「通学路で発砲事件があった」人気法律漫画の原作者が、無法地帯と紛争地域で知った“法のありがたみ”

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2026年05月28日 16:01  日刊SPA!

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よき法律家は悪しき隣人(7)
SNS上の誹謗中傷、フリマアプリのトラブル、多種多様なハラスメントーー。
情報が錯綜する社会で、ある日突然、厄介な揉め事に巻き込まれることがあるかもしれない。

そんな“明日は我が身”なテーマを、エンタメ要素を入れてセンセーショナルに描く作品がある。正直者の弁護士・比嘉亜希と、元詐欺師のアウトロー弁護士・八木渉がバディを組み、さまざまな法律問題を解決に導く漫画『よき法律家は悪しき隣人』だ。

本記事では、原作協力を務める那珂川さんにインタビューし、創作の裏側を紐解いていく。すると、紛争地域を訪れた際に得た経験など、法律を題材にしたストーリーを描く原点が垣間見えた。

◆本業はゲーム会社の経営者

ーーまずは、那珂川さんのご経歴を教えてください。

那珂川:初めに申し上げておくと、私は法律の専門家ではありません。どちらかといえばゲーム開発側の人間であり、インディゲームやアニメを企画開発する『TOKYOTOON』という会社を経営しています。

ーーそれは意外です。なぜあのような本格的な法律漫画を描けるのでしょうか?

那珂川:たとえば、命の現場に携わった経験がなくとも、徹底取材のうえ骨太な医療漫画を描く方がいます。私も同じイメージで、法律を学びながら作品と向き合っていて。弁護士の監修者と編集に囲まれ、リアルとフィクションの狭間で制作を重ねています。

◆無法地帯で“法のありがたみ”を感じた過去

ーーまだ、那珂川さんがリーガル漫画の原作を引き受けた理由がピンと来ていません。何か原体験のようなものはありますか?

那珂川:そもそも原作協力を始めたのは、さまざまなご縁のなかで打診をいただいたのがきっかけです。打診をいただいたのは、私のゲーム会社以前のサラリーマン経験や会社経営等の社会経験からだと思いますが、私が引き受けた理由を辿ると、海外旅行で紛争地域を訪れた経験が該当するかもしれません。

戦時中、もしくは争いが終わったばかりの地域では、法律が機能していないケースがあります。裁判所のみならず、警察すらまともにない。トラブルを解決する手段が失われている状態だといえますね。

旧紛争地域で聞いたのは「隣人が自分を殺しに来るかもしれない」という恐怖に日々晒される現実です。最終的には「命を奪われる前に、自分が隣人を殺しに行かなくては」という思考にたどり着くこともあるし、実際にそういうこともあったと聞きました。

法律や警察がないことはユートピアかもしれませんが、実際は非常に危険です。今の日本では災害が起きても無法地帯にはなりません。それはすぐに復旧されるという安心感があるからで、もしその保証が無くなったらどうなるかわかりません。こうした経験が、法律や社会の成り立ちへの興味を思い出させて、今回原作協力を受ける決め手の1つになりました。

◆紛争地域探訪がいつしかライフワークに

ーーなぜ紛争地域に? 海外を好きな方はいると思うのですが、わざわざ危険な場所に行く必要は⋯⋯。

那珂川:初めて海外旅行へ行った場所が、旧紛争地域のすぐ隣で。学生時代の留学生に会いに行くくらいの軽いノリで着いたら、国連スタッフが常駐していたり、難民の旧キャンプがあったりする、独特な空気を醸し出している場所でした。

でも地元の人は「隣の国は本当にいいところだよ、一度行ってみるといい。」なんて声が聞こえてくるんです。どうしても気になり次の旅行で訪れてみたら、たしかに景色も美しく、現地の人も日本人の感性に似ているなと思いました。でも社会問題は山積みで、敗戦から復興した日本との違いを感じました。

私の実家は貧乏だったけど、海外の現実を見て安定して豊かな社会があるから好きなことをしても生きていけたと感じたし、どうすればそういう社会ができるのかということを考えるようになりました。

そこから、紛争地域を訪ねるのが1つのライフワークになったような気がします。帰国後も、その地域の復旧に関わった日本人の国連スタッフが開催するイベントに足を運ぶようになりました。

◆荒れた地域で生まれ育ったから…

ーー旧紛争地域といえども、危ないイメージしかありません。

那珂川:そうですね。もちろん地域差はあるものの、“安定していない場所”という言い方が正しいかもしれません。

私が以前訪れたところでは、2つの民族が何十年と争っていました。国連の部隊が2者の地域の狭間にいて、観光客がそこを超えるようなら、住民からとんでもない形相で警戒されるような場所です。

話を聞くと、双方が相手方の軍ではない人間に殺されたと言う。逆に殺したであろう人もいました。国の命令で軍が市民を殺すのもあってはならないことですが、非常時に市民が市民を殺した場合、証拠も裁判も何もないし、手打ちの仕組みがない。永久に恨みが残る。戦争が終わっても復興どころじゃない。

別の国では街にミサイルが落ちてくるような経験もしましたが、それは国家間の戦争なので後方では治安は保たれていて、例の街の方が危険な雰囲気でした。まさに、法律のない世界を象徴したような出来事でした。

ーーやはり危険ですよね。紛争地域に出向くメンタルは一体どこからくるのでしょうか?

