
ソニーの田中健二社長 CEOは、「ソニーという会社を再定義すると、それは『感動を創る会社』ということになる。『感動』を中心におき、そこにこだわりながら、経営をしていきたい。また、ソニーが文化的なDNAとして持っているのが、(当社の)設立趣意書にも書かれた『自由闊達』(かったつ)であり、『オープン』という姿勢である。これをベースに、『成長』と『スピード』の実現につなげる」と、社長としての抱負を述べた。
●エンジニア出身の田中新社長が語る「クリエイター目線」と「感動体験の創出」
田中氏は、2026年4月1日付で社長 CEOに就任した。1989年4月にソニー(現ソニーグループ)に入社し、エンジニアとして、映像、音響などの開発に携わってきた。2000年以降は、カメラの開発にも携わってきたという。
2020年4月に、ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ コンスーマー&プロフェッショナルビジネスセクターカメラ事業部長に、2021年4月にはソニー 執行役員 イメージングプロダクツ&ソリューションズ事業本部長に就任した。
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2021年12月に、同社イメージングプロダクツ&ソリューションズ事業本部長兼モバイルコミュニケーションズ事業本部長、2023年4月に事業担当(イメージング、モバイルコミュニケーションズ、ホームエンタテインメント、パーソナルエンタテインメント、ライフサイエンス、B2B 他)となり、2025年4月に事業担当(新規、イメージング統合戦略)およびインキュベーション担当となる。2026年4月にはソニーグループ ビジネス CEO エンタテインメント・テクノロジー&サービス事業担当に就任し、ソニーの社長 CEOと兼務している。
「一言で『感動を創る』といっても、その範囲は幅広い。エンタテインメントの領域でも、ドキュメンタリーの領域にも『感動』は存在し、カテゴリーの違いを明確にするのも難しい。
だが、共通しているのは『感動』を創出するためには、現場感が大切だという点だ。現場感を持ち、クリエイター目線で、感動体験を創出する。そこに力を注いでいきたい。これが10年後のソニーの姿にもつながるだろう。ソニーは自らが考える『感動』に対して、投資をしていくことになる。さまざまなパートナーから、ソニーと一緒だから『感動』が創出できたという実績を積み上げたい」と述べた。
●インドや南米、アフリカなどの新興市場へ注力
具体的な事業戦略の1つとして挙げたのが、新興市場への取り組みだ。
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これまでは欧米や中国を主軸に事業を展開してきたが、この1年でインド、バングラデシュに加え、南米、アフリカといった新興国の成長が著しいことを指摘した。これらの市場への取り組みを加速することになるという。
また、ソニーではフィジカルAIの領域に注力する姿勢も示した。
田中社長は、「ソニーは、AIの広がりをポジティブに捉えている。AIに対するスピードを高め、クリエイションの場面において、AIを積極的に活用することを提案したい。そしてソニーは、フィジカルAIの分野に適した会社であると考えている。ここには、より積極的に挑戦をしていきたい」と述べた。
ソニーグループでは、AIはエンタテインメントの世界に新たな機会をもたらし、単なる効率化だけでなく、創造性を広げ、クリエイターを力強く支える機会に捉えている。
だが、これまでのAIはビッグテックによるファウンデーションモデルの開発に向けた膨大な投資や、GPUに代表されるインフラへの投資が中心であり、そこにおいて、ソニーは決して強いプレーヤーではなかった。
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「フィジカルAIにより、世界では現実社会から仮想社会へ、仮想社会から現実社会へというトランスレートが始まる。この世界になると、ソニーは一気に強くなる。フィジカルAIにおいては、ソニーのテクノロジーが力を発揮しやすい環境が整う」と指摘する。
例えば、コンテンツ制作現場でのAI活用は、ソニーにとっては、フィジカルAIと定義する領域の1つだ。ロボットが活用される領域だけが、フィジカルAIではない。
フィジカルAIの実現に向けては、ソニーセミコンダクタソリューションズ(SSS)との連携についても言及した。「SSSとは、これまでの連携に加えて、今も未来に向けた仕込みを行っている。センサーやレンズ、カメラなどを活用し、クリエイターを対象にしたデジタルツインを提供することができる」と語る。
これも、「フィジカルAIとソニーは相性がいい領域」だと言い切る理由の1つになっている。
ソニーは、長年に渡り、AIに取り組んできた実績がある。田中社長も「AIの知識、 AIのナレッジ、 AIの使い勝手という点では多くの蓄積があり、これらをフィジカルAIの世界で生かせる」とする。
