救急隊のドア破壊に26万円の賠償命令。元裁判官が訴える「現場を不当に追い詰める」不完全な判決

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2026年08月03日 16:21  日刊SPA!

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―[その判決に異議あり!]―
横浜市消防局がコロナ禍の自宅療養者の安否確認を巡り、マンション玄関扉を破壊した行為に対し、横浜地裁は5月、市の違法性を認め約26万円の賠償を命じた。判決は消防法に基づく破壊の正当化要件に該当しないと指摘し、緊急時であっても損害補償なしに財産破壊を強いることは認められないとしている

“白ブリーフ判事”こと元裁判官の岡口基一氏は、「横浜コロナ安否確認扉破壊賠償訴訟」について独自の見解を述べる(以下、岡口氏の寄稿)。

◆救急活動の現場を過度に萎縮させ、救える命を見殺しにする不当判決

 コロナ禍にあって社会全体が殺気だっていたことも災いしたのだろう。パンデミックの最前線で救命活動に奔走していた救急隊員を巻き込んだ事件を、今回取り上げたい。

 ’22年2月、コロナ検査で陽性反応が出たため横浜市内の自宅マンションで療養中だった「居住者」の親族が、数日間本人と連絡が取れないとして救急車を要請した。横浜市消防局の救急隊が駆けつけると、玄関扉は施錠されたまま……。管理会社とも連絡が取れず、隊員は通報者の承諾を得た上で扉をバールでこじ開けたが、この破壊行為が後に大問題となった裁判だ。

 部屋の「所有者」が扉の交換費用を市に求めた訴訟で、横浜地裁合議体は、隊員が扉を壊したのは違法だと判じた。

 報道ベースでは公になっている情報が乏しく、この「居住者」が「所有者」本人なのか「賃借人」なのか、その法的地位すら明かされていない。俺は最高裁のWebサイトで判決が公開されるのを待ったが、実際に内容を読んで仰天した。肝心の「居住者」の法的地位について、判決文のどこにも触れられていなかったからだ。

「居住者」が「所有者」本人か「賃借人」かで、事件の法律構成は大きく変わる。近頃の裁判官はそんな基本すらわかっていないのか……と訝しんでいたら、判決末尾の「当事者の主張」に、唯一この「居住者」が一室の「賃借人」であることをうかがわせる記述があった。仮に、この「居住者」が「賃借人」だったとして、その安否を確かめるために、親族の承諾を得た救急隊員が玄関扉を壊すことは、果たして違法なのだろうか?

◆割を食うのは我われ一般市民

 実はこの事件では、扉を壊して入った部屋は“もぬけの殻”で、破壊は不要だった。だが、それは結果論にすぎない。こんな理不尽な判決がまかり通れば、救急隊員は違法を避けるために引き返すしかなくなり、救えたはずの命が救えない事態も起こり得る。そうなれば、割を食うのは我われ一般市民だ。

 裁判官は判決理由の中で、「このマンション一室の所有者が、何の補償もなく玄関扉を破壊されることを甘受すべき立場にあったとはいえない」と自らの判断を正当化している。だが、所有者は修理費用を賃借人に請求できる。つまり「何の補償もない」わけではないのだ。

 少し事例を変えて考えてみよう。賃借人自身がベッドから動けなくなり、救急車を呼んだはいいが、自力で玄関まで辿り着けないので、鍵を壊して入ってほしいと頼んだ場合はどうか。この判決に従えば、救急隊員は所有者の承諾がなければ鍵を壊せない。だが、所有者がすぐにわかるとは限らず、窓口となる管理会社とも、今回のようにすぐに連絡が取れるケースもそう多くない。

 地裁で扱う事件の多くは裁判官一人で裁かれるが、重要な事件は3人の裁判官による「合議体」で審理される。それだけに、合議体の判決にはそれなりの重みがある。しかも全国に報道されたことで、救急隊員にも、助けを求める市民にも、大きな萎縮効果が生じてしまった。裁判官には、判決がもたらす波及効果まで見据えた、常識ある判断をしてほしい。

<文/岡口基一>

―[その判決に異議あり!]―

【岡口基一】
おかぐち・きいち◎元裁判官 1966年生まれ、東大法学部卒。1991年に司法試験合格。大阪・東京・仙台高裁などで判事を務める。旧Twitterを通じて実名で情報発信を続けていたが、「これからも、エ ロ エ ロ ツイートがんばるね」といった発言や上半身裸に白ブリーフ一丁の自身の画像を投稿し物議を醸す。その後、あるツイートを巡って弾劾裁判にかけられ、制度開始以来8人目の罷免となった。著書『要件事実マニュアル』は法曹界のロングセラー

このニュースに関するつぶやき

  • 何とも難しい話やね>< でも救急隊の人達に責任を負わすような事は避けるべきだよ、絶対に。
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