※画像はイメージです。
画像生成にAIを利用しています新幹線の車内は、本来であれば目的地までの安らぎの時間であるはずです。しかし、リモートワークの浸透やインバウンドの急増といった社会の変化に伴い、車内の「静寂」を巡るトラブルが後を絶ちません。
日本民営鉄道協会が発表した最新の「2025年度 迷惑行為ランキング」では、昨今の社会情勢を反映した意外な結果が浮き彫りになりました。総合ランキングで上位を占める項目と、訪日客に限定した際に「圧倒的1位」となる項目。そこには、私たちが無意識に共有している「マナーの境界線」のズレが潜んでいます。
今回は、新幹線の車内で遭遇した「座席でのオンライン会議」や、通路を走り回る子どもを動画撮影し続ける外国人観光客の事例など、過去に大きな反響を呼んだ実録エピソードを振り返ります。周囲の乗客たちが限界に達した瞬間、放たれた“重たい一言”とは――。
記事の後半では、最新の調査結果を紐解き、数字が物語る「車内騒音に対する世間の厳しい視線と、現代特有のマナー違反の正体」についてもさらに切り込みます。
◆公共交通機関では静かに過ごすのがマナー
「新幹線」の車内では、さまざまな人が乗り合わせるだけに、お互いに配慮することが重要だ。しかしながら、他人の“マナー違反”が目につくこともあるかもしれない。注意したくもなるが、相手が逆上してしまう可能性もあるため、その判断は難しいところである。
新幹線の車内では静かに過ごしたい人が大半。ミズノミカさん(仮名)がこう話す。
「リモートワークの普及でオンライン会議が日常化しましたが、タイパ(タイムパフォーマンス)の観点から、新幹線の移動時間を“1分でも無駄にしたくない”といって、座席でオンライン会議をする人を見かけます。
パソコン・タブレット端末を持ち込んで、資料作成やメールの送受信をおこなうことは問題ないですが、オンライン会議は声がうるさいですし、そもそも機密情報が外に漏れていますよ?」
現在、多くの新幹線で「通話・オンライン会議はデッキをご利用ください」というアナウンスが流れているので、明確にマナー違反だろう。
しかし、注意が難しい場面もある。
田中航平さん(仮名)は、新幹線で外国人観光客の家族が大騒ぎしているところに出くわした。
出発してすぐ、子どもは「キャッキャッ!」と大声を上げて通路を走り出した。普通なら親が制止するだろうが、母親の反応は意外なものだった。
「Run, run! Good boy!」
スマホを構えて子どもの姿を撮影しながら、母親は笑顔で声をかける。最初は微笑ましい光景に見えたが、子どもが何度も通路を往復するうちに、周囲の乗客たちの表情は明らかに曇っていった。さすがにうるさすぎる……。
◆外国人観光客を黙らせた“重たい一言”
子どもの行動をたしなめるどころか、むしろ容認している様子が周囲の不満を高めていく。そして案の定、通路を歩いていた車内販売のスタッフが子どもを避けきれず、結果として冷たいコーヒーを持っていた男性の膝にぶつかってしまった。床に少しこぼれてしまった様子。
突然のハプニングに母親も慌てて、「Oh my god! Sorry, sorry!」と謝罪し、ようやく子どもを抱きかかえた。しかしその直後、再びスマホを取り出し「It’s okay, smile!」と撮影を再開した。まるで動画コンテンツのネタを撮るかのような軽いノリだったという。
母親がスマホで撮影を続けるなか、コーヒーをこぼされた男性が低い声で一言、「撮るな」と言った。
車内の空気は一瞬で張り詰めた。母親はハッとした表情を見せ、スマホをしまって席に座った。子どもも静かになり、ようやく車内に落ち着きが戻った。
何事もなかったように新幹線は目的地へと走り続けたが、田中さんはその後しばらく気まずい空気の中で窓の外を眺めていたという……。
◆■ 数字が物語る「マナーの境界線」のズレ
今回お届けしたエピソード。オンライン会議の声や、静寂を切り裂く子どもの叫び声……。新幹線という閉鎖された空間で、逃げ場のない乗客たちが感じるストレスは、統計データにもはっきりと現れています。
日本民営鉄道協会が発表した最新の「2025年度 駅と電車内のマナーに関する調査」(5,202名の方が回答)を詳しく見ていくと、非常に興味深い結果が見えてきます。
【駅と電車内の迷惑行為ランキング(総合)】
(最大3つまで回答)
1位:周囲に配慮せず咳やくしゃみをする(34.7%)
2位:座席の座り方(31.9%)
3位:騒々しい会話・はしゃぎまわり(30.2%)
4位:扉付近での滞留(27.6%)
5位:スマートフォン等の使い方(21.6%)
総合ランキングでは「咳やくしゃみ」が1位ですが、注目すべきは「インバウンド(訪日客)」に限定した集計結果です。
【訪日外国人旅行者の迷惑行為ランキング】
1位:騒々しい会話・はしゃぎまわり(69.1%)
2位:荷物の持ち方・置き方(41.9%)
3位:座席の座り方(26.2%)
4位:強い香り(香水・柔軟剤等)(24.8%)
5位:扉付近での滞留(24.1%)
(出典:日本民営鉄道協会「2025年度 駅と電車内のマナーに関する調査」)
訪日客に対しては、実に約7割もの人が「騒々しい会話」を迷惑だと感じています。これは今回のエピソードでも描かれたように、文化的な背景の違いによる「声のボリューム感」や「車内での過ごし方」のズレが、日本の乗客にとって大きなストレス源になっている実態を裏付けています。
また、総合5位の「スマートフォン等の使い方」も、前年の9位から急浮上しています。通話や操作音、混雑時の使用など、自分の「タイパ」を優先するあまり、周囲の安らぎを奪う行為への視線は年々厳しくなっていると言えるでしょう。
注意すれば逆上されるリスクもあり、声を上げにくい空気があるのは事実です。しかし、エピソードにあった男性の「撮るな」という一言が空気を変えたように、毅然とした態度や、あるいは乗客同士の「暗黙の了解」が、崩れかけた車内の秩序を守る最後の一線になることもあります。
誰もが多忙を極め、心に余裕をなくしがちな時代。だからこそ、自分の発する声や音が、隣の席の誰かにとっての「壁」になっていないか――。そのわずかな想像力が、目的地までの時間を少しだけ優しく、温かいものに変えてくれる。そんな小さな配慮が当たり前のように繋がっていく車内であってほしいと、願わずにはいられません。
<取材・文/藤山ムツキ 再構成/日刊SPA!編集部>
【藤山ムツキ】
編集者・ライター・旅行作家。取材や執筆、原稿整理、コンビニへの買い出しから芸能人のゴーストライターまで、メディアまわりの超“何でも屋”です。著書に『海外アングラ旅行』『実録!いかがわしい経験をしまくってみました』『10ドルの夜景』など。執筆協力に『旅の賢人たちがつくった海外旅行最強ナビ』シリーズほか多数。X(旧Twitter):@gold_gogogo