
華麗な服装に身を包むトランプ大統領の夫人メラニアと息子のバロン。ここにイランの暗殺の危険性が潜む!?(写真:Pool/ABACA/共同通信イメージズ)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!
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――NY市長が、イスラエル首相が国連総会出席のためにNYを訪れた際に、拘束を検討すると発言しています。これは次の大統領選挙への狼煙(のろし)ですか?
佐藤 いえ、そうではなく、自分たちのステークホルダー、自分たちの支持者対策ですね。仮に国連総会にネタニヤフが来ても、拘束はできませんから。なぜなら、米国はICC(国際刑事裁判所)に加盟してないため、逮捕を執行する法的義務はないからです。
――意味ナシですね。
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佐藤 だから、こういうのをカードにするNY市長は大した人間ではないということです。イランの核がどれくらい危険なのか、その大局がわからないで、人道的に問題があるからということでこういう発言をしているんでしょう。
――ケツの穴の小さいお方ですね。
佐藤 こういうことをやるから、民主党側のケツはたかが知れているんですよ。その程度の人物しかいないんです。
――ただ報道によると、このネタニヤフ逮捕に関して米国民の民主党支持者は60%、共和党支持者は24%が賛成しています。
佐藤 NY市長にトランプ支持者は関係ありません。絶対に自分に投票しませんから。だからトランプと同じやり方、自分の周りのコアな連中だけで固められればいいという方法です。
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――そのNY市内で、メラニア夫人と息子のバロン君がブティックに車で移動するルートを示し、暗殺する方法をイランが動画で公開しました。
佐藤 服に毒薬を塗って殺すのは、ヨーロッパでは昔からごく普通に考えられている手段です。
古代ギリシャの悲劇詩人・エウリピデスでもよく出てきます。例えば代表作の『メディア』には、毒を塗った着物と金の冠を王女に贈ります。
――どうなるんですか?
佐藤 「お顔は醜くゆがみ、頭の先からは火と混じった血が滴り落ちる。そして骨から肉が、眼には見えぬ毒に食われて、まるで松脂のよう、溶けて流れ落ちるという具合」とあります。要は体がボロボロになって崩れるんですね。
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――超怖い。英国でロシア工作員がやった、寿司に放射能物質を振りかけた「ポロニウム巻寿司」を越えます。
佐藤 綺麗な服に毒を付けて人を殺すのは、ギリシャ時代からある古典的な暗殺方法です。
――イランは割とお洒落な殺し方をご存知ですね。
佐藤 そうですね。伝統に即したやり方ですからね。
――しかし日本もある意味、じわじわ殺していくスタイルですね。最低賃金労働者がおよそ2割、非正規雇用労働者は2000万人もいます。このインフレの状況下で、フルタイムで働いても十二分に食べられない人々が増えているような気が......。
佐藤 これは貧困問題ですよね。ドラマ『東京貧困女子。』を見るといいですよ。もともとはノンフィクション作家の中村淳彦氏による「東洋経済オンライン」の連載で、風俗で働いている女性たちの貧困問題を取り上げた作品です。それが2023年に連続ドラマ化されました。
主人公のフリー編集者は、結婚して出版社を退職したけれど夫と離婚して、フリーで戻ります。そして、フリーライターと一緒に貧困問題を追いかけます。ちなみにこの演技がなかなか上手いんですよ。
――フリー編集者を水谷豊と伊藤蘭の娘・趣里が、フリーライターを山口百恵と三浦友和の次男・三浦貴大が演じています。豪華カップルの子供たちの配役です。
佐藤 それで、国立大医学部に在籍している金持ちではない家庭の子供が、テニスサークルに入るためにパパ活をしている、そんな話を拾っていくわけです。
それから、中高年女性の貧困も取り上げています。離婚すると女性は貧乏になり、ひとりで生きられない社会システムになっているから、貧しい中高年女性が存在するんです。
――社会の貧困問題を意識して取材している風俗ライターなど見たことありませんでした。自分はAV女優500人の取材経験のあるスケベライターですからよく分かります。風俗取材で「気持ちよかった?」なんて聞いていた自分を深く反省しています。
佐藤 でも、作品は面白いですよね?
――はい。
佐藤 何が面白いかというと、最初、フリー編集者は上から目線で貧困女子を見ています。しかし、そのうち貧困が自分の問題だと気が付いていくんですよ。
――フリー編集者は離婚して、子連れで自分の母親の家にいる。だけど、その母親も編集者が子供の頃、夫から暴力を受けていて、それに耐えらえず離婚。自分が貧困女子のひとりだと気が付く。すると、青森にいる父親の体の具合がヤバくなり、県から「養えますか?」との要請が来る。
佐藤 面白いのは、その家族との縁を切ることで、いまの家族を助けるんですよね。
――はい。一緒に取材している風俗ライターが「親父を切れ」と言いましたからね。
ここでひとつ思ったことがあります。女性一人で生きていけないようになっているのは、女性を家庭という檻(おり)に閉じ込めておくための日本の社会システムなんですか?
佐藤 やっぱり、それが抜け切れてないんですよ。昔からの家族制度があって、いくら法律を変えても文化は変わりません。いま、恋愛至上主義が著しく後退していますよね?
――はい。
佐藤 実は、お見合いやマッチングアプリからの「アプリ婚」で重要視されるのは、見た目ではありません。基準はほとんど教育と収入、もしくは安定性です。
だから、20代から30代前半の未婚女性が「生活の安全弁は結婚だ」という方向に完全に傾いていると思いませんか?
――そう思います。先日、佐藤さんから資料をいただきましたが、アプリで出会って4ヵ月で結婚したものの離婚してしまったカップルに、佐藤さんが「まず1年くらい付き合ってみてください」とおっしゃるのは、至極真っ当なアドバイスだと思いました。
佐藤 マッチングアプリで焦って結婚したら、だいたいロクなことになりません。まず一緒に住んで、食べ方とか下着の脱ぎ方、鼻のかみ方、屁をしたときの対応などを知っておくべきです。そういう細かいことで相手がいちいちイライラするなら、うまくいきません。
――なるほど。そうすると結局、日本の家族制度が崩壊しない限かぎり、貧国女子はずっと存在する、ということなんですか?
佐藤 そういうことです。ただ、日本の家族制度はおそらく崩壊しません。裏を返すと、家族制度、会社でもいいんですが、そのシステムの中に入っていると、この国はいろいろとストレスがあっても安全な国なんですよ。しかし、システムからはじき出されると、ものすごく大変になってしまいます。
――『東京貧困女子。』は誰かと繋がっている。そういう結論で終わります。
佐藤 誰かと繋がっている、それは宗教でも何でもいいんです。
――1984年に出版された『金魂巻(きんこんかん)』(渡辺和博とタラコプロダクション /主婦の友社)では、金持ちと貧乏人を区別していました。これからの日本は米国みたいに収入格差が数千倍になって、ほんの一部の金持ちとそれ以外全員貧乏人の「貧乏巻(ビンボーカン)」になってしまうのでしょうか?
佐藤 日本だから、そこまではいきません。
――なぜですか?
佐藤 やはり日本は中庸を選んでいくので、そこまで巨大な格差は生まれないんですよ。
次回へ続く。次回の配信は2026年8月28日(金)予定です。
取材・文/小峯隆生
