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富山県の新田八朗知事は7月、富山空港(富山市)の新しい愛称を「富山高山すし空港」にすると発表した。2012年から、富山弁で「新鮮」を意味する「きときと」を用いた「富山きときと空港」という愛称が使われてきたが、インバウンドに向けた発信を強化するため変更した。富山県は現在、「すし」を軸に観光振興を進めている。観光地のある岐阜県高山市の名前も取り入れた。
国内では2000年代から、富山空港のように”変な”名称の空港が増えている。利用者の増加が目的だが、必ずしも効果は得られていないようだ。
●改名後も乗降客数が減少した「高知龍馬空港」
大阪国際空港(大阪府豊中市)を伊丹空港と呼ぶように、所在地が空港の愛称になる事例は一般的だ。だが、2000年代から特徴的な愛称を付ける事例が増えている。
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その火付け役とされるのが高知空港(高知県南国市)だ。同空港は1960年に民間用の飛行場として運営を開始し、2003年に「高知龍馬空港」という愛称を定めた。土佐藩(現在の高知県)出身の坂本龍馬にちなんだ愛称で、高知県をアピールする狙いがあるという。地元の経済同友会が主導する署名運動を経て実現した。
仏パリのシャルル・ド・ゴール国際空港や米ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港のように、海外では人名を空港名にする事例は一般的だ。日本では、高知龍馬空港が人名にちなんだ初の空港である。
愛称の変更による集客の効果はあったのだろうか。数値を見ると効果は限定的のようだ。高知龍馬空港の利用者のほとんどは国内線だ。年間乗降客数は改名した2003年で160万人を超えていたが、2006年には150万人を下回り、2009年には約119万人となった。本州四国連絡橋の整備により高速バスや自動車のシェアが増え、関西便の利用者が減少した影響が大きい。
なお、2010年以降はLCCの普及や景気の回復などにより利用者数が増加した。2019年には再び160万人を突破し、近年では150万人台で推移している。数年が経過しているため、近年の好調は改名が要因ではないことが明らかだ。
●「岡山桃太郎空港」「鳥取砂丘コナン空港」はどうか
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岡山空港(岡山市)は1988年に開業した。コロナ禍を除くと国内線は年間100万人以上、国際線は20万人前後が利用している。国際線はソウルや台北便などが就航している。JR岡山駅までのアクセスはバスで約30分と良好だ。
同空港は開港30周年を記念して、2018年に「岡山桃太郎空港」という愛称を制定した。桃太郎伝説は、大和王朝から西国の敵を倒すために派遣された吉備津彦命(きびつひこのみこと)の話がモデルとされており、空港の愛称はその伝説にちなんだ。県は愛称を公募し、その中から決定したという。
肝心の乗降客数は回復していない。2019年には161万人を記録したが、コロナ禍で34万人にまで減少した。その後は回復基調にあるが、2025年度は147万人で以前の水準を下回る。岡山空港に限らず、コロナ禍後の国内線はオンライン会議の普及や宿泊費の高騰によりビジネス利用が低迷しており、その影響を受けたと考えられる。
鳥取空港(鳥取市)は1967年に開業し、2015年に「鳥取砂丘コナン空港」の愛称を制定した。国内線の定期便は羽田便のみで、国際線はチャーター便のみが就航している。観光地「鳥取砂丘」と、漫画『名探偵コナン』の作者である青山剛昌氏が鳥取県出身であることに由来する。『名探偵コナン』が持つ全国的な知名度を生かして鳥取を発信することが目的だという。
2015年の鳥取空港の乗降客数は約37万人で、2019年の実績は約42万人だ。コロナ禍で激減したものの、2025年には41万人台に回復した。新しい愛称による影響を受けたように見えるが、実は以前から乗降客数の増加が続いている。
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鳥取県は2010年代から知名度向上や観光PRに努めてきた。漫画『ゲゲゲの鬼太郎』の作者・水木しげる氏の出身地である鳥取県境港市にある商店街「水木しげるロード」も、人気の観光地の一つだ。同市にある米子空港は、2010年に「米子鬼太郎空港」という愛称を採用した。こうした取り組みに加え、羽田便で鳥取、米子の両空港を押さえるANAも、低単価の運賃で集客を後押ししてきた。
近年では愛称により、鳥取砂丘コナン空港自体が観光地化している。だが、改名だけでは他の珍名空港と同じ結末をたどっただろう。同空港の利用者数の増加は県全体の観光促進が成長の下地になった。
●「富山高山すし空港」の乗降客数は増えるのか
「富山きときと空港」改め「富山高山すし空港」になった富山空港は乗降客数が増えるのだろうか。同空港の乗降客数は2000年代当初まで100万人を超えていたが、2009〜2014年は90万人台で推移し、2016年以降は50万人台に激減した。近年は30万人台後半で推移している。2015年に北陸新幹線の長野〜金沢間が開業したことで、東京から富山までは新幹線で行けるようになり、航空便の利用客数は激減した。
空港の利用者数は、周辺の産業や観光地の充実度、市街地へのアクセスに大きな影響を受ける。過去の事例を見ても、改名だけで大きな効果を生むのは難しい。「すし」を使ったインバウンドへのアピールも空振りになりそうだ。仮に「サムギョプサル空港」や「小籠包空港」がアジア諸国の地方都市にできたとして、グルメ好きの日本人客が寄るとは考えにくい。
富山空港は鉄道が接続しておらず、アクセスに課題がある。富山駅までのバスは運行しているが、県内の主要観光地や岐阜県飛騨市、愛称に用いた高山市への直行便は存在しない。新幹線もある以上、以前の水準まで戻ることは無いだろう。改名よりもやるべきことは多いはずだ。
●著者プロフィール
山口伸:経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。
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