憲法9条を変えなくても自衛隊法を改正するだけで、自衛隊は軍隊として活動できる/倉山満

1

2026年08月15日 09:11  日刊SPA!

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

日刊SPA!

1954年7月1日の防衛庁設置法・自衛隊法施行から70周年を迎え、2024年11月に行われた観閲式 写真/産経新聞社
―[言論ストロングスタイル]―
1954年の自衛隊法施行以来、自衛隊は行動や権限を個別に定めるポジティブリスト方式を基本としてきた。憲法9条改正を巡る議論では、ネガティブリスト方式への転換の是非も主要な論点となっているが、与党内の見解はなお定まっていない。こうした状況について、憲政史研究家の倉山満氏は「自民党の見解には落胆した」としつつも、「今ごろになってマトモな議論を突きつけられて慌てている」現状を歓迎する(以下、倉山満氏による寄稿)。

◆憲法9条改正が堂々と国会で議論できる時代

日本国憲法の文字を一文字たりとも変えさせるか! 特に9条を! と主張する勢力、いわゆる護憲派が猛威を振るった時代からすると、隔世の感である。国会で憲法9条改正が堂々と議論できるようになった。

かつて護憲派は、憲法審査会そのものを開かせなかった。「憲法改正を論議することは、憲法改正につながる」などと称して。この人たち、日本国憲法の文字を一文字でも変えれば戦争になると本気で考えていた。少なくとも護憲派の議員は、そういう支持者の声を無視できなかった。

憲法改正は、衆参両院の三分の二の賛成が無ければ発議できず、その上で国民投票の過半数の賛成を得なければならない。確かに昭和・平成初期は護憲派が三分の一の数を確保し、拒否権を行使し続けてきた。

しかし、二十一世紀になり、安倍晋三超長期政権になると、護憲派は三分の一の数を確保できなくなってきた。そして与党内護憲派の公明党が高市早苗内閣になって政権離脱、代わって「推進力」を自負する日本維新の会が連立入りした。日本維新の会は野党時代から国民民主党とともに、憲法論議をリードしてきた。

ようやく憲法審査会で、かなりマトモな議論ができるようになった。その論点の一つが「合憲自衛隊」「新自衛隊法」である。

◆憲法9条を変えなくても自衛隊は軍隊として活動できる

昨年、私が理事長兼所長を務める救国シンクタンクでは、小川清史編著『合憲自衛隊』(横山賢司共著。ワニブックス)をまとめ、私も寄稿した。その趣旨は、「憲法9条を変えなくても自衛隊法を改正するだけで、自衛隊は軍隊として活動できる。逆に憲法9条を改正しても自衛隊法を変えなければまったく意味が無い」である。

さらに詳述すると、軍隊とはネガティブリストで行動できなければならない。すなわち、禁止されたこと以外はやって良い、行動の自由がある。ところが今の自衛隊は許可されたことだけをやって良い、ポジティブリストである。何かしたいことが出てきた時に、いちいち、法律を作らなければならない。ただ、自衛隊法には第88条がある。自衛隊法第88条には、防衛出動が発令された場合、「わが国を防衛するため、必要な武力を行使することができる」「国際の法規及び慣例によるべき場合にあつてはこれを遵守し、かつ、事態に応じ合理的に必要と判断される限度をこえてはならないものとする」とある。つまり、軍隊として行動して良いと書いてある。

そこで救国シンクタンクでは、いったん第88条だけを残して既存の自衛隊法を全否定、改めて必要な条文だけで再構成した「新自衛隊法」を提示した。

現行の自衛隊法は、適用除外という制度がある。防衛出動が発動されたら、平時の法の適用を除外される。たとえば、「墓地埋葬法では火葬や埋葬を行う場合は市区町村長の許可がいるが、防衛出動で死亡した自衛隊員には適用しない」のように。いちいち、根拠規定を書いている。つまり、事前に法文で規定されていない事例に関しては、現場の判断で行ってはならない。

あるいは電波の管理は総務省の管轄だが、電波法の一部を適用しない。つまり要請すれば、使わせてもらえる法体系になっている。

およそ普通の国ではない。ちなみに銃砲刀剣類所持等取締法の適用除外で、自衛隊は武器を所持して良いことになっている。

◆自衛隊は言ってしまえば「凄い武器を持った警察」

これまで、自衛隊は軍隊として認めてこられなかった。実際に、ネガティブリストで動けない。単なる一つの行政機関にすぎない。言ってしまえば「凄い武器を持った警察」である。

警察は無実かもしれない一般市民を捜査して逮捕する権限を持つ。余計なことをされたら、人権侵害だ。だからポジティブリストで縛る。しかし、軍隊が相手にするのは敵だ。いかなる手段を用いてでも敵の意思を挫かなければならない(ただし、戦争のルールである国際法だけは守らねばならない)。組織の性質がまったく違うのである。

自衛隊を軍隊としての行動ができるようにする「新自衛隊法」を中心とした「合憲自衛隊」を、維新、国民、それに心ある自民党の議員に提言して回った。ありがたいことに、憲法審査会で活発な論議が行われるようになった。

国民民主党の玉木雄一郎代表は「自衛隊は軍隊なのか」と切り込み、日本維新の会の阿部圭史議員は「自衛隊法88条を軸として新法を作るべきではないか」と提示してくれた。

だが、これに対する自民党の見解には落胆させられた。曰く、「自衛隊が軍隊であるかどうかは定義問題」「自衛隊は防衛出動が発令されたら、ネガティブリストで動ける」と。

◆防衛法の専門家も嘲笑する自民党の見解

心ある自民党議員からは、「だったら、なぜ憲法9条を改正しなければならないのか」と呆れ声だし、防衛法の専門家からも「んな訳、ないだろ」と嘲笑されている。

仮に「軍隊の定義はそれぞれ」だったら、その時点で軍隊の定義を定めたジュネーブ条約その他の国際法に違反する。国際法とは、「守らなければ文明国ではない」約束である。政権与党が国会で文明国の法に囚われないと宣言したようなものである。

また、「防衛出動が発令された瞬間に自衛隊がネガティブリストで動ける」なら、実際はどうなるか。

自衛隊の呼びかけ・要請に、国民や各省庁は進んで協力する。自衛隊が補償も無しに民家を壊して居座っても良いし、他省庁は進んで権限を差し出す。逆らう者は同調圧力でリンチ! コロナ禍で起きた立憲主義の蹂躙を、戦争においても繰り返す気満々ということである。たぶん、自覚無く。だから「んな訳、ないだろ」なのである。

自民党は、護憲派の存在を言い訳にして、憲法改正しなくてもできることをサボってきた。今ごろになってマトモな議論を突きつけられて慌てている。喜ばしいことだ。

今後も現実を突きつけよう。「自衛隊は軍隊ではない! だから軍隊を持つべきだ」と。

―[言論ストロングスタイル]―

【倉山 満】
憲政史研究家。1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。トランプ再来で揺れる世界を見通すための新章を追加したベストセラー『増補版 嘘だらけの日米近現代史』(扶桑社新書)が発売中

このニュースに関するつぶやき

前日のランキングへ

ニュース設定