2026ル・マン24時間レースでワン・スリーフィニッシュを飾ったトヨタ・レーシング。小林可夢偉、平川亮、中嶋一貴チームディレクターが取材会で喜びを語った。 6月16日、トヨタ・レーシングは6月13〜14日にフランスのサルト・サーキットで開催された2026年WEC世界耐久選手権第3戦『第94回ル・マン24時間レース』に関し、チーム代表兼7号車ドライバーの小林可夢偉、8号車ドライバーの平川亮、そしてチームディレクターを務める中嶋一貴が参加するオンライン合同取材を日本人メディア向けに実施し、ワン・スリーフィニッシュを飾った戦いを振り返った。
WECハイパーカークラスに7号車、8号車という2台のTR010ハイブリッドで参戦するトヨタ・レーシング。2026年のル・マン24時間レースではキャデラックやBMW、フェラーリといったライバルと同一周回の争いを繰り広げ、マイク・コンウェイ/可夢偉/ニック・デ・フリース組の7号車が381周を走りきり、2位の20号車BMW MハイブリッドV8に10.913秒差でトップチェッカー。通算6勝目で4年ぶりのル・マン制覇を果たした。
セバスチャン・ブエミ/ブレンドン・ハートレー/平川がドライブした僚友8号車も一時首位を走行するなどの健闘をみせ、ブレーキドラムの修復作業を強いられる場面もあったがトップと20.417秒差の3位表彰台を獲得。新生トヨタ・レーシングのル・マン初年度をワン・スリーフィニッシュで飾った。すでにプレスリリースなどでコメントは発表されているが、取材会では3人の言葉で、改めて喜びが語られた。
■「すべてがうまくいったとは言い切れない」も、2台で掴んだ優勝
まず2021年以来となる2度目の総合優勝となった可夢偉は、冷静な分析で「本当にミスができない中でのレースでしたし、すべてがうまくいったとは言い切れない部分もある」と語り始める。それでも「そういったときでも、自分たちのマネジメントをできるだけ最大限にやりつつ、勝負するところではしっかりと勝負をして、最終的にトップ争いをすることができました。2台揃って優勝争いができたということが、一番大きかったのかなと思います」と、チームとしての総合力を勝因に挙げた。
今季からはニューマシンのTR010ハイブリッドに車両を刷新したことについては「TR010を投入して、クルマがしっかりと進化した姿を見せることができました。また、チームとしても強くなった部分を見せられたので、本当にチームにも感謝していますし、最大限の力を出してくれたドライバーにも感謝したいですね」と喜んだ。
一方で、3位フィニッシュとなった8号車の平川は「一年前にすごく悔しい思いをチーム全員がして、今年からクルマをTR010に新しく変えてということで『これで負けたら』というくらい、ものすごくチーム全員で準備してきました」と語り、最後まで接戦が続いたことを振り返りつつ複雑な心境を明かした。
「やはり、チームとして優勝できたことはすごく嬉しいです。一年間頑張ったことが結果に出たと思うので、どちらかというとほっとしたような気持ちもありつつ、戦いはもっと厳しくなるので、レースが終わってからは『どうしたらさらによくできるのか』をいろいろと考えているような状況です」とコメント。平川によると「半分嬉しくて、半分悔しいような」複雑な感情だという。
そして一貴チームディレクターは「正直ツキがあった部分もあるなと思いますけど」と前置きしたうえで「でも、最後は上位に2台いたことが優勝に直結した一番の要因になったと思います。本当にチームの総合力で掴み取った優勝だと思います」と、勝因はチームの底力にあると述べた。
■可夢偉の勝利確信は「最終コーナーを立ち上がったとき」
可夢偉は『勝利を確信した瞬間は?』という問いについて、過去のル・マンで幾度となくドラマを経験してきた可夢偉らしい言葉で次のように語った。
「正直、勝利は最終ラップまで確信していませんでした。いろいろなことが過去にあったので、やはり最後の最後まで何が起こるか分からないということも含め、本当に勝利を確信できたのは最終コーナーを立ち上がってアクセルを踏んで加速したときに『ここだったらエンジンが切れてもチェッカーを受けられるな』というところで初めて確信したくらいでした」と明かした。
可夢偉の7号車は深夜帯にドライブシャフトセンサーの故障によりストレートスピードが低下。可夢偉自身も「勝負は厳しいかなということは少し覚悟していました」と言うが、逆境の中で転機が訪れた。
「淡々と走ろうと気持ちを整理していましたけど、僕が乗っている朝方にセーフティカーが導入されたときに、ダメとは言いつつも、そこそこいいポジションだったので『できるだけやってみよう』と走ったら結構速かったんですよね。で『あれ? これいけんじゃね?』と思い始めました。そこからは僕らに流れが向いてきたという思いは正直ありますね」
