
サッカーW杯で日本代表が一次リーグを突破した。決勝トーナメントはブラジルに惜しくも敗れたが、一次突破が目標だった時期は過ぎ、代表の実力向上に伴いファンの期待値も上がっている。代表選手の多くは欧州のクラブチームに所属し、世界トップレベルの中で鍛えられている。
これらの代表選手のようにビジネス分野でも「世界からもっと学ぶべき」と話すのは、EYストラテジー・アンド・コンサルティング(EYSC、東京都千代田区)で公共・社会インフラセクターパートナーを務める経験豊かなスポーツコンサルタントの岡田明さん。EYSCで約30人のスポーツコンサル部門を率いる。「成長する欧米のスポーツビジネスのやり方には日本のスポーツビジネスが伸びるヒントがある」と語る岡田さんに、これからの日本のスポーツビジネスの在り方やスポーツコンサル業界の展望などについて聞いた。
◆僕らは「スワンボート」◆
―スポーツコンサルタントには華やかなイメージがあります。目指す若者は多いのでは?
華やかなイメージは人気スポーツからきていると思います。私はスポーツコンサルタントの仕事をよく“スワンボート”と表現します。“白鳥”が水面を優雅に泳いでいても、われわれは一生懸命、ペダルをこいでいる。この必死にペダルを足でこぐところを忘れてはいけない。「机上の空論」は避けたいので、僕らのメンバーはひたすら“現場”に行くよう努めています。
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―スポーツコンサルタントの仕事をかみ砕いて教えてください。
スポーツコンサルタントを一言で説明すると、スポーツ業界の企業、団体、関係機関にコンサルティング(助言)する専門家ですが、“スポーツ”と“コンサルタント”を分けて説明します。いわゆる「スポーツ(業界)」に対する捉え方・イメージがおそらく、僕らスポーツコンサルタントと一般の方では大きく異なると思うからです。まずコンサルタントですが、これは、専門知見を提供して組織の変革をお手伝いする専門家と理解してもらえればいいと思います。例えば、企業を取り巻く外部環境(政治経済、社会情勢の変化など)や内部環境(人材配置の硬直化など)を踏まえ、顧客企業の業種・業態の専門性や他業種・業態の事例も参照し、事業計画書を作成するなど顧客企業の変革のお手伝いをするようなことが基本的なコンサルティングです。
―スポーツコンサルタントがイメージする「スポーツ(業界)」とは。
スポーツコンサルタントはスポーツ業界に対してサービスを提供しますが、この「スポーツ業界」の定義が意外と難しいのです。 一般の皆さんがすぐ思い付くのは、例えばプロ野球やサッカー、バスケなどのプロ興行の世界でしょう。またオリンピックなどのいわゆる国際スポーツイベントを行う人たちの業界も浮かぶでしょう。さらに広げるとアマチュアスポーツの世界も入ります。そしてスポーツ選手もスポーツ業界の人と言われます。そのほか、試合を主催したり、放映したり、報じたりする新聞・テレビ・ウェブ配信などのメディア、チームのマスコットなどのグッズや試合の放映権を扱う業界も、スポーツ用品を販売するスポーツメーカーはもちろん、スポーツ関連ユニフォームや帽子などを制作、販売する人たちもスポーツ業界に含まれます。スタジアムやアリーナ建設に関わる不動産デベロッパーや自治体などの公的機関も入ったりします。このように僕らが対象にするスポーツ業界は「巨大な複合体」です。
◆点から面展開へ転換◆
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―かなり広い業種・業態が関係していますね。
このような「スポーツ業界」の複合的な要素をどう掛け算して、マネタイズ(収益化)し、エコシステム(共生関係)をつくるか、などのアプローチをしているのがわれわれスポーツコンサルタントです。もちろん、さまざまな業種・業態が関わってくるので、コーディネーター役も務めますが、同時に将来を見通す先見性も必要です。
―先ほどのスワンボートの例えで言えば、こぐべきペダルは多いですね。
プロスポーツ興行やメディアに関する専門性に加え、販売グッズに関わるマーチャンダイジング(商品化計画、販売戦略)や流通業の知見、スタジアム・アリーナ建設の不動産開発知識、さらに事業を回すお金に関するファイナンスの知識なども必要になります。私は前職時代も含めこれらの分野のコンサルティングを行い、専門性・知識を磨いてきたので、私の意識としては実は満を持してスポーツコンサルタントをやっています。このかなり多岐にわたるスポーツ業界をミックスしてデザインしていかなければいけない。これはなかなか難しいと個人的には思っていますが、これまでのビジネスポートフォリオの区分には収まらない最先端のビジネスモデルだと自負しています。
―岡田さんのいう「スポーツ業界」はまだまだ広がりそうですね。
