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マウスコンピューターは、「マウスらしい」と言われるモノ作りに挑んでいる。極論すれば、目指しているのは「そんな商品を出して、いったい何を考えているの?」というPCだ。これを顧客の声を反映することで実現したいと、マウスコンピューター 代表取締役の軣秀樹社長は語る。
そのベースにあるのは、「MOUSE」を頭文字にしたメッセージと、社内に徹底している「ものづくり10」である。軣社長の就任以降、全ての取り組みを、モノ作り起点で考えるという基本姿勢を社内に浸透させているところだ。
その一方で、2025年12月には、同社の公式Xへの投稿をきっかけにした「マウスエフェクト」と呼ばれる動きによって、国内PC市場全体に新たな需要を創出したのは記憶に新しい。
インタビュー前編では、マウスコンピューターの「モノ作り」へのこだわりと、マウスエフェクトの影響、部材価格の高騰を背景にしたPCの値上げなどについて聞いた。
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●受け身体質からの脱却 新メッセージの「MOUSE」とは?
―― マウスコンピューターにとって、2025年度はどんな1年でしたか。
軣 2025年度は、社長就任から2年目に入りました。1年目は期の途中からバトンを受け取り、とにかく、がむしゃらに突っ走った1年でした。それに対して、2025年度は本当の意味での初年度という気持ちで取り組んできました。
ここ数年は、コロナ禍の影響や、ネガティブな社会環境の変化があったことで、社員の姿勢も受け身にならざるを得なかった部分がありました。しかし、私自身、開発現場に長年携わってきた経験からも、メーカーであるからには常に前向きであり、新たなことに挑戦する姿勢を失ってはいけないと思い続けてきましたし、それを実践する1年にしたいと考えました。
社内外に向けて、「MOUSE」を頭文字とした新たなメッセージを打ち出したのも、そこに理由があります。
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―― 「MOUSE」のメッセージについて教えてください。
軣 「M」は、「マウスクオリティ&スピード」です。当社は国内でPCを開発し、国内で生産し、国内でサポートし、国内で修理する体制を敷いており、それによって高い品質と、迅速な対応が可能です。品質向上は終わりがない挑戦ですから、追求し続けていきます。
「O」は「オリジナリティーある製品企画と開発」であり、新たな挑戦を含めて、マウスらしい製品を作り続けていきます。
「U」は、「ユーザビリティー/ユーザーファーストの考えで信頼を獲得」することです。お客さまの声を聞きながら、ユーザビリティーを考えた製品開発を進めていきます。
そして、「S」は、「サステナブル(SDGs)/持続可能な企業体質を構築」することです。2020年から進めている地域振興や、子育て支援などの取り組みを継続的に進める一方、企業体質の強化にも取り組みます。
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最後の「E」は、「楽しく(Enjoy)仕事をする、そこから生まれるアイデアを創出」するという意味を込めました。仲間を頼れる企業風土を作り、仕事を楽しんでもらうことで、優れたアイデアが生まれる環境を構築していきます。
MOUSEのメッセージは、社員の間に、かなり浸透してきましたし、パートナーからも「マウスらしさを感じる」といった評価をいただいています。特に「楽しく仕事をする」ということについては、パートナーと一緒に成長するための重要な地盤になると認識し、重視しています。
2026年度にはこれをバージョンアップし、社内外で訴求していくことになります(編集注:インタビューは2025年度に行われました)。
MOUSEの浸透によって、社内には挑戦する風土が少しずつ戻ってきたと思っていますが、「そんな商品を出して一体何を考えているの?」と言われることが、「マウスらしさ」でもありますから(笑)、そう言われるようになるまで挑戦し続けていきます。
―― 「そんな商品を出して、一体何を考えているの?」というのは褒め言葉ですか?(笑)
