トヨタは若手ドライバーが育っているのか? F1へのステップアップの見通しは? 中嶋一貴に熱田護が直撃インタビュー

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2026年07月10日 06:40  webスポルティーバ

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トヨタ・レーシング 中嶋一貴副会長 インタビュー後編

 トヨタ・レーシング副会長としてWEC(世界耐久選手権)でチームディレクターを務めながら、若手ドライバーの育成も担当する中嶋一貴。彼が今、情熱を注いでいるのが世界のトップカテゴリーで活躍できる日本人ドライバーの育成だ。

 かつて自身も歩んだモータースポーツの本場ヨーロッパのフォーミュラカーレースに今、トヨタの若手たちが挑んでいるが、そのなかで直面している課題とは何か? そしてトヨタ育成ドライバーのF1昇格の可能性をどう見るのか? F1オーストリアGPが開催されたレッドブルリンクで、F1フォトグラファーの熱田護が中嶋一貴に話を聞いた。

【モータースポーツの裾野を広げる必要性】

熱田護(以下、熱田) 日本人ドライバーも平均的なレベルのF1ドライバーと比べてみると、それほど大きな実力差はないとのことです。でも、そのちょっとの差というのは、ドライバーの努力や経験を積み重ねることで克服できるものなのですか?

中嶋一貴(以下、中嶋) 最後は才能もあると思います。でも結局、才能がある人がそれだけの努力と経験を積むことでトップドライバーになっていますので、かなりの部分は克服できると思います。

 僕や小林可夢偉が育成プログラムのサポートを受けていた時代は当時の基準で言えば、すごくいい経験を積ませていただいたような気がしますが、今の目線でいうともっとできることあっただろうなと感じますね。

 今は周りの育成プログラムがどんどんレベルアップしていますので、トヨタとしてはまだまだ体制面で追いつかなければいけないことはあると思っています。

熱田 今のトヨタの育成は、WECに参戦しながらハースのリザーブドライバーを務める平川亮選手(32歳)を筆頭に、F2の宮田莉朋選手(26歳)、ヨーロッパのF3で戦っている中村仁選手(20歳)、フォーミュラ・リージョナル・フランス・チャンピオンシップの佐野雄城(19歳)がいます。

中嶋 そこに坪井翔選手(31歳)も含めていいかもしれません。彼は2025年、富士スピードウェイとイギリスのシルバーストン・サーキットでハースのTPC(旧車を使ったテスト)に乗っていますから。

熱田 ただ、ちょっと気になるのが、平川選手や坪井選手はすでに30歳を超えています。その下の世代は順調に育っているのでしょうか?

中嶋 若い世代の発掘はつねにしていますが、一番の課題は日本国内のカート競技人口が減少して、裾野がかなり狭くなっていることです。この問題を議論すると堂々巡りになってしまうのですが、やっぱり頂点が盛り上がってないと裾野も広がらないということだと思います。

 ホンダさんは近年ずっとF1で活動を続けてくださっていますが、トヨタは2009年シーズン限りで撤退したあとはずっとF1に関わっていませんでした。僕や可夢偉が育成ドライバーだった時代はやっぱりホンダさんとトヨタがF1に参戦し、そこに日本人ドライバーを乗せようという育成システムがあって、若い選手たちもそこを目指そうという空気がありました。

熱田 モータースポーツの入口となっているレーシングカートの競技人口はすごく減っていると聞きました。日本では1995年頃のピーク時に比べて、約半分になってしまっているようですね。

中嶋 そうですね。だから今、モータースポーツの裾野をもう一度広げていくチャンスをいただいていますので、すごくありがたいと思っています。トヨタの育成から世界の頂点に行ける道があると見せていくことで、少しでも裾野を広げていきたい。

 結局、100人のなかから育成ドライバーをひとり選ぶのか、1万人のなかから育成ドライバーをひとり選ぶのかって言ったら、全然違うじゃないですか。たとえばサッカーはすごくいい循環をしていると思います。ワールドカップで日本代表が活躍しましたが、やっぱりいろいろな要素が積み重なって、競技人口が野球を上回って、才能のある子がどんどんサッカーに集まり、レベルも上がっていったと思います。

 モータースポーツは道具を使いますので、純粋なフィジカルの能力だけでは勝負が決まらないところがありますが、サッカーのように頂点が盛り上がっていかないと、そこに入ってくる子どもたちが少なくなってしまう。そうすると、どうしても確率論として、いいドライバーが誕生する可能性が増えていかないと思います。

【トヨタからF1ドライバー誕生なるか?】

熱田 F1で勝てるドライバーを育てるためには長い時間がかかると思いますが、モリゾウさん(トヨタ自動車・豊田章男会長)がサポートするとおっしゃってくれるのはレース界にとってすごくいいことだと思います。中嶋さんは世界で戦うことの難しさを肌で知っていると思いますので、現場で若い選手の育成を強力に進めていってほしい。

中嶋 そうですね。僕自身もできるだけ若い選手がいい環境で戦えるようにサポートしていきたいですし、トヨタとしてもエントリーレベルで手軽にモータースポーツを楽しめるようにGR カートを開発しています。

熱田 今、レーシングカートのマシンは100万円以上もするのですよね。GRカートは誰でも手軽に始められるよう40万円以下の低価格になると聞いています。

中嶋 手頃な価格でレーシングカートを始められるような環境づくりを、TOYOTA GAZOO Racingのほうでも動き出してもらっています。モリゾウさんは「モータースポーツを日本の文化に!」とおっしゃっています。その目標を実現するためには長い時間がかかると思いますが、文化を醸成するためにはドライバー育成がすごく重要な役割を担うと考えています。

熱田 未来に向けてカート人口を増やすことは大事ですが、現状では日本人のF1ドライバーはひとりもいません。ここもなんとかすべきだと思います。トヨタのドライバーで今、F1に一番近いところにいるのは平川選手です。ハースは来年、エステバン・オコン選手がチームを離れるという話も出ていますので、大きなチャンスだと思います。

中嶋 TGRはハースF1チームとともにF1で活躍できるドライバーを育てていきたいと考えています。そしてそのひとりである平川選手をサポートしています。TGRはハースのタイトルスポンサーをしていますが、ドライバーの評価や選定を行なうのはハースです。

 そのため、もし平川選手がF1に乗れたとしたら、それは純粋に彼の実力を評価されたということになります。僕らとしては、彼がシートを獲得できるように全力でサポートしたいとは思います。平川選手に関しては、年齢のことに引っかかる人が多いかもしれませんが、彼のすごさはドライバーに年齢は関係ないんだと思わせてくれるところです。

熱田 平川選手はWECでチャンピオンになり、2024年にはマクラーレン、2025年にはアルピーヌ、その後はハースでもリザーブドライバーを務めています。彼はどこが優れているのでしょうか?

中嶋 平川選手のことは日本での若い頃からよく知っていますが、彼は2022年からWECに挑戦し、海外でレースを本格的に始めています。平川選手は新しい経験を全部吸収して自分のものにする力があるのです。

 WECでもF1でもそうですけど、新しい環境に適応してしっかりとパフォーマンスを出し、その経験をどんどん積み重ねていけるドライバーだと思います。まだまだポテンシャルはあって、底が見えないドライバーだと個人的には思っていますので、すごく期待感があります。実力的には十分、F1ドライバーと肩を並べられるところにいると思っています。

 ただ繰り返しになりますが、ドライバーラインナップを決定するのはあくまでハースです。我々としては平川選手の実力が評価され、レギュラードライバーになれるように全力でサポートしていきます。

終わり

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<プロフィール>
中嶋一貴 なかじま・かずき/1985年、愛知県生まれ。トヨタ・レーシング副会長。2003年、フォーミュラトヨタでチャンピオンを獲得。その後、トヨタの育成ドライバーとしてステップアップを重ね、2008年からF1に2シーズン参戦。2011年からフォーミュラ・ニッポン(現・スーパーフォーミュラ)に参戦し、2012年と2014年にチャンピオンとなる。2011〜2019年にはスーパーGTのGT500クラスに参戦。2015年から世界耐久選手権(WEC)にもレギュラー参戦し、2018−2019シーズンには2勝して日本人初のチャンピオンとなり、ル・マン24時間では2018年から3連覇。2021年限りで現役引退。

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