
5月末に「それで、メモリ不足はいつまで続くの? なかなか終わらない狂騒のウラ側」と題した記事をお届けしたが、その余波が遂にスマートフォンを直撃する事になった。米Appleが中国のメモリメーカー・CXMTからのメモリ調達を検討しているという話題が英Financial Times(FT)で報じられ、騒ぎになっている。
さらにAppleがCXMT製メモリの評価を開始しているらしい事も、やはりFTで報じられている。先の記事にも説明があるように、現在AppleはCXMTを「エンティティリスト」に追加しないという保証を米商務省に求めているという。
エンティティリストとは米国の安全保障や外交政策上の利益に反するとみなされる外国の企業や政府機関などのリストであり、ここに掲載された対象企業は米国産の特定の製品やソフトウェア、技術を輸出・再輸出・移転する際に、商務省産業安全保障局の事前許可が必要となる。
現時点でCXMTはこのエンティティリストに入っていないが、仮に入ってしまうとCXMTのメモリを搭載したApple製品の販売や輸出は非常に困難な状況になる。そこで、リストに入れないという保証を商務省に求めるとともに、保証が降りたら直ちにCXMTのメモリを搭載して製品を出荷できる様に、今から評価を開始しているというわけだ。
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この動向を巡り、Appleがいままで不当に値下げを強いてきたメモリメーカーの反撃を受けている、という見方もあるが、その妥当性を考えてみよう。
●Appleの値上げ、背景を整理
Appleの動向には前段階がある。Apple製品が多数値上げとなったのは6月25日だが、その1週間前、Appleのティム・クックCEOはWSJ(Wall street Journal)の独占インタビューの中で「メモリ業界が莫大なコストを消費者に転嫁している」と語り、「我々が直面している急激なコスト上昇の影響を和らげるために全力を尽くしている。顧客にしわ寄せが及ばないよう努めてきたが、これ以上は持続不可能な状況だ」と説明した。
独占インタビューを行ったロルフ・ウィンクラー氏は電子部品系コンサルティング企業のカナダTech Insightによる分析を引用して、2025年のiPhone 17におけるメモリとストレージ(NAND Flash)の部品代の合計は50ドル(正確には52ドル)だったが、次世代機「iPhone 18」ではほぼ同じ容量と速度(12GB DRAM/256GB Storage)で200ドル(正確には196ドル)になるとしている。これだけ原価が上がればそれは値上げ待ったなしだし、Appleの立場からすればメモリやNAND Flashが高騰しているのはメモリメーカーのせい、という訳だ。
一方、米Micronのスミット・サダナCBO(Chief Business Officer)は6月26日、WSJのインタビューに「(23年)当時、価格設定に関して非常に強硬な姿勢を見せていた数社の顧客に対し、そうした態度は建設的ではないと伝えた。23年の価格設定は極めて不適切で、利益率も著しく低かったため、業界内で多くの投資案件が中止に追い込まれた」と回答。暗にAppleが低い価格設定を強行した事で生産能力増強に向けた投資が適切に行えず、それが現在の品不足に繋がっている事を批判した。
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6月30日には同社のサンジェイ・メロートラCEOもCNBCのインタビューで、2023年にはメモリの価格が前年の3分の1の水準まで下落したため、企業は利益を上げることが出来ず、結果適切な投資能力が失われたと説明した。要するに「今Appleがメモリ不足に伴う価格高騰に苦しんでいるのは、元はと言えばAppleがメモリを買い叩いたためだ」と暗に反撃したわけだ。
●決算で見る「マイクロンの反撃説」
数字の面からも見てみよう。掲載するグラフはMicronの20年〜25年の売上と営業利益を決算報告書から拾ったものだ(同社は8月31日が期末なので、例えば25年度の決算は24年9月1日〜25年8月31日までの結果になる)。
ご覧の通り23年が記録的に落ち込んでいるわけだが、同年の決算報告書には「23年の総売上高は、主にDRAMおよびNAND製品の販売減少により、22年と比較して49%減少した。DRAM製品は売上高が51%減少した。これは主に平均販売価格が40%台後半まで下落した事、及びビット出荷量が数%減少した事による。一方NAND製品の売上高は46%減少した。平均販売価格が50%台前半まで下落したが、ビット出荷量が数%増えたことで一部相殺された」とある。
