
「サンマルクカフェ」や「鎌倉パスタ」などのヒット業態で知られるサンマルクホールディングス(以下、サンマルクHD)が、2022年に就任した藤川祐樹社長の下で再び成長軌道に乗りつつある。
2024年には、牛カツ業態の「京都勝牛」「牛かつ もと村」の運営会社を相次いで買収。さらに2026年5月には、本社の中核機能を岡山市から京都市へ移転し、グローバル展開を推進する方針を打ち出すなど、従来には見られなかった大胆な動きを見せている。
主力のサンマルクカフェにも改革のメスを入れ、お茶に焦点を当てた新業態を投入。また、パスタ業態でも新たな切り口でのブランド開発を進めるなど、既存事業の見直しにも踏み込んでいる。
こうした取り組みもあり、業績は明らかに回復している。2019年に売上高は過去最高となる約700億円に到達。その後、コロナ禍で落ち込んだが、今期は第3四半期時点で約660億円。過去最高の更新が確実視されている。
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本稿では、その原動力となっている藤川氏の変革に迫ってみたい。
●サンマルクカフェが不調となった理由は?
サンマルクHDの主力業態といえば、駅前の繁華街に多く展開されているサンマルクカフェを思い浮かべる人が多いだろう。店内で焼き上げる「チョコクロ」を看板商品とし、コーヒーとともに楽しむスタイルで支持を集めてきた。
サンマルクカフェは1999年、東京・銀座に1号店を出店。パン好きに人気のベーカリーレストラン「サンマルク」が手掛ける低価格カフェとして注目を集めた。郊外ロードサイドを主戦場とするサンマルクに対し、サンマルクカフェは大都市の駅前立地で成長を遂げていった。
しかし、2018年3月に402店舗まで拡大した後は伸びが鈍化。2019年に404店舗、2020年に405店舗とほぼ横ばいにとどまり、出店と同時に閉店も進む状態が続いた。ブランド誕生から20年が経過し、徐々に時代とのズレが生じ始めていた。
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ちょうどその頃、都市部の駅前で急速に広がったのがタピオカドリンクで、小腹を満たす軽食として支持が広がった。
チョコクロとコーヒーを組み合わせる従来の喫茶スタイルは、もちもち食感のタピオカ入りミルクティーを1杯で楽しむ新しい“おやつ”に置き換えられていった。こうしたデザート性の高いドリンク分野への対応で、サンマルクカフェは後手に回ってしまったのである。
そこに追い打ちをかけたのがコロナ禍だ。駅前立地を主力としていたサンマルクカフェは、大きな打撃を受けた。2025年9月時点の店舗数は283店舗にまで減少し、コロナ前から約3割減。採算性の低い店舗を中心に、閉店を余儀なくされた。
こうした反省を踏まえ、サンマルクカフェでは商品戦略の見直しを進めた。2026年4月24日から7月2日にかけては、「濃密」をテーマにしたシーズン商品4種を投入。近年はこのような季節限定商品で新鮮さを打ち出し、来店頻度の向上を図っている。
ラインアップは、「プレミアム濃密抹茶チョコクロ」「濃密抹茶パフェ」「濃密ピーチスムージー」「濃密ピーチティー」の4品だ。抹茶商品は、京都の老舗日本茶専門店「祇園辻利」とコラボ。ピーチスムージーは白桃の果肉感を前面に打ち出し、720円とやや高価格ながら満足度の高い仕上がりとなっている。
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従来の「低価格カフェ」という枠にとどまらず、多少価格帯が上がっても高品質な商品を提供することで、“滞在して楽しむ場”としての需要も取り込もうとしている。足元では、この戦略は一定の成果を上げている。
●藤川氏が採用した施策とは
これらの施策を進めているのは、2022年に33歳の若さで社長となった藤川氏だ。藤川氏は三菱UFJモルガン・スタンレー証券に勤める証券マンであったが、サンマルクHD創業者の片山直之氏に見込まれ、IR担当として転職した。
しかし、2018年に片山氏はがんで逝去。藤川氏は取締役経営企画室長として、元証券マンの知見を生かした経営を行った。同社の無借金経営の伝統を破り、これまで金融機関とのつながりがほとんどない企業であったにもかかわらず、コロナ禍を乗り切る200億円の調達を成功させたのである。こうした実績により、社長に推されて就任している。創業者が目指した売上高1000億円が、当面の目標だ。
サンマルクカフェは縮小路線から反転攻勢へと転じ、新コンセプト「FFH(Fresh Fast Handmade)」を掲げた店舗の展開を開始した。Fresh(新鮮・焼きたて)、Fast(素早い提供)、Handmade(店内手作り)にこだわった新しい店舗のモデルで、その1号店「サンマルクカフェ&茶 新宿御苑前店」を開業した。
