「中国製は扱いません」が消えた DHC元会長の通販「かぜとゆき」が“看板”を外した理由

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2026年08月20日 06:20  ITmedia ビジネスオンライン

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なぜ「中国製は扱いません」を消した?

 先日、自宅に投函されたチラシを見て驚いた。


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 DHC元会長の吉田嘉明氏が立ち上げた総合通販「かぜとゆき」の目玉の一つだった「中国製は扱いません」という宣言が、きれいさっぱり消えていたからだ。公式Webサイトを見ても同じで、かつてはトップページの「優良メーカーの正規品のみを扱う」の隣にあった宣言も消えている。


 「は? それが何?」と思う方もいるだろう。筆者がなぜ、この変化にそれほど驚いているのかを簡単に説明しよう。


 吉田氏がDHC会長時代に「サントリーのCMに起用されているタレントはどういうわけかほぼ全員がコリアン系の日本人」「NHKは幹部、アナウンサー、社員のほとんどがコリアン系」などと発言し、世間に衝撃を与えたことは広く知られている。「保守のスター」を数多く輩出したCS番組を制作・配信していた「DHCシアター」のスポンサーを務めていたことでも知られている。


・DHC吉田会長、ネット上で「コリアン系」ヘイト声明 荒唐無稽な主張次々(東京新聞 2021年4月13日)


 そんな「愛国経営者」である吉田氏が、DHC株をオリックスに売却した後、2023年に立ち上げた会社が大和心(東京都港区)で、総合通販「かぜとゆき」の運営元だ。事業が変わっても、吉田氏の“信念”は変わらない。「日本の弱体化を防ぎ、素晴らしさを守り育てるため」(公式Webサイトより)という社会的ミッションを掲げ、DHC会長時代よりもさらに踏み込んだ「愛国経営」を推進している。それを示すのが、ローンチ時に掲げられた以下の「宣言」だ。


日本と敵対している国(中国・ロシア・北朝鮮)の製品、生鮮食品およびその加工品は、一切取り扱いません


・DHC元会長がヘイト発言でまた波紋…新会社の商品に扱わないはずの「中国製では?」のツッコミ(日刊ゲンダイDIGITAL 2023年12月4日)


 もちろん、これが愛国心の強いユーザーから支持を集めたことは言うまでもない。SNSやブログを見ると、新聞の折り込みチラシなどでこの宣言を見て興味を持ち、利用したという人もいる。


 つまり、「中国製は一切扱いません」という宣言は、認知度向上や顧客獲得、さらにはブランディングにつながる、「かぜとゆき」の根幹をなすマーケティング戦略だったのである。


 メディアでも取り上げられるほど大々的に掲げていた宣言が、何の説明もなく、しれっと取り下げられていることに驚いた。


 では、なぜここにきて方針を転換したのか。


●方針転換は「愛国者対策」か


 だが、「かぜとゆき」のお客さま相談室に問い合わせをしてみると、意外な答えが返ってきた。


 担当者によれば「中国製は扱いません」をチラシやWebサイトから削除したのは、「かぜとゆき」のポリシーが社会に十分浸透したと判断したからだという。わざわざ公言しなくなっただけで「中国製を扱わない」という方針は何も変わっていないというのである。


 ただ、企業危機管理に長く携わってきた立場で言わせていただくと、「反中国」という政治的な思想が色濃く反映されたメッセージを、何の説明もなく取り下げる対応は、かなり危ういように思える。


 これまで「かぜとゆき」の「中国製を扱いません」という方針を支持していた人も、批判していた人も基本的には“イデオロギー強めの人”である。こういう人たちに企業側が「攻撃する隙」を見せてしまうと、企業側が想定していなかった角度からバッシングが始まり、大炎上につながることがある。


 実際、少し前にそういう例が中国であった。同国最大手のミネラルウオーターメーカー「農夫山泉」だ。


 きっかけは、同社が販売した緑茶のパッケージに記された説明文だった。


「西暦1267年、日本の僧侶・南浦紹明が径山寺(浙江省杭州市の古刹)において仏教の修行を行い、お茶を嗜(たしな)む習慣を身につけ、蒸した緑茶を東方に持ち帰り人々に伝えた。日本の抹茶はこれが起源となっている」


 一見すると、「日本の抹茶文化のルーツは中国にある」という、中華思想(中国を世界の中心とする伝統的な思想)を想起させる愛国的な宣伝文句だが、中国の愛国者たちから、「抹茶は9世紀末に遣唐使によって日本に伝えられたのでは?」というツッコミが殺到した。さらに、この説明の背景に描かれた「五重塔」が京都の東寺のものだったことから、「親日的だ」との批判が広がり、炎上した。


●愛国心を刺激するマーケティングは諸刃の剣


 SNSでは、一つのミスや矛盾が見つかると、膨大な数の人たちが「粗探し」に乗り出し、新たな燃料が次々と投下される。そのあたりは中国も変わらない。


 青柑プーアル茶のラベルに浮世絵風の鶴が描かれていたことや、紅茶のラベルに江戸時代の鞍(くら)を付けた馬が描かれていたこと、玄米茶に鯉のぼりの柄が用いられていたことなどが、相次いで炎上した。


 さらに、西柚ジャスミン茶に至っては、パッケージに描かれたレモンが靖国神社の菊花紋章に酷似しているのではないか、などの「考察」が始まり、収拾がつかなくなった。しまいには、農夫山泉の安定株主に日本のオリックス系投資会社が入っていることまで「親日」だとしてやり玉に挙げられた。


