写真 ドラマ『白い巨塔』や『連続ドラマW フィクサー』など、数多くの代表作を持つ唐沢寿明さん(62歳)が、駆け出しのころに抱いていた“最終目標”は、街中で「あれ、あの人俳優じゃない? 名前はわからないけど」と言われることだった!?
新作映画『ミステリー・アリーナ』が公開中の唐沢さんが、スーツアクターだった過去、タンクトップ1枚で過ごした無名時代、そして今年、山口智子さんと立ち上げた「TEAM KARASAWA」への思いを語りました。
◆サイコパスな司会者に扮するなら、まずアフロだろ
――正解者に賞金100億円が贈られる推理クイズショーを舞台にした本作で、唐沢さんはクレイジーな天才司会者・樺山桃太郎を怪演しています。アフロヘアにサングラスという強烈なビジュアルは、唐沢さんご自身の提案だったとか。
唐沢寿明さん(以下、唐沢):衣装合わせのとき、最初は「きっちりとしたオーダーメイドのスーツで行こう」という話だったんです。でも実際に合わせてみたら、なんかもうちょっとパンチを利かせたほうがいいんじゃないかなと思って。独り言みたいに「アフロみたいなのがいいんじゃないかな」って言ったんです。
――樺山というキャラクターを、どう解釈して演じましたか。
唐沢:彼はクイズショーの司会者として表に立ちながら、裏ではとんでもないことをやっている男。あのハチャメチャさは、ある意味“目くらまし”なんです。映画の中での視聴者とか、映画を観ている観客の視線が「パワハラだろ」とか「嫌な奴だな」といった方に向いているうちに、気がついたらすごいことが起きているというのが、面白いなというイメージがありました。
◆救いは一切なし。「人を人とも思わない男」を演じる面白さ
――演じるうえでの難しさや葛藤はありましたか。
唐沢:あれだけのセリフを早くしゃべるのは大変でしたよ。でも、役としての葛藤は全然ないです。ひどい男だったら、とことんやればいい。中途半端に「最後に救いがあるんじゃないか」と観ていても、1個もない男だから(笑)。完成した映画を観て、自分で「こんなにひどかったかな」とは思いましたけど。
――たしかに相当なキャラクターです。
唐沢:彼なりの正義はあるんですが、すごく歪んでいるんです。映画『ジョーカー』にはバックグラウンドがあるけれど、樺山にはそれも一切ない。人を人とも思ってない、ただのサイコパス。でもこれだけ人を小馬鹿にできる役はそうないから、面白いですよ。俳優だからこそできるものですから。
――観客の反応が楽しみですね。
唐沢:相当言われるんじゃないかな。しばらく身を隠さないとまずいかも(笑)。まあ言われるくらいがいいんです。映画自体は本当に面白いので、ぜひ観に来てほしいですね。それと、エンドロールが終わるまで、席を立たないでください。ラストのラストまで、樺山の行動は分かりませんから。ヒントは“音”です。
◆無名時代の“正装”はアメ横で買った「白い網タンクトップ」
――唐沢さんご自身についても聞かせてください。東映アクションクラブ出身でスーツアクターとしても活動されていましたが、当時の自分が今の姿を見たらどう思うでしょうか。
唐沢:「俳優になれたんだな」って驚くと思いますよ。当時の自分の最終目標は、街で誰かとすれ違った時に「あれ、あの人俳優じゃない? 名前はわからないけど」と思われることでした。そこまでできれば、もう自分のミッションは終わりだと本気で思っていました。
――それが最終目標だったんですか!?「主演スターになるぞ」ではなく?
唐沢:当時の俺なんて、夏場はほとんど裸同然の格好だったんですよ。アメ横で買った白い網のタンクトップ1枚とジーンズで、いっつも歩いていた。
――それは普段着ですか? お気に入りだったから?
唐沢:普段着です。洗ったらすぐに乾くし。裸じゃ困るけど、「暑いからそれでいいか」みたいな感じで。20歳くらいのときにショーパブでバイトしていて、あるお客さんに「あなた、こんなところにいる人じゃないから頑張らないとダメよ」とTBSの偉い人を紹介してもらったんです。その人に会いに行った時も、そのタンクトップでした(笑)。お金もないし、それしかなかったから。
――同じタンクトップを何枚か持っていたのですか?
