限定公開( 6 )

里山で撮影された一枚の写真がある。薄暗いなか、クマが照明のスイッチを入れた瞬間をとらえたものだ。
「ライトと撮影機材を設置し、夜間のクマの行動を観察しようとしていたところ、現れたクマが照明器具に興味を示し、前足でいじっているうちにスイッチが入った。まるで自分を撮影するために、自ら電灯のスイッチを入れたみたいですよね」
そう語るのは、クマ研究を50年以上続ける日本ツキノワグマ研究所の米田一彦所長。各地でクマの出没が相次ぎ、東北だけでなく、奈良県や京都府の天橋立、兵庫県の宝塚市や西宮市など、西日本の市街地でも目撃情報が目立つようになっている。
6月2日には、福島市内の工場や住宅地にクマが現れ、複数の人を襲ったあと工場内に居座り、最後には窓から外へ逃げたとされる。窓にはカギを開けたような傷跡が残っていたという。さらに、このクマは水道の蛇口に前足を当て、水を飲む姿も目撃されていた。
サッシのカギを開け、水を飲むために蛇口を開ける──。人間の道具を理解しているようにも見える行動に、福島市の馬場雄基市長は緊急会見で「極めて知能が高いクマだ」と語っている。
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実際、米田さん自身も、驚くような体験をしている。
「ある日、家に帰ると玄関の引き戸が少し開いており、なかには40kgほどのクマがいました。クマは横開きの戸を開けて侵入していたんです。さらに、長靴をくわえて逃げようとしていたから、『置いてけ!』と目の前のサンダルを投げたら、尻にあたって長靴を放しました。その中を確認すると、ドッグフードの粒が山ほど出てきたんです」
クマは、長靴を「容器」のように使って、エサを運び去ろうとしていたのだ。偶然では片づけにくい行動の柔軟さ……。やはりクマは進化しているのだろうか。
しかし、米田さんの見方は少し違う。
「クマがスイッチや取っ手に興味を示すのは、人間の手のにおいが濃く付いているからでしょう。においに惹かれて爪で何度も触るうちに、結果として電灯のスイッチが入ったり、ドアのレバーが下がったりする。つまり、クマが人間の仕組みを理屈として理解しているというより、人間の生活環境に何度も接するなかで行動として覚えていったのでしょう」
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米田さんは、これを「進化」ではなく「順応」と表現する。
「昔に比べてクマそのものが別の生き物に変わったわけではない。人里に食べ物があり、人間の建物や道具に触れる機会が増えたことで、もともと持っている学習能力や器用さが、人間の目に見えやすい形で表れているのです」
サッシを開けるのも、蛇口に触れるのも、長靴を容器として使うのも、人間環境への高い順応力の結果といえる。
もちろん、だからといって危険性が低いわけではない。戸締まりを徹底し、クマのエサになり得る食べ物の管理に注意し、目撃情報には敏感になる。まだまだクマの出没は続く。くれぐれも油断せず、身を守る行動を心がけよう。
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