クリエイターの現場におけるAI活用が、ソニーが考えるフィジカルAIというわけだ。
●リアルとバーチャルの融合を加速させるソニー「XYN」
ソニーが提案するフィジカルAIの具体的な事例の1つが、「XYN(ジン)」である。
XYNは、ソフトウェアとハードウェアを統合した空間コンテンツ制作支援ソリューションであり、イメージングやセンシング、ディスプレイなどのソニー独自のテクノロジーを生かして、現実空間のオブジェクトや人の動き、背景を正確に捉え、これらをデジタル環境の中で再現する。
リアルとバーチャルの融合を加速させ、メディア&エンタテインメント分野や産業分野などにおける3DCG制作を支援することになる。
XYNでは現在、作業改善のためのAIとしての活用が中心だが、今後は他社のサービスも横断した利用ができるようにして、Agentic AIとしての活用を促進する。さらに、クリエイターの好みや、制作物のクセなどの「らしさ」が反映できるパーソナライゼーションにより、個人作業に特化した進化も遂げることになるという。
また、XYNなどのソリューションは、ソニーが2026年2月に、東京・品川のソニーグループ本社内に開設した共創拠点「Digital Media Production Center Japan」(DMPC Japan)で体験できる。
DMPC Japanは、米国、英国に次いで、世界3カ所目の拠点として開設された。最新の撮影機材の試用をはじめ、バーチャルプロダクションによる撮影やXRを活用した空間コンテンツ制作、ポストプロダクション、テスト上映まで、映像制作に関するワークフロー全体を一貫して検証でき、グローバルな制作手法や知見、成功事例も共有できる。
●映像制作の課題を解決し、次世代を育成するソニーの「フィジカルAI」
ソニーとクリエイターが、新たな映像表現手法や制作現場の課題解決に取り組む実践的な環境を提供する。さらに、世界各国の撮影監督や撮影技師、ポストプロダクションチームなど、第一線で活躍するプロフェッショナルが集い、対話や共同作業を通じて交流する場としても活用する他、将来的には、空間コンテンツ制作に携わる次世代クリエイターを含む、今後の映像制作を担う人材育成の拠点としても活用する。
「映画産業は、多くの人たちのすり合わせによって、素晴らしい作品を生んでいる。だが、そのために莫大(ばくだい)な時間と工数をかけている。XYNやバーチャルプロダクションなどの技術を提供することで、こうした課題を解決すると共に、感動体験の提供を支援するエンタテインメントソリューションを広げていくことができる。これが、ソニーのフィジカルAIになる」と述べた。
●判定支援からパフォーマンス向上へ データが変えるスポーツエンタテインメント
ソニーの注力領域の1つが、「スポーツエンタテインメント事業」である。
競技の判定支援などに活用する「Hawk-Eye」は、MLB(Major League Baseball)やNHL(National Hockey League)、NBA(National Basketball Association)などのリーグやチームで採用が広がっているのに加え、バイオメカニクスの「KinaTrax」は、データを活用してアスリートのパフォーマンス向上を支援する仕組みとして導入が促進されている最中だ。
ウェアラブルデバイスを着用し、70以上の分析指標をリアルタイムに処理する「STATSports」では、アスリートのコンディション管理やパフォーマンス分析に活用されているという。
特にHawk-Eyeは、2011年にソニーが買収した時点では、クリケットのボールの弾道をカメラ映像からデータ化するだけのものだったが、その後、テニスやサッカーにも拡大し、今では25以上の競技に対応している。世界100カ国以上、500以上のスタジアムで、年間2万以上の試合で利用されているという。
スタジアムを取り囲むように設置した複数のカメラから収集した映像を、AIで解析する高精度・リアルタイムトラッキング技術を活用する。さらに、ソニーグループが持つ放送系技術を融合し、判定支援やトレーニング支援、エンタテインメント映像体験などの用途に応用している。
また、KinaTraxの事例では、バイオメカニクス解析により、野球の投手の姿勢や骨格、肘の角度、ボールの軌道や縫い目までデータとして収集する。ボールの回転数や回転方向なども分かるだけでなく、前回の投球からの変化、他の投手との違いがどこにあるのかということも解析でき、最適なトレーニングにも活用できるようにしている。
野球での利用が先行しているが、バスケットボール、アイスホッケー、クリケットなどにも広がりをみせているという。
さらにSTATSportsは、ベスト型デバイスを装着するウェアラブルトラッキングという新たなアプローチであり、軽量化したデバイスによって装着しても違和感なく、スポーツができるのが特徴だ。
GPSや慣性センサーなどを活用している他、心拍などのデータ取得が可能であり、ケガの予防やパフォーマンス向上に向けたコーチング、ヘルスケアサービスなどが提供できるという。