那珂川:私がもともと、当時ひどく荒れていた町の出身だからだと思います。ニュータウンでもヤクザがいたり、派手に万引しても地元のしがらみで誰も通報しない、喫茶店や通学路で発砲事件があり、繁華街一帯が頻繁に封鎖され、若者の行方不明者が多すぎて警察がまともに取り合わない、そんな危険と隣り合わせの場所で生まれ育ちました。

あまりに犯罪が多いからか、学校から名前とクラスをデカデカと書いた名札を貼ったジャージで生活しろと言われる。元国連の人に昔の話をすると、日本にもそんな地域があったんだと呆れられました。そのような環境にいたため、“安定していない場所”への抵抗が少ないのだと思います。

◆SNSには誤情報が蔓延している

ーー『よき法律家は悪しき隣人』のストーリーは、誰もが身近に感じるようなトレンディなものが大半を締めていますよね。

那珂川:ゲーム制作は年単位のプロジェクトなので、話題性のある事象を入れるのが難しいんですよね。一方で、トレンドを柔軟に取り込み、読む人を飽きさせない展開ができるのは週刊連載の強みです。

世の中の関心が高いタイミングで話題を提供できるので、読者からの反響も毎回新鮮なものになります。

ーー流行りのテーマに関しては、どのようにしてキャッチしていますか?

那珂川:周囲で起きた実際のトラブルは、まさに身近な問題として昇華できます。裁判を傍聴し、進行中の事件の争点を把握するのも手段の1つです。

最もトレンドのチェックに役立つのは、やはりSNSですね。とくに、誤った情報が広く拡散されていく様子を見ると、正しい知識を伝えられるようなストーリーを描くヒントになります。

ーーSNSで話題になった件は、たとえばどのようなテーマがありましたか?

那珂川:“事故物件”を題材にした回があります。世間で独り歩きしている印象が強いのが「一度誰かが住めば、事故があった事実は告知しなくてよい」という誤った認識です。しかし実際には、事故発生から3年間は告知義務があると、少し前に国土交通省によりガイドラインが定められました。

また、自然死のような事件性がないものについては、告知義務が発生しないケースがほとんどです。高齢者が自然死しても事故物件とされたら、高齢者と賃貸契約する事業者が減ってしまうからですね。でも昔からの間違った知識が浸透すると、現場の声を聞いて作ったガイドラインが無意味になりかねません。

日々ネガティブなニュースが散見される世の中ですが、私が覚えている昔に比べたら少しずつ生きやすくなっている側面もあります。正しい法律知識をエンタメ的に届けられたらいいなと思っています。

◆「主人公を2人」にしたのはなぜ?

ーー正直な弁護士の比嘉亜希と、元詐欺師でアウトローな弁護士である八木渉のW主人公にした理由をお聞きしたいです。

那珂川:裁判や悪事に対しては、2つの感情が存在すると感じています。1つは、法律の裏を突いてでも冷徹に勝ちたいという思い。過去に仲間と国にはめられた八木渉はそのような人物です。でも、もう1人の主人公比嘉亜希は、暖かく正直者であった弁護士の父親の下で育ち、人と法治を信頼して全てを詳らかにして世に問うて裁判に勝つべきなんじゃないかと思っています。

当初は、八木渉のみを主人公にするイメージでした。しかし、真面目に考えると権力も人間も信用できない社会の中で、裁判の二面性を立体的に描くためには、被害者の痛みに正面から向き合う比嘉亜希が必要だなと思いました。

◆いまの日本に疑問をもつ人に読んでもらいたい

ーー今後の展開で、お話できることがあれば教えてください。

那珂川:この作品には、身近な法律のテーマを一編ずつ取り上げていきながら、軸となる大きな物語が同時に展開する仕掛けを入れています。八木が背負っている大きなものが少しずつ判明していく様子を、目の前のストーリーを楽しみながら追ってもらえると嬉しいですね。

ーー最後に、どのような人に読んでもらいたいかを教えてください。

那珂川:若手のビジネスパーソンなど、いまの社会に疑問を持っている人が読んでいただくと、新しい気付きを得られるかもしれません。

あと、モーニングが掲げるキャッチフレーズのとおり、“読むと元気になる作品”として、いつかは自分ごとになるかもしれない法律問題を取り上げていくつもりです。

<取材・文/川上良樹>





















































【川上良樹】
エンタメ好きなフリーライター。クリエイターやアイドルなどのプロモーション取材を手掛ける。ワンドリンク制のライブが好き。

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