軣 まぁ、いじられている側面もあるでしょうけれど(笑)、最終的に、そうした製品を出したことに納得していただいたり、製品の売れ行きにつながったり、評価していただけたりすれば、それは褒め言葉だと思っています。
そういった言葉をかけてもらえるPCメーカーは他にはないですからね。ただこれも、開発者が独りよがりで作ったものでは意味がありません。お客さまの声をしっかりと聞いた上で、作り上げたものでなくてはいけません。
一方で、開発プロセスをガチガチに組み上げてしまうと、柔軟な発想でのモノ作りができなくなりますから、その点も気を付けたいですね。お客さまから聞いた話や、気が付いたり、思い付いたりしたことがあれば、開発者がすぐに情報を共有し、検討できる環境を維持します。
●メーカーのエゴからの脱却 全社員で貫く「ものづくり10」
―― 軣社長体制になってから、モノ作り企業であることを、より深く追求する姿勢が感じられます。
軣 その点はとても意識しています。2025年4月には「ものづくり10」と呼ぶ10項目を打ち出しました。これは、マウスコンピューターが、創業以来大切にしてきたモノ作り精神を、10項目としてまとめたものです。
公式サイトに掲載している私の代表メッセージも、ものづくり10のエッセンスをまとめたものです。「ものづくりは、あなただ」、「ものづくりは、お客さまへの想いだ」、「ものづくりとは、お客さまとの繋がりだ」など、10項目を挙げています。
ベースにしているのは、お客さまの意見をしっかり聞き、それを元に製品化するという姿勢です。誤解を恐れずにいえば、これまではメーカーのエゴがあり、製品を出せば買ってくれるという感覚がありました。これはモノ作りではありません。
お客さまが何を求めているのかを必死に考え、必死に探り、それに応え続けるユーザーファーストの考え方こそが、モノ作りの原点です。
そして、モノ作りとは当社の活動の全てであり、当社の全社員の行動がモノ作りの精神で貫かれていなくてはなりません。
私自身、開発や製造、品質管理、アフターサービスを担当するなど、さまざまな経験があります。その経験からも、ものづくり10は、開発や生産だけの話ではなく、販売やサポート、あるいはバックオフィスの社員を含めて、全員が必ず関わるものでなくてはいけないという認識があります。
ですから全ての社員に対して、モノ作り精神を徹底していきます。当社では、仕事の全てにおいて、モノ作りが起点となります。2025年度下期には、部門長全員が、ものづくり10に基づいて、自分は何をやるのかということも発表してもらいました。実際、モノ作りを起点にしたことで、課題がスムーズに解決するようになったという手応えもあります。
法人のお客さまやパートナー企業などを中心に、長野県飯山市の当社工場を見学いただくと、「ベンチャー企業のような会社だと思っていたが、PCメーカーとして、しっかりとしたモノ作りをやっている企業ですね」といっていただくことも増えています。お客さまの声に真摯(しんし)に耳を傾ける、モノ作りの企業であることをもっと知っていただきたいですね。
●「ものづくり10」より抜粋
01. ものづくりは、あなただ
「ものづくり」とは、マウスコンピューターの活動の全てであり、「あなたご自身」です。開発や製造だけがものづくりなのではありません。営業、アフターサービス、購買、広報、人事……マウスコンピューターの全ての活動、マウスコンピューターの全従業員の行動がものづくりの精神で貫かれているべきと考えます。
02. ものづくりは、お客様への想いだ
「ものづくり」とは、お客様への想いです。人を想像することです。メーカーのエゴで作るパソコンは、ものづくりではありません。お客様が何を求めているか、を必死に考え、必死に探り、それに応え続けること。そのユーザーファーストの考えこそがものづくりの原点と考えます。
(中略)
07. ものづくりは、アイデアだ
「ものづくり」とは、アイデアです。こんなパソコンがあったらお客様が喜んでくれるのではないか。こんな工夫があったらお客様はもっとマウスのパソコンを好きになってくれるのではないか、と全員が考え続け、アイデアをどんどん出し合う。改善をし続ける。そんな試行錯誤の中から、オリジナリティあふれる未来の可能性の芽が出てくると考えます。
―― 「MOUSE」や「ものづくり10」といった軣社長が打ち出した方針があったからこそ、生まれた製品は既にありますか。