「サンマルクカフェ&茶」は、2025年7月に展開を開始した新業態で、お茶需要の高まりを背景に、従来のメニューにお茶系の品を加えたものだ。黒糖タピオカ入りドリンク4種類、フルーツティー2種類、そしてエッグタルトなどのフードメニューが、限定商品として販売されている。
さらに「FFH」では、従来の焼き立てパンを選んで買う方式に加えて、注文を受けてから目の前で調理する、ホットサンドやホットドッグを導入。サンマルクHDの、セントラルキッチンを設けずに店内調理にこだわる提供法をより深化させた形を採用した。
サンマルクHDは、サンマルクカフェとサンマルクカフェ&茶を立地によって出店し分け、今後は商業施設内の店舗に加え、路面店を中心に展開していく方針だ。3年後の2029年度には、約90店舗増の370店舗を目標とし、コロナ前の店舗数回復を目指す。
●M&Aも積極的に実施
コロナ禍での資金調達に成功した藤川氏は、守りにとどまらず攻めに転じた。これまでM&Aに積極的なイメージがなかったサンマルクHDだが、2024年11月、牛カツ業態で業界トップの京都勝牛を展開するジーホールディングスを買収し、傘下に収めた。
さらに翌12月には、業界2位の牛かつ もと村を展開するB級グルメ研究所などをファイブグループから買収。わずか1カ月の間に、牛カツ業界の上位2ブランドを取り込む異例の動きを見せた。
この連続買収は外食業界に衝撃を与え、その狙いを測りかねるとの声も広がった。しかし藤川氏は、「京都勝牛のM&Aが成立すれば、もと村も買収するつもりだった」と、当初からの構想であったことを明かした。
牛カツ2社の買収の狙いは、商業施設への出店において、同一業態のブランドを複数持つことで、競合の参入余地を狭めることにある。例えば、隣接するショッピングセンターに京都勝牛が入っている場合、テナント誘致の担当者は「同じブランドは避けたい」と考える。その際に、別ブランドである牛かつ もと村を提案できれば、より幅広い出店機会を取り込むことができる。
両者はこれまでライバルであり、業態も近いが、価格帯や提供スタイルなどに違いがあるため、すみ分けが可能だ。大きな商圏であれば、牛カツの複数ブランドを展開することで、幅広い需要を取り込むことができる。実際、京都勝牛は国内約60店舗、海外にも25店舗を展開。一方のもと村は国内約30店舗、海外2店舗と、まだ拡大余地を残している。
この2ブランドを傘下に収めたことで、サンマルクHDは牛カツ市場の9割以上を握り、事実上の独占状態を築いた。牛カツはインバウンド需要が多く、渋谷、新宿、大阪、京都の店舗は多くの外国人客でにぎわう。アジア圏に加え欧米からの観光客にも人気が高く、海外展開の伸びしろは大きい。牛肉の料理なのでイスラム圏も視野に入り、豚かつよりも有利な面もある。
こうした需要を見据え、サンマルクHDは2026年5月、本社機能の一部を京都に移転。牛カツのグローバル展開を本格化させる構えだ。これに先立ち、大阪・関西万博にも「京都勝牛」を出店し、国内外への認知拡大を図っている。
●パスタ業界にも注目
藤川社長が目を付けたのは、牛カツ市場だけではない。商業施設においてパスタは安定した需要がある一方、入居するチェーンは固定化され、新規参入が進んでいない点に着目した。そこで開発したのが、「鎌倉パスタ」の新業態「おだしもん」である。
2023年7月、東京都足立区の「北千住マルイ」に1号店を出店。店内で仕込むだしをベースに、「かけだし」「つけだし」といった新しいスタイルのメニューを展開している。いわば、和のスープパスタの進化形だ。
さらに特徴的なのが、和テイストのスイーツの強化だ。「宇治抹茶モンブラン」や「ほうじ茶ティラミス仕立て」などを取りそろえ、カフェ利用も想定した設計となっている。これにより、従来弱点だったランチとディナーの間の客足が落ちる時間帯でも集客が進み、来店動機の拡張に成功している。
それに加えて、おだしもんでは従来のパン食べ放題に代わり、店内で手作りした豆腐を食べ放題で提供している。ヘルシー志向を打ち出すとともに、できたての豆腐を好きなだけ楽しめる点が、他店との差別化要素となっている。
●「サンマルクは終わった」を払拭した後は……
このように、サンマルクHDは藤川氏の下で大きくかじを切った。コーヒー中心から脱却してお茶需要を取り込み、高成長が見込めるブランドの取得によるインバウンド・海外展開を強化し、レストランのカフェ需要を創出するなど、多面的な施策で顧客の来店機会を広げている。
こうした戦略が実を結び、「サンマルクは終わった」という評価は払拭されつつある。サンマルクHDは今、再び成長軌道に乗り始めた。グローバル展開も視野に入れつつ、どのように業績を伸ばしていくのか。今後の藤川氏のかじ取りから、しばらく目が離せなそうだ。
(長浜淳之介)
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