
熊本地震の発生から20日あまりが過ぎた。熊本県によると、住宅被害は3万1728棟、いまだ3121人が避難所などで生活をしている(8月16日午後2時時点)。
「発災直後に比べれば、避難所の環境は改善しつつあります。段ボールベッドやパーティションの導入が進み、避難所の集約も始まっています。それでも発災から約2週間がたった時点でも、一部の避難所では床に毛布を敷いて過ごす被災者の姿が見られました」(全国紙記者)
災害が起きるたびに問題となるのが、避難所での防犯対策だ。とりわけ懸念されるのが、女性に対する性暴力――。
今回の熊本地震でも、発災直後に放送された情報番組『ゴゴスマ』(CBCテレビ・TBS系)で、「肌を露出し過ぎない」「一人で行動しない」「目立たない服装をする」など、性被害を防ぐため女性側に自衛を求める内容が紹介された。
これにSNSでは、《なぜ女性ばかりが気をつけなければならないのか》《国や自治体がプライバシーの確保や警備をするのが先ではないか》と疑問の声が上がった。
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こうした状況に対し、「そもそも、女性や子どもばかりが防犯に気をつけなければならない状況自体が問題です」と警鐘を鳴らすのが、減災と男女共同参画 研修推進センター共同代表の浅野幸子さんだ。
「前提として、平常時であろうと災害時であろうと、性暴力は絶対に許されません。暴力を振るう側が悪いのは自明のことです。ただ、災害時の避難所では、照明が十分に確保できなかったり、多くの人が集団生活を余儀なくされたりすることで、性暴力のリスクが高まりやすい環境が生じることも事実です。だからこそ、速やかに環境を改善できる仕組みが必要なんです」
実際、東日本大震災を対象に行われた調査では、100件近い暴力事例が寄せられ、約半数が性暴力・性的ハラスメントに関するものだったという。
避難所では盗撮のほか、寝ている場所やトイレなどで身体接触を伴う性暴力を受けた事例も報告された。把握された数こそ少ないものの、強姦(現・不同意性交等罪)や強姦未遂も起きている。
■「女性はでしゃばるな」能登でも上げられなかった声
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では、災害時の性被害を防ぐために、何が必要なのか。
「犯罪が起きにくい環境をつくることです。照明を確保する、テントなどを利用して男女別の更衣室を設ける、女性が相談しやすい窓口をつくる——。決して、女性と子どもだけに『注意しろ』と言ってはいけない。男性も含めた全員に『みんなが安全に過ごせるよう、防犯にも協力してください』というメッセージを出す。そうした対策を行った上での自衛なんです」
もう一つ欠かせないのが、避難所の運営や意思決定に女性が加わることだ。 浅野さんらの団体などが能登半島地震後に行った聞き取り調査には、こんな女性の声が残されている。
「民生委員として区長の会議にいくが、皆男。……そこでは『(女性は)でしゃばったことするな』という雰囲気がある」
また、避難所運営を手伝った40代女性は、「県外の公務員の応援チームが、10クールまで全部男性だった」と証言。女性職員の派遣が必要かと尋ねられた避難所運営側の男性は「女性は特に要らない」と答え、女性たちが必要性を訴えても、男性だけの派遣が続いたという。
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「避難所を仕切る人が男性ばかりだと、女性が困っていてもなかなか言い出せません。自治体職員もそうですし、地域や民間団体でも、女性がリーダーシップを発揮して、環境改善や防犯対策について声を上げられるようにしておかないと、対策は十分になりません」(浅野さん)
■なぜ災害大国・日本の避難所は変わらない?
では、なぜ毎年のように災害が起きる日本で、同じ問題が繰り返されるのか。
浅野さんは、「日本の避難所をめぐるシステム自体を変える必要がある」と指摘する。
「現在の日本では、発災後に必要となる物資は、基本的に『市町村で用意する』という仕組みになっています。しかし、市町村によっては予算も少ないし、人材も足りない。段ボールベッドやパーティションなどを大量に備蓄するには、保管する場所も必要です。すべて市町村任せでは難しいんです」
一方、海外に目を向けると、驚くほどの違いがあるという。
「たとえば、日本と同様に災害が多いイタリアでは、国が何カ所かに大量の資機材を備蓄しています。災害が起きたら、それを被災地に運んで展開する。そういう仕組みにしない限り、いつまでたっても必要な物資がすぐに届くようにはならないと思います」
イタリアでは、国の市民保護局が中心となり、全国の備蓄拠点から被災地へ資機材を運ぶ。発災から48時間以内に、トイレやシャワー、キッチン、簡易ベッド、冷暖房付きテントなどを備えた避難所を展開する体制が整えられている。
だが、浅野さんは「物さえあればいいわけではない」と話す。
「物を運べば終わりではありません。それを誰が、どう展開するのかという問題もあります。日本では物資を運んでも、いわゆる“ラストワンマイル”、最後の被災者まで届かないことが起きています」
そのため、国や都道府県が資機材を備蓄するだけでなく、自治体、企業、民間団体、災害ボランティアが平時から連携し、災害時に動ける体制を整えておく必要があるという。
■「不審者探し」が新たな被害を生むことも
そして浅野さんが、防犯とセットで考えてほしいと強調するのが「人権」だ。
「『不審者を探せ』という方向に行ってしまうと、差別を受けやすい外国人や障害者、性的少数者の人たちを排除することにつながりかねません」
犯罪を起こしそうな「人」を探すより、犯罪が起きにくい「環境」をつくることが大切だと念を押す。
「照明をつける、防犯ブザーを配る、相談窓口を目立つところに掲示する。『ここでは、うかつに手を出せないな』という状況をみんなでつくるんです。防犯は人権の視点とセットで考えることが大切です」
女性に「露出を控えて」「一人で歩かないで」と呼びかけるだけでは、根本的な解決にはならない。被災したうえに、さらなる我慢まで強いられなくて済む避難所を――。災害大国だからこそ、政府主導で迅速に整えられる仕組みが求められている。
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