軣 2025年1月に、ゲーミングPCブランド「G TUNE」のロゴを刷新した際に、これを象徴する新製品を投入しました。昨今のゲーミングPCの潮流からすれば、電飾を使用するなど派手なデザインを採用することが一般的ですが、あえてそれを避けたデザインを採用し、ボディーの色や素材にもこだわりました。
また、このPCを選んだお客さまが、どんな場所に設置して、どんな使い方をするのか、そのときに必要な機能は何かということを考えた設計も特徴です。机の下に設置したときに使いやすいようにインタフェースを配置したり、ヘッドフォンを使うユーザーが多いことを想定し、それを掛けることができるフックを用意したりといった工夫もしています。日々、お客さまの声を聞いているからこそ、完成したPCです。
一方で、NEXTGEARシリーズでは、ミニタワーだけでなく、より拡張性が高いフルタワーのボディーを新たに追加し、mouseシリーズにおいては、タブレットの新製品を約8年ぶりに投入しました。
これも、お客さまの要望を元に製品化したものです。特にタブレットは、Windowsタブレットを利用しているお客さまが、買い替える製品がないので困るという声が多く、製品化に踏み切りました。有機ELディスプレイを採用するという、マウスならではの遊び心も盛り込んでいます。
モノ作りに改めてこだわったことで、2025年度の製品ラインアップは、前年比で約1.2倍に増えています。
個人的な思いなのですが、お客さまに「こういうのが欲しいのだけど」と言われたときに、品ぞろえができていないことがとても嫌だったんです(笑)。PCメーカーであるからには、お客さまが欲しいと言われるPCは、必ず用意しているという状況を作りたい。そういう思いで取り組んでいます。
―― 外野の立場から見ると、MOUSEの「O」の部分、つまり、「オリジナリティーある製品企画と開発」が気になります。
軣 2025年度中には、「マウスらしい」ものを投入したいとは考えていたのですが、まだ企画を温めているところです。2026年はMouseProが15周年、DAIVが10周年を迎えるという節目の1年ですから、それに合わせて、「マウスらしい」PCを投入します。
ノートPCでも「O」の部分をしっかりと表現した製品を出していきます。まだまだ、これからが本番です。私は、日本のPC業界を盛り立てるには、日本のPCメーカーがもっと元気にならないと駄目だと思っています。PC業界を活性化させるためにも、失敗を恐れずに、もっともっと「マウスらしい」と言われる製品を出していきたいですね。
―― ちなみに、最近だと失敗したPCはありますか。
軣 2in1タイプのChromebookは、その1つですね。家庭での利用を想定したのですが、スペックを上げたことで価格が上昇してしまいましたし、マウスらしさを盛り込めなかったことが反省点です。
●創業初の「受注停止」という苦渋の決断 厳しい値上げも「進化のチャンス」
―― 2025年後半から部材の調達遅れや価格高騰が問題となり、PC本体の価格戦略にも大きな影響を及ぼしています。マウスコンピューターでは、2025年12月10日に公式Xへの投稿をきっかけに個人ユーザーからの注文が急増し、競合するPCメーカー各社の直販サイトや、量販店の店頭でもPCの販売が増加する“マウスエフェクト”と言われる現象が見られました。
軣 正直な話、あの投稿で、これだけの多くの需要が生まれるとは全く思っていませんでした。私は社内に向けて、SNSなどで発信をする際に、今起きている事実を、正しく伝えることを徹底しています。これは、日々の営業活動でも同じです。
12月のXでの投稿も、今当社が置かれている状況を正しく発信し、1月になると価格が上昇することを背景に、PCを購入するならば今がいいということをお伝えしました。
―― しかし、その結果としてマウスコンピューターでは12月中に全てのモデルを一時的に受注を中止せざるを得ない状況になりました。
軣 Xへの投稿以降、12月の受注台数は過去にないほどの規模となり、1日の受注数でも過去最高台数をはるかに更新し、12月の生産台数は通常の2倍近い規模に達しました。結果として、途中で受注を中止したのですが、最大の理由は、納期を延ばしたくないということでした。
