“火葬インフラ”はどうあるべきか 売却報道で注目される東京博善の公共性

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2026年05月30日 08:20  ITmedia ビジネスオンライン

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葬儀を取り巻く環境は? 住民への影響が大きい

 東証プライム上場の広済堂ホールディングス(HD)が、子会社の東京博善を米投資ファンドKKRに売却する意向だ、というニュースが駆け巡っている。買収額は1800億円規模だといわれている。


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 この話が広がったことで、広済堂HDの株価はストップ高になった。同社はこの報道を受け、「従来から東京博善を含む子会社の売却などさまざまな企業価値向上の施策を検討しているが、現時点で決定した事実はない」と発表している。


 この東京博善は最近、メディアでも話題になっていた。というのも、同社は東京23区の火葬で高いシェアを持つ企業で、その大株主として中国系実業家が関与していたことが注目を集めていたからだ。


 そして今度は、米投資ファンドの傘下に入る可能性が報じられたのだから、新たな議論を呼ぶ可能性がある。一見すると、外国資本を巡る問題が解消される好材料にも見えるが、論点は多岐にわたる。これは東京で暮らす1000万人超の生活インフラに直結する問題であり、経済安全保障の観点から議論される可能性もある。


●日本の葬送文化を支えてきた東京博善


 まず、東京博善について簡単に説明したい。1921年に設立された同社は、日本の葬送文化を100年以上支えてきた。年間の火葬取扱件数は約7万件で、23区内のシェアは約70%とされる。


 桐ヶ谷、落合、代々幡など6つの斎場を運営し、安倍晋三元首相やアントニオ猪木元参院議員の荼毘(だび)も執り行われた。皇室と縁が深い斎場もある。


 全国の火葬場の大半は公営だが、東京23区は事情が異なる。9施設のうち7施設が民営で、そのうち6施設を東京博善が運営している。背景には、戦前から都内で火葬場を運営してきた歴史的経緯がある。1948年の墓地や埋葬などに関する法律(墓地埋葬法)施行時に公営化すべきだったとの指摘もあるが、新たな火葬場の建設は住民の反対により極めて困難なため、同社が高いシェアを維持してきた。


 そして昨今、東京博善を巡ってメディアで話題になっていた最大の論点は、火葬料金の大幅な値上げだ。2020年までは6万円を切っていたが、段階的に引き上げられ、2024年6月以降は9万円。他県では1万〜2万円程度の地域もある中、文春オンラインによれば「4年間で約52%の増額」という。


 この値上げと時期的に重なったのが、親会社である広済堂HDの株主構造の変化だ。


 2019年には、米ベインキャピタルがTOB(株式公開買い付け)を仕掛け、村上ファンドや麻生グループも交えた争奪戦の末、最終的にラオックス買収などで知られる、中国・上海出身の実業家、羅怡文(ら・いぶん)氏が関連会社を通じて株式を取得。2022年1月には持ち株比率を40%超に引き上げ、筆頭株主になった。羅氏は現在、広済堂HDの会長CEOと東京博善の役員を兼任する。


 2025年6月には、鈴木庸介衆議院議員が「中国資本の影響による火葬・葬儀に関する質問主意書」を国会に提出。産経新聞も社説で取り上げ、東京23区の区長で構成する特別区長会も厚生労働相に法改正を要請した。


 東京博善側は「中国資本の影響は受けていない」と説明している。また、外国資本による経営への影響や個人情報管理についても、適切に対応しているという。一方で、さまざまな意見が出ている。


●どのような懸念があるのか


 重要なのは、KKRへの売却が実現しても、経済安全保障上の議論が続く可能性がある、という点だ。KKRは米国のファンドだが、グローバル投資家として世界各国の機関投資家から資金調達を行ってきた。買収後の経営体制、取締役会構成、データガバナンスの設計次第といえるが、投資家構成や経営体制を巡って議論が続く可能性がある。


 今後の経営体制次第では、複数の懸念が残る。第一に、個人情報の問題。火葬場は故人と遺族の膨大な個人情報を扱う。個人情報管理のあり方について、前述の質問主意書でも指摘された。


 第二に、要人情報の問題。東京博善の施設は元首相や皇室関係者の葬儀なども担う。こうした情報の管理は重要度が高い。そして第三に、料金や運営方針によって都民の生活に大きな影響を与えかねない、公共インフラとしての影響力の大きさだ。


 そして見落とされがちなのが、東京博善が蓄積してきた火葬技術や運営ノウハウの価値である。週刊エコノミストの2020年の記事で、同社の元社員はこう語っている。


 「中国は土葬社会だが、土地不足から共産党の指導で火葬への切り替えが始まっている。中国では火葬インフラ整備が進められており、日本では、民間企業としては先行的に火葬に関する運営ノウハウや技術を蓄積している。中国での火葬事業展開を見越して羅氏が買収に関わったと言われた」


 火葬技術とは、単に炉をたく技術ではない。排煙処理、エネルギー効率、遺骨の品質維持、稼働率最適化、衛生管理などを総合した技術で、「死者の尊厳」を保ちながら、短時間で安定的に火葬する必要がある。中国で火葬需要の拡大が見込まれる中で、数兆円規模の市場へ発展する可能性もある。仮にKKRが買収後、中国市場向けに、この技術をライセンス供与や合弁事業の形で展開すれば、日本の技術やノウハウの海外展開につながる可能性がある。


●「死者を見送る」営みをどう捉えるべきか


 さらに、根本的な問いもある。火葬は日本人の生活と死生観にとって、欠くことのできない要素だ。ほぼすべての日本人にとって、人生最後の通過儀礼であり、料金、待ち時間、儀礼の質、データの扱いなど、極めて公共性の高い問題だ。ここに外国資本が関与することの是非は、本来正面から問われるべきテーマだ。


 ここで参考にしたいのが、2026年4月22日、アジア系ファンドMBKパートナーズによる牧野フライス製作所の買収計画に対して、政府が外為法に基づく中止勧告を出したケースだ。2017年の外為法改正後では初のケースで、中止勧告自体も約18年ぶりだった。


 牧野フライスの高性能工作機械は、防衛装備品の製造に広く使われており、「軍事転用可能性が特に高い機微貨物を製造し、関連する技術・情報を保有する」ことが「国の安全等に係る対内直接投資」に該当すると認定された。


 類似する論点として捉える見方もある。東京博善の火葬事業は首都圏住民の生活に大きく関わっており、要人に関する個人情報も扱っている。また、海外市場でも活用できるノウハウが蓄積されている。「他の情報と組み合わせることで国の安全に係る機微情報となり得る」という論理が今回のケースにも当てはまるだろう。火葬事業を外為法のコア業種、あるいは経済安全保障推進法の基幹インフラに追加指定することも視野に入れる必要があるかもしれない。


 今回の報道は、単なる一企業のM&Aニュースではない。火葬料金の妥当性や独占の是非、外資規制のあり方、技術流出への備え、そして公共インフラとしての火葬の重要性が関わる問題だ。東京都と政府が連携し、議論を進める必要があるかもしれない。死者を見送るという、最も身近で最も厳粛な営みを、誰がどのように担うべきか。都民とすべての日本人が当事者である。


(山田敏弘)



このニュースに関するつぶやき

  • 公共インフラが投資ファンドに買収されるのはまずいよ。ご遺体って人間が最後に見せる秘匿したい個人情報だよ。言葉を変えれば葬儀業は情報産業。それが次々と海外資本に転売されていくのは不安でしかないよ小池知事
    • イイネ!1
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