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働く人が「今の会社を辞めたい」と考える理由が変化している。人材サービスのランスタッド(東京都千代田区)の調査によると、転職を考えている人が挙げる理由では、これまで1位だった「不十分な報酬」を抑え、「ワークライフバランスの改善」がトップとなった。
(※)インターネットを使った調査で、18〜65歳の学生・就業者・非就業者が回答(4464人)。調査期間は2026年1月。
前年と比較すると、報酬は32%から31%への1ポイント減、ワークライフバランスは30%から33%への3ポイント増にとどまり、数値の変化そのものは大きくない。順位が入れ替わったのは、他の要因との差が縮まったためだ。
ランスタッド広報部長の斎藤潤子氏は「価値観が多様化し、給与さえ高ければ、ほかの条件は我慢するという考え方が通用しなくなってきている」と語る。
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ただ、給与の重要性が低下したわけではない。「理想の企業に求める条件」の1位は依然として「給与と福利厚生」だ。
さらに、同社が毎年実施している別の調査でも、2025年の就職先選びで重視する項目では、ワークライフバランスが報酬を上回った。複数の調査で同様の傾向が確認されており、斎藤氏は「一過性の変化ではない」と指摘する。
こうした変化が一時的なものではないとすれば、企業側も働き方の見直しを迫られることになる。ワークライフバランスについて、企業はこれまでどう向き合ってきたのか。そして、働き手が本当に求めているものと一致しているのか。
●変化の要因
斎藤氏は、変化の要因として3つを挙げる。1つめは、VUCA(※)と呼ばれる、先行きが見通しにくい時代の到来だ。会社が一生雇用を守ってくれるという期待は薄れ、市場で通用するスキルこそが安定につながると考える人が増えた。
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(※)Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った略称。
2つめは、人生100年時代の到来だ。働く年数が長期化し、健康を維持しながら働き続けられる環境の重要性が増した。3つめは、AI時代の到来だ。人間ならではの価値は、豊かで健康な生活があってこそ生み出せるという認識が広がっている。
こうした変化に対して、企業側も制度設計や福利厚生の拡充といった対策を進めてきた。だが、調査からは意外な傾向が見えてくる。
ワークライフバランスを向上させる責任は誰にあるかを尋ねたところ、「会社」と回答した人は約30%にとどまり、約70%が「自分にも責任がある」と答えた。多くの働き手は、会社任せにするのではなく、自ら働き方を選び取っていくという意識を持っている。
ただし、それを実現するには職場の土台が必要だ。斎藤氏によると、制度が整っていても、心理的安全性が低い職場では、十分な満足を得ることは難しいという。土台のない職場では、自分でバランスを取ることは難しい。「ワークライフバランスの欠如」が退職理由の上位に挙がるのは、その裏返しといえる。
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制度を整えることと、働き手が自分の裁量でバランスを取れることは、必ずしも一致しない。働き手が求めているのは、制度の多さではなく、自分で仕事や働き方を調整できる裁量だ。
●働き手が求める「裁量」とは
では、働き手が求める「自分の裁量」とは、具体的に何を意味するのか。ワークライフバランスで重視する要素として「休暇と心身の回復」(63%)と「快適な職場環境」(62%)が上位に並ぶ。
世代別に見ると、重視するポイントには違いがある。「適切な業務量と期待値」を重視する割合は、団塊世代の56%に対し、Z世代は41%にとどまる。若手にとって、ワークライフバランスとは、単に業務量を減らすことではないようだ。
斎藤氏によると、若手が特に重視するのは成長実感だという。背景には、成長機会を得て市場価値を高めたいという強い意識がある。
Z世代では29%が、「雇用の安定」につながるものとして「学習・成長の機会や市場価値の向上」を挙げており、他世代よりも高い水準にある。会社に雇用を守ってもらうのではなく、自分の市場価値を高めることで将来の安定を確保する、という考え方が広がっている。
この傾向は、副業への意識にも表れている。Z世代は「サイドハッスル」と呼ばれる自己成長型の副業への関心が高い。副業といっても、必ずしも収入を目的としたものではなく、新しいことへの挑戦やスキルアップ、視野を広げることを目的とした活動を指す。つまり、若手が求めているのは、単に休むための時間ではなく、自分の成長につなげられる時間だ。
●「良かれと思って」が退職を招く
若手が成長機会を求めている場合、業務量を減らすことが必ずしも配慮になるとは限らない。むしろ、過度な気遣いが退職を考えるきっかけになることもある。いわゆる“ホワイトハラスメント”だ。上司や先輩が部下に対して過剰な配慮から業務のサポートや業務量の調整を行い、結果として成長機会を奪ってしまう状態を指す。
マイナビの調査(2026年)によれば、中途入社1年以内の正社員のうち、この言葉を聞いたことがある人は56.9%と半数を超え、実際にホワイトハラスメントだと感じた経験がある人は13.6%に上った。
具体的には「先輩が先回りしてすべて行ってしまった」「責任のある仕事を一切任せてもらえず、残業は厳禁だから早く帰ってと毎日促されることに、むなしさを覚えた」といった声が寄せられた。従来のパワーハラスメントとは対照的に、配慮のしすぎが問題になるケースが生まれている。
ホワイトハラスメントを経験した人の71.4%が、「今後1年以内に転職活動をしたい」と回答した。未経験者では48.1%にとどまり、経験者のほうが23.3ポイント高かった。マイナビは、経験者ほどスキルや能力を伸ばせる環境を求め、転職を考える傾向がある可能性を指摘している。
企業が「働きやすさ」のために業務量を調整すればするほど、働き手は成長機会を奪われたと感じ、退職に傾く可能性がある。
●制度の拡充ではなく、対話の質の向上を
企業はどう対応すべきか。ポイントは、個別の対話にある。仕事の細分化が進む現代の職場では、自分の担当業務が全体の中でどのような役割を担っているのかが見えにくい。
「分業が進むと、業務の一部だけを担当するケースも増える。そのときに、仕事の全体像を知っているかどうかでやりがいが変わってくる」と斎藤氏は説明する。何のための仕事なのかを伝えるコミュニケーションこそが、働き手の納得感を左右する。
ワークライフバランスの向上は、「業務量の削減」だけで捉えるべきではない。「多少負荷がかかっても問題ない日もあれば、この仕事なら負荷があっても挑戦したいという人もいる。何を望むかは人によって異なる」と斎藤氏は指摘する。
一律の残業削減や業務量調整は、企業にとって導入しやすい施策だ。だが、働き手が求めているのは、自分の意向をくみ取った上での柔軟な働き方である。マイナビも、ホワイトハラスメントを防ぐには、本人にとって望ましい配慮や関わり方を、日常的な対話や面談を通じて丁寧にすり合わせていくことが重要だと指摘している。
企業に求められているのは、制度の拡充ではなく、対話の質の向上である。
(カワブチカズキ)
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