現在ミラノに拠点を置く「ジル サンダー(JIL SANDER)」のウィメンズデザインチームで経験を積んだ村田にとって、イタリアは第二の故郷と言っていい。北イタリアに位置するコモ湖は、アルプスの山々に囲まれた美しい風景と歴史ある建築が並ぶ、ヨーロッパを代表するリゾート地だ。村田は春に訪れたコモ湖と湖畔の街・ベッラージョで体験したたおやかな時の流れと、訪れる人々の軽やかな品格から、今シーズン着想を得た。
テーマは「COMO, THE PRESENCE OF ABSENCE(コモ、不在の存在)」。エレガンスのためのデザインではなく、着る人の心、リアリティのある“ふるまい”にこそ、美しさは宿るという視点で独自のリゾートスタイルを模索。クリエイションのキーワードに「境界線の曖昧さ」を挙げ、「自分という存在が、空間の中にじわっと溶けていくような」ムードを描いたという。前シーズンがストイックにミニマルで建築的なアプローチを採っていたのに対し、今季はよりゆっくりと時間を過ごす女性像——完璧にコントロールされた美しさではなく、自然のなかで偶然見つけた美しさ——のためのリラックスした印象へと転換している。
ゆるやかに輪郭をぼかすシルエットの思索は、村田の強みであるギャザーやドレープといった造形テクニックに現れていた。アシンメトリーなバルーンスカートは片側だけギャザーを強く寄せることで不均衡な動きが生まれる。立体的なニット構造で波打つような裾の動きが特徴的なドレスは歩くたびに揺れ動き、ボディラインを自然に霞ませている。
また、朝から夕への時の移ろいと流動的な自然の美しさを調和させるごとく、淡いブルー、夜景のようなダークネイビー、一瞬の木漏れ日を彷彿とさせるライトグリーンのグラデーションで彩ったニットトップスやカーディガンが登場。シャツドレスは端正なシルエットでありながら、ストライプ生地にレースを重ね揺らぎを宿す。強撚のちりめん素材をシアーに仕上げ、湖面のようなブルー、夕陽を思わせるオレンジレッド、木製ボートやヴィラに着想したブラウン、石畳の温かみを感じさせるベージュに彩色したシャツなど、色調でも不在と存在の“あわい”を表現した。
村田は「排他的なラグジュアリーとは対極の、個人的で親密な豊かさ」によってリゾートスタイルを提案したかったと振り返る。「予約が取れないレストランよりも、お気に入りのジェラート屋さんに行く。この"選択する時間"はとても豊かで愛おしい」のだという。人の生活に息づくラグジュアリーは高級なものの消費に在らず日々の営みに宿るという、ハルノブムラタの根幹を明示したコレクションとなった。
なお、一般入場が可能な新作の展示・受注会を、7月31日から8月2日まで青山の「STUMP BASE」で開催。インスピレーションとなったコモ湖の世界観と連動したジェラートショップ「GELATERIA DI HARUNOBUMURATA」を出店している。湖畔の風景とコレクションのカラーパレットをイメージしたオリジナルフレーバーのジェラート「イタリアンカフェ」「ラムネ」「カシス」「ヘーゼルナッツ」の4種類(各800円)を提供している。