唐沢:1枚だよ。それを洗っては着て、洗っては着て。アクションクラブのころからずっと着ていました。だからまあ、結構お気に入りだったってことだよね(笑)。
◆売れたら周囲が一変した。でも、変わった側も辛かったと思うよ
――スター俳優云々は別にしても、「役者として活躍できるようになってやるぞ!」という気持ちは持っていたわけですよね?
唐沢:もちろん、オーディションにもしょっちゅう行っていました。薬師丸ひろ子ちゃんの相手役とか。「あの人、俳優さんじゃない?」っていう最終目標のためにね。せいぜいそこまでは頑張りたいなと思って。
――その目標はとうに超えているなと感じられた瞬間は。
唐沢:たとえば『白い巨塔』をやったときに、みんなが打ち上げで盛り上がる中、俺は先に「明日仕事が早いので」って帰ったんです。実は、「これだけ当たってしまうと、次が大変だな」と考えていたんですよ。「これを超える作品に出合うことは難しいだろうな。もしかしたら一生ないかもしれない」と。そんなことを考えていたから盛り上がれなくて。
――やりきった感があったからでしょうか。
唐沢:ヒット作品って、時代とのマッチングがあるんだよね。だからうまく時代と合うものに巡り合えるかということもあって。1本あれば十分だとは思うんだけど、あの時はまだ40代だったし、すごく考えましたね。ただ最近で言うとWOWOWでやった『フィクサー』のときも同じ感情になりました。「こんなに面白い作品をやって、次が大変だ」と。一瞬、本当に絶望的になるわけ。
それと昔のことでよく覚えているのは、周囲が変わったと感じたこと。昔は、持って行った履歴書を目の前でゴミ箱に捨てられたりしていました。それが、売れたら途端に態度が変わる。
――正直「怖いな」と感じることもありましたか?
唐沢:思ったよ。でも、そうやって態度が変わる人たちも雇われているんだから変わらざるを得ないんだよ、嫌でも。昨日まで俺の履歴書を捨てていたやつが、今日は「唐沢さん、いらっしゃいませ!」って言わなきゃいけない。それも辛いものだと思うよ。
◆おじいちゃんになっても、同じ話をして同じように笑う
――当時のご自身から「これだけは忘れるな」というメッセージがあるとすれば?
唐沢:俺はね、たぶんほとんどのことを忘れていないと思う。今でも当時の仲間と忘年会をやったり、飲んだりしていますし。
――そうなんですね。それはいつのお仲間ですか。
唐沢:アクションクラブの時の仲間が多いかな。グループLINEで「何日空いてる?」って聞いてご飯を食べに行っています。「あそこから落っこちてケガした」とか『仮面ライダー』のロケで寒い採石場に行ったとか、昔話ばっかり。でもそれが楽しいんです。同じ話をして、同じように笑う。俺が一番年下だから、みんなもうおじいちゃんだけどね(笑)。
◆「TEAM KARASAWA」始動。62歳、新たなモチベーション
――昨年事務所から独立し、今年、山口智子さんとともに「TEAM KARASAWA」を立ち上げられました。大きな変化だったと思います。
唐沢:結構前から考えていたことではありました。お世話になっていた事務所の会長がお亡くなりになって。自分がなぜ仕事を頑張れるのか考えてみると「誰かのために」と思える相手、パッションがないと頑張れないんです。この人のために嫌でもやるとか、この人のために頑張るとか。その対象がいなくなってしまって、誰のためにやったらいいのかわからなくなっちゃった。だから独立をひとつの区切りにして、改めて考えようと思いました。
――仕事を頑張るという面で、かつての最終目標はとっくに飛び越えているわけですが、新たな目標設定は。
唐沢:もともと俺は「あの人、たまにテレビで見るよね、名前は出てこないけど」が目標だったんだから。それが今みたいな俳優になれるなんて誰が想像する? だからラッキーだったんです。その都度、いろんな人に助けられてきて。
――ではこれからも人との縁ですね。
唐沢:そうだね。自分から「助けて」と言っているわけじゃないんだけど、必要なときに声をかけたり、手を差し伸べてくれる人が、その時々にいるんです。
<取材・文・写真/望月ふみ>
映画『ミステリー・アリーナ』は全国公開中
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【望月ふみ】
70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi