AIグラスへの不安感は、盗撮問題に集中しすぎると問題を見誤るのではないか

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2026年07月13日 11:30  ITmedia NEWS

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東京ミッドタウン日比谷で開催された中国「Rokid」のメディア発表会

 7月8日、ディスプレイ搭載AIグラス市場で世界首位とされる中国「Rokid」が発表会を開き、日本市場への本格参入を表明した。クラウドファンディングの「Makuake」にて歴代ランキング1位となる6億3600万円以上を達成したことを受け、今後1年以内に日本市場へ少なくとも10億円規模の投資(マーケティング、研究開発、開発者エコシステム支援など)を行うという。


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 昨今、AIグラスは、そのありかたが問題視されている。AIグラスに搭載されているカメラで、本人の同意なく撮影され、その動画や写真がSNSに投稿されるといったことが、世界各国で反発を招いている。つまり、「盗撮」の道具となるのは時間の問題だというわけだ。


 こうした指摘は、2013年から15年まで販売されていた「Google Glass」でも起こっていた。当時からすでに、公共空間で「誰かに見られる」ことと、「撮影・保存・拡散される」ことは別問題であるという議論が起こった。


 Rokidの発表会では、当然ながらAIグラスを装着したスタッフが我々を出迎え、登壇者も全員AIグラスを装着していた。


 そういう人たちに囲まれてしまうと、確かに一般の女性は不安になるだろう。突然たくさんの報道陣に囲まれるようなものだ。容姿が撮影され、気軽にSNSに投稿されたら、どんな誹謗中傷を受けることになるのか分からない。


 一方で筆者はいい歳をしたオッサンであり、その姿形には価値がない。意外と足が短いとか言われたら多少傷つく程度だ。よって自分の姿が撮影されていても、あまり気にしていない。


 しかしそのことよりも、もっと別のことに対して不安になった。


●AIグラスの可能性


 AIグラスは、AIをウェアラブルにするという目的で作られている。AIは人間から何らかの指示なり質問なりを与えることで回答を返すわけだが、人間が直接的に指示を与えるなら音声入力ということになる。つまりAIグラス内蔵のマイクで利用者の音声を聞き取るわけだ。


 ディスプレイ非搭載のAIグラスは、結果を音声で返す。ディスプレイ付きAIグラスは、音声に加えて視覚情報、すなわち文字や図形などで返す。


 この中で重要なのが、AIに対する視覚的情報入力だ。カメラで捉えられたものをAIが判別して、何らかの処理を行う。例えば外国語の看板であれば翻訳文を表示するだろうし、同じ商品の数を瞬時にカウントさせるなど、商品在庫管理などにも利用できる。


 Rokidの発表会では「Rokid Card」というサービスが紹介された。これはビジネス時の名刺交換の際、大抵は名刺から読み取れる情報は少ないが、名刺を撮影することでAIが関連情報を検索して要約し、AIグラスに表示してくれるというものだ。これにより、会話につながる「次の一言」の情報が得られるようになる。


 こうした機能を使う際に、カメラでの「撮影」という行為が必要になる。カメラに写ったあらゆる情報を読み取ってしまうと、動作が煩雑すぎる。よって撮影というトリガーを通じて、この機能が起動するわけだ。


 例えば筆者などは、顔は覚えているが名前が出てこないケースが多くて困る。顔認識してその人の名前がすぐ出てくるようなアプリがあればずいぶん助かる。すでにFacebookなどでも、アップした写真に写っている人物をFacebookユーザーから探し出す機能がある。AIグラスでも、過去撮影した写真や、SNSやメディアに公開されている写真から該当人物を探し出すのは、難しいことではないだろう。


 ただ、こうした機能が実際に動き始めることを想像すると、多くの人は途端に不安になるのではないだろうか。


 顔を合わせただけで、AIグラスをかけている相手側は、こちらからは分からない情報を得ているかもしれないのだ。例えば3年前にXが炎上したとか、昨日は息子と喧嘩したとか、もちろんどこかで公開している情報ではあるのだが、本人はネタにしてほしくない情報が、その場で瞬時に相手側に知られるかもしれない。


●問題の本質は、非対称性


 筆者が感じた不安は、言うなれば「情報の非対称性」だ。


 例えば先に挙げた名刺交換のシーンを考えてみよう。はじめまして、という相手と名刺交換する場合、互いに相手のことは知らない。その意味では情報はお互いにゼロであり、対称である。


 名刺交換しても、相手の名前や会社名、役職などは分かるが、相手の会社やその人の仕事のことまでは詳しく分からない。この段階でもまだ情報は対称である。


 だがそこに相手方だけAIグラスからの情報が入ってくると、自分は相手のことをまったく知らないが、相手はこちらのことをよく知っている状態になる。ここで、情報の非対称性が生じる。


 人間関係は、こちらが持っている情報が少ないことで、圧倒的に不利になる。特に交渉事はスタート時点で不利だと、なかなか逆転することは難しい。これは詐欺でも同様の手法がよく使われている。薄い情報であっても、こっちのことはなんでも知ってるぞと相手に知らせ、有利な立場に立つところから始まる。


 それがビジネスの現場であったら、AIというツールを使いこなせていない方が悪いという話になる。だったらお前もAIグラス買えよという話で終わりだ。


 しかしビジネスの現場ではないところではどうだろう。居酒屋で楽しく飲んでいるときに、向かいの席のAIグラスをかけた連中からクスクス笑われたら、いい気持ちはしないだろう。


 容姿が無断で撮影されてネットにさらされるのは、プライバシーの侵害ということは誰しも理解するところだ。だがそれに加え、相手がこちらが提示している以上の情報、逆に言えば積極的に知られたくない情報を勝手に得ているということは、「自分の情報が自分のコントロール下にない」ということであり、これも一種のプライバシーの問題となりうる。平たい言葉で言えば、新種の「ハラスメント」ということであり、心身の安全に関わる問題である。


 同様のことは、スマートフォンとカメラ、AIアプリなどを組み合わせれば現時点でも可能だろう。だがこれが今まで問題にならなかったのは、スマートフォンで撮影するという行為は明らかに目立つため、相手の同意が必要になるという蓋然性が高かった。またスマートフォンは、画面を人に見せて情報を共有することが可能であり、何をしているのか、あるいは何をしていないのかを証明することができた。


 だが現代のAIグラスは、かつてのGoogle Glassのような突飛な形状をしておらず、一般的なメガネやサングラスのように見える。スマホやカメラを取り出して撮影するというアクションを取らなくても撮影が可能であり、相手の同意が必要であるという蓋然性が低い。つまり存在が目立たないし、何をしているのかはAIグラス使用者にしか分からない。


 人よりも有利に立てることを好む人は多い。ではそれに対抗するため、全員がスマートグラスを付けて対等になれば、問題は解決なのか。


 ある限られた社会、例えばビジネスの現場など、コンセンサスが取りやすい場所ではその論理もありうるだろう。しかしそれが一般社会に溶け出したとき、そこに軋轢(あつれき)が生じる。


 Google Glassの時は、AIグラスお断りのレストランなどが出てきた。特に日本はプライバシーを尊重する社会であるため、同様のアクションは比較的短期間で起きる可能性は高い。


●視線を重要視する社会


 もう一つ、これは日本特有の話かもしれないが、日本ではコミュニケーションする際に、視線を気にする社会である。話を聞く時は相手の目を見ろとか、子供の頃に厳しくしつけられた人もいらっしゃるのではないだろうか。


 例えば目が認識できないほどの濃いサングラスは、TPOによって許容されたりされなかったりする。ビーチや屋外イベントでは当たり前だが、それ以外の場所でサングラスをした知らない相手と話をするときには、信用しちゃダメな気がする。


 つまり、相手はこちらに顔を覚えられたくない人間なのではないか、という疑いが生じるわけだ。訝(いぶか)しむ、という表現がこれほどまでにしっくりくる状況もまたないだろう。


 別の例では、話を聞いている相手がスマホを見ながらフンフンとうなずいていると、なんだよちゃんと話聞けよという気になる。もしかしたら自分の話をスマホでメモしているのかもしれないが、それでもなんとなく不快感が生じる。


 「目は口ほどにものを言う」ということわざどおり、言語による意思疎通以上のものを、目の動きから察する文化を持っている。


●目線が確認できない全面反射


 AIグラスは、度付きレンズ対応が日本普及のキーとなることは間違いない。Rokidはフラットなガラスディスプレイを採用しており、度付きにする場合はこのフラットなガラスの内側から、度付きレンズをはめ込むという構造になっている。


 表側はフラットなガラスなので、光の反射が全面に起こる。一般に度付きのレンズは表面がカーブしているので、反射があっても一般には均一にならない。よってAIグラスの反射は、メガネとしてはかなり特殊だ。


 この目線が確認できない全面反射が、ドラマなどで見る「インテリの悪人」のイメージにつながる。何か企んでいる時の表現と合致するのである。


 対面で話をしているときにこうした現象が起こったら、なんとなくこの人は信用しちゃダメな人、という印象を与えるだろう。


 また話をしているのに、目が何かの情報を読んでいると、微妙に目が泳いでいるような視線になるというのも、目線に厳しいタイプの人であれば気になるだろう。


 Rokidでは7月8日から1カ月、Rokid Glassで撮影した写真や動画、AR録画やARスクリーン録画をSNSに投稿するという「Rokid 日本チャレンジ大会」を開催するという。盗撮議論が落ち着いていないタイミングで、なかなかチャレンジングな話である。


 もちろんRokidも、盗撮問題を知らないわけではない。実際に中国では、RokidのAIグラスで撮影され、SNSに投稿された動画がすでに社会問題となっており、6月には「スマートグラスに関する初の業界行動規範」が 中国情報通信技術アカデミー(CAICT) から示されたばかりである(参考:South China Morning Postの記事)。Rokidとしては、日本においてはAIグラスで撮影する写真・動画を、早く一般的なものにしたいという戦略なのかもしれない。


 だがこうした盗撮に対する疑念の払拭や、技術的な規範が決められてクリアになったとしても、情報の非対称性、要するにズルしてるんじゃないかという感情を、どのようにクリアしていくか。


 そのあたりが、AIグラスの社会浸透のカギになるのではないかと思う。



このニュースに関するつぶやき

  • 今更過ぎる.中国も作ったから?Facebook改めMetaはとっくに販売してるし,古くは阪急電車で通勤する塚本阪大助教授=現神大教授は30年前からずっとウェアラブルグラスで暮らして来て何も問題無いのに,中国も作ると恐れる
    • イイネ!0
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