
そしてこの「無限スクロールがやめられない」状態は、ただの悪い習慣ではなく、心の状態を映し出すサインの可能性があります。脳科学的に解説します。
「ドーパミン中毒」「ドパガキ」などのスラング。ドーパミンは悪者なのか?
ネットの中には、スマホ依存を指す「ドーパミン中毒」や、スマホやSNS依存状態の子どもや若者を指す「ドパガキ」といったネットスラングが見られます。そもそもよくない言葉ですし、「ドーパミン」自体が悪いものだと誤解されてしまうかもしれません。私たちの脳には、何かを成し遂げたときに達成感や満足感を生み出す「報酬系」というしくみがあります。「ドーパミン」は、そこで分泌される神経伝達物質です。脳はドーパミンが分泌される体験を学習すると、再びその体験を求めるようになります。
これは本来、目標に向かって努力を重ね、知識や技術を高めていくために備わったしくみです。「ドーパミン」自体は決して悪いものではありません。しかし、このしくみが誤った形で働くと、無益な行動にはまり込む原因にもなります。それがいわゆる「依存症」です。
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ただし、「無限スクロールがやめられない」のは、必ずしも報酬系やドーパミンのせいとは言い切れません。もし全ての人の脳に備わっている報酬系やドーパミンのしくみだけが原因であれば、全員が依存症になってしまうはずです。しかし実際には、同じようにスマホやSNSを使っていても、深刻な依存状態になる人とならない人がいます。この違いはどこにあるのでしょうか。
無限スクロールの背景にある「心の状態」
実は、本当の問題は、スマホやSNSそのものではありません。そして、ドーパミンの存在が悪いわけでもありません。それを使うときの「心の状態」が問題なのです。大きな悩みもなく、毎日を充実して過ごせている人が息抜きにスマホを使っても、依存症になるリスクはそう心配しなくて大丈夫です。一方で、不満やつまらなさを感じている人が、現実から気持ちをそらす目的でスマホやSNSの世界に逃げ込むと、依存につながりやすくなります。
スマホの無限スクロールにつながりやすい「心の状態」の例
・学校や仕事に対する不満やつまらなさを感じている・友人や同僚との関係がうまくいっていない
・家庭や身近な人間関係に悩みを抱えている
・将来への不安や閉塞感を覚えている
こうした心の状態は、本人自身がはっきりと自覚していない場合も少なくありません。「ちょっとした息抜きのつもりだった」「意志が弱いだけだと思っていた」……そう感じている人ほど、実は現実の悩みから目をそらすために無限スクロールを繰り返している可能性があります。
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また、ネガティブな気持ちでスマホやSNSを利用したときにドーパミンが大量に分泌されるという確かな証拠は、今のところありません。スマホやSNSというツール、あるいは報酬系という脳のしくみそのものを一方的に「悪者」にするのは適切ではないと考えられます。
無限スクロールがやめられないときの効果的な対処法
スマホやSNSの世界に引き込まれてしまう人を助けるために必要なのは、家庭内でのルール作りや、法規制だけではありません。根本的な解決のために大切なのは、その人の心に寄り添うことです。実際には簡単なことではありませんが、依存状態になっている人も、困ったときに「モノ」に頼って現実から逃げるのではなく、「人」に頼ることで、欲求不満や閉塞感から少しずつ解放されていく道を探すことが大切です。無限スクロールから距離を置くために大切にしたいこと
・つらさや不満を、身近な人に話してみる・スマホ以外で気持ちを満たせる時間を意識してつくる
・「モノ」より「人」に頼ることを選択肢に入れる
・スクロールが止まらないと感じたら、その裏にある気持ちに目を向ける
心が満たされている状態でスマホやSNSを利用すると、その内容を楽しめ、ドーパミンによる満足感も得られやすいため、無限スクロールには陥りにくいと考えられます。つまり、「無限スクロールがやめられない」のは、ドーパミンが暴走しているからではなく、むしろドーパミンが適切に働いていないサインとして理解すべきなのです。
スクロールする手が止まらないと感じたときは、まずその奥にある気持ちに気付き、身近な「人」に頼ってみることから始めてみてはいかがでしょうか。
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阿部 和穂プロフィール
薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。(文:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者))