「スポーツエンタテインメント事業は、従来だと2次元の領域からアプローチしていたが、今は3次元空間での表現や解析をしていくことがテーマになっている。今後、事業の対象をMLB、NHL、NBAなどのティア1から、社会人や大学、アマチュアなどを含めたティア2/ティア3/ティア4へと、対象を広げていくことになる」とする。
●データ活用で広がる観戦スタイル
スポーツエンタテインメント事業では、ファンエンゲージメント領域も重要な柱の1つになるという。
その1つが、オルタナティブブロードキャストである。実際の試合における選手やボールの動きをトラッキングし、アニメ作品などの世界観の中で再現し放送する取り組みだ。
2025年11月には、NPBエンタープライズおよびサンリオとの協業により、「Let's Play Baseball 〜サンリオキャラクターズとふしぎな試合〜」を配信。2025年9月19日に東京ドームで行われた読売ジャイアンツ対広島東洋カープ戦を、サンリオのコンテンツの世界観で、プレーを再現した。
また、NPB公式アプリである「NPB+」の正式サービスを、2026年2月から開始した。Hawk-Eyeのトラッキングデータを活用し、セ・パ両リーグの公式戦、クライマックスシリーズ、日本シリーズの全試合を、プロ野球ファンの新たな観戦スタイルとして提供している。
ファンコミュニティーへの取り組みでは、ソーシャルエンタテインメント空間の提供などを通じて、スポーツファンコミュニティーの活性化を実現するサービスを提供するという。
「オルタナティブブロードキャストなどの仕組みを使ってもらい、スポーツコンテンツの活用の場を広げていく。ここでは、コンテンツホルダーとのジョイントベンチャーによる取り組みも進める。視聴体験のさらなる拡張と、スポーツファンの拡大に貢献したい」と述べた。
●映像制作の現場を変革するカメラ群――現実と仮想を融合する技術
もう1つの注力領域が、ニューコンテンツクリエイション事業である。
空間コンテンツ技術を活用して2次元や3次元に対応し、現実世界のものをバーチャルに展開することで、高精細なデジタルツインを実現する。これらをエンタテインメント分野において活用することになる。
ニューコンテンツクリエイション事業は、シネマ用カメラの「VENICEシリーズ」や「FXシリーズ」を担当するCinema Line事業部門、XYN空間キャプチャーソリューションなどのXR事業部門、Crystal LEDやOCELLUSなどを取り扱うVisual Creation事業部門、空間コンテンツの制作などを行うソニーPCLで構成している。
ハードウェアとソフトウェアを組み合わせて、全てのコンテンツを空間化することを目指すという。
現在、ストリーミング市場でのVENICEシリーズのシェアは34%にまで拡大した。FXシリーズの販売台数は右肩上がりで成長しているという。
「シネマ用カメラは、シネマ分野における既存事業を成長させるだけでなく、今後はさまざまな産業への拡大や、空間コンテンツにおいて、新規事業の創出にも取り組む」とした。
また、カメラトラッキングシステムの「OCELLUS」は、IRマーカーや固定カメラを事前設置することなく、5基のセンサーで広範囲の特徴点を捕捉し、屋内や屋外、暗所でも使用が可能であることから、いろいろな現場での採用が進んでいることも示した。
●始動する「BRAVIA株式会社」
一方で、ホームエンタテインメント事業については、ジョイントベンチャーとの連携を進めている。
5月末には、BRAVIA株式会社の登記が完了した。まずはソニーの100%子会社として設立し、同社にTCLが51%を出資。2027年4月に正式に始動する予定だ。
ソニーのTV「BRAVIA」の他、業務用フラットパネルディスプレイ、業務用LEDディスプレイ、プロジェクター、ホームシアターシステムおよびコンポーネントオーディオなどのホームオーディオ製品を担当する。これらに関連する製品開発、設計、製造、販売、物流、顧客サービスなど、ホームエンタテインメント事業を承継し、BRAVIAブランドおよびSONYブランドを使用することになる。
BRAVIAブランドのTVは、現在も継続的に新製品が市場投入されており、5月には、「True RGB」ブラビアを新たに発表。フラッグシップモデル「BRAVIA 9 II」と、プレミアムモデル「BRAVIA 7 II」の2機種を発売し、好調な売れ行きを見せている。
田中社長は、パーソナルオーディオをBRAVIAに移管しなかった理由に触れ、「クリエイションとイメージング、クリエイションとオーディオは相性がいい。パーソナルオーディオをソニーが持つことは重要である。サウンドは強化していきたい」とした。
パーソナルオーディオとホームオーディオの技術は近い。だが、これを切り分けた背景には、クリエイションという視点が見逃せない。
「クリエイションをするときに、サウンド+αが残る領域や、未来に対して変化が起こせるものは、ソニーに残していく」とする。
