者がようやく決済までたどり着くとする。しかし、決済後には登記という壁が残る。登記では、司法書士による顧客の本人確認が必要だ。オンラインでも可能ではあるが、事前に免許証やマイナンバーなどの書類を送ってもらわねばならない。権利書やカギは郵送できるものの、非常に重要なモノだけに、顧客も事業者も「きちんと手元に渡るのか」と心配するハメになりやすい。販売拡大に向けた広告にも新築と中古住宅で表示規制が違うなど細かい決まりが多い。結果として、両者ともにネットでの売買のリスクがメリットを上回りやすいというわけだ。


 不動産のネット購入に関わる多くの規制は一見、不便にも思える。だがそれらは買い手である個人や法人を守るためのものであるだけに、過度の規制緩和は諸刃の剣だ。このため米国など海外でも不動産取引の規制は日本と同様に厳しい。


 日本では、ごく一部の不動産の専門業者のサイトでは、ネットを通じてマンションや住宅を売買できる。しかし、不動産の専門業者でない大手通販サイトにとっては、今のところ費用対効果が合いづらいのも事実。将来、技術革新が進み、不動産のネット販売のリスクとメリットの差が埋まり、互いのコストが下がった時には、一般の通販サイトを通じて、ワンクリックで土地や住宅が買える世の中が実現するのかもしれない。


●著者プロフィール:加藤勤之


GA technologies Public Relations 本部長


2002年、東京工業大学理学部数学科卒、博報堂入社、外食、製菓、化粧品メーカーの営業に約10年従事、その後、労働組合委員長を経て、経営企画や新規事業開発、働き方改革部長などを務める。 2018年12月、総合不動産会社オープンハウス入社、マーケティング本部長、広報宣伝部長、社長室長、事業開発部長に従事、兼務で、スキー場を運営する子会社みなかみ宝台樹リゾート代表も務めた。2023年11月、GA technologiesに入社、Communication Design Center本部長を経て、現在は、Public Relations本部長として、広報と渉外の責任者を務める。



このニュースに関するつぶやき

  • 別に困らんシステムだよ。むしろおかしな外国人に売られるシステムとしない方がいいね。
    • イイネ!9
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