新卒一括採用はもう限界か AI時代に“内定が出ない”人材とは

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2026年07月02日 08:20  ITmedia ビジネスオンライン

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新卒採用の在り方を見直す時代に

 「来年も例年通り、若手を30人採用していいんでしょうか」


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 ある製造業の人事部長が社長にそう尋ねた。社長の答えは、これまでとは違っていた。


 「本当にそれだけ必要なのか、もう一度考えてくれ」


 これまで当たり前に続けてきた新卒一括採用に、疑問が突きつけられた瞬間だった。なぜ今、こうした問いが生まれているのか。背景にあるのは、生成AIの急速な普及だ。


 今回は、生成AIの普及によって採用のあり方がどう変わっていくのかを解説する。新卒採用を担当する人事部門はもちろん、若手の育成に悩む管理職も、ぜひ最後まで読んでもらいたい。


●新卒一括採用という仕組みが揺らいでいる


 日本の労働市場で長年当たり前とされてきた「新卒一括採用」。そのスタイルが、いま大きな岐路に立たされている。


 これまで新入社員に任せていたデータ入力、リサーチ、議事録作成、基礎的なコーディング――こういった定型業務を、AIが瞬時に、しかも高い精度でこなすようになった。


 「とりあえずポテンシャルを見込んで若手を大量に採用し、簡単な業務からゆっくり育てる」


 そんな従来の採用手法は、見直しを迫られている。実際、組織的にAIを活用する企業の約9割が、新卒採用の戦略を見直しているという。しかも約6割が、採用人数を削減したという調査結果もある。


 冒頭の人事部長のような問いは、今、多くの企業で生まれているのだ。


●「下流工程」をAIが奪う構造


 なぜこのような変化が起きているのか。理由はいくつもあるが、私は業務の「上流工程」と「下流工程」の逆転に注目している。


 従来の日本型雇用では、新卒社員はまず文書の下書き、データ整理、定型対応といった下流工程を任されてきた。そこでOJTを通じて組織の暗黙知や業務の基本を覚えた。経験を積みながら、要件定義や戦略立案といった上流工程の管理職へとステップアップしていく。これが、一般的な育成パイプラインだった。


 しかし、若手が担ってきたこの下流工程こそ、AIが最も得意とする領域なのだ。


 ビジネスの世界では「AIが人間の仕事を奪うのではなく、AIを使いこなせる上流工程の人間が、AIを使いこなせない下流工程の人間の仕事を奪うのだ」と広くいわれるようになった。


 上流の担当者がAIを使って一瞬で資料作成を終わらせてしまえば、下流専門の若手の出番はない。米国では戦略コンサルティングファームや投資銀行といった業界で、すでに新卒採用の縮小が報告されている。若手1人あたりの生産性が2〜3倍に跳ね上がっているせいだ。


 スタンフォード大学などの調査によると、AIの影響を最も受けやすい職種(ソフトウェア開発、カスタマーサポートなど)」に限定すると、22〜25歳などの若年層の就業者数が過去約2年間で1割以上減少したというデータや分析結果が報告されている。


 日本でも、共同通信社が主要企業111社を対象に実施した「2027年度入社の新卒採用に関するアンケート」によると、2027年度入社で新卒採用を「減らす」と答えた企業は、5年ぶりに「増やす」を上回った。


 ただし、日本と米国では背景が少し異なるようだ。


 日本は少子高齢化による構造的な人手不足があるからだ。米国のような急激な変化は起きていない。しかし


 「無理に新卒を採るよりも、AIで代替したらいい」


 という動きは間違いなく加速している。


●日本特有の「経験格差」という危機


 ここで、日本特有のリスクを指摘しておこう。


 前出した通り、超少子高齢化の影響もあって、雇用自体は守られるだろう。しかし若手が下流工程で「自ら手を動かし、失敗から学ぶ」機会はどうしたらいいのか。その機会は、AIの登場によって確実に減ってきている。


 AIが作った成果物をただ承認するだけの若手が「経験豊か」になることはない。


 経験→内省→概念化→実践


 といった「経験学習プロセス」を自ら回すことがないなら、永遠に「経験不足」のままである。そんな人が、5年後、10年後に管理職になったとき、いざというときの例外対応や高度な判断はできないだろう。まさに「現場力の空洞化」が起きると言える。