その上で、「アニメーターから聞いたのは、アニメの中では、大きな拳(こぶし)を描いたり、オーラが見えたりといった表現をすることで、臨場感を持たせることがあるが、サウンドは、一発でアニメの世界の雰囲気を変えることができる。人の意識は、ビジュアルよりもサウンドであるという話を聞いたことがある。サウンドは脳を刺激するものであり、クリエイションにおいては、大事な要素である」と述べた。
クリエイションを重視するソニーにとって、サウンドとのつながりは欠かせないというわけだ。
●クリエイション領域に経営資源を集中 特許戦略も「質」へ転換
さらに、クリエイションに関するテクノロジーに投資を集中させていく考えも示す。
「クリエイションにおいては、サウンド以外にも重要なテクノロジーはいくつもある。例を挙げると、無線技術はその1つである。スタジオで使用する機器は、ケーブルで接続されているが、将来は無線化されることになるだろう。ソニーは、この分野に継続的に投資をしていくつもりだ。クリエイション側に、経営資源を寄せていくのが基本姿勢となる。クリエイションの未来に必要なテクノロジーに対しては投資を継続していくことになる」とし、「時代と共に、クリエイションによって作られるものが変わっていく。そのために必要な技術的要素に対しては投資をしていく」とも述べた。
特許戦略も見直しており、数を追う仕組みではなく、中身を重視するという。
「特許には攻めるための特許と、守るための特許がある。攻める部分についても、集中領域を定めてやっていく。具体的には、Creative Entertainment Visionに関する領域は、積極的に特許を取得していく」とした。
だが、クリエイションと密接に関連する高精細大型LEDディスプレイである「Crystal LED」は、BRAVIAに移管することになる。
その点については、「ソニーは、ディスプレイというデバイスそのものよりも、ディスプレイ上で何をするかという点にフォーカスしている。Crystal LEDは、BRAVIAが技術開発を進めることになり、ソニーはBRAVIAから調達することになる。BRAVIAとは、関係密度を濃くしながら話をしているところである」と述べた。
●「自由闊達」な文化が生む現場感と新たな“ソニーの見せ方”
田中氏は、ソニーの特徴を「自由闊達」と「オープン」な組織文化だと語る。
社内ではボトムアップでの活動が積極的に行われており、社外との共創活動も積極的だ。
「ソニーには、現場に行き、クリエイターやアスリートたちと、直接会話をしながら、課題解決の期待に応えている社員が多い。課題解決の成果を、現場で目の当たりにすると、社員のモチベーションがさらに上がる。こちらが止めるのが大変なぐらいだ」と笑う。
ここにも、田中社長が語る「現場感」が生きている。「現場の困りごとを聞き、解決できる状況ができ始めている」と手応えを示す。
一方で、ソニーの見せ方を変えていかなくてはならないとも語る。
「従来のソニーは、『ハードウェア』という、いわば『形』があるものを見せていた。しかし、今は形のあるものだけでなく、ソニーのサービスやコンテンツ、IPの素晴らしさを理解してもらうことが大切だ。お客さまは、ハードウェアのソニーと、ソフトウェアのソニー、コンテンツのソニーを分離して見ていない。ハードウェア/ソフトウェア/コンテンツが一緒になって、面白いことをする会社だと思ってもらうことを目指したい」と述べた。
今後は、ソニーグループが持つ幅広いエンタテインメントとの連携も強みになるとした。
では、田中社長体制になって、ソニーはどう変化するのだろうか。
田中社長は、前任の槙公雄社長(現会長)時代に、自らが経営チームの一人であったことを示しながら、「基本的な考え方は、大きくは変わらない」とする。
その上で、「クリエイションに対する『研ぎ澄まし』が強くなるタイミングに入ることになる。ソニーは『種まき』の会社である。テクノロジーに関して、まいてきた種を育て、種まきの取り組みを完遂させるとともに、2027年度からスタートする第6次中期経営計画においては、クリエイションを研ぎ澄ませた新たなポートフォリオによって、事業を進めていくことになる。クリエイションファーストが、オペレーションファーストになる」と述べた。
注目されるのは、同社が掲げている営業利益率10%の目標達成だ。目標としているのは、2027年度である。2025年度のエンタテインメント・テクノロジー&サービス(ET&S)の営業利益率は7.0%だ。
田中社長は「ホームエンタテインメント事業の再編など、新たな体制への移行もあるが、この目標は下さない。利益面でも研ぎ澄ますことになる」とした。
2027年度からは、新たな中期経営計画がスタートする。そこに向けて、田中社長体制では、どんな経営指標を打ち出すのかにも注目が集まる。
田中社長にとって1年目となる2026年度は、新たな経営指標に向けた発射台の高さを確定する1年にもなる。
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