■トヨタの最高速はライバルと比べて「下がなくて上がある」
また、可夢偉はライバル勢との最高速について「ストレートスピードに関しては僕らの方が実質的な馬力はあるんですよね」と語り、興味深い分析を述べる。
「馬力があるという言い方も変かもしれませんけど、他車は下があって、対する僕らは下がなくて上があるみたいな設定なんです。そういったこともあり、最高速ではそこそこ追いつくんですけど、下がないのでスリップストリームに入る前に離されてしまうという状態が大きかったです」
平川も「例えばキャデラックが12〜13周のスティントを走っているときは(アクセルを離す)リフトオフをしていたので、トップスピードで追いつくような場面はありましたし、僕らのほうがBMWよりも速いような印象もあったので、状況次第かなと思います」と指摘。このあたりは走行条件によって変化がありそうだ。
そう語る平川の8号車はレース中盤までトップ争いを繰り広げる活躍を見せていたものの、ドライブスルーペナルティとブレーキドラムの修復作業などで3位フィニッシュとなった。終盤に向けて不運が重なったが「修復後の影響はまったくなかったです。メカニックが見つけてくれなかったらDNF(リタイア)になっていた可能性もありました」と、ピットの仕事がレース継続を可能にしたことを強調した。
「アップダウンがあった24時間レースだったと思います。最後はトヨタ・レーシングとして勝利することができたので、自分としてもすごく嬉しいですし、僕としてはベストを尽くすことができたので、悔いは何も残っていません」と平川は言い切った。
■最終盤の逆転劇を生んだ戦略分岐と、気になる水素エンジンの将来
そして、ピットで戦いを見守った一貴ディレクターは改めてトヨタ・レーシングの勝因について「やはり、レースの最後に2台が上位にいたことが大きい」と語り、ワンチームで掴んだ勝利だったと振り返った。
「7号車はセンサートラブルでストレートスピードが足りない状況があり、正直、夜中くらいには『7号車は厳しいかな』という空気が漂っていました。ただ、そんななかでも諦めずに最後まで走行を続けましたし、センサートラブルは100%ではないにしても、レース終盤には少し回復気味でした。その流れがあったのと、あとは最後にセーフティカーでリセットされたときに、7号車と8号車で戦略を分けることができた部分も勝因だと思います」
「ピットに入るタイミングが8号車とキャデラックが同じで、7号車が1周後に入るタイミングだったので、そこで戦略を分けたことが、最終的な7号車優勝に繋がったのかなと僕は見ていて思いました。なので、8号車には少し酷になってしまいますけど、本当にタイミングといいますか、そういった部分で流れが最後に7号車に傾いたのかなというふうに思っています。ただ、あそこで8号車がいなかったら7号車の戦略は採れなかったかもしれないので、本当にチームとしての結果だと思います」
ちなみに、2030年のレギュレーション策定に向けた動きとして、今大会では6月11日にトヨタの液体水素エンジンを搭載する『TR LH2レーシング・プロトタイプ』がデモランを実施。取材会では、ドライバーを務めた一貴がマシンの印象と今後の見通しについて語る場面もあった。
「2030年のレギュレーションに関しては、まだまだ方向性といいますか、骨組みと言えるほどなのかも分からないですけど、それが発表されただけなので、まだまだこれから詰まっていく段階なのかなと思っています」
実際に液体水素エンジン搭載プロトタイプマシンをドライブした一貴は、そのポテンシャルに「エンジンフィーリングはガソリンとまったく遜色なく、なんだったらガソリンと良い意味で違う部分もある」と期待を込めつつも、一方で「液体水素の取り回しやインフラなどは、まだまだ解決しないといけない課題がたくさんあることは改めて実感した部分もあります」と克服すべき課題の多さも認めた。
それでも「まだまだスタート地点だとは思っていますけど、将来に向けてそういった目標ができるという期待があるのは間違いないです。トヨタがどうやってコミットしていけるかは、まだまだ時期尚早だと思いますけど、個人的にはすごく期待したい技術だと思っています」とまとめた一貴ディレクター。
なお、水素エンジンの“音”については「ハイパーカーと同じエンジンをベースに作っているので、少なくともサウンドはTR010ハイブリッドと同じような音圧や音量がしていると思いました。個人的には、水素の方が綺麗に燃えてそうな音がするなとも感じました」とも語った。ただ、その音は「聞き比べてもらわないと表現のしようがない」と一貴は笑い「いつかお楽しみに」と締めくくった。
[オートスポーツweb 2026年06月16日]