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われわれのスポーツコンサルチームはどこにでも現われます。スポーツは“触媒”と思っています。われわれスポーツコンサルタントはスポーツという触媒作用を通じて広がる世界にどこにでも入っていける業態です。これまでは、例えば、スポーツ興行やメディア、補助金が絡むスポーツ行政など、いわば“点”、“断片”だけのコンサルが大方だったと思います。でもわれわれは点ではなく“面”できちんとスポーツビジネス全般のデザイン(エコシステム)を描きます。ここはわれわれにとって大事なポイントの一つです。
◆必要な“自走”経営◆
―これからの日本のスポーツビジネスに必要なことは何ですか。
プロスポーツに関してだと、やはり各クラブ(チーム)が経営的に“自走”できる状態にならなければいけないと思います。いわゆる「親会社の補填(ほてん)がいらないモデル」の追求です。従来に比べればこのモデルを追求するクラブは確実に増えていると思います。われわれへの問い合わせも多くなっており、自走モデルを追求するクラブへの伴走支援の機会が増えています。
―海外、特に欧米のスポーツビジネスから学ぶべきことは何ですか。
いっぱいありますね。私は海外のスポーツをビジネス視点から幅広く観察しています。サッカーならプレミアリーグ(イングランド)、ブンデスリーガ(ドイツ)、ラ・リーガ(スペイン)はもちろん、アメリカのメジャーリーグサッカーに関心を持っています。この後発のメジャーリーグサッカーがどのようなエンターテイメント・IP(知的財産)ビジネス戦略で、先行するアメフト・バスケ・野球のアメリカ三大スポーツの間に割って入っていくのか参考にしています。バスケは、NBAのほか大学バスケのNCAAにも注目しています。テニスのウィンブルドンなどの「グランドスラム」(世界4大大会)やフォーミュラワン(F1)は、世界のセレブを集めるハイレベルなホスピタリティーで価値を高める仕組みに着目しています。海外のF1をいくつか見に行って分かったのですが、VIP客に対するホスピタリティーが徹底していて、同じシェフとスタッフが24戦すべてに帯同し、目の前で調理し食事とお酒を振る舞う仕組みになっています。食の高いクオリティーを保つためです。こういったホスピタリティーがF1の価値を高めている一つの側面であることは無視できないと思います。 世界のプロスポーツを全方位的に体感して研究しています。現地に行って体で感じなければ分からないことがたくさんあります。
―日本のスポーツビジネスに実際に取り入れた海外事例の取り組みは。
例えば、キャラクターグッズなどのIPビジネスを、その分野の専門の会社に任せる手法です。IPの“プロ”に任せてリターンを得るモデルです。IPビジネスのプロからはクラブ内では考えられない発想が出てきます。例えば寝ている姿でキャラクターを人気者にしたり、不人気でお蔵入りになった先代キャラクターを新たな物語の枠組みで復活させたりするなど、柔軟な発想でIPビジネスを盛り上げることに成功しています。稼ぐポイントはまだまだあるはずです。日本のスポーツビジネスはもっと大きくできます。
◆スポーツの地域貢献とは◆
―ほかにも取り入れた海外事例はありますか。
海外のプロスポーツクラブの地域貢献の取り組みです。日本でも少しずつ浸透しているものの、まだ一般的にはなっていないと思います。とても参考になる取り組みです。例えばJリーグは地域貢献を掲げていますが、中身としては地域のイベントに選手が参加するような形態が多いかと思います。海外のクラブは地域貢献をする別組織を財団化するなどして作り、クラブとは別の活動エンティティー(実体)を立ち上げて地域貢献活動を行っています。クラブは競技、ビジネス、財団は地域貢献活動にそれぞれ専念する。クラブ経営のプロ、チャリティーのプロがそれぞれ分野を究めることができます。もちろんヨーロッパのサッカークラブほどは商業的に成功してないので、あまり余力はないかもしれませんが、参考にすべきアプローチです。スポーツの価値をさらに高めていくためにはとても大切です。地域を元気にすることはスポーツビジネス、スポーツコンサルタントの欠かせない大きな目的です。最近は「学校の運動部活動の地域移行」なども言われており、地域の青少年教育の観点なども踏まえ、欧州のクラブとは社会背景が異なるかもしれませんが、多様な地域貢献の在り方を日本のクラブは模索していくべきだと思います。
―海外にはいろいろなヒントがあるわけですね。
海外ではスポーツビジネスがとても伸びているのに、日本の一般企業はまだスポーツの価値を十分活用しきれていないと思います。日本のグローバル企業は、世界の中の日本を語る上でスポーツをもっと活用すべきだと思います。スポーツを使って企業価値、株価を上げることも可能だとわれわれは考えています。
―スポーツコンサルタントを目指す人へのメッセージを。
まだまだ伸びしろのある業界です。欧米のスポーツビジネスの産業規模は日本の4〜10倍ぐらいあると推定されています。成長のヒントは欧米にあります。多くの人がスポーツの価値にもっと気付いていただければビジネス仲間はさらに増えるはずです。アジアのスポーツ熱も高まっています。日本やアジアのスポーツの価値をもっと高めていけば、欧米の人が観たいものに変わり、放映権ビジネスの可能性も出てきます。一緒に日本やアジアのスポーツビジネスをさらに大きくして、スポーツを触媒に日本社会を元気にしていきましょう。