 これは目に見えない「経験格差」として、企業の中長期的な競争力をむしばんでいくリスクになる。


 新卒一括採用を見直すこと自体は、時代の変化として理解できる。しかし、若手の育成方法そのものは再設計しなければならない。そうしないと、中長期的に見て、組織力は大幅に落ちていくだろう。


●これからの採用方針、3つの転換


 では、企業はどのような採用方法へ移行すべきか。大きく3つの転換が求められる。


1. スキルベース採用への転換


2. 業務設計を起点とした採用計画


3. 通年採用との融合


 一つ一つ解説していこう。


スキルベース採用への転換


 学歴や年齢といった属性中心の「ポテンシャル採用」から、具体的なスキルを重視する採用へと転換する必要があるだろう。


 何ができるか。テクノロジーをどう活用できるか。新しい知識をどれだけ素早く学習できるか。こうした観点を重視する採用方法が、今後の主流になるはずだ。


業務設計を起点とした採用計画


 採用計画は大幅に修正されるだろう。「新卒を何人採用するか」といった従来の人数目標は見直すべきだ。「どの業務をAIに任せ、どの業務を人間が担うのか」という緻密な業務設計を、先に行う必要がある(まさに、これこそが上流工程の仕事である)。


 先に人数を決めてから業務を割り振る、という順番ではうまくいかない。


通年採用との融合


 現在は「即戦力志向」が高まっている。だからこそ新卒一括というスタイルは重要視されなくなっていくだろう。


 キャリア採用とともに通年採用も拡大するはずだ。面接だけでは測れないAIへの適応力を、早い段階で見極めるプロセスが不可欠になっていくと考えられる。


●これから求められる4つの人材像


 最後に、AIには代替できない、企業が積極的に採用すべき人材像を整理しておきたい。


 第1に、「問いを立てる」力のある人材だ。


 問いの立て方までAIに質問していたら、いつまで経っても上流工程の仕事はできないままだ。


 第2に、深い業界知識と審美眼を持つ人材だ。


 AIが生成した資料は、一見もっともらしく整っている。しかし実運用のエラー処理や現場の暗黙知が欠落していることが多い(これは本当に痛感する)。現場のプロセスや業界特有のルールを深く理解し、AIの出力が本当に使い物になるかを評価(クリティカルシンキング)できる人材が重宝される。


 第3に、最終的な「責任」を引き受けられる人材だ。


 少なくとも今のところ、AIが自律化したとしても、成果物に対する法的・社会的責任を負うことはできない。障害が起きたとき誰が説明するのか。事故の際に誰が意思決定するのか。この責任を担えることが、人間に残される最大の価値の一つだろう。


 第4に、変化に柔軟に適応する人材だ。


 AI時代に関わらず、いつの時代も柔軟性は求められる。昨日まで熟練した人間がやっていたことが、明日にはAIによって自動化される、そんな時代になった。過去の成功体験に固執する人材は生き残れない。学び続け、習得したスキルを変化する仕事に結びつけ直す力が求められる。


 AIが速く正確にこなせる作業を奪い合うのではなく、AIにはできない判断や責任の領域で力を発揮できる人材かどうか。これが、今後の採用基準の核になっていくだろう。


●採用の問いを変えるべきとき


 AIの普及は、単なる業務効率化にとどまらない。日本企業が長年依存してきた「新卒一括・ポテンシャル採用・OJT育成」という雇用スタイルを、根底から揺るがしている。


 「とりあえず採用して、現場の雑務を通して後から育てる」


 という発想などしていたら、企業は生き残れない。なぜなら日本企業は、いったん採用した以上、その雇用を守ろうとする文化が根強いからだ。「問いを立てられない」「経験が不足している」「責任感が足りない」「変化に対応できない」といった人材が組織に増えれば、組織の機動性は大きく落ちていく。


 多くの企業は、冒頭の人事部長のように、一度立ち止まって「問い直す」ことから始める必要があるだろう。



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