 国は違えど、この「農夫山泉」のケースは企業危機管理において非常に重要な示唆を与えている。それは、「愛国心を刺激するマーケティングは諸刃の剣」だということだ。


 自国を誇りに思ったり、自国を世界一素晴らしい国だと思ったりする感情は、どこの国でも見られる普遍的なものだ。そうした愛国心を企業の販促活動に利用することも珍しくない。この商品を買うことが自国のためになる、という売り方をすることも一般的だ。


 しかし、愛国心を原動力にするがゆえ、もし説明に齟齬(そご)があれば、それがすさまじい勢いで「逆回転」する。「農夫山泉」のように「実は愛国とは正反対の国賊企業ではないか」と疑いの目を向けられて叩かれてしまうのである。


 「中国製は一切扱いません」と強く打ち出すことも、それをチラシやWebサイトから何の説明もなく取り下げることも、こうしたリスクを自ら高めてしまう恐れがある。


 ロシアや北朝鮮はさておき、中国への依存度が高い日本において、「一切取り扱わない」という方針を貫くのはかなり難しいからだ。


●冷凍輸入野菜の49.4%は中国産


 分かりやすいのが、食品だ。「かぜとゆき」でも扱っていて、チラシでも表紙に大きく紹介されている吉野家の「牛丼の具10袋」の原材料を見ると、こう記載がある。


牛肉(米国産又はカナダ産又は豪州産(5%未満))、玉ねぎ(中国又は国産又は米国(5%未満))、タレ(国内製造)


 こうした事情は、吉野家に限った話ではない。農林水産省の「加工食品の原料原産地表示制度」に「重量割合上位1位の原材料に原料原産地を表示」とあるように、割合の少ない原材料については、原料原産地の表示義務がない。それはつまり、「国内製造」「安心の日本メーカー」をうたう加工食品の中には、中国産の原材料が、消費者からは見えにくい形で含まれている可能性が高いことを意味する。


 「そんな反日企業は許せない!」と怒る人たちがいるが、企業にそうした対応を取らせているのは、ほかでもない日本の消費者だ。


 「安くてうまい外食」「物価高に苦しむ庶民を支えるスーパーの冷凍食品や総菜」というのがすべて国産原料によるものだと考える人は、今どきそう多くないだろう。日本の外食や加工食品が価格と品質を両立できているのは輸入食材のおかげだ。輸入量に占める中国産の割合は、冷凍野菜で49.4%、鶏肉で34.9%、かつお・マグロ類で20.2%に上る。


 電化製品や衣料品も同じだ。「日本国内の工場で製造」とうたっていても、部品や糸は中国から輸入していることが多い。中国は世界有数の糸の生産国なので、「メイド・イン・ジャパン」というタグが付いた衣料品も、中国産の原料なしにはつくれない。


 電子機器も同様だ。いくら日本の工場で組み立てても、部品が中国産というケースはある。2025年の中国からの輸入(通関ベース)で最も大きな割合を占めるのは「電気機器およびその部分品」で、29%に及んでいる。今や電化製品に欠かせないリチウムイオン電池も、輸入依存度が70%を超えている。


・中国の貿易投資年報(出典:JETRO)


 こういう現実がある中で、食品、衣料品、電化製品、生活用品など幅広く扱う「総合通販」を展開するうえで、「中国製を一切扱いません」という説明には大きな矛盾が生じる可能性がある。


 一般の消費者は「そういうこともあるだろう」と受け止めて終わるかもしれないが、“イデオロギー強めの人”はそれで終わらない。吉田氏の主張に腹を立てていた人は「うそつきのネトウヨめ」などと攻撃し、愛国心あふれる人たちは「重箱の隅をつつくような言いがかりをつけるな」などと擁護する。不毛なののしり合いが続けば、「かぜとゆき」のレピュテーションが低下する恐れがある。


●「現実路線」へ軌道修正したその後は


 チラシによれば、「かぜとゆき」は日本最大規模の物流センターを立ち上げ、10万SKU(Stock Keeping Unit)の商品を、258台のロボットによって、これまでにないスピードで配送している。


 しかも、「全国どこでも送料無料」「冷凍・冷蔵便も無料」(沖縄と離島は除く)といった強みがあり、ネット通販の巨人・Amazonに対抗する狙いもあるのではないか。


 「日本のメーカーを応援していく」という吉田氏の理念には一定の意義がある。だからこそ、過剰な愛国心をあおるような危険な賭けに出るべきではないと考える。


 これは今の日本経済全般にも当てはまることだが、自分たちの低迷の原因を「こいつが悪い」「あいつらが足を引っ張っているからだ」と誰かのせいにしていても、いつまでたっても浮上はできない。


 「他責思考」が強まると、自分を客観視することができず、問題の本質から目をそらしがちになり、しまいには「あいつらが失敗すればわれわれはうまくいく」という偏った考えにとらわれてしまうからだ。


 あらゆるサプライチェーンが張り巡らされ、モノも情報も瞬時に行き交う今の世界で「排他的ビジネス」は難しい。チラシやWebサイトへの掲載はやめたものの、「中国製を一切扱わない」という基本方針は変えていないとする「かぜとゆき」が、今後どのように事業を拡大していくのか、注目したい。


(窪田順生)



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