なぜここまで価格が下がったかについては「22年第4四半期および23年を通じて、多くのエンドマーケットにおける需要の低迷に加え、世界的なマクロ経済上の課題や、顧客による在庫水準の削減措置に伴う需要の減少が重なり、メモリおよびストレージ業界の環境は急激に悪化した。これにより、DRAMおよびNANDの平均販売価格、ならびにDRAMのビット出荷量が大幅に減少した結果、当社の全事業セグメントおよびほぼすべてのエンドマーケットにおいて売上高が減少した」と説明している。
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これを見るとメロートラCEOの「価格が3分の1」はやや大げさで、実際は半減(半減でもすさまじくインパクトはある)だが、この際に一番強硬に価格の引き下げを行ったのがAppleだった可能性は想像に難くない。Micronの立場からすれば、23〜24年に本来得るはずだった利益を今取り戻し、それを設備投資に振り分けているだけであり、文句を言われる筋合いではない、ということなのだろう。
ではこの23〜24年の売上が22年までと変わらないレベルだったら、現在のDRAM不足は起きていなかったか? というとそれは難しい。多少マシにはなっていただろうが、ある程度の品不足が起きていただろうことは間違いない。
後述するように現在生産能力強化に向けてメモリベンダー各社は積極的な投資を行っている。ただ、実際に生産量に反映されるのは28年以降になりそうだ。もし23〜24年度に投資が行えていれば、1年程度の前倒しが可能だった公算は高い。
●「最大の大口購入者」の座から滑り落ちたApple
一方のAppleだが、同社が部品供給業者や下請け業者を奴隷のごとく扱うという話はこれまでも数多く話題になっており、もはや珍しい話題ではない。ただ、この手法が通用したのはAppleが最大の大口購入者だった、という点が一番の理由である。
Appleに匹敵する大口の顧客はこれまで存在しなかった。問題はこれが過去形になってしまった事だ。現在はAIブームで、GPUベンダーは争う様にHBMメモリを購入し、CPUベンダーやAIプロセッサベンダーはLPDDRメモリを求めるようになっている。
例えばNVIDIAはVera CPUで「SOCAMM2」と呼ばれるLPDDR5XベースのDIMMモジュールを利用するが、1台のVera CPUには最大1.5TB分のLPDDR5Xメモリが搭載される。これは、12GBのLPDDR5Xを搭載するiPhone 17 Proの128倍に相当する。Vera CPUの生産量は公開されていないが、米Morgan Stanleyの推定では2027年に575万個、米Bank Of Americaの推定では同じく940万個を出荷するという話だ。
正確なところは不明だが、仮に600万個を出荷するとすると、iPhone 17 Pro換算で言えば7億6800万台分のDRAMを必要とする計算だ。もちろんこんなにDRAMが用意できるとは思えないので、1.5TBフル装備ではなく半分とか1/4とかでお茶を濁す可能性はあるだろうが、iPhoneの生産量が(モデル毎に異なるとは言え)2億台強でしかない事を考えると、NVIDIA1社だけでこれを軽々と超えているわけだ。
ちなみに米AMDのVerano CPUも同じくLPDDR5Xを利用し、恐らくVeraよりも生産量が多い。他に英ArmのAGI CPUもやはりLPDDR5Xを使う。つまりiPhoneやiPad、Macなどで必要とするメモリを全部合わせても、AI向けのLPDDRの需要には遠く及ばない訳で、既にAppleは最大の大口購入者の座から滑り落ちている訳だ。
Appleはジョブズ時代の昔から、自身で状況を完全にコントロールするというビジネスを基本原則としており、これは今も変わらない。しかしAIブームのお陰でこれが半導体デバイス(DRAMやFlashだけでなく、先端ロジックプロセスを含む)に対して成立しなくなってしまった。
今、仮にAppleが「もう部品を買わない」と言っても、メモリメーカーもファウンダリも一切困らないだろう。むしろファウンダリやメモリメーカーが「欲しければこの条件を飲め」と言える立場になっているわけだ。これはAppleのビジネスの基本原則に真っ向からぶつかる事態である。
こうした状況でAppleが取れる策は? というと、要するにこれまで契約してきた「以外の」メーカーから部品を調達できる様にすることで、少しでも価格交渉の糸口を掴みたいというところだろう。「こんな条件だったらAIブームが終わってもお宅からはメモリを買わないが、それでもいいのか?」という脅しを効かせたいわけだ。つまりCXMTへの急接近は、脅しのための口実みたいなものでしかないかもしれない。
もっともこれに意味があるのか? というと筆者的にはちょっと疑問である。何故か……という話は後日、後編の記事でお届けしたい。
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