私たちの基本的な考え方は、どんなにお待たせしても納期は1カ月だと思っています。また、コールセンターなどに対して、納期に対する問い合わせなどが増加し、通常のサポート業務にも影響が出始めていたという点も考慮しました。
サポートを含めて、通常業務ができないということは最終的には品質にも影響しますし、お客さま満足度を維持することができなくなります。これは致命的な問題につながる可能性があると判断したわけです。
私たちが努力をして対応できる範囲を超えてしまい、これ以上、受注/販売を続けると、かえってお客さまにご迷惑をおかけすることになると考え、受注を停止しました。
振り返ると、2025年10月14日にWindows 10がサポート終了を迎え、それに伴う買い替え需要が一段落し、11月以降は販売台数が減少すると予測していましたから、もともとは生産台数を縮小する体制を考えていました。
実際には納期を20日間ぐらいまで延ばしたことで、部材の手当てについては目途が立ったのですが、年末年始を挟むことで、一部の部品に1週間程度の遅れが発生したり、生産が追いつかずに納期がかかってしまったりということが想定されました。
もう少し猶予があれば生産体制の確保もできたのですが、それが追いつきませんでした。12月と1月は土日も稼働し、工場が停止したのは1月1日だけで、従業員が一生懸命に対応してくれました。しかし結果として、このような事態を招いてしまったのは私の大きな反省点でもあります。当社が自らの都合によって販売を中止したのは創業以来、初めてのことでした。2026年1月下旬からは、納期や生産体制も正常に戻っています。
―― 2026年1月の受注の再開と同時に価格の改定を実施しましたが、その後の反応はどうですか。
軣 12月10日のXへの投稿時点では、値上げの時期については明確にしていませんでしたが、正しい情報を、正しく発信するという観点から、受注の再開に合わせて価格を改定することを事前に発表しました。
価格の改定幅は、モデルごとに異なります。メモリ価格の高騰が顕著であり、2枚50ドルで調達できていたメモリが、1枚で100ドルという水準にまで上がっていますし、それにつられるように、他の部材の価格も上昇しています。
また、円安基調であることも部材の調達にはマイナス要素になりますから、値上げをしても、私たちにとっては厳しい状況が続いています。さらなる業務改善を進め、作業の1つ1つの無駄を省き、工場関連の外部倉庫の見直しなども行っています。
とはいえ、品質を高める努力は継続しなくてはなりません。効率を高め、生産性を高め、品質を高めるための取り組みをこれまで以上に加速していくつもりです。ただ、フローを整理すれば品質は上がりますから、むしろ、これをチャンスと捉えて改善に取り組んでいます。
12月の厳しい状況は、取引先の協力を得て乗り越えることができました。その後、部材の確保や調達価格の面で、取引先との関係を強化しており、安定した形でお客さまに製品を届けられる環境の確立に力を注いでいます。
―― 価格高騰の状況はいつまで続くと見ていますか。
軣 しばらくは、この状況が続くと予測しています。IT産業全体で、AIサーバへの投資が続き、部材不足が継続する中で、それがどのタイミングで一段落するのか、それによってメモリの価格がどう変化するのかという点がポイントになります。
しかし、年間を通じて若干の上下はあるにしても、2026年の年末まではこの状況が続くのではないでしょうか。2027年以降に、部材の供給や価格の動向がどうなるのかということを注視していく必要があります。調達先となるパートナーとの連携がますます重要になる1年だと思っています。
※近日公開予定の後編に続く。
コラム:ただのコラボモデルではない記念モデルも
実はマウスコンピューターとPC USERがコラボしたモデルが一部発売中だ。1つは同社のビジネス向けブランド「MousePro」の中で、最もコンパクトなモデルとなる「MousePro C3シリーズ」で、主なスペックをPC USERの読者アンケート結果を踏まえているのがポイントとなっている。
もう1つはゲーミングPCの「G TUNE P5」で、どちらも限定台数かつ通常よりもお得な価格になっている.既に完売したモデルが多いが、下記モデルは現時点でも購入が可能だ。気になる人はチェックしてほしい。
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